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第二章
荒野のデスロデオ! ! -5 【VSバイティング・ザ・サン】
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――全く……ちょこまかと鬱陶しい……無駄に粘られたせいで燃料を大量に浪費……完全に今回の狩りは赤字……楽をしようと小さな攻撃から始めたのがいけなかった……反省しなくては……厄介そうな奴等は最大最高の攻撃で手早く仕留める……今後の教訓にしよう……――
害獣が沈黙してからおよそ数秒、二人は武装車に向かって走り出す。
「敵さんがわざわざ止まってくれてるんだ、さっさと逃げるぞ! 」
「解った!」
そう、圧倒的に不利な状況で害獣の狩りにわざわざ付き合ってやる道理もない。
手を出されないのならば即逃げる、当然の判断だ。
「二人とも、早く!」
「おう!」
二人が武装車に飛び乗ると間部はアクセルを全開! けたたましいエンジン音を上げながら武装車は走り出す。
「奴は、諦めたのか?」
「さぁな、わからねぇ、だが逃げるチャンスだ、逃す手は無ぇ」
そうは言うもののジェラルドは内心落ち着かない様子、歴戦の勘が静かに警鐘をならしている。
流石にベテラン、その悪い予感は数瞬後に見事的中することとなる。
「ほぇっ!?」
一番最初に異常に気が付いたのは間部、彼女は目の前で起きている事実を脳で処理が出来ずに頓狂な声を上げた。
目の前の大地が空へ浮き上がっていく。
「地面が……空に浮き上がっていく?」
その刹那、地響き、轟音、砂煙。
桜は再度サンルーフから慌てて顔を出す。
そして血相を変えて叫んだ。
「地面が浮いてるんじゃない! 私たちが沈んでるっ!」
「なんだと!」
皆、周りを見渡し絶句する。
車から半径五十メートル程の大地が地響きを上げながらズブズブと沈んでいく。
「あいつの仕業か!」
「あの野郎、これを仕込んでいやがったのか!」
打ち寄せる砂と岩石に絡めとられ車は物凄いスピードで大地と共に沈んでいく。
クザンとジェラルドは外に飛び出し車を何とか外に押し出そうと懸命に力を込める。
「ウオオオオオッ!」
「おりゃああああっ!」
押し下る流砂に必死の抵抗をするクザンとジェラルド、剛力で無理矢理砂を掻き分け二人は車を引っ張りあげる。
害獣の造ったトラップに全身全霊で抵抗をする。
やがて再度の大きな地響きと共に地面の沈降は停止する。
三十メートルは沈んだであろうか。
およそ直径百メートル程の巨大な蟻地獄のような地形を残して場は静まり返る。
車両は下半分だけが沈没。
もし二人が抵抗をしていなかったのであれば今頃全員砂の底で窒息死していたであろう。
「良かった! 止まりましたよっ!」
「ああ、何とかなったな……」
「ジェラルド! 速く二人で車両をこの蟻地獄の外に……」
「まって! 奴がいるわ」
桜が指差したその先には蟻地獄の縁で中にいる四人を覗き込むように首をもたげる害獣の姿。
首を落とし、まるでがっくりと落ち込んでいるかの様、静かに、まるで脱け殻のように動きを止めている。
「何をしてるのかしら……」
「とにかく速く逃げるぞ!」
間部以外の三人は改造された身体を駆使し間部は車両の中でアクセルを操作、蟻地獄からの脱出を試みる。
いつ遅い来るかも解らない害獣に注意を払いながら必死で砂地獄を駆け上がる。
害獣は襲い来る気配は無い、その不気味な沈黙に内心穏やかではないものの今は車両の奪還が先、四人は必死で砂の坂を駆け上る。
――甘いぞ豚屑ども……――
その懸命な様を見て害獣はグニャリと口角を引き上げ不気味に笑う。
この一撃で消し飛ぶとは思ってもみない愚か者どもの足掻きが可笑しくてたまらない様子だ。
――そらそら、もうすぐだ……最初に倒れるのは誰だ? あの弱そうな小娘かぁ?――
「おい、間部ちゃん何してる!? アクセルを踏むのを止めんな!」
突然車のタイヤが止まる、自走能力を無くした鉄の塊の重さがズドンとジェラルドにのしかかる。
「おい、間部ちゃんどうした!? おいっ!」
前方で車を引っ張るジェラルドは運転席を覗き込む。
そこには胸を抑えて項垂れる間部の姿。
「なっ!? おい、桜っ、すぐに車に入れっ! 間部ちゃんの様子がおかしい!」
鉄の塊と化した武装車を落ちぬように必死で引っ張りながらジェラルドは叫ぶ。
しかし桜からの返事はない。
「おい!? 桜、クザン!?」
この時ジェラルドは思う、いくら武装車と言えど重すぎる、桜とクザンが後ろに控えていてこうも重くなるものか?
車がずり落ちぬよう必死で体勢を変えながらジェラルドは車の後方を覗き混む。
そこには膝をつき倒れ伏す桜とクザンの姿!
「一体なんだって……かひゅっ……うぐぁっ!」
二人を心配するまもなくジェラルドも胸を抑えて倒れこむ。
「そういう……事か……畜生!」
支え手を失った武装車は意識を失った三人を巻き込み、再び蟻地獄の底へと転落していく。
その過程で武装車はガトリングやバンパーが外れスクラップを撒き散らす。
そして最後にズシンと大きな音と濃い砂煙を立て完全に沈黙した。
一体何が起こったのか。
それを理解するには害獣の口元に注目しなければならない。
先程から身じろぎ一つしない害獣は口元から気体を吐き出している。
そう、先程爆発攻撃に使用されたアルコールガスだ。
信じられぬほどの大量のアルコールガスを吹き込み蟻地獄の中を無酸素状態にして四人を一網打尽にしたのだ。
近接攻撃では万が一もあり得る、そう考えた害獣の狡猾な作戦だったのだ。
しかしまだ害獣の攻撃は終わりではない、気体が吹き出る音がわずかに鋭くなる。
再度吹き込むのは高濃度の酸素。
勢い良く吹き込み蟻地獄の中のアルコールガスとシェイクする。
一分程だろうか、害獣の吹き込みが静かに止まる。
蟻地獄はアルコールと酸素を豊富に含んだ気体に満たされる。
それを確認した害獣はおもむろに口をあんぐりと開け、思いきり閉じる。
その瞬間、牙から散った火花が気体に引火、爆発炎上!
蟻地獄はまるで地獄の入り口の如く燃え盛る。
――終わりだ――
害獣はその炎を暫くの間満足げに眺める。
そして鎮火した頃合いを見計らってズルズルとその長い体を引きずり蟻地獄の中に入っていく。
今回の獲物を食すためにだ。
目印となる武装車に向かって一直線に這っていく。
「…………?」
様子がおかしい、死体が一つしかない。
大火傷で倒れ混む巨体は恐らくジェラルドの物だ。
しかしいくら探せど死体はこれ一つ。
そんな事はあるまいとひっくり返って焼け焦げた車の中を、注意深く探すもやはり死体は何処にもない。
「ガヴルルルゥ……」
何処かに吹き飛んで砂でも被っているか? そんな事を考えながら周囲をその巨大な尾で振り払うも何も見つからない。
苛立つ害獣。
――いい加減腹が減ったぞ、お前らを仕留めるためにいくら燃料を浪費したと思っている! 大人しく見つかれ糞どもが!――
害獣が力任せに武装車を破壊しようと思ったその時である。
まるでレーザーを放ったかの用な高い音が荒野に響く。
続いて巨大な爆発音。
強烈な勢いで武装車が吹き飛び害獣の顔面に直撃!
「ジシァアアァァアッ!」
突然の事態に害獣は混乱、その虚を突き青い影が武装車がひっくり返っていた地面から飛び出しそしてあろうことか害獣の甲殻の付け根に跨がった!
「ありがとうジェラルド、貴方のお陰で命を拾った」
クザンの言葉に息も絶え絶えにジェラルドは反応する。
「……ハァハァ……おう……礼は要らねぇ……それより悪かったな……お目覚め後の初キッスを奪っちまった……」
「……その言い方は止めないか?」
一体何が起こった!? 害獣は考えが追い付かない。
しかし答えは至極簡単、ジェラルドは倒れ込む仲間達を見た瞬間、思いきり息を深く吸い込んだ。
そして気絶する振りをして仲間と共に蟻地獄にわざと転落。
舞い上がる砂煙の中、肺に溜まった僅かな酸素が切れる前に避難用の穴を掘り、そして待ち構えたのだ、この後間違いなく来る爆破攻撃の為の酸素の供給を。
狙い通り害獣は蟻地獄に空気を吹き込む、この瞬間である。
ジェラルドは供給された酸素を思いきり吸い込み気絶するクザンに人工呼吸、クザンを蘇生! そして爆発から守るために避難用の穴にクザンを含めた三人を投げ込みひっくり返った武装車で蓋をしたのだ。
絶望的な状況で一筋の可能性をクザンに託す為に!
「ジシャアァァアッ!」
背中にいるクザンを嫌がり暴れまわる害獣、クザンは一体何をしようというのか。
「俺の体力とお前の燃料、どっちが先に無くなるかな……根性比べだっ!」
その時クザンは思いきり脚に力を入れ、害獣の胴を締め上げる。
「ジギャアッ!」
――まずいっ! そこは!――
締め上げられたその場所は超低温の液体酸素のタンク、過剰な圧を加えられたタンク中の液体酸素が飛沫をあげてブースターから漏れだす、そこに至るまでの害獣の内臓器官を凍結させながら!
――おのれぇえぇっ!――
このままでは体の内部に凍結によるダメージが入る、燃料も浪費してしまう、それを防ぎクザンを振り落とす方法はただ一つ!
巨大な爆音をあげながら害獣のブースターが展開! 超スピードで害獣は大地を滑り出す!
そう、液体酸素が漏れるのならばいっそのことアルコールも放出しブースターを発動、体の内部の凍結を防ぎついでにその推進力で敵を振り落とす、害獣の選択肢は今これしかない。
「バオオオオォォオオッ!」
雄叫びをあげながら害獣はがむしゃらに蟻地獄の中を暴れまわる。
「ウオオオォォッ!」
クザンは下半身に力を込めて必死に害獣にしがみつく。
まるでスーパーボールの様に跳ね回る害獣の振り落としを必死に耐える。
「バウアォォッ!」
害獣は蟻地獄にわざと背中を擦らせるように爆進! クザンを擦り落そうとする!
「そんなものかっ!」
強がるクザンだが体は悲鳴を挙げる、近くで燃え盛る最大出力のブースターの熱も徐々に体を焼いていく!
しかしまるで龍の顎の如くホールドされたクザンの脚は外せない! 引き剥がせない!
大量の殺気を纏い害獣の背中にびったりと張り付く!
――糞があァァアっ!――
背後に感じる殺気に恐慌状態に陥った害獣はドリルを回転! 地面への潜航を開始!
「さっせるかぁぁあっ!」
クザンは両手で害獣の頭部を掴み無理矢理頭部の方向を変える!
恐ろしい腕力で害獣の進む方向を制御し地面への潜航を妨害する!
「アギャアアィァ!」
砂塵を巻き上げ暴れまわる害獣、それを全身の強化筋肉で制御するクザン、その様はまさに荒野のデスロデオ!
いつ終わるとも知れないそのロデオ、しかしクザンの体には確実にダメージが蓄積されていく!
炎が生んだ上昇気流によって多少は酸素が補充されたとは言えまだまだ蟻地獄の中の酸素は薄く、それもクザンを蝕んでいく!
「……まだかっ!?」
クザンの体が血を吹き出し焼き焦がされ、呼吸もままならず、ついに限界を迎えようとしたその時である。
「バゥアッ!?」
ポシュンと情けない音をあげて害獣のブースターが停止、バランスを崩した害獣はクザンと共に揉んどり打って蟻地獄の底にずり落ちる。
――ヤバイヤバイヤバイッ!――
害獣は血相を変えて地面に再度潜航をしようとする。
「駄目だ」
まるでレーザーを放ったかの用な高い音が蟻地獄に響く。
続いて巨大な爆発音。
「ジギャアァァァアッ!!」
吹き飛ぶ青い血飛沫、激痛に悶える害獣、燃料が無くなり引火の危険がなくなった害獣の胴体にクザンの爆裂掌が炸裂したのだ!
「これで……終わりだっ!」
害獣の体にクザンの蹴りが炸裂する!
害獣は抵抗しようにも胴体は半分ちぎれブースターも使用不可、暴れまわったせいで体力も限界! 先程までの大立ち回りが嘘のようにクザンの強烈な打撃を一方的に受け続け、まるで手足をもがれたトカゲのように転げ回る。
蟻地獄に強烈な打撃音が何度も何度も響き渡る。
――この俺がぁっ! この俺様がこんな奴等にぃぃい!――
人の言葉に訳せばこんなことを叫びながら害獣は止めのトラースキックを側頭部に喰らい、ついに絶命した。
害獣が沈黙してからおよそ数秒、二人は武装車に向かって走り出す。
「敵さんがわざわざ止まってくれてるんだ、さっさと逃げるぞ! 」
「解った!」
そう、圧倒的に不利な状況で害獣の狩りにわざわざ付き合ってやる道理もない。
手を出されないのならば即逃げる、当然の判断だ。
「二人とも、早く!」
「おう!」
二人が武装車に飛び乗ると間部はアクセルを全開! けたたましいエンジン音を上げながら武装車は走り出す。
「奴は、諦めたのか?」
「さぁな、わからねぇ、だが逃げるチャンスだ、逃す手は無ぇ」
そうは言うもののジェラルドは内心落ち着かない様子、歴戦の勘が静かに警鐘をならしている。
流石にベテラン、その悪い予感は数瞬後に見事的中することとなる。
「ほぇっ!?」
一番最初に異常に気が付いたのは間部、彼女は目の前で起きている事実を脳で処理が出来ずに頓狂な声を上げた。
目の前の大地が空へ浮き上がっていく。
「地面が……空に浮き上がっていく?」
その刹那、地響き、轟音、砂煙。
桜は再度サンルーフから慌てて顔を出す。
そして血相を変えて叫んだ。
「地面が浮いてるんじゃない! 私たちが沈んでるっ!」
「なんだと!」
皆、周りを見渡し絶句する。
車から半径五十メートル程の大地が地響きを上げながらズブズブと沈んでいく。
「あいつの仕業か!」
「あの野郎、これを仕込んでいやがったのか!」
打ち寄せる砂と岩石に絡めとられ車は物凄いスピードで大地と共に沈んでいく。
クザンとジェラルドは外に飛び出し車を何とか外に押し出そうと懸命に力を込める。
「ウオオオオオッ!」
「おりゃああああっ!」
押し下る流砂に必死の抵抗をするクザンとジェラルド、剛力で無理矢理砂を掻き分け二人は車を引っ張りあげる。
害獣の造ったトラップに全身全霊で抵抗をする。
やがて再度の大きな地響きと共に地面の沈降は停止する。
三十メートルは沈んだであろうか。
およそ直径百メートル程の巨大な蟻地獄のような地形を残して場は静まり返る。
車両は下半分だけが沈没。
もし二人が抵抗をしていなかったのであれば今頃全員砂の底で窒息死していたであろう。
「良かった! 止まりましたよっ!」
「ああ、何とかなったな……」
「ジェラルド! 速く二人で車両をこの蟻地獄の外に……」
「まって! 奴がいるわ」
桜が指差したその先には蟻地獄の縁で中にいる四人を覗き込むように首をもたげる害獣の姿。
首を落とし、まるでがっくりと落ち込んでいるかの様、静かに、まるで脱け殻のように動きを止めている。
「何をしてるのかしら……」
「とにかく速く逃げるぞ!」
間部以外の三人は改造された身体を駆使し間部は車両の中でアクセルを操作、蟻地獄からの脱出を試みる。
いつ遅い来るかも解らない害獣に注意を払いながら必死で砂地獄を駆け上がる。
害獣は襲い来る気配は無い、その不気味な沈黙に内心穏やかではないものの今は車両の奪還が先、四人は必死で砂の坂を駆け上る。
――甘いぞ豚屑ども……――
その懸命な様を見て害獣はグニャリと口角を引き上げ不気味に笑う。
この一撃で消し飛ぶとは思ってもみない愚か者どもの足掻きが可笑しくてたまらない様子だ。
――そらそら、もうすぐだ……最初に倒れるのは誰だ? あの弱そうな小娘かぁ?――
「おい、間部ちゃん何してる!? アクセルを踏むのを止めんな!」
突然車のタイヤが止まる、自走能力を無くした鉄の塊の重さがズドンとジェラルドにのしかかる。
「おい、間部ちゃんどうした!? おいっ!」
前方で車を引っ張るジェラルドは運転席を覗き込む。
そこには胸を抑えて項垂れる間部の姿。
「なっ!? おい、桜っ、すぐに車に入れっ! 間部ちゃんの様子がおかしい!」
鉄の塊と化した武装車を落ちぬように必死で引っ張りながらジェラルドは叫ぶ。
しかし桜からの返事はない。
「おい!? 桜、クザン!?」
この時ジェラルドは思う、いくら武装車と言えど重すぎる、桜とクザンが後ろに控えていてこうも重くなるものか?
車がずり落ちぬよう必死で体勢を変えながらジェラルドは車の後方を覗き混む。
そこには膝をつき倒れ伏す桜とクザンの姿!
「一体なんだって……かひゅっ……うぐぁっ!」
二人を心配するまもなくジェラルドも胸を抑えて倒れこむ。
「そういう……事か……畜生!」
支え手を失った武装車は意識を失った三人を巻き込み、再び蟻地獄の底へと転落していく。
その過程で武装車はガトリングやバンパーが外れスクラップを撒き散らす。
そして最後にズシンと大きな音と濃い砂煙を立て完全に沈黙した。
一体何が起こったのか。
それを理解するには害獣の口元に注目しなければならない。
先程から身じろぎ一つしない害獣は口元から気体を吐き出している。
そう、先程爆発攻撃に使用されたアルコールガスだ。
信じられぬほどの大量のアルコールガスを吹き込み蟻地獄の中を無酸素状態にして四人を一網打尽にしたのだ。
近接攻撃では万が一もあり得る、そう考えた害獣の狡猾な作戦だったのだ。
しかしまだ害獣の攻撃は終わりではない、気体が吹き出る音がわずかに鋭くなる。
再度吹き込むのは高濃度の酸素。
勢い良く吹き込み蟻地獄の中のアルコールガスとシェイクする。
一分程だろうか、害獣の吹き込みが静かに止まる。
蟻地獄はアルコールと酸素を豊富に含んだ気体に満たされる。
それを確認した害獣はおもむろに口をあんぐりと開け、思いきり閉じる。
その瞬間、牙から散った火花が気体に引火、爆発炎上!
蟻地獄はまるで地獄の入り口の如く燃え盛る。
――終わりだ――
害獣はその炎を暫くの間満足げに眺める。
そして鎮火した頃合いを見計らってズルズルとその長い体を引きずり蟻地獄の中に入っていく。
今回の獲物を食すためにだ。
目印となる武装車に向かって一直線に這っていく。
「…………?」
様子がおかしい、死体が一つしかない。
大火傷で倒れ混む巨体は恐らくジェラルドの物だ。
しかしいくら探せど死体はこれ一つ。
そんな事はあるまいとひっくり返って焼け焦げた車の中を、注意深く探すもやはり死体は何処にもない。
「ガヴルルルゥ……」
何処かに吹き飛んで砂でも被っているか? そんな事を考えながら周囲をその巨大な尾で振り払うも何も見つからない。
苛立つ害獣。
――いい加減腹が減ったぞ、お前らを仕留めるためにいくら燃料を浪費したと思っている! 大人しく見つかれ糞どもが!――
害獣が力任せに武装車を破壊しようと思ったその時である。
まるでレーザーを放ったかの用な高い音が荒野に響く。
続いて巨大な爆発音。
強烈な勢いで武装車が吹き飛び害獣の顔面に直撃!
「ジシァアアァァアッ!」
突然の事態に害獣は混乱、その虚を突き青い影が武装車がひっくり返っていた地面から飛び出しそしてあろうことか害獣の甲殻の付け根に跨がった!
「ありがとうジェラルド、貴方のお陰で命を拾った」
クザンの言葉に息も絶え絶えにジェラルドは反応する。
「……ハァハァ……おう……礼は要らねぇ……それより悪かったな……お目覚め後の初キッスを奪っちまった……」
「……その言い方は止めないか?」
一体何が起こった!? 害獣は考えが追い付かない。
しかし答えは至極簡単、ジェラルドは倒れ込む仲間達を見た瞬間、思いきり息を深く吸い込んだ。
そして気絶する振りをして仲間と共に蟻地獄にわざと転落。
舞い上がる砂煙の中、肺に溜まった僅かな酸素が切れる前に避難用の穴を掘り、そして待ち構えたのだ、この後間違いなく来る爆破攻撃の為の酸素の供給を。
狙い通り害獣は蟻地獄に空気を吹き込む、この瞬間である。
ジェラルドは供給された酸素を思いきり吸い込み気絶するクザンに人工呼吸、クザンを蘇生! そして爆発から守るために避難用の穴にクザンを含めた三人を投げ込みひっくり返った武装車で蓋をしたのだ。
絶望的な状況で一筋の可能性をクザンに託す為に!
「ジシャアァァアッ!」
背中にいるクザンを嫌がり暴れまわる害獣、クザンは一体何をしようというのか。
「俺の体力とお前の燃料、どっちが先に無くなるかな……根性比べだっ!」
その時クザンは思いきり脚に力を入れ、害獣の胴を締め上げる。
「ジギャアッ!」
――まずいっ! そこは!――
締め上げられたその場所は超低温の液体酸素のタンク、過剰な圧を加えられたタンク中の液体酸素が飛沫をあげてブースターから漏れだす、そこに至るまでの害獣の内臓器官を凍結させながら!
――おのれぇえぇっ!――
このままでは体の内部に凍結によるダメージが入る、燃料も浪費してしまう、それを防ぎクザンを振り落とす方法はただ一つ!
巨大な爆音をあげながら害獣のブースターが展開! 超スピードで害獣は大地を滑り出す!
そう、液体酸素が漏れるのならばいっそのことアルコールも放出しブースターを発動、体の内部の凍結を防ぎついでにその推進力で敵を振り落とす、害獣の選択肢は今これしかない。
「バオオオオォォオオッ!」
雄叫びをあげながら害獣はがむしゃらに蟻地獄の中を暴れまわる。
「ウオオオォォッ!」
クザンは下半身に力を込めて必死に害獣にしがみつく。
まるでスーパーボールの様に跳ね回る害獣の振り落としを必死に耐える。
「バウアォォッ!」
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「そんなものかっ!」
強がるクザンだが体は悲鳴を挙げる、近くで燃え盛る最大出力のブースターの熱も徐々に体を焼いていく!
しかしまるで龍の顎の如くホールドされたクザンの脚は外せない! 引き剥がせない!
大量の殺気を纏い害獣の背中にびったりと張り付く!
――糞があァァアっ!――
背後に感じる殺気に恐慌状態に陥った害獣はドリルを回転! 地面への潜航を開始!
「さっせるかぁぁあっ!」
クザンは両手で害獣の頭部を掴み無理矢理頭部の方向を変える!
恐ろしい腕力で害獣の進む方向を制御し地面への潜航を妨害する!
「アギャアアィァ!」
砂塵を巻き上げ暴れまわる害獣、それを全身の強化筋肉で制御するクザン、その様はまさに荒野のデスロデオ!
いつ終わるとも知れないそのロデオ、しかしクザンの体には確実にダメージが蓄積されていく!
炎が生んだ上昇気流によって多少は酸素が補充されたとは言えまだまだ蟻地獄の中の酸素は薄く、それもクザンを蝕んでいく!
「……まだかっ!?」
クザンの体が血を吹き出し焼き焦がされ、呼吸もままならず、ついに限界を迎えようとしたその時である。
「バゥアッ!?」
ポシュンと情けない音をあげて害獣のブースターが停止、バランスを崩した害獣はクザンと共に揉んどり打って蟻地獄の底にずり落ちる。
――ヤバイヤバイヤバイッ!――
害獣は血相を変えて地面に再度潜航をしようとする。
「駄目だ」
まるでレーザーを放ったかの用な高い音が蟻地獄に響く。
続いて巨大な爆発音。
「ジギャアァァァアッ!!」
吹き飛ぶ青い血飛沫、激痛に悶える害獣、燃料が無くなり引火の危険がなくなった害獣の胴体にクザンの爆裂掌が炸裂したのだ!
「これで……終わりだっ!」
害獣の体にクザンの蹴りが炸裂する!
害獣は抵抗しようにも胴体は半分ちぎれブースターも使用不可、暴れまわったせいで体力も限界! 先程までの大立ち回りが嘘のようにクザンの強烈な打撃を一方的に受け続け、まるで手足をもがれたトカゲのように転げ回る。
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――この俺がぁっ! この俺様がこんな奴等にぃぃい!――
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