龍の錫杖

朝焼け

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第二章

荒野のデスロデオ! ! -4 【VSバイティング・ザ・サン】

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「時間が無ぇ、間部ちゃん、手短に聞かせてくれ」

ジェラルドはバックミラーで猛追して来る害獣を注視しながら後部座席から身を乗りだす。

「はい……あくまで私の予測ですけど奴のブースターの燃料はアルコールと液体酸素だと思います……大昔のミサイルと同じ仕組みです……ジェラルドの受けた爆発はアルコールと気化した液体酸素を利用した物……クザンさんが受けた凍る牙は低温の液体酸素を利用した物だと思います」
「成る程、V2ロケットと同じ仕組みって訳かアイツは、流石読書マニア、変なこと知ってんな」

※V2ロケット 第二次世界対戦時にドイツが開発した弾道ミサイル。アルコールと液体酸素を混合させた時に起こる反応を利用して飛行する。

「そっちこそ、本を読まない癖によくそんな昔の事を知ってますね、ジェラルド」
「バカ野郎、年寄りは物知りなんだよ、で、どうすれば奴の能力を無効化できると思う?」
「奴がブースターを使う時に首の部分、鎧の付け根の所がポンプみたいに痙攣してるのを見たんです、あの部分にアルコールか酸素のタンク、それか二種類の液体を混合させるためのポンプが有るのではないかと思います」
「成る程、つまりその部分さえ撃ち抜くなり破壊するなりすれば奴の動きを止められるかも、そう言いたいんだな?」
「はい、もしあの固い甲殻の中に全機能が詰め込まれていたのなら勝ち目は無かったかもしれません、でもあの柔そうな部分に弱点が有るのなら、少しは勝つ展望が見えて来ませんか?」
「…………」

ジェラルドは一瞬考え込む。
実はジェラルドもその害獣の弱点にはクザンの凍結した手足を見たときにいち早く気がついていた。
だが、その弱点を突くには一つだけ、問題が合ったから言い出さなかっただけなのだ。

「良いのか? 間部ちゃん、自分からそんな事言い出して」
「何がです?」
「その作戦を行うには車載のマシンガンが必要不可欠だ、クザンの爆裂掌だと万が一燃料に引火したときにクザンごと吹きとんじまうからな」
「それが?」
「わかんねぇか? 俺ら三人誰が囮になろうとも間部ちゃんは無事に都市に帰れるがもしその作戦を行うとなれば車が必要、つまりは間部ちゃん、あんたも一緒に奴と戦うことになるんだぜ?」

間部はきゅっと唇を噛みしめ俯く。

「そんなことわかってます、でもこんなの感情論なんですけど……私は……一緒に笑ったり喋ったり仕事したりした人があんなにひどい殺され方をするのはもう見たくないんです……ジェラルドにも……もちろん桜さんやクザンさんにも……四人全員で生き残って私は都市に帰りたいんです……一番弱い私が言えることではないんですけど……」

涙目になり、震えながらも間部は強い目でジェラルドを見つめる。
私も戦う、だから皆で生きて帰ろう、目でそう語りかける。
その間部の姿を見て三人は猛省する。
精神が擦りきれそうな戦いの日々でどこか自分達の命を軽く見積もっていた事を。
自分達にも死んで悲しむ人がいる、そんな簡単な事を忘れていたのだ。

沈黙する三人、だがジェラルドが高笑いでその沈黙を破る。
「……ぶはははははっ! そうだな、悪かったな間部ちゃん! 四人でここを切り抜けて全員で生きて帰ろう! 解ったな? クザン、桜!」

「ああ、解った」
クザンはその青く輝く拳を硬く握り締める。

「一番最初に囮になるなんて言い出したのは誰よ?」
小言を言いつつ桜はガトリングガンを構え直す。

「クザン! 俺と一緒に撃って出るぞ、間部ちゃんと桜は俺達が戦ってる隙にガトリングを敵の弱点にありったけ撃ち込むんだ!」
「解りました!」
「解ったわ!」
「承知した!」

全員の掛け声を合図に武装車は高い音をあげながらドリフト、害獣に向かって向き直る。
そして害獣から見て右側からクザン、左側からジェラルドが飛び出す。

「ジギャアァァアッ!」

地下を掘り進む害獣は右に舵を切りブースターの力で跳躍、クザンに突進。
唸りを上げ高速回転するドリルで串刺しを狙う。
しかしクザンはまるで猫の様に体を翻し回避!
害獣は地面に落下、勢いが止まったその一瞬を狙い、クザンのトラースキックが右サイドから、迫ってきたジェラルドの右ストレートが左サイドから害獣に炸裂! 巨大な釣り鐘を叩いた様な音が鳴り響く!

「ガアッ……グゥウ……」

害獣は反撃しようと体を持ち上げるが脳を揺らされ一瞬ふらつく。
動きが止まったその瞬間、害獣の左サイドに回り込んだ武装車が弱点を狙ってガトリングを掃射する!

「いっけえぇえぇぇっ!」
「ガルアアアァッ!」

害獣は危険を察知、一気にブースターを展開、その場から跳躍しガトリングを回避!

「くそっ!」
「惜しい!」

地響きを起こしながら害獣は地面に着地、素早くとぐろを巻いて鎌首をもたげクザン達に向き直る。
その時耳に入るのはまるでガスが漏れ出ているかのような妙な音、その音の出どころは害獣の胴体! 甲殻の付け根からガスが漏れ出ている!

「数発は当たったみたいだな」
「おう、一気に気化してるところを見るとあの部分に有るのは液体酸素のタンクみてぇだ」
「しかしあの程度の傷痕だと……」

二人が会話している最中にそのガスの漏れでる音は静かに停止する。
害獣の再生能力により傷痕が塞がってしまったのだ。

「やはりもっと大きな傷痕をつけないとダメか」
「内蔵まで破壊しねぇと焼石に水だな」

クザンは自身の蒼い掌を見つめる。

「おいおい、気が早いぞ、まだガトリングガンの弾はある、それは最後まで取っておけ」
「……ああ、わかっている」
「グルルゥゥアアァ」

二人の会話に横槍を入れるのは害獣の唸り声。
日本語に訳すのならば――この豚屑共が、生意気にも我が弱点に気づきおったか!――と言った所だろう。
唸り声から傲慢な苛つきと怒りが見てとれる
そこにブレーキ音を響かせながら二人の背後に武装車が停車する。

「間部ちゃんの予想は当たってたみたいね」
「おう、勝ちの目は少しだが見えた、引き続き頼むぜ、桜、間部ちゃん!」
「解りました!」
「ラジャー!」

「ガルァアァアアアァ!!」

害獣の咆哮を皮切りに再度四人は散開、戦闘体勢に入る。
クザンとジェラルドは害獣に突撃、桜と間部は距離を取りながらチャンスを伺う。

「ガルアァァアッ!」

まるで鞭の様な音をたてながら害獣の強烈なテールスマッシュ、空間ごと引き裂きそうなその一撃を二人は高く跳躍して回避、落下の勢いを利用して害獣の頭を殴り付ける!
またも釣り鐘を叩くような音が響く、だが今度は害獣はそれに耐え、頭を振り払い両者を弾き飛ばす! 
その刹那、疾走する武装車のガトリングガンが害獣の弱点に向かって火を吹き放つ! 
しかし害獣はその鎌首を素早く動かし頭部の甲殻でその射撃をガードする! 
矢継ぎ早に繰り返される攻防、しかし桜がガトリングを撃ち込む度に害獣は素早く反応し弱点を防御する。

「駄目だ! 完全に狙いに勘づかれてるわ!」

クザンとジェラルドは何とか隙を作ろうと繰り返し害獣に攻撃を加える。
荒野に響くドリルの回転音、打撃音、射撃音。
永遠に続きそうなその戦い、しかしターニングポイントは唐突に訪れる!

「余所見とは余裕だな!」

ガトリングの弾丸を防御するために横を向いた害獣にクザンの飛び膝蹴りが炸裂! 一瞬怯む害獣だが直ぐにクザンに向き直り液体を浴びせかける!

「ぐあっ!」

その液体は超低温の液体酸素、再度手足を凍結され空中で姿勢を崩したクザン、そこを害獣は超高速のテールスマッシュで吹き飛ばす!

「クザンッ!! クソッ!」

クザンを心配しながらも攻撃の手を緩めるわけには行かないジェラルドは鉄拳を打ち込もうと害獣に突進!
しかし予想外にも害獣は素早く後退、ジェラルドの接近を防ぐために大量のアルコールを液状のまま周辺に散布、そして牙で着火!
一緒に放った酸素ガスの効果も相まって周辺は炎の海と化す!

「畜生! 近づけねぇ!」
「ダメだわ! 炎に遮られて狙えない!」

害獣は攻めが途切れたその隙を突き、地中に潜行を始める。

「クソッ! 待ちやがれっ!」

そんな台詞を害獣は意にも介さない。
そして炎が静まったとき既に害獣は地中に姿を消していた。
先程までの騒々しさとはうって変わって荒野に静寂が訪れる。
武装車の走行音と穏やかな風の音、そして害獣が地下を掘り進む高い音が僅かに響く!

「くそっ、この状態にはなりたくなかったな」
「ジェラルド、すまない迂闊だった」

炎で手足を解凍したクザンがジェラルドに走り寄る。

「いいさ、俺もちょうどポカして敵を地下に潜らせちまった所だしな、それより気をつけろよ、敵は地下から何かするつもりだ」

不意に害獣の掘り進む音が停止する。

「……何もしてこないな」
「ああ、完全に敵の有利だってのに攻撃してくる気配が無えな」

用心深く戦闘体勢をとる四人。
しかし答えるのは不気味な沈黙と風の音のみ。
まだ四人は知る由もないが今、害獣の強烈な最終攻撃が炸裂しようとしていた。
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