龍の錫杖

朝焼け

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第二章

六爪遺跡の決闘―1【vsチーズメイカー】

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【龍の錫杖B区画Aエリア都民商店街】
人気の無い商店街に肌を焼き焦がしそうな太陽光が照りつく、足元のコンクリートがそれを跳ね返し体感温度は五十度程になっているだろう。
湿気も多くまるでサウナの中にいるかの様な有り様だ。
だが、いつも賑わっている商店街に人気が無いのはその暑さが原因ではない。
その原因は…………。

「キエェェエエェェエッ!!」

ギョロギョロと焦点の合わない大きな眼球、蜥蜴の様な顔、理想の格闘家を具現化したかの様なしなやかな体、両手には指はなく左右四本の銃口を思わせるような筒と日本刀の様に鋭い刃物が備え付けられている。
その成体害獣は絶叫し、両手の筒からカルシウム弾をマシンガンの様に連射、迫り来る敵、青鬼と化したクザンを迎撃する。

「フンッ!!」

クザンは店舗の壁を垂直に走り抜けその弾丸を回避、害獣との距離を詰め、黒い刀で斬りかかる!
害獣はそれを見た目に似合わず、軽く滑らかな最小限の動きでかわす。

「オオオラァアアァァッ!」

続けてクザンの荒れ狂う竜巻の様な激しい連撃、普通の敵ならばその剣撃に巻き込まれて瞬く間にボロクズの様に叩き伏せられてしまうだろう。
だがこの害獣は違う。
その連撃を全て、まるで風に戯れる柳の如くかわし、いなし、受け流す。
驚異的な動体視力。
その大きな眼球に備え付けられた強靭な眼筋がそれを可能にしているのだ。
戦闘が始まってからおよそ二十分、この能力のせいでクザンは害獣にかすり傷一つ付ける事が出来ていない。
商店街に澄み渡るような高い音、クザンの刀と害獣の刀が鍔競り合う。

「キェェエアアアァッ!」

害獣は剛力で黒い刀をクザンごと跳ね退け、再度弾丸を浴びせかける!

「クソッ!」

間一髪でクザンはその連射をかわす。
しかし害獣はそのまま連射を続行、走るクザンをつけ狙う!
人気の無い商店街に高らかに鳴り響く射撃音、徐々に、徐々に、確実に、その動体視力を駆使し走るクザンを追い詰める!
しかしクザンは仮面の下でニヤリと笑う、見るは害獣の足元のマンホール。
クザンは追い詰められているかの様に見せてそこに害獣を誘導していたのだ。

「今だ猛っ!!」

突如強烈な打撃音、衝撃と共にマンホールの蓋が八メートルは跳ね上がり害獣ごと撃ち飛ばす!

「キェアアッ!?」

パニックになる害獣、宙に打ち上げられながらも自身の立っていた箇所にそのギョロついた眼を向ける。
マンホールの穴の中には先程逃げ出したかと思ったもう一人のハンターの姿!

「流石に……見えねぇ攻撃は避けられねぇみてぇだなっ!」

猛はそのまま高々と跳躍しその黒く逞しい腕で空中で制動の効かない害獣を殴りつける。
まるで爆撃が起きたのかと思われるほどの巨大な打撃音!
打ち下ろすような形で打撃を叩き込まれた害獣は強烈な勢いで斜め下に落下して行く!

――ふん……馬鹿が、万に一つのチャンスを生かしきれなかったな……この程度の傷……直ぐに回復してやる!――

地面に落ち行く自身をその動体視力でゆっくりと分析しながら、害獣はそんなことを考える。
しかしその瞬間、害獣は自身の落ち行く背後にまるで化物が居るかの様な錯覚に囚われ思わず振り向く。
そこにはまるで悪鬼その者の様な面構えで掌底の構えを取るクザンの姿!
その構えられた掌からは強烈なエネルギーが漏れ光り、明らかに害獣である自分にとって録でもない物であることが見てとれる。

――不味いっ!!――

害獣は直感する、だが既に出遅れ。
猛の強烈な打ち下ろしを喰らったせいで落下速度は地面に落ちるまで緩まることは無いだろう。
この速度のまま、後ろの青い男の掌底を受けて終わり、成す術はない。
害獣はゆっくりと迫る死を前に考える。

――物が見えすぎるというのも……考えものだな……――

まるでレーザーを放ったかのような高い音が商店街に響く。
続いて巨大な爆発音。
クザンの爆裂掌が害獣の脳天に炸裂した。





 頭を吹き飛ばされ痙攣する害獣の死体、飛び散る脳髄、青い血、これらが織り成すグロテスクな光景を前にして、二人の男は何やら雑談をしている。

「ところで新居の調子はどうだい、クザン」

自身の煙草に火を付けた後、クザンの加える煙草に火を点けながら猛はクザンに質問する。

「まぁ、普通だ……特にどうと言うことは無い」
「かーっ! つまらん返しだねぇっ! なんかねぇのかい、見晴らしが良いとか、隣に住んでるお姉さんが可愛いとか!」

思わず無愛想な返しになってしまった事を反省しつつクザンは口を開く。

「あぁ、悪い……ただ……家に帰っても何をするべきかも解らなくてな……」

今の一言で猛はこの男の境遇を思い出す。
五十年間の記憶を失い、妻子の死を知らされ、自身は戦闘用の改造人間にされ、もう元には戻れない。
普通だったら発狂しても可笑しく無い状況に今必死に適応しようとしている最中、確かに景色や異性との交遊を楽しむような心の余裕は無いのだろう。
自身の軽率さに多少、猛はトーンダウンする。

「あーいや、こっちも悪かったな……確かにそんな事に気を配ってる余裕はまだねぇかぁ……だがよ、もうここに来て一ヶ月だ、そろそろ何かちょっとした趣味とか娯楽とかに手を着けても良いんじゃねぇか? 特に俺達みたいな職業はそういうのが無いと精神持たねぇぜ?」
「…………」
「ま、明日は一応非番だろ? どっか出掛けてみたらどうだい?」
「そうだな……」
「まぁ、無理にとは言わねぇけどよ」

会話の途切れた所で猛は腕時計に目を落とす。

「しかしおっせぇな」
「連絡したのは二十分位前だ」

二人が待つのは労働衛生管理局の職員だ。
ハンターに倒された害獣は労管の査定により危険度や報償金の確定が成される。
今回は害獣が暴れだしてからかなり早くに二人が駆けつけた為に労管の到着が遅れているようだ。

「猛、ここは俺が残ろうか?」
「あんた、手続きの仕方解るのか?」
「もう二回見た、覚えもするさ」

確かに複雑な手続きでは無い、だがここ数日行動を共にしていて猛はクザンの物覚えの良さに関心していた。
何も教えずとも真綿が水を吸い込むかの様に物のやり方を覚えて自分の者にしてしまう。
この調子なら直ぐにこの都市の生活にも慣れるだろう、後必要なのは心の傷を癒す時間だけ、先程の心配は余計な事だったなと彼は思う。

「おう、じゃあ任せるわ、俺は一足先に戻って資料作って置くからよ」
「あぁ、頼む」

猛は頼もしく、そして世話のかからない後輩に背を向け歩きだす。
しかし猛はこの時、もう少しクザンと一緒に居るべきであった。
もう少しこの都市でのハンターとしての強かな振るまい方を教えてやるべきであった。
それは何故か。
クザンはこれから来る労管の職員に丸め込まれ些か厄介な面倒事を押し付けられる羽目になるからだ。
そしてその厄介事を機に、五十年間均衡を保ってきたこの都市の環境は少しずつ、唸りを上げて動き出す事になる。
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