不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ

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生徒会はあの日から始まっている

どっかで見たな、こんな顔 中編

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 ── 6月28日 13時15分 加賀美咲 ──

「そんな感じで」
「いや、これってつまり護君が何も教えてくれなかったのって柊和のせいなんじゃ……」
「そうとも言えなくもない」
「つまり言えるってことじゃんか!」
「う~ん……でも、やっぱり違うと思うよ? 元々私にも内緒で見に行くつもりだったんだし、美咲にだって何かあっても偶々で通すつもりだったんじゃない?」

 たしかに……正直それも全然あり得る。
 むしろ護君らしくさえある。
 というか、その護君らしさは柊和らしさとも言えそうなほどで、そういうところに限って二人は似通っている。

「橘姉弟はなんでこう揃って不器用なの……」
「まあ、多分私の影響だよね」
「じゃあやっぱ柊和のせいじゃん」
「いや、そこまで私のせいにされても困るんですけど!」

 柊和は納得いかなそうな顔で憤慨する。
 まあ、確かに影響を受けたのは主に護君の方が憧れてるせいだと思うので、柊和は悪くないとは思うんだけど。

「でも、そっかぁ……護君が私の事心配して……えへへ」
「……なにその顔」
「だって! 護君がそんな……あの時私のもとに来てくれたのだって、偶然じゃなくて必然だったんだって思うと……ちょっとやばい」

 嬉しくてにやけが止まらなくなってしまう。
 そっか……あれって本当に私の心配は二の次でとか、そんなんじゃなかったんだ……。
 うあぁ~……どういう理由であれまずちゃんと心配してくれてたってだけでもう……やばすぎる~っ!

「……美咲ってさ、やっぱり……」
「ん~?」

 柊和が私に何か問いかけようとしている。
 その視線は下に向いたままで。

「護の事……好きなの?」

 その質問に、顔のにやけはすぐに引いていった。

「な、好きって……そりゃ」
「違うよ。私が好きなのは、恋愛対象としての好き」
「っ……」

 柊和は私の言葉を先んじて封じてしまう。
 そして私は柊和の読み通り、恋愛の話を明確に避けようとしていた。

「な……なんで……」
「あのさぁ~……。そんな色ボケした顔見せられて、気づかない方がよっぽど難しいんですけど?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「なに?」

 柊和の勢いに抗うべく、私は必死で待ったをかけた。
 もはや決めつけにかかっている柊和に、私はどうしても我慢できない。

「気づかない方が難しいとか……私、本当にそんなんじゃ……」
「いいや、間違いないね」
「なっ!」
 
 私自身のことなのに、私よりも柊和の方が理解出来ているのだろうか。
 少なくとも、私と違って断言するに足る自信は持ち合わせているようだ。

「美咲はさ、多分誤魔化そうとしてるわけじゃないよね」
「当たり前じゃん! 私は本当に……」
「ただ、分かってないだけ」
「あ、ぐぅ……」
 
 そして、私自身の問題についてもきっちりと見抜かれている。
 急に心当たりのある指摘に私は躓かざるを得なかった。

「美咲は、恋が何なのかとか全然分かってないだけ」
「…………」

 こうもバッサリと断言されると、不思議と反発する気も疑問に思う気持ちも湧いてこなくて、本当にそうなんじゃないかと言う気がしてくる。
 柊和はそれから少し考えて、また口を開く。

「例えば、護を見て美咲は何を感じる?」

 その質問に、私は抵抗を憶えなかった。

「かっこよくて……満たされる感じ」
「話してる時は?」
「楽しくて……でも安心、する……?」
「守ってくれた時は……?」
「頼りになって……心配して嬉しくて……」
「嬉しくて?」
「…………」

 凄く……凄い……好……き……?
 
 ──え?

「それが恋じゃなくて何だって言うの?」
「あ……」

 その質問に、私は答えを用意できなくて。
 元々見当もつかなかったのだから答えるのなんて不可能だけど、でも、恋ではないと否定することすらできなかった。

「柊和は……なんでそんなこと聞くの?」

 だから、私がかろうじて口にできたのは、そんな今はどうでもいいはずの質問だけ。
 でも、柊和は律儀に答えを用意しようと思考してくれる。

「……そりゃ、大事な弟と友達の一大事なんだから、当然気になるに決まってるでしょ?」
「柊和……」

 至極真っ当なその言い分に、けれど私は納得できなくて。
 だって、そんな寂しそうな顔で言われても信じられるわけないのに。

 私はその言い分を聞き流す。 
 本当は嘘だと否定したかったけど、どうせ今は本音を教えてくれるわけがないと分かっていたから。
 だからその代わりに、私はもう一つだけ質問をした。

「なら柊和はこの気持ちを……知ってるの?」
「……っ」
「この気持ちがなんなのか分かるって、つまりそういうことでしょ?」

 相手が誰なのかとか、そういうことはさっぱりわからない。

 けど、知ってる事だけは間違いない。
 私に教えられるほどに恋について詳しくて、私の気持ちにあれだけ同情してくれたのに、その柊和が知らないなんてあるはずがないから。
 
「……さあね」
「さあねって……」
「そんなこと、私が知ってていいはずがない」
「……え?」

 聞き取れないほど小さな声。
 けど、確かに唇が動いていたので何事か呟いたことだけは分かった。

「……お腹痛い、帰る」
「は、はあ⁉」
「今日は護の弁当でもないし……もう戻る」

 柊和はそう言って立ち上がり、私に背を向けた。

 言われて思い出した、そういえば今は昼休憩で、本来弁当を食べる時間だということを。
 急にお腹が痛いとか、一瞬で嘘と分かる言い訳で去ろうとしている柊和。
 確かに昨日の影響で護君は弁当を用意できなかったらしいけど、それにしたってあからさまに食欲を失ったのは気になってしまう。
 どう考えてもこの話題から逃げようとしていた。

「ちょっと‼」
「今日の質問はまた聞くから。その時までに答えが出せるよう考えておいて」
「なら私の質問は⁉」

 自分は答えを求める癖に、柊和はこちらを振り向くこともしないで手をひらひらと振って去ってしまった。
 一人残されて私は……。
 その場でもそもそと、釈然としない気持ちのまま弁当を食べて……。

 その間、急に立ち去った柊和のことと同じくらい……いや、それ以上に。
 柊和に指摘された自分の気持ちについて、今まで以上に恋を意識して悩み続けることになったのだった。
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