不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ

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生徒会はあの日から始まっている

お姉ちゃんは一人でいい 後編

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 護まで私から離れていく喪失感、護のための行動すら自分の欲に負けて出来ない不甲斐なさ。
 私がどんな選択をしても負の感情はついて回り、避けることは出来ない。

 そして、そんな事実を結果として今突き付けられた私は、とうとう心の均衡を保つ事すらできなくなり、あらゆる感情が涙の形をして目から零れ落ちてしまう。

「なんで、私からお姉ちゃんの名前までろうとするの……?」
「えっ……」

 弱り切った心では、涙と一緒にあふれ出す自分の本心を隠すことも止めることも何一つ敵わない。

「美咲なら私と違って恋人にだってなれるのに……!」
「違っ! 私が言いたいのは奪うとかそういうじゃなくて!」

 美咲が何やら否定しているが、私の心はそれを受け止めるだけの余裕がない。
 膨らみ切った負の想いを言葉として外側へ排出しなければ、今もなお増長する感情はいずれ心をパンクさせてしまう。
 
「護が私から離れていくとしても、せめてお姉ちゃんでいられるなら繋がりは残ったままって……なのにそれすら無くなっちゃったら……私はどうしたらいいの?」
「柊和……」
「準備も、覚悟も、これまでの間ずっと、少しずつ確実にしてきたのに、いざその時が来たら全部意味なんかなくて! 今すぐのお別れじゃないって分かってるけど、今私がする選択がいずれ護との離別に繋がる選択だって思えば、たったそれだけ選ぶことも出来なくてっ!」

 美咲はいつしか口を閉じていた。
 口を閉じて、私の口から漏れ出る音に耳を傾けたまま、もしかしたら今の私に何を言っても通じないって、そう悟ったのかもしれない。

「そんな意地汚い奴、護の姉としてふさわしくないって思い知って……、本当に護のためを思うなら私からさっさと離れるべきで、今だって美咲に譲るなりしちゃえばいいのに、私はどこまでも自分勝手で、寂しいからってそれもできないし……」

 護のためなんて口では分かったようなフリをして、その実未練たらたらで、結局言ったこととやってることが嚙み合わない。
 私は結局、護のためにしてあげられたことなんて……! 

「私は結局、最初から最後まで自分のためにしか動いてない……‼ そんな奴、護のお姉ちゃんにふさわしいわけない……っ‼」

 こんな薄汚い奴が、あの護にふさわしいわけがない。

「あの人の言う通り私は子供のままで……こんな奴が大人になんかなれるわけない……!」

 理屈は分からなくても、想いがあってはならないものなんだってこれまでの経験全てがそう指し示してるように思えてならない。
 それでも納得できない私は……もう、どうしようもない。

「でも……全部わかってて、そんな自分が嫌いでしょうがないのに……」

 これ以上縋っても見苦しいだけだって、分かってるのに……。

「それでもやっぱり……寂しいよ……一人は嫌だよ……」

 あれから新しく得たものもあったけど、それでも、一度どん底に落ちた時でも私のもとから離れなかった唯一の宝物。
 護だけは、今は沢山出来た大切な物達の中でも、一番特別で……。
 代わりの利かない私の支え。

 吐き出し続けた感情も、最後にはやはり寂しい想いの吐露で終わった。
 ここまで徹底していると、もはや嫌悪感すら感じなくて、圧倒的に諦観の方が優先されてしまう。
 私はいつまでたっても、例え護のためであろうと自分から離れることなんて出来ないのかもしれない。
 少なくとも、今の私には……。

 場に沈黙が流れる。
 これで全部吐き出せたわけじゃないけど、多少余裕が出来る程度には吐き出せた。
 これ以上は例え美咲でも、いや、美咲だからこそ、詩葉先輩の時のように私の本当の本当の気持ちまで話すことは出来ない。
 今は否定されたし、美咲が何を考えているのかもわからないけど、それでも美咲が護に恋をしてることだけは私の勘違いじゃないと確信できているから。
 これから先、私の想いは美咲の邪魔になってしまうだろうから。

 話すことは、何もない。

 姉であれ、恋人であれ。
 結局どんな形であろうとも、護にふさわしいのは、私ではない。
 
 ──お姉ちゃんは一人でいい。

 もし、美咲が姉になりたいと望むのであれば……。
 いなくなるべきは、私の方なのかもしれない。
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