Winter perdu(ウインターペルデュ)

しまかぜ

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最終章 冬の迷い子、来る春

Final 4 冬の迷い子 別れ

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桜が舞う。
ある島に。
季節は冬。
それでも舞う。
まるでこの時が永遠のように、俺たちは桜を見ていた。

「綺麗だね。」
冬華が言う。
「うん。綺麗だな。」
答える。
「あのね、真琴。 本当はね、もっと一緒にいたかった。」
冬華が俺に横たわる。
もう力はないようだ。
とても軽かった。
まるで桜のよう。
冬華は最後の力を振り絞るように言う。
「冬の迷い子はね、春が来たらね、帰るんだよ。」
「帰るって、冬眠するんだろ?」
「ううん、違うの、もっと遠い場所で、眠るの。」
薄々気づいていた。
冬の迷い子は、春を迎えるために戻ってくるのだ。
ならば、春が来たら役目を終える。
元にいた場所に還る。
なんて言えばいいかわからなかった。
行って欲しくないのは事実だ。
でもそれを言ってしまっては、駄目だ。
俺がやるべき事は、決まっている。
冬華は覚悟を決めたんだ。
変わると。
島のみんなも。
俺だけが過去に囚われてはいけない。
冬華は5年前帰らぬ人となった。
5年間囚われ続けた。
背けてきた。
忘れようとしてきた。
変われ、真琴。
自分に言い聞かせる。

「お疲れ様、だ。冬華。」
「うん。ありがとうね。蒼太も、奏も、賢人も、真琴も。」

みんな泣いている。
でも笑顔だ。
そうだ、笑うんだ。
お別れに涙はいらない。
冬華は旅立つんだ。
長い長い旅へ。
だから笑って見送ってやるのが俺の役目だ。
過去の自分と決別する。
前に進むんだ。
時間は過ぎる。
だから、俺も、進まなくては。
未来へ。

「あのね、真琴。」

冬華が言う。その姿はもう、消えかかっている。
「本当はね、もっと一緒にいたかった。もっと色んなところに行って、もっとみんなと遊んで、もっと笑って、もっと泣いて、時には苦しんで、でもみんなで乗り越えて、笑って、泣いて、また笑って。そんな日々を過ごしたかった。」

「うん。俺もだよ。」
「でもね、この冬は楽しかった。みんなと遊んでいっぱい笑えた。いっぱい泣けた。十分な思い出だよ!」
「っ!!」
こうしてる間にも、体は消えていく。
「叶ったよ?願い事。春を見れたんだよ。みんなと遊べたんだよ。真琴に、会えたんだよ?だからね、笑って?」
冬華は笑っている。顔ももう見えにくくなってるけど、わかる。
冬華は笑っている。
楽しそうだ。
思い出も沢山作れた。
「来年もさ、楽しいぞ。いっぱい思い出を作ろう。」
俺は言う。聞こえてるかもしれないし、そうでないかもしれない。
「春も、夏も、秋も、そして冬も。たくさん思い出を作るんだ。見てくれよ。俺この冬で変わったぜ?みんなのおかげだよ。見てくれ、こんなに笑えるようになった。こんなに楽しいと思えるようになった。こんなに好きな人と遊べた。感情が戻ってきたんだぜ?だからさ、まだ、遊ぼうぜ……。」
「うん。ありがとう。大好きだよ。真琴。みんな。私は今、幸せだよ?ありがとう。みんな。」

スっ…と 今まで居たもの。あったもの。居るべきはずの人が、消えていた。
春の桜と共に、空へと舞っていった。


俺は笑っている。
いつぶりだろうか。
なあ、冬華、
見えてるか?
俺はこんなに笑顔だぜ?
楽しいぜ?
今では友達もできたぜ?
たまに喧嘩するけど、仲直りして、もっと仲良くなるんだ。
蒼太も、奏も、賢人も、みんな仲良しだ。
来年も再来年も、ずっとずっと会う。
でもさ、
その中にお前がいなきゃ、駄目なんだよ。
一人でも欠けたら、駄目なんだよ。
「大丈夫だよ。」
どこからか声が聞こえる。
その声は懐かしい。
どこかで聞いたことがある。
誰の声か分からないけど、でも分かる。
理屈じゃわからなくても、記憶が、心が覚えている。
だから言う。
笑顔で。
涙を流しながらも。
あの時から忘れていた。
精一杯の笑顔で、俺たちは思いっきり叫ぶ。
「行ってらっしゃい、冬華。」

どこからか聞こえてくる。
その声は。
懐かしかった。

「行ってきます。」

さあ、進もう。

もうすぐ春が来る。






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