7 / 15
戦闘記録 アンジェラとアナトリア
壱:凪ぎの海に 渡り鳥:Ⅰ
しおりを挟む
その日も、海は凪いでいた。
そこではない遠くではどうなのか知らなかったが、少なくとも、海上基地で休息中のアンジェラを取り囲む海は、優しい潮風の通行を許すくらいには、凪いでいた。
「……」
彼女は本を読んでいた。表紙には『たとえ孤独に沈んでも』と印字してある。
それはアンジェラが、先日に得た稼ぎを使ってマーケットから入手した小説で、その本の著者は彼女のお気に入りだった。
その物語は、ある閉鎖的な国に拉致された少女が主人公で、故郷に帰るために、あの手この手で奮闘するという、暗いながらも常に一縷の希望を残しているような物語。
その中で少女は、襲い掛かる困難にもめげず、時に友人たちの助力を得ながらも立ち向かい、目標に向かって突き進んでいく。そして最後には、見事に脱出を果たすものの、その過程で見てきた数々の出来事や犠牲を思い、独り涙を流す、と言う締めくくりになっている。
最後のページまで読み終わり、アンジェラは一息吐く動作と共に、本を閉じた。
「うん。これも面白かった」
「何が面白かったの?」
そんな彼女の背後から、相棒であるアナトリアが声を掛けた。
アンジェラが声に反応して振り向くと、そこには軍用の服に身を包んだ彼女が立っており、手には、飲み物の入った金属製の保温コップを二つ持っていた。
「ん、この前買った本。さっき読み終わった」
「え?もう?早くない?届いてからまだ三日だよ?」
コップを置き、対面位置に座ったアナトリアが、これでもかと疑問符を並べつつ苦笑する。
「普通だよ。それに、面白いものはどんどん読みたくなるから」
そんな彼女に、アンジェラはさも当然というような口調で答える。そして本を脇に置き、コップを手に取った。中身を軽く確認してから口に運ぶ。
「ふぅん?ねえ、その本って、どんなお話なの?」
脇に除けられた本の表紙をちらと見やってから、微笑を浮かべてアナトリアが尋ねる。
アンジェラは、口の中に在る飲み物を飲み込んでからコップを置くと、その本を手に取った。
「閉鎖的な風土の国に連れ去られた少女が、友達の力を借りながら脱出する話。痛快な部分もあるけど、大筋は人間ドラマかな」
「人間ドラマ、ねぇ……。アンジーって、最近そう言う本ばかり読んでるよね? 最初は専門書とか、学術書とかだったのに」
少し過去の事を思い出しながら、アナトリアは笑った。
「うん。興味があるんだ。こういう心情とか友情とかの、そう“絆”とか。この本も、そう言う感じ……」
しかし、そこまでは楽しそうに話していたアンジェラだったが、急に、声の調子を落として黙ってしまった。表紙を隠すように本を置き、再びコップの飲料を口に運ぶ。
「どうしたの?」
「……いや、ちょっとね」
その問いかけに彼女は頷くと、コップをテーブルの上に置いた。
「私達には、そう言う人が居てくれるのかなって。誰かを助けて、その先で、私のために泣いてくれるような人が、居るのかなってさ」
本に目を向け、どうしようもなく諦観した微笑を浮かべながら、アンジェラは問いかけに答える。
「うん。これは無意味な疑問だよ。死ぬまで死ねない私に、意味を考えたらダメだ、きっとね」
「アンジー……」
「ああ、そうだった。この後、仕事だよね? すぐに準備するよ」
彼女は本を懐にしまうと、いそいそと立ち上がる。
「あ……」
そして、いつもの表情を残して立ち去る彼女の背を、アナトリアは何も言えずに見送るのだった。
そこではない遠くではどうなのか知らなかったが、少なくとも、海上基地で休息中のアンジェラを取り囲む海は、優しい潮風の通行を許すくらいには、凪いでいた。
「……」
彼女は本を読んでいた。表紙には『たとえ孤独に沈んでも』と印字してある。
それはアンジェラが、先日に得た稼ぎを使ってマーケットから入手した小説で、その本の著者は彼女のお気に入りだった。
その物語は、ある閉鎖的な国に拉致された少女が主人公で、故郷に帰るために、あの手この手で奮闘するという、暗いながらも常に一縷の希望を残しているような物語。
その中で少女は、襲い掛かる困難にもめげず、時に友人たちの助力を得ながらも立ち向かい、目標に向かって突き進んでいく。そして最後には、見事に脱出を果たすものの、その過程で見てきた数々の出来事や犠牲を思い、独り涙を流す、と言う締めくくりになっている。
最後のページまで読み終わり、アンジェラは一息吐く動作と共に、本を閉じた。
「うん。これも面白かった」
「何が面白かったの?」
そんな彼女の背後から、相棒であるアナトリアが声を掛けた。
アンジェラが声に反応して振り向くと、そこには軍用の服に身を包んだ彼女が立っており、手には、飲み物の入った金属製の保温コップを二つ持っていた。
「ん、この前買った本。さっき読み終わった」
「え?もう?早くない?届いてからまだ三日だよ?」
コップを置き、対面位置に座ったアナトリアが、これでもかと疑問符を並べつつ苦笑する。
「普通だよ。それに、面白いものはどんどん読みたくなるから」
そんな彼女に、アンジェラはさも当然というような口調で答える。そして本を脇に置き、コップを手に取った。中身を軽く確認してから口に運ぶ。
「ふぅん?ねえ、その本って、どんなお話なの?」
脇に除けられた本の表紙をちらと見やってから、微笑を浮かべてアナトリアが尋ねる。
アンジェラは、口の中に在る飲み物を飲み込んでからコップを置くと、その本を手に取った。
「閉鎖的な風土の国に連れ去られた少女が、友達の力を借りながら脱出する話。痛快な部分もあるけど、大筋は人間ドラマかな」
「人間ドラマ、ねぇ……。アンジーって、最近そう言う本ばかり読んでるよね? 最初は専門書とか、学術書とかだったのに」
少し過去の事を思い出しながら、アナトリアは笑った。
「うん。興味があるんだ。こういう心情とか友情とかの、そう“絆”とか。この本も、そう言う感じ……」
しかし、そこまでは楽しそうに話していたアンジェラだったが、急に、声の調子を落として黙ってしまった。表紙を隠すように本を置き、再びコップの飲料を口に運ぶ。
「どうしたの?」
「……いや、ちょっとね」
その問いかけに彼女は頷くと、コップをテーブルの上に置いた。
「私達には、そう言う人が居てくれるのかなって。誰かを助けて、その先で、私のために泣いてくれるような人が、居るのかなってさ」
本に目を向け、どうしようもなく諦観した微笑を浮かべながら、アンジェラは問いかけに答える。
「うん。これは無意味な疑問だよ。死ぬまで死ねない私に、意味を考えたらダメだ、きっとね」
「アンジー……」
「ああ、そうだった。この後、仕事だよね? すぐに準備するよ」
彼女は本を懐にしまうと、いそいそと立ち上がる。
「あ……」
そして、いつもの表情を残して立ち去る彼女の背を、アナトリアは何も言えずに見送るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる