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狐太郎と狼牙の関係
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亜子はとても緊張していた。何故なら、狐太郎と教室で二人っきりだったからだ。男の子と二人きりなど、初めての経験だった。
事の起こりは、音子の提案だった。音子は狼牙を少しの間預かって、狐太郎にとても感謝されたのだそうだ。
そこで音子はひらめいたらしい。狐太郎と仲良くするには、狼牙を手なずける事が得策と考えたようだ。将を射んと欲すればまず馬を射よ、という事らしい。
音子は狼牙を遊びに連れて行ってしまった。狐太郎は音子と狼牙が戻って来るまで、本を読んで待っているようだ。亜子は無意識にうめいた。狐太郎は亜子が、何故音子たちと一緒に行かなかったのかと不思議に思っている事だろう。
これでは、亜子が狐太郎と二人っきりになりたくて、音子に頼んで狼牙を連れ出したと、狐太郎に思われているのではないかと、疑心暗鬼におちいってしまう。
亜子は沈黙に耐えかねて、狐太郎に話しかけた。
「狐太郎くん、今日はいい天気だね?」
「・・・。そうだな」
狐太郎は読んでいた本から顔をあげて答えた。このまま会話は終了してしまった。亜子は焦って言葉を続けた。
「こ、狐太郎くんは、小さな狼牙くんの面倒を見なければいけないから大変だね?」
「いいや、そんな事はない。それに、狼牙は俺が物心ついた時からあのくらいなんだ。だから、俺は小さい頃、狼牙に面倒をみてもらっていたんだ」
「え?!狐太郎くんが?!狼牙くんに?!」
狐太郎から、狼牙は成長が遅いと聞いていたが、狐太郎が小さい頃からあのままだとは思わなかった。
亜子が見るからに驚きの顔をしていると、狐太郎は苦笑しながら答えた。
「ああ。俺は物心ついた時から狼牙が側にいてくれて、赤ん坊の俺をおんぶしてくれていたんだ」
「狐太郎くんにとって、狼牙くんはお兄ちゃんでもあるんだね?」
「ああ。俺は小さい頃、狼牙の事をろう兄と呼んでいた。俺は狼牙に、今でも感謝してもしきれないんだ」
「狼牙くんは、狐太郎くんと一緒にいる事が一番嬉しそうだよ?」
亜子の言葉に、何故か狐太郎は顔をゆがめた。狐太郎はしばらく考えるそぶりをしてから、口を開いた。
「なぁ、亜子。俺にもしもの事があったら、狼牙の事頼めるか?」
「もしもって?狐太郎くんが手が離せない時?私、狼牙くんの事好きだらか一緒に遊んでいるよ?」
「・・・。ああ、頼む」
亜子は狐太郎の歯切れの悪い返事が気になったが、狐太郎はあえて会話を変えた。
「そういえば、亜子。お前のカミナリの妖術はすごかったな?俺が狼牙にかけた術ははね返されちまったのに」
「うん。狼牙くんに命中して本当に良かった。それに、狼牙くんも気絶だけで済んで良かった」
「亜子。お前はこのクラスの中で、一番妖力が強い」
「ええ?そうかなぁ」
亜子は狐太郎が手放しで褒めるものだから、恥ずかしくなってしまった。狐太郎は大きくうなずく。亜子は照れ隠しに答えた。
「狐太郎くんの陰陽師の術だって、すごいよ?私、あんな難しい術、初めて見たもの」
「教えてやろうか?」
「ええ?!私には無理だよ」
「いいや、亜子ならできるよ」
そう言って狐太郎は微笑んだ。その笑顔がとびきり魅力的で、亜子はドギマギしてしまった。
そこへ突然誰かが教室に飛び込んで来た。その人物は音子だった。何故か狼牙は一緒ではなかった。音子の手には、狼牙が着ていたパーカーが握られていた。彼女は、ゼェゼェと息を吐きながら言った。
「ご、ごめんなさい。狼牙くん、見失っちゃった」
事の起こりは、音子の提案だった。音子は狼牙を少しの間預かって、狐太郎にとても感謝されたのだそうだ。
そこで音子はひらめいたらしい。狐太郎と仲良くするには、狼牙を手なずける事が得策と考えたようだ。将を射んと欲すればまず馬を射よ、という事らしい。
音子は狼牙を遊びに連れて行ってしまった。狐太郎は音子と狼牙が戻って来るまで、本を読んで待っているようだ。亜子は無意識にうめいた。狐太郎は亜子が、何故音子たちと一緒に行かなかったのかと不思議に思っている事だろう。
これでは、亜子が狐太郎と二人っきりになりたくて、音子に頼んで狼牙を連れ出したと、狐太郎に思われているのではないかと、疑心暗鬼におちいってしまう。
亜子は沈黙に耐えかねて、狐太郎に話しかけた。
「狐太郎くん、今日はいい天気だね?」
「・・・。そうだな」
狐太郎は読んでいた本から顔をあげて答えた。このまま会話は終了してしまった。亜子は焦って言葉を続けた。
「こ、狐太郎くんは、小さな狼牙くんの面倒を見なければいけないから大変だね?」
「いいや、そんな事はない。それに、狼牙は俺が物心ついた時からあのくらいなんだ。だから、俺は小さい頃、狼牙に面倒をみてもらっていたんだ」
「え?!狐太郎くんが?!狼牙くんに?!」
狐太郎から、狼牙は成長が遅いと聞いていたが、狐太郎が小さい頃からあのままだとは思わなかった。
亜子が見るからに驚きの顔をしていると、狐太郎は苦笑しながら答えた。
「ああ。俺は物心ついた時から狼牙が側にいてくれて、赤ん坊の俺をおんぶしてくれていたんだ」
「狐太郎くんにとって、狼牙くんはお兄ちゃんでもあるんだね?」
「ああ。俺は小さい頃、狼牙の事をろう兄と呼んでいた。俺は狼牙に、今でも感謝してもしきれないんだ」
「狼牙くんは、狐太郎くんと一緒にいる事が一番嬉しそうだよ?」
亜子の言葉に、何故か狐太郎は顔をゆがめた。狐太郎はしばらく考えるそぶりをしてから、口を開いた。
「なぁ、亜子。俺にもしもの事があったら、狼牙の事頼めるか?」
「もしもって?狐太郎くんが手が離せない時?私、狼牙くんの事好きだらか一緒に遊んでいるよ?」
「・・・。ああ、頼む」
亜子は狐太郎の歯切れの悪い返事が気になったが、狐太郎はあえて会話を変えた。
「そういえば、亜子。お前のカミナリの妖術はすごかったな?俺が狼牙にかけた術ははね返されちまったのに」
「うん。狼牙くんに命中して本当に良かった。それに、狼牙くんも気絶だけで済んで良かった」
「亜子。お前はこのクラスの中で、一番妖力が強い」
「ええ?そうかなぁ」
亜子は狐太郎が手放しで褒めるものだから、恥ずかしくなってしまった。狐太郎は大きくうなずく。亜子は照れ隠しに答えた。
「狐太郎くんの陰陽師の術だって、すごいよ?私、あんな難しい術、初めて見たもの」
「教えてやろうか?」
「ええ?!私には無理だよ」
「いいや、亜子ならできるよ」
そう言って狐太郎は微笑んだ。その笑顔がとびきり魅力的で、亜子はドギマギしてしまった。
そこへ突然誰かが教室に飛び込んで来た。その人物は音子だった。何故か狼牙は一緒ではなかった。音子の手には、狼牙が着ていたパーカーが握られていた。彼女は、ゼェゼェと息を吐きながら言った。
「ご、ごめんなさい。狼牙くん、見失っちゃった」
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