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ジュリアの結婚
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ジュリアは隆成の家でやっかいになる事になった。言葉もわからない土地では、ジュリア一人で暮らすのは難しいと思ったからだ。
隆成の仕事は、どうやら酒を作って売っているようだった。隆成は仕事の合間をぬって、ジュリアにこの土地の言葉を教えてくれた。三ヶ月にいっぺんの吸血衝動が起こると、その度に隆成がジュリアに血をくれた。
ジュリアはそれ以外は隆成と同じものを食べた。ジュリアは三ヶ月に一度の吸血以外、食べ物を食べなくても大丈夫なのだが、隆成の家にいる以上人間と同じにしないと怪しまれてしまうと思ったからだ。
ジュリアはつたない日本語で、自分は永遠の命を持つ者、人間の血を吸う者だと伝えた。隆成は怖くないのかと聞くと、隆成は笑って答えた。ジュリアは良い奴だから怖くない、と。
ジュリアは次第に優しい隆成に惹かれていった。それは隆成も同じだったようで、この土地に来て三年経ってから、隆成にプロポーズをされた。ジュリアは嬉しくて一も二もなくうなずいた。
隆成とジュリアの結婚を隆成の家の者たちも喜んでくれた。ジュリアは隆成に自分の血を吸ってもらって、眷属になってもらいたかった。そうすればジュリアと隆成は永遠に一緒にいられるからだ。
だが隆成はその提案をしぶった。もう少し待ってくれというのだ。ジュリアは隆成に嫌われたくなかったので、彼が吸血鬼になるというまで待つ事にした。
隆成は親戚の男の子を養子にして、自分の跡取りとして育てる事にした。養子の男の子はとても可愛くて、ジュリアにもよく懐いてくれた。
それからの十年間はとても幸せだった。だがそんな幸せにも不安の影がしのびよってきた。店の者たちがささやくように言うのだ。うちのおかみさんはちっとも歳を取らない。若く美しいままだ。そのウワサは主人である隆成の耳にも入った。
仕方なくジュリアは病にかかったフリをして死んだと見せかけるようにした。葬儀を済ませた後、石を詰めた座棺を隆成の菩提寺の墓に埋葬した。
ジュリアは隆成が秘密りに作った隠し部屋で暮らす事になった。可愛い息子に会う事ができなくなったが、仕事が終われば隆成が会いに来てくれるので寂しさをがまんする事ができた。
やがて息子が大きくなり、店を継ぐ事になった。ジュリアは隆成に、自分の血を飲んで吸血鬼になる事をせまった。だが隆成はもう少し待ってくれといってうなずいてはくれなかった。
隆成は七十歳を過ぎ、布団にふせる事が多くなった。ジュリアは隆成の枕元に座り、泣きながら吸血鬼になってと哀願した。だが隆成はもうろうとした声で答えた。
「わしはしわくちゃのじいさんになってしまった。ジュリアは出会った頃のまま、美しい。こんなわしとでは不釣り合いだ」
「何言ってるの、隆成。私は隆成の心が好きなの、優しくてあたたかくって、そんな隆成とずっと一緒にいたいの。お願い、隆成」
隆成は弱々しく声でジュリアに言った。ジュリアは彼の口元に耳を近づけてジッと聞いていた。ジュリアはハッとした顔になって言った。
「本当?!絶対よ、隆成!約束破ったらしょうちしないんだからね!」
隆成は弱々しく笑ってから、ハァッと息を吐いた。隆成はこの世での生を終えたのだ。ジュリアはまだ温かい隆成のなきがらにすがりついて泣いた。
しばらくして定期的にやってくる使用人の足音が聞こえた。ジュリアはすぐさま隠し部屋に入ると、隆成から贈られた着物やかんざしを入れた行李をかかえて家を飛び出した。
ジュリアは五十年以上暮らした家を後にした。
隆成の仕事は、どうやら酒を作って売っているようだった。隆成は仕事の合間をぬって、ジュリアにこの土地の言葉を教えてくれた。三ヶ月にいっぺんの吸血衝動が起こると、その度に隆成がジュリアに血をくれた。
ジュリアはそれ以外は隆成と同じものを食べた。ジュリアは三ヶ月に一度の吸血以外、食べ物を食べなくても大丈夫なのだが、隆成の家にいる以上人間と同じにしないと怪しまれてしまうと思ったからだ。
ジュリアはつたない日本語で、自分は永遠の命を持つ者、人間の血を吸う者だと伝えた。隆成は怖くないのかと聞くと、隆成は笑って答えた。ジュリアは良い奴だから怖くない、と。
ジュリアは次第に優しい隆成に惹かれていった。それは隆成も同じだったようで、この土地に来て三年経ってから、隆成にプロポーズをされた。ジュリアは嬉しくて一も二もなくうなずいた。
隆成とジュリアの結婚を隆成の家の者たちも喜んでくれた。ジュリアは隆成に自分の血を吸ってもらって、眷属になってもらいたかった。そうすればジュリアと隆成は永遠に一緒にいられるからだ。
だが隆成はその提案をしぶった。もう少し待ってくれというのだ。ジュリアは隆成に嫌われたくなかったので、彼が吸血鬼になるというまで待つ事にした。
隆成は親戚の男の子を養子にして、自分の跡取りとして育てる事にした。養子の男の子はとても可愛くて、ジュリアにもよく懐いてくれた。
それからの十年間はとても幸せだった。だがそんな幸せにも不安の影がしのびよってきた。店の者たちがささやくように言うのだ。うちのおかみさんはちっとも歳を取らない。若く美しいままだ。そのウワサは主人である隆成の耳にも入った。
仕方なくジュリアは病にかかったフリをして死んだと見せかけるようにした。葬儀を済ませた後、石を詰めた座棺を隆成の菩提寺の墓に埋葬した。
ジュリアは隆成が秘密りに作った隠し部屋で暮らす事になった。可愛い息子に会う事ができなくなったが、仕事が終われば隆成が会いに来てくれるので寂しさをがまんする事ができた。
やがて息子が大きくなり、店を継ぐ事になった。ジュリアは隆成に、自分の血を飲んで吸血鬼になる事をせまった。だが隆成はもう少し待ってくれといってうなずいてはくれなかった。
隆成は七十歳を過ぎ、布団にふせる事が多くなった。ジュリアは隆成の枕元に座り、泣きながら吸血鬼になってと哀願した。だが隆成はもうろうとした声で答えた。
「わしはしわくちゃのじいさんになってしまった。ジュリアは出会った頃のまま、美しい。こんなわしとでは不釣り合いだ」
「何言ってるの、隆成。私は隆成の心が好きなの、優しくてあたたかくって、そんな隆成とずっと一緒にいたいの。お願い、隆成」
隆成は弱々しく声でジュリアに言った。ジュリアは彼の口元に耳を近づけてジッと聞いていた。ジュリアはハッとした顔になって言った。
「本当?!絶対よ、隆成!約束破ったらしょうちしないんだからね!」
隆成は弱々しく笑ってから、ハァッと息を吐いた。隆成はこの世での生を終えたのだ。ジュリアはまだ温かい隆成のなきがらにすがりついて泣いた。
しばらくして定期的にやってくる使用人の足音が聞こえた。ジュリアはすぐさま隠し部屋に入ると、隆成から贈られた着物やかんざしを入れた行李をかかえて家を飛び出した。
ジュリアは五十年以上暮らした家を後にした。
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