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夜のひと時
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プリシラは老婆を地上に降ろすと、焚き火の準備を始めた。森に落ちている枯れ木を集め、火が通りやすいように組み上げていく。火打ち石で真綿に火をつけてから、枯れ木に火を移す。
温かな火を目にすると、老婆はようやく肩の力が抜けたようだ。プリシラはタップに声をかけた。
「タップ。紅茶とビスケットをお願い」
『おう!』
タップが魔法を発動すると、プリシラの手にはトレーが現れた。トレーの上にはティーポットと二組のティーカップ。ビスケットにりんごが乗っていた。
驚きの声をあげる老婆に、プリシラは紅茶を注ぎながら言った。
「タップの魔法なんです。隠しの魔法といって、温かい紅茶もティーカップも、そのままの状態で保存してくれるんです」
プリシラは紅茶を淹れたカップをソーサーに乗せた。ソーサーにはビスケットを二枚乗せて老婆に手渡した。老婆は紅茶を一口飲んで、ホウッと息を吐いた。
プリシラも老婆にならい、紅茶を一口飲んでから、彼女に質問した。
「お孫さんはどんなお子さんだったんですか?」
「ええ、ええ。とってもおしゃまな可愛い子でねぇ。私のやる事をいつもマネしたがって。レース編みも、教えてとせがまれていたんだけど、」
そこで老婆は悲しそうに言葉を切った。息子の仕事が軌道に乗り、息子家族は城下町に引っ越す事になったのだ。息子たちは老婆も一緒に城下町に行こうと言ってくれたのだが、老婆は亡くなった夫との思い出の家を離れる決心がつかなかった。
結局老婆は村に一人で残る事にした。息子たちは事あるごとに手紙で、老婆に城下町に来るように言ってくれた。老婆も決心がついたら城下町に行くつもりでいた。
だがそれもあきらめざるを得なかった。老婆は年と共に衰えていき、足が悪くなってしまったのだ。これでは息子家族に迷惑をかけてしまう。老婆は最後を一人で迎える覚悟を決めた。
「そのつもりだったんだけどねぇ。配達屋のお嬢さんに会ったら欲が出てしまったわ。一目だけでもいい、孫の晴れ姿を見られたら、私はもう思い残す事はないわ」
老婆はひとり言をつぶやくように言ってから、プリシラに向きなおって言った。
「お嬢さん、ねずみさん。ありがとうね」
「いいえ、お気になさらないでください。私たちがおばあさんに会えたのは、きっと天国のおじいさんの巡り合わせです」
『気にすんな、ばばぁ!俺はねずみじゃねぇけどな!』
プリシラは自身のひざの上に乗っている失礼なタップをたしなめた。老婆は微笑んでから、胸元につけているブローチを愛しげに撫でた。きっと亡き夫の形見なのだろう。
プリシラは決意した。必ず老婆を孫娘の結婚式に出席させると。老婆が紅茶を飲み終えたのを見て取ると、プリシラはスクッと立ち上がって言った。
「おばあさん、お疲れだと思いますが、お孫さんのためにがんばりましょう」
「ええ、勿論ですとも」
老婆はプリシラの手につかまると、ゆっくりと立ち上がった。目には強い決意の輝きがあった。
プリシラは焚き火をしっかりと消すと、タップに毛布を出してもらった。これから夜通し空を飛ばなければいけない、老婆の身体を冷やさないためだ。
プリシラは老婆を毛布でくるんで、大きくなったタップに乗せ、再び自分と老婆を縄でしばった。目指すは王都の城下町だ。
温かな火を目にすると、老婆はようやく肩の力が抜けたようだ。プリシラはタップに声をかけた。
「タップ。紅茶とビスケットをお願い」
『おう!』
タップが魔法を発動すると、プリシラの手にはトレーが現れた。トレーの上にはティーポットと二組のティーカップ。ビスケットにりんごが乗っていた。
驚きの声をあげる老婆に、プリシラは紅茶を注ぎながら言った。
「タップの魔法なんです。隠しの魔法といって、温かい紅茶もティーカップも、そのままの状態で保存してくれるんです」
プリシラは紅茶を淹れたカップをソーサーに乗せた。ソーサーにはビスケットを二枚乗せて老婆に手渡した。老婆は紅茶を一口飲んで、ホウッと息を吐いた。
プリシラも老婆にならい、紅茶を一口飲んでから、彼女に質問した。
「お孫さんはどんなお子さんだったんですか?」
「ええ、ええ。とってもおしゃまな可愛い子でねぇ。私のやる事をいつもマネしたがって。レース編みも、教えてとせがまれていたんだけど、」
そこで老婆は悲しそうに言葉を切った。息子の仕事が軌道に乗り、息子家族は城下町に引っ越す事になったのだ。息子たちは老婆も一緒に城下町に行こうと言ってくれたのだが、老婆は亡くなった夫との思い出の家を離れる決心がつかなかった。
結局老婆は村に一人で残る事にした。息子たちは事あるごとに手紙で、老婆に城下町に来るように言ってくれた。老婆も決心がついたら城下町に行くつもりでいた。
だがそれもあきらめざるを得なかった。老婆は年と共に衰えていき、足が悪くなってしまったのだ。これでは息子家族に迷惑をかけてしまう。老婆は最後を一人で迎える覚悟を決めた。
「そのつもりだったんだけどねぇ。配達屋のお嬢さんに会ったら欲が出てしまったわ。一目だけでもいい、孫の晴れ姿を見られたら、私はもう思い残す事はないわ」
老婆はひとり言をつぶやくように言ってから、プリシラに向きなおって言った。
「お嬢さん、ねずみさん。ありがとうね」
「いいえ、お気になさらないでください。私たちがおばあさんに会えたのは、きっと天国のおじいさんの巡り合わせです」
『気にすんな、ばばぁ!俺はねずみじゃねぇけどな!』
プリシラは自身のひざの上に乗っている失礼なタップをたしなめた。老婆は微笑んでから、胸元につけているブローチを愛しげに撫でた。きっと亡き夫の形見なのだろう。
プリシラは決意した。必ず老婆を孫娘の結婚式に出席させると。老婆が紅茶を飲み終えたのを見て取ると、プリシラはスクッと立ち上がって言った。
「おばあさん、お疲れだと思いますが、お孫さんのためにがんばりましょう」
「ええ、勿論ですとも」
老婆はプリシラの手につかまると、ゆっくりと立ち上がった。目には強い決意の輝きがあった。
プリシラは焚き火をしっかりと消すと、タップに毛布を出してもらった。これから夜通し空を飛ばなければいけない、老婆の身体を冷やさないためだ。
プリシラは老婆を毛布でくるんで、大きくなったタップに乗せ、再び自分と老婆を縄でしばった。目指すは王都の城下町だ。
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