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ドリスの覚悟

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 連合軍のリーダーリリアの降伏により、ウィード国軍は勝利した。ドリスはプリシラとタップの力を借りながら、エルフのリーダーリリアと対話をした。

「ドワーフとエルフの森を略奪しようとして、すまなかった。森を手に入れようとしたのは、わたくしのお父さまのさしがねだ。わたくしはこれからお父さまに、この森から無条件で軍を撤退させ、二度とこの森はおかさないようにと嘆願書にしたためる。お父さまさらの返事が来るまで待ってはくれぬか?」
〔このつり目女のおやじがお前たちの森を奪おうとした張本人だ。つり目女はおやじに、森から手を引けと手紙を書く。返事が来るまで待ってろ〕

 クサリに巻かれたエルフのリリアは、渋面を作りながら言った。

〔信じて待てだと?もし貴様の父親が、我らの森への進軍をやめない場合、貴様はどうするのだ?〕
『エルフの姉ちゃんが、つり目の手紙をおやじが握りつぶしたらどうすんだと聞いてる』

 プリシラはタップからの伝言を、ドリスに伝えた。ドリスは、うむとうなずいてから答えた。

「その時は、わたくしは自らの命をたとう。わたくしの命一つで腹もおさまらないだろうが勘弁してくれ。わたくしは自らの命をかけてお父さまを説得する」

 ドリスの言葉にプリシラは悲鳴をあげた。

「ドリスさま!それはなりません!自らのお命をたつなど!」
 
 ドリスはプリシラに向き直ると、優しげな笑顔で答えた。

「もし、お父さまがわたくしの願いを聞き入れなければ、その時初めて家族を失ったドワーフとエルフの気持ちがわかるであろう。プリシラ、お前は優秀な配達屋だとチコから聞いている。荷物だけではなく、贈った者の心も届けていると。ならばわたくしの心をお父さまに届けてはくれぬか?わたくしの本心がお父さまに届けば、きっとこの森は本来の持ち主に返されるだろう」

 ドリスの決心に、プリシラは片膝をついて深く頭を下げた。

「ドリス王女さま。その仕事、心してお受けいたします」

 プリシラはドリスのしたためた書状を手に、タップに乗って一路王都に飛び立った。

 一平民のプリシラの言葉を、一国の王が聞き入れてもらえるなど、到底思えない。だがプリシラはやらなければいけないのだ。

 プリシラの不安な気持ちが、契約霊獣のタップに伝わったのだろう。

『プリシラ。大丈夫か?』
「うん、タップ。大丈夫とは言いがたいかな?私の行動によって、ドワーフさんとエルフさんの人生も変わってしまうかもしれない。ドリスさまのお命も危うくなってしまうかもしれない」
『なぁに、心配すんな。つり目のおやじが言う事聞かなければ、俺がボコボコにしてやるから』
「うぅん。王さまにそんな事したらまずいかなぁ?」
『なぁ、プリシラ。俺は霊獣だから、よくわからねぇんだがよ。プリシラもつり目のおやじも同じ人間なんだろ?何でプリシラはつり目のおやじをそんなに怖がるんだ?』
「だって、それは、」

 プリシラは言葉を続けようと思ってから、再び口を閉じた。

 プリシラとウィード国王は、平民と王族。プリシラと国王には天と地ほどの差があるのだ。

 だがタップの言っている事ももっともだ。国王はプリシラと同じ人間なのだ。プリシラの不安は少しだけおさまった。
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