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リベリオの苦悩2

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「プリシラ、さま」

 リベリオは震える声でプリシラの名を呼んだ。プリシラは困った顔をして答えた。

「リベリオさま。私に敬称など不要です。いつものようにプリシラとお呼びください」
「いえ、貴女はパルヴィス公爵家のご令嬢。そんなわけにはまいりません」
「あら、私は今はマージ運送会社の従業員としてここにいるのですよ?」
「・・・。わかった、それなら俺にも様はつけないでくれよ」
「いいえ!リベリオさまを呼び捨てになどできません!」

 リベリオとプリシラは顔を見合わせて笑い出した。自分たちのやりとりがおかしかったからだ。リベリオは気を取り直して、プリシラから手紙を受け取ると、お茶会に招待した。

 紅茶を一口飲んでから、プリシラはポツポツとそれまでのいきさつを話してくれた。

「私は魔力が少ないと言われて、両親から捨てられたんです」
「こう言っては失礼だけど、プリシラの両親はあまりにも常識はずれだ。俺の両親も魔力は全くなかった。魔力の有無など、その者の個性にすぎない」

 リベリオは、プリシラの悲しそうな顔を見たくなくて、精一杯なぐさめた。プリシラは悲しそうにありがとうございますと呟いてから、言葉を続けた。

「私は自分に両親はいないものとして過ごしていました。ですがパルヴィス公爵ご夫妻と出会って、彼らのあたたかさに触れ、このような方々が私の両親だったらどんなに素晴らしいだろうと思ってしまったのです。そんな時、パルヴィス公爵ご夫妻に、養女になってくれないかと言われて、私、欲が出てしまったんです。この方たちの娘になりたいって。だけどパルヴィス公爵ご夫妻は、私の事を立派な後継者になってほしいと思って養女に迎えたのかもしれません。ですが、私はただただ、私の事を優しく受け入れてくれる両親が欲しかっただけなんです」

 プリシラは一気に話し終えてから、弱々しく微笑んだ。プリシラの中でずっと溜め込んでいた思いだったようだ。

 リベリオはプリシラのこの気持ちが、パルヴィス公爵夫妻を幻滅させるとは思わなかった。パルヴィス公爵家の養女になるという事は、絶大な地位と権力を得る事になるのだ。

 プリシラは地位も権力もいらないと言ったのだ。ただ両親が欲しかっただけと。パルヴィス公爵夫妻は、このような娘を得て、どんなに喜んでいるだろうか。

 リベリオはプリシラのエスコートを承諾する事をもう一度伝えて、お茶会はお開きになった。

 

 

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