恐竜世界に転移した俺に懐いたちっちゃ可愛いドラゴンたちが最強だった

旅支度

　俺はスカーのために店頭に並ぶほとんどの肉を購入した。次はトップの番だ。トップは果物屋に並んでいたザクロのような果物が食べたいと言っていた。

　俺はトップに聞いた。ザクロをいくつほしいかと。トップは二個と答えた。
　
「少ないんじゃないか？二十個買ったっていいんだぞ？」

　もともとトップが稼いでくれた金だ。トップはザクロの実を、甘い酸っぱいといいながら食べてから言った。

『おいら、一度食べたり触ったりした植物は、生やす事ができるんだ』
「へぇ、便利だなぁ」

　俺は街を見回してから自分のいでたちを見下ろした。ドロドロに汚れたスニーカー。ボロボロのスーツ。だいぶ色あせたカラーシャツ。

　俺は自分の物も買わせてもらう事にした。

　中古服屋で歩きやすいブーツ、動きやすいズボンとシャツ。風を防ぐマントを購入した。

　俺がそれまで着ていたスーツとボロボロのスニーカーは捨ててしまおうと思ったが、思いとどまって女神さまがくれたショルダーバッグにしまった。

　これまで住んでいた世界で俺は死んでしまった。もう帰る事はできない。俺はこの世界で生きて死んでいくのだ。

　歳をとれば、昔の事を懐かしく思う事もあるかもしれない。


　俺とトップとスカーは食堂で食事をした。といっても食事を注文したのは俺だけで、トップは自分で育てた果物と野菜を。スカーは肉屋で買った肉のかたまりを食べた。

　俺は熱々のビーフシチューとパン、エールを頼んだ。

「美味い！」

　肉はホロホロに柔らかく、パンは少し固かったが、シチューにつけて食べると美味しかった。エールはあまり冷えていなかったが、この世界に来て初めてのアルコールだった。

　俺はある事を思いついて試してみた。エールの器に水派生魔法である氷魔法をかける。

　するとキンキンに冷えたエールになった。

　その夜は宿屋に泊まる事にした。トップとスカーには小さくなってもらっているので、特別に部屋に入れてもらった。

　部屋は小さなベッドとテーブルとイスがある狭い部屋だった。

　俺はショルダーバッグをベッドに置くと、ある物を取り出した。旅の服をそろえた時に買っておいたのだ。

　大きなカナダライだ。おれはこれで風呂に入る計画なのだ。

　トップと森で過ごしていた時は、川で身体を洗い流すくらいだった。俺は前の世界で暮らしていた時はシャワーではなく、断然風呂派だった。

　俺はカナダライに水魔法で水をはると、土魔法で石を作り出した。石を握りしめながら火魔法を使う。石が熱くなったらカナダライに放り込む。それを何度も繰り返すと、水が適温のお湯になった。

　俺はカナダライに身体を沈めた。肩まで浸かる事はできなかったが、手ですくって身体にお湯をかけた。

「あー、気持ちいい！」

　俺は思わず声が出てしまう。トップとスカーはお湯に浸かる俺をけげんな顔で見ている。

『エイジ、何でわざわざ熱い水に入るんだ？水の方がいいじゃないか？』
『熱い水につかるなんて正気の沙汰じゃねぇな』
「まぁ、そう言うなって。ヒト族には熱い水につかりたい奴もいるんだよ」

　風呂からあがると、風魔法で髪を乾かす。魔法って本当に便利だな。