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夕食

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 結はイブの部屋からまた別な部屋案内された。この家は一体いくつ部屋があるのだろうか。

 そこには夕食の支度がしてあった。お手伝いのヨネという老婆が給仕をしてくれる。食事はしょうが焼きとご飯とみそ汁、漬けものだった。

 純和風な家で出されるには庶民的なメニューだ。もしかするの結に合わせてくれているのかもしれない。結が桐生家に来る時、幸士郎に聞かれたのだ。食べられないもの、アレルギーはないか。

 きっと幸士郎がヨネに伝えたのかもしれない。結がしょうが焼きが好きだという事を。結は恥ずかしくなってもくもくと食事をした。ヨネの作ってくれたしょうが焼きはとても美味しかった。

 食卓には兼光、幸士郎、結が座っていたが、皆何を会話するでもなかった。結と俊作、ココとトトの賑やかな食卓とはだいぶ違った。

 夕食が終わり小休止すると、桜姫がやってきた。幸士郎は桜姫に言った。

「桜姫、結を風呂場まで案内してくれ」

 桜姫は可愛らしくコクリとうなずいた。結はココと共に風呂場に向かった。風呂場はヒノキが使われたぜいたくなものだった。

 まるで旅館みたい。結は驚きながら入浴した。身体を洗って湯に浸かると、身体のこわばりがゆっくりほぐれていくようだ。結は桐生家に来て、ずっと緊張していたのだ。

 ゆっくり温まってから風呂を出ると、ココと桜姫が待っていてくれた。二人を待たせてしまった事を申し訳なく思い、謝ると、二人はふるふると首を振った。

 待っている間、色々な話しをしたらしい。

 桜姫は結が身支度を終えると、別な場所に案内した。そこは小さな和室で、布団が用意されていた。ここで寝ろというのだろう。いたれりつくせりだ。

 結がココと布団に潜り込むと、桜姫が結の枕元に座った。結が桜姫に聞くと、結が困らないようにここにいると言うのだ。結は申し訳なくて桜姫に言った。

「桜姫、よかったら一緒に寝ない?あ、でも着物が着崩れちゃうか?」

 桜姫は驚いたように結を見上げてから、ふるふると首を振った。結は微笑んで桜姫をベッドの中に入れた。

 結は電灯を小さくして、和室の天井を見つめた。どとうのような一日だった。幸士郎という人形使いの少年に出会ったかと思うと、彼の家に連れて行かれ、泊まる事になってしまった。

 そして一番驚いたのが、イブという人形との出会いだった。結はこれまで沢山の人形と会話をしてきた。だがイブは今まで出会ったどの人形とも違っていた。

 まるでずっと前から会いたかった家族に再会したような、胸がグッと苦しくなる思いだった。

 イブともっと話しがしたい。結はそう考えながら眠りについた。
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