前世で百人殺した殺し屋の俺は地獄行きを回避するため現世で百人助けます

盛平

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トーマスとエッラ

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 エッラの父である族長は、ガンドル国人から受けた恩を返さねばならないといった。エッラとドーグは、トーノマの使者と共にガンドル人の居住地に向かった。

 エッラたちを助けてくれたのは、領主の妻と子供だったのだ。女性の名はクレール、息子はトーマスといった。トーノマの使者は、領主に織物と銀細工を贈った。領主はとても喜んでくれた。

 エッラとドーグは、クレールに手まねきされてお茶をごちそうになった。エッラたちがこれまで食べた事のない美味しいお菓子を食べさせてもらった。

 クレールは微笑んで言った。

「あなたたち、よかったらトーマスのお友達になってくれない?」

 エッラは、クレールの後ろに隠れて恥ずかしそうにしているトーマスと目が合った。エッラとドーグはトーマスと友達になった。

 それからというもの、エッラとドーグはヒマを見つけてはトーマスの所に遊びに行った。そのたびにクレールは美味しいお菓子でもてなしてくれた。エッラは次第にクレールにも懐くようになった。

 優しくて美しいクレールは、どこかエッラの母を思い出させた。だがしばらくして、クレールは病にかかり亡くなってしまった。

 エッラはとても悲しかった。だがそれ以上に、トーマスの嘆きは激しかった。トーマスは母親の死を受け入れる事ができないようだった。

 エッラも母を亡くした悲しみを知っている。エッラはどうしてもトーマスに元気になってほしかった。

 エッラの励ましのかいもあり、トーマスはようやく元気を取り戻した。その頃には、エッラとトーマスは何でも話せる親友になっていた。

 エッラはトーマスにトーノマの文化を教えて、反対にトーマスがガンドルの文化を教えてくれた。二人はますます自分たちの文化が好きになり、相手の文化を尊敬するようになった。

 ある時エッラはトーマスに言った。自分はもうすぐいとこのモンスと結婚して族長になるため勉強をするのだと。するとトーマスの顔がくもった。そして、トーマスは思いつめたように言った。

「エッラはモンスが好きなの?」
「好き?ええ、兄のように慕っているわ。でも私は族長の娘なの。好きなんて気持ちは無用だわ」
「・・・。それは変だよ。好きあってもいないのに結婚するなんて」

 トーマスの言葉にエッラは怒りがわいた。トーノマの神聖な伝統をバカにされたように感じたからだ。エッラは少し声をあらげて言った。

「あなたは族長という存在がどんな意味を持っているか知らないからそんな事を言うんだわ」
「違うよ、エッラ。トーノマの文化を否定したいわけじゃないんだ。ただ、その、エッラの夫になるのはエッラの事を一番に愛し大切にする人でなきゃいけないって事を言いたかったんだ」

 トーマスはいつになく歯ぎれの悪い言い方をした後、エッラの両手をギュッと握って叫ぶように言った。

「エッラ、僕と結婚してくれないか?!」
「えっ?」

 エッラはポカンと口を開けてしまった。それほど驚いたからだ。トーマスは親友だ。それは彼も同じ気持ちでいると確信している。トーマスは今、何と言ったのだろうか。エッラに結婚してほしいと言ったのではないか。

 エッラは突然顔が真っ赤になった。しどろもどろになりながら言い訳のような事を言った。

「そんな、急に、その。私の夫になるなら銀細工ができないとだめなのよ?」
「それは知ってる!だからドーグにこっそり教わったんだ」

 トーマスはポケットから何かを取り出し、エッラの手のひらに乗せた。エッラが顔を近づけて見ると、銀製の彫刻物だった。らんざつに彫りが入れられていて、何を作ったのかわからなかった。エッラはまじまじと見入ってから言った。

「・・・、虫?」
「違うよ!花だよ!アネモネの花!」

 エッラの顔がまた赤くなった。赤いアネモネの花言葉は、君を愛する。だったからだ。

 エッラはうわずった声で返した。

「こ、こんなんじゃダメね!もっと練習しなさいよ」

 エッラの言葉に、トーマスは目を大きく見開いて言った。

「じゃ、じゃあプロポーズを受けてくれるんだね!ありがとう、エッラ!」

 トーマスは感極まったというように、エッラを強く抱きしめた。エッラはそこで初めて気づいたのだ。トーマスを愛しているという事に。

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