前世で百人殺した殺し屋の俺は地獄行きを回避するため現世で百人助けます

盛平

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悲劇

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 カイルが、いなくなったトーマスを探そうとやきもきしていると、レッドアイが叫んだ。

『カイル、ニンゲンノサワグコエガキコエル!』

 レッドアイはそう言うと、もう然と走り出した。カイルとサイラスもそれに続く。レッドアイは屋敷の裏手に走って行った。広い屋敷の周りをぐるりと走ると、はたしてそこにはトーマスとモンス、さらに二人のトーノマ族がいた。

 モンスと二人のトーノマ族は剣を抜き、話し合いをする気はなさそうだった。このままではトーマスが殺されてしまう。カイルが歯を食いしばりながら走っていると、信じられない光景を目にした。

 モンスがトーマスの腹に剣を刺そうとした時、間に誰かがわって入ったのだ。小柄な、長い髪の人物。

 直後、トーマスの叫び声が聞こえた。

「エッラ!」

 トーマスとモンスの間に入った人物は、彼らの愛する女性、エッラだったのだ。

 カイルは彼らに駆け寄ると、ぼう然とエッラを見下ろした。彼女はあおむけに倒れ、腹には剣が深々と刺さっていた。彼女の艶やかな黒髪は、緑の芝生に広がって、いっそ美しいとさえ思た。

「エッラ!ああ、どうして君が、僕が死ねば良かったのに」

 やはりトーマスは自身の死を持って、この騒動を収めようとしていたのだ。エッラは黒い大きな瞳で必死にトーマスを見つめ、何かを伝えようとしていた。

 エッラの口がかすかに動いた。もう、音にはならないその言葉は一言、生きて。だった。

 トーマスは慟哭した。剣をつかんだモンスは、自分のした事が信じられないようで、ブルブルと身体を震わせていた。

 カイルはこの光景を、まるで悪夢のように見つめていた。

「師匠!」

 突然のサイラスの言葉にカイルはハッと我にかえった。サイラスはカイルをにらんで言った。

「師匠!治癒魔法でエッラを治す。絶対死なせねぇ!」

 サイラスはブルブル震えてその場に立ちつくしているモンスを払いのけて、エッラの腹に刺さった剣の柄を握った。カイルは叫んだ。

「待て!サイラス。むやみに剣を抜くな!」

 カイルは必死で考えた。エッラの剣を抜けば大量に出血をする。治癒魔法ですぐさま傷口をふさがなければいけない。だがエッラの傷口は内臓にも達している。外側の傷口をふさいでも、体内の傷も修復させなけらばエッラは助からない。

 カイルは前世で、幼い頃から学んだ人体解剖図を必死に思い出していた。エッラは左腹に剣を受けている。おそらく腸、腎臓、膵臓も傷ついているかもしれない。これは一か八かの賭けになるだろう。

 カイルは覚悟を決めてサイラスに言った。

「サイラス。お前は剣をゆっくり引き抜いたら、ありったけの治癒魔法で表の傷口をふさげ。俺は内臓を治癒させる」

 サイラスは黙ってうなずいた。サイラスの顔からも緊張がうかがえる。サイラスは剣の柄をゆっくりと持ち上げた。エッラの腹から血が勢いよくふき出す。

 カイルはありったけの魔力を注ぎ込んで、エッラの腹の中に治癒魔法を発動させた。エッラがの身体が輝き出す。

 カイルはひたすら治癒魔法を使い続けた。サイラスが剣を抜き終わると、すぐさま表の傷口を治癒魔法でふさぎにかかった。

 どのくらいの時間が経っただろうか。おそらく五分も経っていなかったのだろうが、まるで数時間も経過したように感じられた。

 カイルはようやく息を吐いた。正面のサイラスを見ると、顔が汗だくだった。カイルはエッラの腹に手をそえた。何とか命は取りとめたようだ。

 その事をトーマスに告げると、トーマスはエッラの手を握って泣き崩れた。モンスもぼう然としゃがみこんでいた。
 
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