前世で百人殺した殺し屋の俺は地獄行きを回避するため現世で百人助けます

隠ぺい工作

「おい、師匠。ぼぉっとしてんなよ」

　カイルはサイラスの声でハッとした。ぼんやりしている場合ではない、これからジェラルドの死亡の隠ぺいをしなければいけないのだ。

　カイルは肉屋で買ってきたブタ肉のかたまりと、骨を荷物から取り出した。カイルはブタ肉と骨に手をそえると魔法を発動した。

　ブタ肉のかたまりは人の形になった。カイルはその人形をジェラルドの座っていたイスに座らせてから、強力な火魔法を使った。炎は千度を超え、青白く燃え上がった。人形を取った肉のかたまりは、真っ黒に燃えた。

　しばらくすると、ジェラルドの書斎のドアが勢いよく開き、一人の男が乱入してきた。カイルにはそれが誰かすぐにわかった。ジェラルドの部下サイモンだ。

　サイモンは、ボスの部屋にカイルたちがいたので驚きの声をあげた。

「カイル！お前、生きてたのか？！」
「いいや。生まれ変わったんだ」
「・・・、そうか。ボスはどこだ？」
「死んだ」
「な、何だと？！カイル、お前が殺したのか？！」
「いいや、ボスは自ら命を絶った」
「な、何だと！じゃあ次のブラックスコーピオンのボスはお前なのか？！」
「ブラックスコーピオンのボスの座なんて興味ない」
「じゃあ、俺が次のボスだ！」
「そうしたければ、そうしろ」

　サイモンは喜びの雄叫びをあげた。カイルはそんなサイモンを冷めた目で見ながら言った。

「ボス、お前に会いたい奴がいるぞ？」

　サイモンは不思議そうにカイルを見た。カイルはレベッカに目で合図をおくる。レベッカは憎しみのこもった目でサイモンをにらみ、剣を抜いた。サイモンは、突然女が剣を抜いた事に驚いたようだ。カイルが説明してやる。

「この女は、お前が殺した相手の娘だ。仇討ちをしたいんだそうだ」

　サイモンはレベッカが女だとみくびっているようで、うすら笑いを浮かべて言った。

「ふん、いいだろう。ブラックスコーピオンのボスになった祝いだ。特別に殺してやる」

　サイモンは腰の剣を抜いた。レベッカはもう然とサイモンに斬りかかった。レベッカの一太刀をサイモンが剣で受けて押し返した。レベッカは体勢を瞬時に立て直し、何度も斬りかかった。サイモンはレベッカの剣を受けながら、だんだんと押され気味になった。

　サイモンはハッとした顔になった。ようやく自分の失敗に気づいたようだ。サイモンの持つ剣は長く、室内ではふるいにくいのだ。反対に、レベッカには短い剣を持たせているので、難なく動く事ができるのだ。

　サイモンは舌打ちをして、手をレベッカにかざした。どうやら攻撃魔法を使うつもりのようだ。カイルはすかさず、ある物を投げた。それは首輪型の魔法具だ。この魔法具をつけられると、つけられた相手は魔法が使えなくなる。

　サイモンは自分の首に巻きついたものが、魔法を無効化させる魔法具だと気づき、カイルをにらみつけて怒り狂った。

「カイル！貴様、何をする！」
「レベッカは剣士だ。ならば正々堂々と剣で勝負しろ」

　サイモンはううむ、とうなった。