上 下
53 / 64

ホセ

しおりを挟む
 ホセは空間魔法の魔法具を駆使して、逃し屋を営んでいる。経営は上々、生活できるくらいには稼げている。今回は常連のサイラスからの依頼だった。

 サイラスは殺し屋であるのにもかかわらず、殺しはしないという殺し屋で、狙った標的を脅して、ホセに逃すよう頼むのだ。

 ホセがサイラスに呼ばれて行ってみると、そこには昔のボスがいた。ブラックスコーピオン。その名を聞けば同業者たちが一目置く暗殺者集団のボスが今回の客だった。

 ホセは一瞬たじろいだが、これは仕事だと割り切った。ブラックスコーピオンのボスはずいぶんと老け込んでしまい、ホセがブラックスコーピオンにいた頃のボスとはだいぶ様子が違っていた。

 もう一人の依頼人であるカイルは、自身の養父の今後の生活のためにと、沢山の宝石を渡した。この宝石は、カイルが土魔法で作ったものだ。カイルはそれとは別に、ホセの依頼料として宝石をたんまり渡してくれた。

 ホセはレッドスコーピオンの元ボス、ジェラルドを、外国の養老院に連れて行った。この養老院は教会が経営していて、シスターたちが行き場のない老人たちをあたたかく迎え入れてくれる。

 ホセが養老院の院長に宝石を寄付すると、神の導きだといって、ジェラルドを受け入れてくれた。これでジェラルドはゆっくりと余生を過ごすだろう。

 これが沢山の人間を殺した殺し屋の最後だと聞けば、怒る人間もいるだろう。だが、養子のカイルがそう望むのだから、その通りにしてやりたかった。

 ホセは、庭のカウチに座りぼんやりとしているジェラルドを見つめていた。ジェラルドは恐ろしい人間だった。自分以外も者は誰も信用せず、自分の邪魔になる人間は容赦なく殺した。だが、ジェラルドは養子のカイルだけには愛情を持っていたのだ。

 ホセには意外だった。ホセから見たジェラルドとカイルは利害関係だけで結ばれている義理親子だと思っていたからだ。ジェラルドは絶えずカイルを脅し、押さえつけてきた。カイルはジェラルドを恐れ従っていた。だが義理親子の最後には、確かにある種の愛情があった。ホセは不思議な気持ちなった。

 
しおりを挟む

処理中です...