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エラルドの思い2
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あの少女の魔法は治癒か何かなのだろうか。何にせよ少女の落ち着き具合からみて、男の命は助かるかもしれない。
そう考えがまとまると、エラルドは深いため息をついた。自分に人を傷つける仕事は向かないのだ。
父ゆずりの剣術と《ファイヤーソード》の魔法で、人よりか少し強いかもしれない。だが人を傷つける覚悟はいまだ固まってはいなかった。
エラルドが物思いにふけりながら走っていると、何かの気配を感じた。強いケモノの気配。エラルドは木の陰に身を隠し、気配を消した。
そこには先ほどの少女がいた。驚いた事にエラルドの足についてきたのだ。エラルドは内心のあせりを感じ取らせないように、つっけんどんに話した。
少女の名前はパティといった。パティの魔法は鳥、犬、猫、亀と友達になるというもので、動物たちはすべての自然界のエレメントを使いこなす事ができた。
パティは大いなる力を持つ者だった。パティは己れの力に溺れず、心優しい信念を持った少女だった。
エラルドはパティにこわれるままに、自身の身の上を話してしまった。パティは妹のロレーナに会いたいと言った。
パティに会ったロレーナは、とても嬉しそうだった。ロレーナは小さい頃から身体が弱くて歳の近い友達とかけまわって遊ぶ事などできなかった。
パティとロレーナは歳も近いだろう。これを機会にロレーナと友達になってくれないだろうか。パティは四つのエレメントすべてを操る事ができる。もしかしたらロレーナの病気を治してくれるかもしれない。
エラルドはいつになく浮き立つ気持ちで料理を作っていた。ふとロレーナの部屋のドアが開く音がした。パティが出てきたのだろう。
もう帰るのだろうか。夕食を一緒に食べていってくれないだろうか。エラルドの料理では美味しくもないだろうが、パティがいてくれれば、食の細いロレーナも食欲が増すのではないだろうか。
「パティ。もしよければ夕食を一緒に、」
エラルドが振り向くと、そこにはロレーナが立っていた。このところ一人で立つ事もままならなかった妹が。
「ロ、ロレーナ?お前、歩けるのか?」
「・・・。お兄ちゃん、私、病気治った」
ロレーナの後ろから、パティがニコニコ笑いながらやってきた。パティの足元には子犬と子猫がまとわりついている。
エラルドはうわずった声でパティに言った。
「パティが、治してくれたのか?」
「いいえ。病気を治したのはロレーナの《ガーディアン》の魔法よ。ロレーナの魔法の発動条件は、自身の愛する者をあらゆる厄災から守るというもの」
エラルドはすべてを理解した。ロレーナが自身を愛していれば、彼女は魔法を授かった十歳の時に病が完治しているはずであった。
だがロレーナは魔法を授かったにもかかわらず病弱なままだった。ロレーナは自身を愛していなかったのだ。
その事に思いいたると、エラルドはやるせない気持ちになった。ロレーナが自身を愛せなかったのは、すべてエラルドのいたらなさからくるものだ。
ロレーナの病気を治そうとやっきになって、ロレーナの気持ちに気づけなかった。エラルドは妹の病が治った喜びと、己れのふがいなさから立ちつくしていた。
そう考えがまとまると、エラルドは深いため息をついた。自分に人を傷つける仕事は向かないのだ。
父ゆずりの剣術と《ファイヤーソード》の魔法で、人よりか少し強いかもしれない。だが人を傷つける覚悟はいまだ固まってはいなかった。
エラルドが物思いにふけりながら走っていると、何かの気配を感じた。強いケモノの気配。エラルドは木の陰に身を隠し、気配を消した。
そこには先ほどの少女がいた。驚いた事にエラルドの足についてきたのだ。エラルドは内心のあせりを感じ取らせないように、つっけんどんに話した。
少女の名前はパティといった。パティの魔法は鳥、犬、猫、亀と友達になるというもので、動物たちはすべての自然界のエレメントを使いこなす事ができた。
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エラルドはパティにこわれるままに、自身の身の上を話してしまった。パティは妹のロレーナに会いたいと言った。
パティに会ったロレーナは、とても嬉しそうだった。ロレーナは小さい頃から身体が弱くて歳の近い友達とかけまわって遊ぶ事などできなかった。
パティとロレーナは歳も近いだろう。これを機会にロレーナと友達になってくれないだろうか。パティは四つのエレメントすべてを操る事ができる。もしかしたらロレーナの病気を治してくれるかもしれない。
エラルドはいつになく浮き立つ気持ちで料理を作っていた。ふとロレーナの部屋のドアが開く音がした。パティが出てきたのだろう。
もう帰るのだろうか。夕食を一緒に食べていってくれないだろうか。エラルドの料理では美味しくもないだろうが、パティがいてくれれば、食の細いロレーナも食欲が増すのではないだろうか。
「パティ。もしよければ夕食を一緒に、」
エラルドが振り向くと、そこにはロレーナが立っていた。このところ一人で立つ事もままならなかった妹が。
「ロ、ロレーナ?お前、歩けるのか?」
「・・・。お兄ちゃん、私、病気治った」
ロレーナの後ろから、パティがニコニコ笑いながらやってきた。パティの足元には子犬と子猫がまとわりついている。
エラルドはうわずった声でパティに言った。
「パティが、治してくれたのか?」
「いいえ。病気を治したのはロレーナの《ガーディアン》の魔法よ。ロレーナの魔法の発動条件は、自身の愛する者をあらゆる厄災から守るというもの」
エラルドはすべてを理解した。ロレーナが自身を愛していれば、彼女は魔法を授かった十歳の時に病が完治しているはずであった。
だがロレーナは魔法を授かったにもかかわらず病弱なままだった。ロレーナは自身を愛していなかったのだ。
その事に思いいたると、エラルドはやるせない気持ちになった。ロレーナが自身を愛せなかったのは、すべてエラルドのいたらなさからくるものだ。
ロレーナの病気を治そうとやっきになって、ロレーナの気持ちに気づけなかった。エラルドは妹の病が治った喜びと、己れのふがいなさから立ちつくしていた。
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