見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

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見習い動物看護師村娘に転生する

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 飯野あかりは希望にもえていた。長年の夢だった動物看護師になり、採用になった動物病院に初出勤するのだ。あかりは小さな頃から動物が大好きで、将来は動物の役に立てる仕事がしたいと願っていた。

 高校に入り、動物看護師という職業を知った。動物看護師とは、獣医師の手伝いから、接客、動物の世話までする仕事だ。あかりは高校を卒業後、専門学校に入って動物看護師の民間資格を取得した。現在は国家資格ではないが、今後国家資格になっていく動きもある。あかりは、動物病院で働きながら国家資格を目指そうと考えていた。

 あかりが意気揚々と歩道を歩いていると、周りの人々が、ざわつき始めた。気になったあかりは周りを見渡した。すると車道に一匹の猫がトコトコ歩いていた。毛並みのいい美しい白猫だ。あかりは短くキャッと悲鳴をあげた。その猫は外猫ではなく、室内飼いなのだろうか、車を怖がる様子もなく、ゆっくりとした足取りで大きな車道を歩いている。

 白猫めがけて自動車が突っ込んできた。白猫は巨大な物体が自分に向かって来ている事に気がつき、完全に動きを止めてしまった。恐怖で身体が動かないのだろう。あかりは無意識のうちに身体が動いていた。

 車道と歩道をへだてるガードパイプを飛び越えて、車道におどり出ると、固まって動かない白猫を抱き上げ、ポーンと歩道まで投げた。さすが猫だけあって、白猫は無事に着地した。あかりはホッと安堵のため息をついた。キキッー。耳につんざくような車のブレーキ音。それきりあかりの意識はなくなった。



 次にあかりが目を覚ますと、見たこともない場所にいた。あかりはまるで空に浮かんでいるようだった。一面青一色で、所々ふわふわの雲のようなものが浮かんでいるのだ。あかりは驚きすぎてキョロキョロと辺りを見回した。すると突然声がした。よく通る綺麗な声だった。

「飯野あかりさん」

 あかりが声のした方に振り向くと、そこには美しい女性がいた。亜麻色の髪は腰まで長く、肌は雪のように白かった。瞳はアメジストのような紫色だった。あかりが女性の美しさに驚いていると、女性は再び話し出した。

「私は転生の女神です。飯野あかりさん、貴女は猫を助けて交通事故で死んでしまいました」

 あかりはヒュッと息を飲んだ。やはりあかりは死んでしまったのだ。あかりはブルブルと身体が震えた。これからだったのに。夢に向かって、やっと第一歩を踏み出したのに。転生の女神は、ショックを受けているあかりを痛ましそうに見つめてから声をかけた。

「貴女はとても善良な人でした。ご両親もお姉さんも貴女が亡くなってとても悲しんでいます」

 あかりの脳裏に、両親と姉の姿が浮かぶ。もう大好きな家族には二度と会えないのだ。知らずあかりは涙をポロポロと流した。そしてある事に気がついた。あかりが助けた白猫は一体どうしたのだろうか。あかりは転生の女神に白猫の安否を質問した。転生の女神は少し驚いたような顔をしてから答えてくれた。

「貴女の助けた白猫は無事ですよ。室内飼いの猫だったから、車の怖さがわからなかったのね。探しに来た飼い主にも会えたわ。飼い主は助けてくれた貴女が亡くなって、白猫を逃してしまった事をひどく後悔していたわ。だけどこの飼い主は、これからも白猫を大切にするはずよ」
「良かったぁ」
「あかりさん、貴女は白猫とその飼い主が憎くはないのですか?飼い主が白猫を逃がさなければ貴女は死ななくてすんだんですよ?」

 転生の女神の問いに、あかりはあっけらかんと答えた。

「いいえ、白猫が助かって、飼い主と会えて本当に良かったです。私の死は無駄じゃなかったんだわ」

 涙を流しながら微笑むあかりを見て、女神は一言、究極のお人好し。と呟いた。だがとても小さな声だったので、あかりには聞こえなかった。転生の女神はあかりに諭すように話し出した。

「あかりさん、貴女は自身の命を犠牲して他を助けた心の綺麗な人です。そのため貴女は別の世界に転生されます。次の世界ではどんな暮らしがしたいですか?」

 女神の問いに、あかりは少し考えてから口を開いた。

「私は動物が好きなので動物に関わる仕事がしたかったんです」
「そうですか、貴女がこれから転生する世界にはテイマーという仕事があります。動物を使役して働く仕事です。その職業を目指すのもよいかもしれませんね。では貴女にテイマーになるために役立つ能力を授けましょう。次の世界でもがんばってくださいね」

 転生の女神が言葉を言い終わると、あかりの意識は無くなった。



 あかりが次に意識を取り戻したのは、異世界で生を受けて、十歳になった時の事だった。あかりは山深い小さな村の村娘に転生していた。その村はとても貧しく、わずかな畑で作物を育てながら暮らしていた。

 あかりがなりたいと思っていたテイマーという職業にはとてもなれる現状ではなかった。あかりは両親と共に朝から晩まで畑の仕事をこなし、幼い弟の面倒を見る毎日だった。だがあかりには、転生の女神から授かった一つの能力があった。あかりは、動物とお話ができる能力を持っていた。

 この能力で、あかりは鳥たちからお天気の情報を聞いたり、家で働いてくれているロバと友達になる事ができた。華やかな暮らしではなかったが、あかりは真面目で優しい両親と、可愛い弟と共に暮らす事に幸せを感じていた。前世の記憶が蘇り、前世での家族との事を思い出すと、郷愁の念にかられるが、それもいい思い出になるだろうと考えていた。

「メリッサ、どこにいるの?」

 この世界での母親があかりを呼ぶ。あかりのこの世界での名前はメリッサといった。あかりは元気よく返事をした。

「お母さん、今行くわ!」

 あかりは、娘を探そうとキョロキョロしている母の腰に抱きついた。母はあかりを優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。前世の記憶を取り戻したあかりの精神年齢は二十歳だったので、母親に甘えるのは何とも面映ゆかったが、嬉しい事でもあった。母親に夕食のためのたき木を取ってきてくれと頼まれた。あかりは元気よく返事をした。

 あかりは背中にカゴを背負って、森に行った。手慣れた様子で枯れ木を拾っていく。あかりは小さい頃からこの森に来ているので迷う事はなかった。あかりが熱心に枯れ木を拾っていると、小さな声がした。声は助けて、と呟いていた。あかりは慌てて声のする方向に走った。

 そこには一頭の獣がワナにかかっていた。きっと猟師がワナを仕掛けたのだろう。可哀想に獣は後ろ脚をトラバサミに挟まれて動けなくなっていた。あかりは獣を怖がらせないように注意深く近づいて、声をかけた。

「大丈夫よ、私は敵じゃないわ。あなたを助けたいの」
『人間、人間嫌いだ、近寄るな』

 獣はあかりをいかくした。あかりはトラバサミに木を挟み入れて、テコの原理で獣の後ろ脚を引き抜いた。獣は驚いたのかあかりの左腕に勢いよく噛み付いた。あかりは噛み付かれた事をものともせず、自身が身につけていたエプロンをほどいて、弱っている獣をくるんだ。あかりはカゴを背負って、獣を抱きしめると一目散に家に戻った。

 家で待っていた母親は、娘が左腕に大ケガをおって帰ってきた事に驚いた。母は早く娘のケガを治療しようとしたが、娘は真剣な目で母にうったえた。この子の治療が先、と。母は血まみれになったエプロンの中を見た。中には苦しそうにしている獣がいた。母はため息をついて獣を家の中に入れる事を許可した。

 娘のメリッサは変わった子供だった。とても優しい子供で、動物が大好きだった。まるで動物の言葉がわかるとでもいうように、たえず動物に話かけていた。ある時村に行商の男がやってきた。その行商は一頭のロバを連れていた。だがそのロバは、病気でもしているのか、ひどく弱っていた。メリッサはそのロバを一目見ると、あのロバが欲しいと言い出した。父も母も、今にも死にそうなロバなんて買いたくなかった、家はとても貧しかったからだ。だが娘の熱意に負けて、その瀕死のロバを買った。

 メリッサはその日からロバにつきっきりで、寝ずの看病をした。そして見事ロバを介抱したのだ。ロバはメリッサによく懐き、そして家の仕事に大いに役立ってくれたのだ。ロバは小さいが力持ちなので、重たい荷物もよく運んでくれる。今では、そのロバは家になくてはならない存在だ。母はぼやいた、また家に動物が増えるかもしれないと。

 あかりは怪我をした獣の状態をつぶさに確認した。獣は左後ろ脚をケガしていて、出血していた。だが幸いな事に、骨まで傷ついてはいないようだ。それよりも、長い間ワナにかかっていたようで、衰弱の方がひどかった。

 あかりは、獣の傷口を沸騰させて冷ました清潔な水で洗い、血と汚れを落とした。そして自身の肌着をさいて作った包帯を巻いた。あかりは母に頼んで砂糖をもらった。この村では砂糖は貴重なものだ。あかりは砂糖を水で薄め、獣の口の周りに塗りつけた。獣は無意識に口の周りを舐めた。あかりはホッとした。この衰弱した獣には速やかに水分と栄養が必要だった。砂糖水は点滴の代わりになるのだ。

 あかりは辛抱強く獣の口の周りに、砂糖水をつけ続けた。次の日になると、獣は自分で砂糖水を飲めるようになった。あかりは改めてこの獣を見た。この獣はとても不思議な生き物だった。見た目は虎の子供のようだ。だがこの森に虎なんていない。それに、この虎のような生き物の背中には鳥の翼のようなものが生えていた。

 数日して不思議な獣は、食欲も出てきた。あかりは母に頼んで、野菜と干した魚を入れたスープを作ってもらった。虎は肉食だが、この村では肉は貴重で、おいそれと手には入らない。だが肉食の動物は、草食動物を捕食する事により、草食動物の内臓にある草も共に食べているので、結果的に野菜を食べているのだ。野菜スープを食べられるようになってから、獣はポツポツとあかりと話をするようになった。

『助けてくれて、ありがとう。ごめんな、お前の腕噛んで』

 獣のしおらしい姿に、あかりは微笑んで答えた。

「大丈夫よ、こんなケガ大した事ないわ。ねぇ、あなたは変わった動物ね?何て動物なの?」
『俺と話ができるお前も変わってるよ。俺はな、自然界に生まれた霊獣なんだぞ!すごいんだぞ!』
「霊獣?霊獣って何?」
『何って言われても、俺は俺だよ。なぁお前いい人間だから、お前と契約してやる。俺はティグリス、お前の名前は?』
「私?私の名前はメリッサよ。よろしくティグリス」
『よし、メリッサ。俺の真の名において契約する』

 するとティグリスが言葉を発した後、あかりとティグリスを強い光が包んだ。あかりは驚いて周りを見回す。だがその光はすぐに消えた。

『メリッサ、何か困った事があれば俺を呼べよ。すぐに駆けつけてやるからな』
「ありがとう、ティグリス」

 あかりに霊獣の友達ができた。
 



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