見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

文字の大きさ
3 / 118

竜王スノードラゴン

しおりを挟む
 スノードラゴンは気高く美しいドラゴンだった。全身銀色のウロコにおおわれて、日の光に照らされると、キラキラと輝くのだ。スノードラゴンはよわい数百年も生きている。したがって強大な魔力を有しているのだ。スノードラゴンに敵など存在しなかった、彼はこの世の王なのだ。

 だがそんなスノードラゴンをもおびやかす存在が現れた。人間という種族だ。人間は力が弱いくせに、驚くべき速さで繁殖し、ドラゴンたちが暮らす森を切り拓いていった。そして神をも恐れぬ所業、ドラゴンを使役しようと試みる人間も現れたのだ。人間とは何と傲慢な生き物なのだろうか、神にもひとしいドラゴンを使役して道具として使おうなどと、あってはならない事だ。

 だがスノードラゴンは人間を恐れる事など無かった。スノードラゴンの強大な魔力を持ってすれば、だ弱な人間など一瞬にして凍らせてしまえるからだ。そこにスノードラゴンの空きがあった。人間は姑息にも魔法具を使ってスノードラゴンを捕らえようとしたのだ。その魔法具は槍のような形をして、強い魔力を持つものに引き寄せられる魔法がほどこされていたのだ。従ってこの槍は、強大な魔力を持つスノードラゴンをどこまでも追ってきた。

 長い距離を飛んで、疲労したスノードラゴンの後脚に突き刺さった。スノードラゴンは痛みのあまり森の中に落下した。しかもいまいましい事に、この槍には毒が塗ってあった。スノードラゴンを痺れされる毒が。早くこの槍を抜いて、解毒の回復魔法を使わなければ、じきにスノードラゴンを探しにきた人間に見つけられれば、無理矢理人間と契約を結ばされてしまう。

 真の名の契約は絶対だ。もし人間と契約したならスノードラゴンは、その人間が死ぬまで使役しなければいけないのだ。神にひとしいこのスノードラゴンが人間のような下等な生物に使役されるなどあってはならない事だ。スノードラゴンは前脚で不器用にいまいましい槍を抜こうとするが、血で滑って上手くいかない。

 焦っている所に、突然ガサリと誰かが森から現れた。人間だ。スノードラゴンはにわかに怒りが湧いた。自分をこのような目にあわせた人間ならば、一瞬のうちに氷の棺に閉じ込めてやろう。スノードラゴンは唸り声をあげて人間をいかくした。人間はスノードラゴンに驚いた様子だったが、自分を怖がってはいないようだった。

「あなたケガをしているのね?私は敵じゃないわ信じて?」

 人間は年若い娘だった。スノードラゴンを真剣な瞳で見つめていた。スノードラゴンは咆哮と共に娘をおどかそうとした。

『人間が!よくもわしにこのような仕打ちをしてくれたな!このいまいましい槍を抜き取り、毒を浄化したあかつきには貴様を氷漬けにしてやるぞ!』
「毒?その槍には毒が塗ってあったの?!少し待ってて」

 娘はスノードラゴンの咆哮など意にかいさず、踵を返して森の中に入っていった。スノードラゴンは驚いた、聞き間違いでなければ、先ほどの人間の娘は自分と会話をしていた。しばらくすると、ぼう然としているスノードラゴンの元に娘が戻って来た。娘は枯れ木の入ったカゴを背負って、手には並々と水が入った木の桶を持っていた。

 娘はスノードラゴンの側で、テキパキと焚き火をしだした。枯れ木を積み上げ、綿と火打ち石であっと言う間に火をつけてしまった。そして腰にさしていたナイフを火であぶり出した。しっかりとナイフを熱すると、清潔な布の上に置いた。そして真剣な表情でスノードラゴンに語りかけた。

「痛いだろうけど我慢して?」

 娘はおもむろに、スノードラゴンの後脚に深く突き刺さった槍を勢いよく引き抜いた。傷口からはドロリと毒をふくんだ血があふれた。娘は熱したナイフを傷口に突き刺した。あまりの痛みにスノードラゴンはギャァと叫んだ。だが娘は、暴れるスノードラゴンの脚をしっかりと押さえた。そしてナイフを突き刺した傷口をギュウギュウと押した。後から後から血があふれ出てくる。

 そして娘は水桶からひしゃくで水を汲み、傷口にかけた。どうやら娘は毒を身体の外に出そうとしているようだ。娘は何度もナイフで傷口を刺し、毒を押し出した。だんだんと血の量か減ってくると、あろう事か娘は傷口に口をつけて、自ら吸い出そうとしたのだ。これにはスノードラゴンも驚いた。この毒がどのようなものなのかはわからないが、巨大なスノードラゴンを痺れされるほどの強い毒だ。小さな身体の人間の娘が毒を飲んだらただでは済まないだろう。

 娘は吸い出した血を吐き出してから、ひしゃくの水を口に含み吐き出した。そして再び傷口に口をつけた。その動作を何度も行なっていた娘に変化が起きた、娘はフラフラしだしてからバタリとその場に倒れてしまったのだ。慌ててスノードラゴンは娘に聞いた。

『何故だ、人間の娘。何故わしを助けようとする?』

人間の娘は弱々しげに微笑んでスノードラゴンに言った。

「誰かを助けたいと思う気持ちに理由なんていらないわ」

 スノードラゴンはこの時、雷にうたれたような衝撃を受けた。いやしみさげすんでいた人間にもこのような者がいたのか。スノードラゴンは己のりょうけんのせまさに恥じ入った。スノードラゴンの身体の痺れが次第に消えていく。娘の処置は正しかったのだ。スノードラゴンは穏やかな声で人間の娘に問いかけた。

『娘、お主の名は?』
「・・・メリッサ」
『メリッサ、我が名はグラキエース』
「・・・グラキエース」
『真の名において契約する。メリッサ、わしがお主を守ってやる』

 スノードラゴンと娘、メリッサの周りを光が包む。人間との契約は案外呆気ないものだったのでスノードラゴンは少々拍子抜けした。だがすぐに気を取り直した。早くメリッサの解毒をしなければ。スノードラゴンは自らの氷魔法で、メリッサの体内に入った毒を浄化した。そしてメリッサを魔法で、優しく空中に持ち上げると、自身の前脚で抱き込んだ。メリッサが目を覚ますまで。



 この日あかりは母親に頼まれて、キノコや山菜を採りに森に入った。あかりは森が好きだ。木々をゆらす風、しめった土と木の香り、心が落ち着く。しかし今日の森は何か変だった。小鳥や小動物たちは、口々に危険だと叫んで逃げていく。いつもはあかりが小鳥に話しかけると、沢山おしゃべりをしてくれるのに、今日に限っては何も話してはくれなかった。あかりは直感した、この先に何かがいる。

 あかりが林を抜けると、そこには巨大なドラゴンがいた。あかりは驚きはしたが、ドラゴンの美しさにも息を飲んだ。そのドラゴンは全身銀色のウロコにおおわれて、木漏れ日が当たるとキラキラ輝いていたのだ。

 見ほれていたあかりは、そのドラゴンがケガしている事に気づいた。可哀想に、ドラゴンの後脚には深々と槍が刺さっていた。ドラゴンはあかりをいかくした。そして人間に強い恨みを持っているようだった。霊獣である友達のティグリスもそうだった。人間をひどく嫌悪していた。あかりが何故かと聞くと、霊獣は、その強大な魔力を保有するため、人間に捕らえられるのだそうだ。そして人間と結びたくもない契約をさせられ、その人間が死ぬまで働かされるというのだ。

 その話を聞いて、あかりは憤り、そして悲しくなった。この世界には可哀想な霊獣が沢山存在するのだ。そして目の前にいるドラゴンも、人間に捕らえられようとしているのだ。あかりはただちに行動を開始した。このドラゴンを助けるために。あかりは熱したナイフをドラゴンの傷口に刺し、毒を出そうとした。傷口に手をおいて毒を絞りだした。あかりはちくいちドラゴンの状態を確認した。ドラゴンは未だ苦しそうだった。

 あかりは決心した。自分で毒を吸い出すと。自分の口で毒を吸い出す事は、あかり自身も毒を飲んでしまう危険があるが、仕方がない。あかりは傷口に口をつけて吸い上げた。吸い出した毒はただちに吐き出す。そして水で口の中をすすぐ、やらないよりはマシだろう。

 あかりは毒の吸い出しを何度かして、自身の身体の変化に気づいた。全身がビリビリ痺れだし、身体を動かす事ができなくなってしまった。ドラゴンがあかりに何か語りかけた。あかりはうわごとのように答えた。すると、あかりとドラゴンを光が包んだ。あかりはそれきり意識を失った。

 あかりが意識を取り戻すとドラゴンの腕の中だった。ドラゴンは元気そうだ。あかりは嬉しくなって、ドラゴンの首に抱きついた。

「良かった、ドラゴンさん元気になったのね?」

 ドラゴンは笑いながらあかりに言った。

『メリッサ、お主は本当にお人好しだのぉ。もう少しで死ぬ所だったのだぞ?』
「ドラゴンさんが助けてくれたの?ありがとう」

 ドラゴンはフゥッとため息をついた。そして穏やかに言った。

『メリッサ、わしの事はグラキエースと呼ぶのだ。すでにお主と契約したからの』

 グラキエースの言葉にあかりの顔がくもった。

「だめよグラキエース、貴方は人間との契約が嫌だったんでしょ?貴方の自由がなくなってしまうわ」

 グラキエースは微笑んで答えた。

『メリッサ、お主はわしの嫌がる事を命令するか?』
「いいえ、そんな事しないわ」
『ならばよかろう。メリッサ、困った事があったらわしを呼ぶのだぞ?』

 メリッサにドラゴンの友達ができた。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...