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盛平

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霊獣セレーナ

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 あかりはどうしても霊獣の捕獲を依頼した依頼人に会って話がしたかった。あかりの熱意に負けて、アスランはその依頼を受ける形で、依頼人と会う段取りを取ってくれた。

 依頼人は大金持ちの貴族だった。依頼人は、あかりたちを自室の書斎に通した。アポロンは外で待機し、子虎の霊獣ティグリスと、小さくなったスノードラゴンのグラキエースはあかりについて来た。依頼人の貴族はティグリスとグラキエースを見ると、目の色を変えた。

「おい、お前それは霊獣じゃないか、しかもドラゴンもいるじゃないか。いくらだ、金は払ってやるぞ、そいつらをよこせ」

 あかりは頭に血がのぼるのがわかった。身体がブルブル震えた。あかりは震える声で言った。

「よこせですって!ティグリスとグラキエースを?この子たちは私の大切なお友達よ!お友達を渡すなんてできるわけないじゃない!」

 あかりの剣幕に焦った依頼人の貴族は霊獣の名前を呼んだ。セレーナ、と。すると依頼人の前に一頭のヒョウが現れたそのヒョウは背中に翼がある美しい霊獣だった。

「セレーナ、わしを守るのじゃ!」
『かしこまりました、ご主人さま』

 あかりはセレーナの美しさに、こんな場合なのに、ため息が出てしまった。あかりは、依頼人とでは話にならないので、セレーナに話しかけた。

「ねぇセレーナ、あなたはこの人間と契約しているのが嫌じゃないの?」

 セレーナは少しためらった後、答えた。

『ええ、こんな人間につかえたくはないわ。でも私の養い子を守るために仕方なかったのよ』

 養い子って?あかりが疑問に思うと、ティグリスが言いづらそうにしながらコソリと教えてくれた。

『メリッサ、霊獣の子供はな生まれたばかりの頃とても弱い存在なんだ。だから霊獣の子供が生まれると、大人の霊獣が守護者となって世話をするんだ。おそらくセレーナは、養い子をたてに取られてやむなく捕まったんだろう』

 ひどい。霊獣に対する人間のあまりの所業に、あかりは怒りを抑える事ができなかった。セレーナという霊獣は、とても優しいのだろう。あかりたちに無暗に攻撃する事はなかった。それを不満に思った貴族は、あろう事かセレーナをけり飛ばしたのだ。

「このグズ、早くこの不敬な奴らを攻撃せんか!」

 セレーナは床に強く打ち付けられた。あかりは自分の頭が燃えたような感覚におちいった。激しい怒りの感情だ。あかりは怒りのままに貴族の元に駆けよろうとした。それをアスランが止める。アスランは貴族に言った。

「シュメーグ男爵。霊獣に対する振る舞い、あまりにも無慈悲ではありませんか。そのセレーナという霊獣は、貴方を生涯守る存在ではないですか!」

 いつもはおだやかなアスランの語気が荒い。きっとアスランも貴族のセレーナに対する態度に怒りを覚えているのだろう。貴族はアスランを見て、あざけるように言った。

「平民の分際で貴族のわしに口ごたえとは何事だ!わしは偉いのだ、わしは選ばれし存在なのだ。霊獣など金を払えば変えはいくらでもいる。このセレーナはわしが命令してもちっとも魔法を使わん、全くの役立たずだ」

 シュメーグ男爵は、無抵抗の霊獣、セレーナをしつようにけり続ける。アスランが下くちびるをかむ。あかりはもう我慢の限界だった。すると今まで黙っていたグラキエースがあかりに言った。

『メリッサ、今からわしの言うことをよく聞くのだ。あのボンクラな人間に、わしとセレーナの交換を持ちかけろ』
「嫌よ、グラキエースと離れるなんて!」
『わしだってお主と契約解除などしたくないわい。だがその話をボンクラに持ちかけなければセレーナは救えない。わしの言う通りにするのだ』

 あかりはしぶしぶうなずいた。そしてシュメーグ男爵に大声で言った。

「シュメーグ男爵!セレーナと私のドラゴンを交換しましょう!」

 貴族は目を細めて気味の悪い笑みを浮かべた。

「早くそういえばよいものを、よかろう。この役立たずとそのドラゴンを交換だ」
「では先ずセレーナとの契約の解除を。私の言葉を復唱してください」

 あかりは驚いて事の成り行きを見ているセレーナに目配せする。セレーナはあかりとグラキエースの意図をくみ取ってうなずいた。あかりが言葉をつむぐ。

「真の名の契約において、セレーナとの契約を解除する」

 シュメーグ男爵はにちゃにちゃと気持ちの悪い言葉であかりの言葉を復唱する。

「真の名の契約において、セレーナとの契約を解除する」

 美しいヒョウの霊獣セレーナは、喜びをかくせないようで、はずむ言葉で答えた。

『かしこまりました。シュメーグ、契約を解除します』

 シュメーグとセレーナを淡い光が包む。契約が解除されたのだ。あかりはセレーナを自分の側に呼ぶ。セレーナはしなやかな身のこなしであかりの側に立った。シュメーグは早くドラゴンのグラキエースと契約させろとのたまう。グラキエースはあかりにそっと耳うちする。

『わしが合図したらアスランに風魔法の防御ドームをはらせるのじゃ』

 グラキエースの言葉にあかりはこくりとうなずく。そしてシュメーグ男爵に言った。

「ドラゴンと契約するためには、ドラゴンの本来の姿に戻らないといけません。今ここで契約しますか?」

 あかりの言葉にシュメーグ男爵は、ささっとしろ。とせっつく。あかりはグラキエースと目配せをする。グラキエースはあかりにパチンッとウィンクをした。これが合図だ。あかりはアスランに叫ぶ。

「アスラン!防御ドーム」

 あかりの言葉にアスランはすぐに反応する。アスランの風魔法の防御ドームが、あかりたち仲間をおおいつくした。それを見たグラキエースは本来の姿に戻った。巨大なドラゴンに、貴族の豪華な屋敷の天井は、メリメリときしみ、グラキエースは屋敷を一瞬で破壊した。木片があかりたちの防御ドームに当たった。

 シュメーグ男爵は真っ青になりながら見上げていた。恐ろしくも美しい巨大なスノードラゴンを。それきりシュメーグ男爵は大の字に倒れた。恐怖で失神したのだ。

 あかりたちは大破した貴族の屋敷を後にした。グラキエースは巨大なドラゴンから、小さなドラゴンになった。霊獣のセレーナはあかりたちにしきりに感謝をのべていた。

 あかりはセレーナの契約が解除された安心感と、セレーナがそれまで人間にされていた仕打ちを思い起こして、急に涙があふれ出した。あかりは顔を両手でおおいながらわんわん泣きだした。それを見たアスランとティグリスとグラキエースは口々にあかりを心配して声をかけた。

「メリッサどうしたんだい?」
『メリッサ、どっか痛いのか?』
『どうしたのじゃ、メリッサ』

 皆があかりを心配する優しい言葉に、あかりの涙はますます止まらなくなった。あかりはセレーナに言った。

「ごめんな、さい、ごめんなさい、セレーナ。人間がひどい事して。セレーナの優しさにつけ込んで、こんなひどい事ないわ。ごめんなさい」

 泣きじゃくるあかりの前に、セレーナがやって来た。そして優しい声であかりに言った。

『どうか顔をあげて?優しい人間のお嬢さん』

 あかりは、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を上げた。そこには慈愛に満ちた瞳の、美しいヒョウの霊獣がいた。セレーナは言葉を続ける。

『お嬢さん、貴女の名前を教えてくれるかしら?』
「・・・、メリッサ」
『メリッサ、よければ私の契約者になってくれないかしら?』
「!、いけないわセレーナ。あなたは人間にひどい目にあわされたのに」
『あら、メリッサ。貴女は私の嫌がるお願いをするの?』
「いいえ、そんな事しないわ。あなた常に自由よ」
『それならなおのことお願い』
「わかったわ、セレーナ。私のお友達になってくれる?」
『ええ勿論よメリッサ。真の名において契約する、私はお友達の貴女を守るわ』
「ありがとうセレーナ」

 あかりと霊獣のセレーナの周りを、淡い光が包んだ。契約が成立したのだ。するとセレーナがあかりを元気づけるように明るく言った。

『私は水魔法を操るの。メリッサ、もし貴女が困った事があったらいつでも私を呼んでね』

 セレーナが水魔法を発動させる。大きな水の玉が沢山出現し、次々に花火のように弾けた。霧のような水滴があかりたちに降りかかる。そして大きな虹が出現した。目の前で繰り広げられる水魔法のショーに、あかりは思わず感嘆の声をあげた。

 セレーナは本来強大な魔力を持つ霊獣だ、だが優しさのために悪意ある人間にすらも情けをかけてしまったのだろう。セレーナは笑顔になったあかりを見て、安心したようだ。そして、子供のイタズラをとがめる母親のような顔になって言った。

『そこのおチビちゃんは、まだ守護者の手を離れていないようだけど?』

 子虎の霊獣ティグリスがギクリと身体を固くしてから言った。

『違うよおばちゃん、俺はオヤジに、もう自分一人でやっていけるって言われたから、一人でいるんだ』

 セレーナは信用できないのか、まゆをひそめて言った。

『とにかくおチビちゃんは一度、守護者の所に帰りなさい。きっと心配しているわ』

 ティグリスは不満なのかぷぅっとほほをふくらませる。セレーナはため息をついてから、あかりに向き直った。

『メリッサ、何か困った事があったらいつでも私を呼んでね』
「ありがとうセレーナ。あなたの養い子は無事かしら?」
『ええ。人間に捕まる前に、知り合いの霊獣に養い子を守ってと、思念を送ったの。きっと無事だわ』
「よかった。セレーナ、またね」
『ええ、またね』

 あかりはヒョウの霊獣の首に抱きついた。セレーナはゴロゴロとのどを鳴らした。そしてセレーナは皆を一べつしてから消えた。きっと養い子の所に戻ったのだろう。




 

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