77 / 118
後始末
しおりを挟む
グリフはハァハァと乱れた息を整えるためにしきりに深呼吸をした。グリフの足元には凍って固まったゼキーグがコマ切れなって転がっていた。それまで聞こえていた耳障りな悲鳴も今は聞こえなくなった。きっとゼキーグは死んだのだろう。
グリフは後ろを振り向くと、動かないアスランの背中を無理矢理押して石造りの建物から出した。そして子虎のティグリスと白馬のアポロンも外に出し、最後にドラゴンのグラキエースの防御ドームを解除させ、目をつぶりうずくまっているメリッサを立ち上がらせた。
グリフたちが石造りの建物から外に出ると、村長の息子と村人がグリフにかけよって来た。奴隷となった村人たちが大ケガをしているから助けて欲しいというのだ。グリフはつっ立っているアスランと心配そうにメリッサに付き添っているグラキエースに先に助けに行ってくれとことづけた。そして放心状態のメリッサはアポロンとティグリスに任せた。
グリフは石造りの建物にとって返すと、土魔法で油を合成した。合成した油を石造りの建物にふりかけ、魔法で火をつけた。石造りの建物はメラメラと燃えだし、煙はモクモクと空に立ちのぼった。グリフはその煙をジッと見続けた。
あかりは心配顔のティグリスとアポロンを安心させるため何とか笑顔を作った。だが頭はグラグラしてひどい耳鳴りがした。ゼキーグの悲鳴が耳から離れない。ゼキーグの命を奪った事が正しい事だったのか、あかりにはわからなくなっていた。
あかりがぼんやりとゼキーグの屋敷の方を見ていると、村人たちが出てきた。二人組で何か大きな、布にくるまれた物を持っていた。村人たちは屋敷の外に置いてあった荷車にそれを乗せた。あかりはフラフラと引き寄せられるようにその荷車に近づいた。ティグリスとアポロンが心配そうあかりの後ろをついてくる。
荷車には五つの布の物体があった。その物体が何であるか、もうあかりには分かっていた。あかりはおそるおそる布をめくろうとした。するとあかりの肩を軽くたたく者がいた。振り向くとアスランだった。アスランは疲れた笑顔であかりに言った。
「とても痛ましいケガをしているんだ。メリッサ、君は見ないほうがいい」
あかりはゆるく首を振って否定の意思を示した。あかりは無意識にゼキーグの死を肯定するものを求めていたのかもしれない。あかりが布を取り除くと、傷だらけの男が寝ていた。その男の姿を見てあかりはヒイッと小さな悲鳴をあげた。
男は片目はわずかに開いているが、もう片方の目は閉じていた。だがおかしな事に片方のまぶたはへこんでいる。あかりはハッとした、眼球が無いのだ。男は苦しいのかうめき声をあげた。するとわずかに口が開いた。そこには歯は一本も無かった。この男はゼキーグの拷問により、片目をえぐられ、歯を全て引き抜かれてしまったのだ。男はうなされているのか手をしきりに振っていた。その手の爪は全てはがされ、指はおかしな方向に曲がっていた。
その時あかりは唐突に理解した。それは強大な能力を持つ者の責任の重さだった。もしあかりが、アスランとアポロンとグリフと共に旅をしていなかったとしたら。ティグリスとグラキエースとあかりの三人で旅をしていたら、ゼキーグをこらしめてその場限りの口約束を信じて、また野放しにしてしまったかもしれない。そしてゼキーグは何事もなかったように再び残虐な拷問を繰り返したかもしれない。
基本的に霊獣やドラゴンは人間同士の争いに無関心だ。だがあかりと契約してくれている霊獣のティグリスとドラゴンのグラキエースは、あかりを好いてくれているからこそあかりの願いを叶えてくれているのだ。
それをあかりは、すごいのはティグリスとグラキエースであって、自分はただの無力な村娘だと認識していた。だがそれはあかりが自分の事を謙そんしているからではない。あかりは無意識のうちにティグリスとグラキエースの強大な魔力は彼らのものであって、あかりはお願いしているだけで自分の力ではないと考えていた。
だがそれは大きな間違いだった。あかりがティグリスとグラキエースに頼んで強大な魔法を行使するという事は、あかり自身が強大な魔力を使っているという事なのだ。今までその考えにいたらなかったのは、あかりが大きすぎる責任を負いたくないという無意識の逃げの気持ちがあったからに他ならない。あかりは霊獣とドラゴンと契約している以上、その強大な魔力を使う責任を持たねばならなかったのだ。
あかりは自分の浅はかな行いを悔いながら、浅く息を繰り返す男の胸に手をそえて言った。
「良かったぁ、生きてる」
あかりはそう呟いた途端、目からボタボタと涙があふれた。人が人を裁くなどおこがましい行為だ。だがあかりたちがゼキーグを殺した事により、これ以上生け贄として村人が傷つけられる事はなくなった、それはまぎれもない事実だ。
ふとあかりの頭に温かで大きな手が乗せられた。その手はあかりの頭を力強く撫で回した。その手の主はグリフだった。グリフは明るい声で言った。
「そぉだぞぉメリッサ!生きていれば何とかなる!目玉が無ければ俺が義眼を作ってやる。歯がなければ入れ歯を作ってやる」
あかりはグリフに振り向くと泣きながらうなずいた。グリフはあかりに笑いかけてから、側で歯をくしばって泣いている若い村人の肩を掴んで言った。
「辛いとは思うが今は生存者を早く村まで運んでくれ」
若い村人は、涙をこらえながらはい、と答えた。もしかしたらこの村人の家族は見つからなかったのかもしれない。あかりたちは拷問されて大ケガを負った村人たちを荷車に乗せ、重い足取りで村に帰った。
グリフは後ろを振り向くと、動かないアスランの背中を無理矢理押して石造りの建物から出した。そして子虎のティグリスと白馬のアポロンも外に出し、最後にドラゴンのグラキエースの防御ドームを解除させ、目をつぶりうずくまっているメリッサを立ち上がらせた。
グリフたちが石造りの建物から外に出ると、村長の息子と村人がグリフにかけよって来た。奴隷となった村人たちが大ケガをしているから助けて欲しいというのだ。グリフはつっ立っているアスランと心配そうにメリッサに付き添っているグラキエースに先に助けに行ってくれとことづけた。そして放心状態のメリッサはアポロンとティグリスに任せた。
グリフは石造りの建物にとって返すと、土魔法で油を合成した。合成した油を石造りの建物にふりかけ、魔法で火をつけた。石造りの建物はメラメラと燃えだし、煙はモクモクと空に立ちのぼった。グリフはその煙をジッと見続けた。
あかりは心配顔のティグリスとアポロンを安心させるため何とか笑顔を作った。だが頭はグラグラしてひどい耳鳴りがした。ゼキーグの悲鳴が耳から離れない。ゼキーグの命を奪った事が正しい事だったのか、あかりにはわからなくなっていた。
あかりがぼんやりとゼキーグの屋敷の方を見ていると、村人たちが出てきた。二人組で何か大きな、布にくるまれた物を持っていた。村人たちは屋敷の外に置いてあった荷車にそれを乗せた。あかりはフラフラと引き寄せられるようにその荷車に近づいた。ティグリスとアポロンが心配そうあかりの後ろをついてくる。
荷車には五つの布の物体があった。その物体が何であるか、もうあかりには分かっていた。あかりはおそるおそる布をめくろうとした。するとあかりの肩を軽くたたく者がいた。振り向くとアスランだった。アスランは疲れた笑顔であかりに言った。
「とても痛ましいケガをしているんだ。メリッサ、君は見ないほうがいい」
あかりはゆるく首を振って否定の意思を示した。あかりは無意識にゼキーグの死を肯定するものを求めていたのかもしれない。あかりが布を取り除くと、傷だらけの男が寝ていた。その男の姿を見てあかりはヒイッと小さな悲鳴をあげた。
男は片目はわずかに開いているが、もう片方の目は閉じていた。だがおかしな事に片方のまぶたはへこんでいる。あかりはハッとした、眼球が無いのだ。男は苦しいのかうめき声をあげた。するとわずかに口が開いた。そこには歯は一本も無かった。この男はゼキーグの拷問により、片目をえぐられ、歯を全て引き抜かれてしまったのだ。男はうなされているのか手をしきりに振っていた。その手の爪は全てはがされ、指はおかしな方向に曲がっていた。
その時あかりは唐突に理解した。それは強大な能力を持つ者の責任の重さだった。もしあかりが、アスランとアポロンとグリフと共に旅をしていなかったとしたら。ティグリスとグラキエースとあかりの三人で旅をしていたら、ゼキーグをこらしめてその場限りの口約束を信じて、また野放しにしてしまったかもしれない。そしてゼキーグは何事もなかったように再び残虐な拷問を繰り返したかもしれない。
基本的に霊獣やドラゴンは人間同士の争いに無関心だ。だがあかりと契約してくれている霊獣のティグリスとドラゴンのグラキエースは、あかりを好いてくれているからこそあかりの願いを叶えてくれているのだ。
それをあかりは、すごいのはティグリスとグラキエースであって、自分はただの無力な村娘だと認識していた。だがそれはあかりが自分の事を謙そんしているからではない。あかりは無意識のうちにティグリスとグラキエースの強大な魔力は彼らのものであって、あかりはお願いしているだけで自分の力ではないと考えていた。
だがそれは大きな間違いだった。あかりがティグリスとグラキエースに頼んで強大な魔法を行使するという事は、あかり自身が強大な魔力を使っているという事なのだ。今までその考えにいたらなかったのは、あかりが大きすぎる責任を負いたくないという無意識の逃げの気持ちがあったからに他ならない。あかりは霊獣とドラゴンと契約している以上、その強大な魔力を使う責任を持たねばならなかったのだ。
あかりは自分の浅はかな行いを悔いながら、浅く息を繰り返す男の胸に手をそえて言った。
「良かったぁ、生きてる」
あかりはそう呟いた途端、目からボタボタと涙があふれた。人が人を裁くなどおこがましい行為だ。だがあかりたちがゼキーグを殺した事により、これ以上生け贄として村人が傷つけられる事はなくなった、それはまぎれもない事実だ。
ふとあかりの頭に温かで大きな手が乗せられた。その手はあかりの頭を力強く撫で回した。その手の主はグリフだった。グリフは明るい声で言った。
「そぉだぞぉメリッサ!生きていれば何とかなる!目玉が無ければ俺が義眼を作ってやる。歯がなければ入れ歯を作ってやる」
あかりはグリフに振り向くと泣きながらうなずいた。グリフはあかりに笑いかけてから、側で歯をくしばって泣いている若い村人の肩を掴んで言った。
「辛いとは思うが今は生存者を早く村まで運んでくれ」
若い村人は、涙をこらえながらはい、と答えた。もしかしたらこの村人の家族は見つからなかったのかもしれない。あかりたちは拷問されて大ケガを負った村人たちを荷車に乗せ、重い足取りで村に帰った。
0
あなたにおすすめの小説
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる