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盛平

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グリフの賭け

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 アスランは首をかしげてグリフに言った。

「賭けって一体何をするんだい?」

 グリフは厳しい表情を崩さず答えた。

「今から五分間、テメェは俺を殺す気で剣を打ち込め。もし俺が五分以内に死んだらアスランの勝ちだ。だが俺が五分間逃げ切れたら俺の勝ちだ」
「バカな事言うなグリフ!」
「はぁ?バカだと?!アスラン、テメェは五分以内に俺を殺せると思ってんのか?」
「当たり前だ。鑑定魔法を使える君ならわかるだろう?僕は魔力でも剣技でも君よりはるかに強いんだ。五分を待たずして死んでしまうぞ?」
「上等だぁ、テメェそこまで俺の事バカにしやがって」

 アスランとグリフのにらみ合いをハラハラしながら見ていた白馬アポロンがたまらず口を挟んだ。

『やめろグリフ!君はすぐにアスランに殺されるぞ?!』
「はぁ?!この世に絶対なんてねぇんだよ!やってみなけりゃわかんねえだろ!それにアスランがこんなになったのはアポロン、テメェにだって問題があるんだぞ?!アポロンがアスランを甘やかすから何かあるとすぐに逃げ出す性格になっちまったんだろ?!」
『・・・、返す言葉が無い』

 愛馬アポロンの答えにアスランはガックリする。確かにアポロンと共に過ごした期間、アスランは常に問題事から逃げていた。そしてアポロンにひたすらグチをこぼし優しいアポロンに慰めてもらっていた。それはアポロンが霊獣になり契約をして会話ができるようになっても変わらなかった。アポロンはひたすらアスランを肯定して甘やかしてくれるのだ。

 グリフは腰の袋から懐中時計を取り出してアポロンの手綱に引っかけた。そしてアスランに振り向いて言った。

「今から五分だ。途中棄権は認めねぇからな」

 アスランは心の中で大いに焦っていた。グリフの事は気に食わないが殺すほどでもない。それにグリフは仲間だ、アスランにとって守るべき存在なのだ。そしてアスランの大好きなメリッサはグリフの事が好きなのだ。もしグリフを殺せばメリッサは二度とアスランを許してはくれないだろう。

 だがアスランが手加減を加えればグリフは納得しないだろう。アスランの頭は混乱していた。何か問題が起こると考える事を拒否していつも問題を先送りにしてしまう、アスランはいつもそうやって生きてきた。そのツケがこんな大問題になってふりかかってきてしまったのだ。

 慌てているアスランをよそに、グリフは賭けの開始を宣言した。グリフの身体が一瞬光る、グリフはなんらかの魔法を自身の身体に施したのだろう。グリフは突然アスランの目の前から消えた。だがアスランはグリフの魔法に見当がついた、グリフはアスランが使った風魔法を使用したのだ。自身の身体に風魔法をまとうと、高速で移動する事ができる。だがこの魔法は強靭な肉体がなければ使えない魔法だ。鍛練を積んでないグリフの身体はすぐに限界を迎えるだろう。

 しかし予想に反してグリフは風魔法を使い続けていた。どうやらグリフは自身の身体に身体強化の魔法を施したようだ。グリフは高速に動きながらも風攻撃魔法でアスランに攻撃してきた。アスランは背中の剣を抜いて風攻撃魔法を弾き返す。アスランは楽しくなってきた。

 グリフとアスランの力の差は歴然なのに、グリフは類まれな魔法センスでアスランに立ち向かっている。アスラン自身は風魔法を身体にまとう事はせず、自らの動体視力だけでグリフを追った。アスランがグリフに斬りかかる。だがグリフは風魔法の速度をあげてアスランの一太刀を避ける、アスランは思わず笑みを浮かべた。

 おそらくグリフの宣言した五分間という時間は、グリフ自身の活動限界なのだろう。このまま行けばこの賭けはグリフの勝ちになるだろう。そこでアスランはハタと気づいた、グリフが勝った場合の賭けの代償は何なのか聞いていなかった事に。

 グリフは高速で動き続けた。だが疲労の色がみえてきたのか、動きがおぼつかなくなってきたようだ。アスランは剣を振るう時は反射的に反応するように小さな頃けらしつけられていた。それが悪かった、グリフの速度が落ちた時、アスランはとっさに剣を振り下ろしてしまった。剣の先にはグリフの左腕があった。アスランはアッと思う間もなくグリフの左腕を斬り落としてしまった。グリフの風魔法が切れ、彼はドサリと地面に倒れた。

「グリフ!」

 アスランは叫んでグリフに駆け寄った。グリフの傷口からはドクドクと血があふれていた。早く治癒魔法を施さなければ。アスランが焦っていると、目の前に真っ黒で大きな狼が現れた。グリフの契約霊獣ノックスだ。ノックスがガウッと叫んだ。

『金髪小僧!早くグリフの腕をくっつけろ!俺のペットが死んでしまう』
『アスラン!ノックスがグリフの腕を傷口につけろと言っている』

 霊獣語がわからないアスランに、愛馬アポロンが通訳をしてくれた。アスランは震える手で腕をグリフの傷口にくっつけた。すかさずノックスが治癒魔法を発動する。グリフの身体が輝き出し、左腕がみるみるくっついた。アスランはたまらずグリフの名を呼んだ。グリフが薄く目を開く。グリフが何か言った。アスランがグリフの口元に耳を近づける。

「何分だ?何分経った?」

 アスランはうなだれた。自分が死にそうだったのに、この男は何を言っているのだろうか。アスランはアポロンの手綱にくくられた懐中時計を見た。とっくに五分は過ぎている。その事をグリフに告げると、グリフは笑って言った。

「ははっ!見ろ俺の勝ちだ!」

 アスランは観念した。もしグリフにメリッサに二度と会うなと言われたらその通りにしようと思った。アスランはグリフに言った。

「ああそうだグリフ。君は五分経っても生きていた、君の勝ちだ。どうすればいいかい?僕が君たちの前から消えようか?」
「・・・、アスラン、お前はもっと自分に自信を持てよ。俺を殴った時、俺の首の骨を折った事あったか?メリッサの手をつないだ時メリッサの手を握りつぶした事があったか?アスラン、お前はちゃんと相手を見ている。守る者をちゃんと分かってんだよ」

 グリフはそれだけ言うと目をつぶって、フゥッと深くため息をついた。アスランは鼻の奥がツンと熱くなって涙が出そうになるのを必死にこらえた。グリフはアスランが危険ではないと、とても危険な賭けをして証明しようとしてくれたのだ。

 その時ガサリと草分ける音が聞こえた。アスランが顔をあげると、そこにはこの場を一番見られたくないメリッサの姿があった。メリッサは悲鳴をあげながら言った。

「キャア!アスラン、グリフ一体何をしてたの?!」

 すかさずグリフが上半身を起こし、メリッサに気持ちの悪い猫なで声を出して言った。

「メリッサァ、聞いてくれよぉ。俺がアスランの態度をちょっと注意したら、アスランの奴剣で斬りつけてきたんだぜ?」
「おいグリフ!話が違うだろう!?」
 
 アスランは背中に冷たい汗をかいた。この現場は誰が見てもアスランがグリフを剣で斬ったとわかるだろう。おそるおそるメリッサを見ると、彼女は眉間にしわをよせながらいつもより厳しい口調でアスランに言った。

「アスラン、先に焚き火の所に戻って?私はグリフと話がしたいの」

 アスランは顔を真っ青にしながらメリッサに弁解をしなければと思うのだが、口の中がかわいて言葉が出なかった。メリッサは少し口調を和らげながら、大丈夫だからと言った。アスランはぼう然とメリッサの指示に従った。
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