見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

文字の大きさ
101 / 118

グリフの命

しおりを挟む
 あかりは大きくなった虎のティグリスに乗って戦いの場を後にした。きっとアスランたちがフードの魔物を倒してくれるだろう。あかりは早くグリフとノックスにお礼を言いたかった。そしてグリフたちのおかげで、ドラゴンのフローラが助かった事を知らせたかった。

 あかりが上空からグリフたちを探していると、グリフとノックスはすぐに見つかった。だがおかしな事にグリフはあお向けに倒れていて、その横にノックスが座っている。グリフは疲れて眠っているのだろうか。あかりはティグリスに頼んで、彼らの側に下ろしてもらった。あかりは彼らに声をかけた。

「グリフ!ノックス!」

 ノックスは振り向いてあかりたちを見ると、口をはくはくさせて悲しそうに言った。

『メリッサ、間に合って良かった。どうかグリフの側にいてやってくれ』

 あかりは首をかしげた。ノックスの言った言葉の意味がわからなかったからだ。そこであかりはノックスにどういう意味か聞いた。するとノックスは寂しそうに微笑んで答えた。

『グリフはもうすぐ死ぬ。だからメリッサに最期を看取ってほしい』

 ノックスの言葉を、あかりはすぐに理解する事ができなかった。ちょっと前に元気なグリフからフローラの心臓が入った小箱を受け取ったのに。何故グリフが死んでしまうのだろうか。あかりがぼう然と立ちつくしていると、ノックスが再び話し出した。

『グリフのバカは、もう一人のフードの魔物から小箱を奪う時にケガをしたのだ。だが早くメリッサに小箱を渡したかったのだろう、俺にもケガの事を言わなかった』

 あかりはカラカラになったのどを何とか動かしてかすれるような声で言った。

「ノックス、ノックス。お願い、グリフのケガを治して」
『すまないメリッサ、グリフはケガの表面だけ自分の治癒魔法で治したんだ。だが腹の中は血だらけで俺には治せない』

 あかりは頭に血がカァッと登っていくのがわかった。あかりは恐怖で叫び出しそうになるのをグッとこれえて言った。

「レオ!セレーナ!」

 あかりの声に契約霊獣である、ライオンのレオとヒョウのセレーナが現れた。二人ともフローラと戦う必要がなくなったので来てくれたのだ。あかりは辛抱ができなくなりボロボロと涙を流し、おえつまじりにレオたちにお願いした。

「お、お願い、レオ、セレーナ。グリフを、グリフを助けて」

 ライオンのレオはうなずいてグリフに近寄った。そしてしばらくグリフを見てから、うめくように言った。

『すまないメリッサ。私の魔法で巻き戻せるギリギリの範囲なのだが、この人間は生きようという気力が失われている。こうなっては私にもどうする事もできない』
「生きようとする気力?どういう意味なのレオ?」
『このグリフという人間は、もう生きる事をやりとげたと思っているようだ。そのような者には私の魔法も効果がないのだ』

 あかりはつんのめるようにグリフにしがみつくと、グリフのえり首をつかんで力いっぱいゆすって叫んだ。

「グリフ!起きて!目を開けて!!」

 あかりの乱暴な起こし方に、固く目を閉じていたグリフのまぶたがわずかに開いた。グリフはか細い声で言った。

「アーニャ、大きくなったなぁ」

 あかりは途端に叫び出したほどの怒りにおそわれた。あかりはグリフの耳元に口を近づけて叫んだ。

「私はアーニャじゃないわ!メリッサよ!」

 グリフは、あかりの言葉がわかっているのかいないのか、少し微笑んでからまた目を閉じてしまった。あかりは急に手足が氷のように冷たくなり、ブルブルと震えだした。グリフが死んでしまう。グリフはいいかげんで皮肉屋で、だけど情に厚くて正義の心を持っている。そしてあかりにはとても優しかった。

 あかりは前世の記憶を持ってこの世界にやって来て、ずっと違和感を感じていた。現世の世界では家族もティグリスたちもあかりを大切にしてくれている。だがそれはメリッサとしてだ。この世界のメリッサという少女の中に、前世の飯野あかりという女性も同時に存在しているのだ。メリッサが愛されるたびに、あかりはいいようのない孤独を感じでいた。だが唯一グリフだけはあかりという存在を認識し、愛してくれた。それがどんなに嬉しかった事か。

 あかりとグリフの周りにアスランやグラキエースたちが集まって来た。きっとフードの魔物を倒したのだろう。何故かアスランのとなりにはヴイヴィアンが立っていた。だがあかりはアスランたちにねぎらいの言葉を発する事は出来なかった。ただただグリフが死んでしまう恐怖になきじゃくっていた。

 ティグリスが白馬アポロンに事の状況を説明していた。アポロンからアスランに伝わりアスランは泣きだした。それをヴイヴィアンが慰めている。あかりは周りの悲しみの声がよく聞こえなかった。まるで水の中にいるように周りの音が不明りょうだった。

 あかりは泣きはらしながら、何故グリフはこんなにもあかりの事を大切にしてくれたのだろうと考えた。グリフはあかりと娘のアーニャは似ていないと言っていたが、きっとどこかに似ている部分もあったのだろう。グリフは娘のアーニャに会いたくて会いたくて仕方なかったのだ。このままグリフを看取るのも、グリフのためではないのか。あかりは泣きすぎてガンガン痛む頭の痛みを感じながら思った。だが同時に湧き上がるような反対の考えも浮かんできた。

 グリフは、フードの魔物に心臓を奪われたドラゴンのフローラを助けるためにケガを負って死のうとしているのだ。これがグリフの寿命ならば仕方がない。だが霊獣のレオは、グリフの生きる気力があれば魔法で救う事が可能だと言っていた。その考えに思いいたると、あかりはもうれつに腹が立ってきた。

 あかりはグリフのえり首をひっつかんで持ち上げると、反対の手でグリフの頬に強烈な平手打ちをした。返す手の甲でグリフの反対の頬を打った。あかりは泣きながらグリフの頬をひたすらビンタした。そして大声で叫んだ。

「起きなさいグリフ!生きる事から逃げるな!どんなに苦しくても辛くても悲しくても、命続く限りは生きなさいよ!そして天寿をまっとうしたら、その時こそ胸をはってアーニャに会いに行きなさいよ!」

 あかりはそれだけ言うと、ハァハァと激しく呼吸をして、ゴクリとツバを飲み込んでから続けて叫んだ。

「だけど、だけど、もしグリフが寂しくて仕方がないのなら、私がグリフの娘になってあげるから!」

 あかりの言葉に、それまで目をつむっていたグリフがパチリと目を開けて言った。

「本当か?メリッサ」

 それを見ていたレオが叫ぶように言った。

『グリフの生きる気力が戻った!』
『現金なやつじゃのぉ』

 ドラゴンのグラキエースが呆れた声で言う。あかりは状況が飲み込めず目をしばたかせていると、レオとグリフが輝きだした。レオが時間を巻き戻す魔法を使ったのだ。レオが魔法を発動させながら、あかりにグリフの側から離れるように言った。

 しばらくすると、グリフの腹から巨大な槍のような物が突き出してきた。これがグリフを死に追いやろうとした魔法なのだろう。すかさずセレーナが魔法を無効化する魔法を発動させた。グリフの腹に突き刺さった槍は水泡に包まれ跡形もなく消えた。レオはフゥッと息を吐いてからあかりに言った。

『メリッサ、もう大丈夫だ。グリフのケガは完治させた』

 あかりはあまりの急な状況の変化についていけず、目をパチパチしていた。すると今まで青白い顔で倒れていたグリフが起き上がり、笑顔であかりに言った。

「メリッサ。さっきの言葉、嘘じゃねぇよな?メリッサは俺の娘だ」

 あかりは号泣しながらグリフに抱きつくと、グリフの胸をコブシでドンドン叩いた。あかりはグリフが死んでしまいそうだった恐怖と、グリフが助かった安心感で訳が分からなくなり、うわ言のようにグリフに言った。

「グリフのバカァ、グリフのバカァ!」
「あれぇ、メリッサァ。そこはパパ大好き!じゃないの?」

 グリフはいつものように軽口を叩くが、その手は優しくあかりを抱きしめてくれていた。

 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...