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第2話 絆の涙
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カスガ村が人間族の襲撃に遭って、一日が過ぎていた。
俺たちは母さんが心配で結局眠ることができなかった。
「なあライト。
父さんは一度、村に戻ってみようと思うんだが?」
「そうだね。
一日経ったけど母さんは来なかったし……
俺も一緒に行くよ」
しかし父さんは首を横に振った。
「だめだライト!
外はまだ危険かもしれない。
そんなところにお前を連れて行けないよ」
「父さん!
俺も【ジャスティス】の一員として母さんだけでなく村の状況をこの目で確かめる必要があると思うんだ!」
俺の真剣な眼差しに父さんは笑顔で呟いた。
「知らない間に大人になったな」
そう言って俺の髪の毛をくしゃくしゃと、これでもかというぐらいかき回してきた。
「やめてよ父さん!」
「ハハハハハ」
その様子をトゲトゲくんは優しく見守ってくれていた。
「そうと決まれば、すぐに出発だ。
トゲトゲくん、留守を頼んだよ」
「承知いたしました。
大首領様」
俺たちはトゲトゲくんをアジトに残し、村に戻ることにした……
果たして……
その光景は見るに耐え難きものであった……
「何だよ……
これは……」
その散々たる状況を前に、俺はあとの言葉が続かなかった。
建物は破壊され、田畑は荒らされ、あちこちに村人が倒れていた。
それはただ倒れているだけではない。
焼け焦げ、切り裂かれ、中には子供を庇ったまま串刺しにされている村人もいた。
「どんな神経をしてたらこんなことができるんだ……
あいつら開発にかこつけて、殺戮を楽しんでいるだけじゃないのか?
自分たちと違う種族には何をしてもいいと考えているのか!」
血が滲むほど強く拳を握りしめる父さんを俺は初めて見た。
「ごめん、ライト。
怖い顔をしてしまったな」
「ううん、俺も同じ気持ちだよ」
「とにかく、家にすぐ戻ろう。
母さんが隠れて待っているかもしれない!」
俺たちが急いで自宅へ戻ると、屋根が吹き飛び、二階からはまだ煙が燻っていた。
垣根から庭先を覗き込むと、そこには仰向けに倒れている母さんの姿があった。
「母さん!」
俺たちが駆け寄っても反応がない。
「ルナ!」
よく見ると、母のこめかみには深くナイフが刺さっていた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
俺は山が崩れるぐらいの大きな声で泣き叫んだ。
「母さん!
なんで……
なんで……」
「ル……ルナ……
う……うぅ」
俺と父さんはその場にしゃがみ込み母さんを抱きしめた。
「なんで俺たちが……
母さんがこんな目に遭わなくちゃならないんだよ?」
俺は父さんの目を見た。
「自然界には弱肉強食というものがあるのは知っているよな。
それは生きていく上で仕方のないことなんだ。
でも……
これはそうじゃない。
単なる殺戮だ。
奴らは楽しんでいるのかも知れない。
魔族は悪として殺してもいい者だと考えているんだろうか……」
父さんは奥歯をギリギリと噛んだ。
「あいつらは自分たちの領土を広げるために、俺たち魔族を悪者に仕立て上げているんだよね?
この島は魔族のものだったのにさ」
「なあライト……
さっきも言っただろう。
正義か悪かなんて立場によって変わるって。
人間族にとっては、領土を広げるために我々を駆除するヒーロー戦隊は、文字通り英雄なのさ。
俺たちにとっては、悪そのものだけどね」
「父さん、実は俺……
悩んでたんだよ。
人間族の中にもいい奴がいるんじゃないかって……
だから、話し合いで解決できたらいいのになって……
でももう無理だよ。
こんなことする奴らを野放しにしている人間族は、全員同罪なんじゃないかってさ」
「感情のコントロールって難しいよね。
今のライトが人間族全体を憎む気持ちはよくわかる。
父さんだってそうさ。
でも、おじいちゃんの時代には、一部の人間族と魔族の間で特産物の売買など交流もあったって話を聞いたことがある。
ライト、今は何も言わないでおく。
これから時間をかけて、お前が言ったことが自分自身にとって正しいのか間違っているのか判断すればよい。
正直、父さんにも何が正解かわからないんだよ。
ただ……
思いやりの心だけは絶対に捨てないでくれ」
「なんだか今の状況は悔しいね。
人間族全員を憎もうとしている自分が悲しいよ」
そう言い俯いた俺を父さんは力強く抱きしめてくれた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
母さ~んっ!」
俺は父さんにしがみつき、思いっきり泣いた。
***
俺の気持ちが少し落ち着いた頃、父さんがすくっと立ち上がった。
「なあライト……
母さんを庭に埋葬してあげよう」
俺はコクリと頷き、納屋から大きなスコップを取り出し、庭に穴を掘った。
スコップがやけに重い。
ひとつ土を掬うたびに重さが増していく。
地面を掘り起こした数だけ涙がこぼれ落ちる。
母さん……
母さん……
悲しみの中、俺たちは母さんを埋葬する。
合わせる手が小刻みに震える……
「ライト……
母さんのそばを離れるのは辛いけれど、いつでもまた会いに来れるさ。
今はアジトに戻って今後のことを考えないとな」
「うん」
一言だけ返事をし、俺はすくっと立ち上がった。
こんなときでも俺が不安にならないように、父さんは涙を見せない……
でも、俺の前を歩く父さんの背中は震えていた。
声を張り上げて泣きたいはずなのに……
そこからアジトまでどうやって戻って来たかは覚えていない。
ただ、悲しみなのか、怒りなのか、自分でもわからない感情の炎がメラメラと込み上げてくる。
アジトに戻りトゲトゲくんには村の惨状を説明した。
「奥方様のご逝去の報、心よりお悔やみ申し上げます」
そう言ってトゲトゲくんは一緒に涙を流してくれた……
***
静寂が支配している深夜の研究室……
そこにライトの父ソルは、妻ルナとお揃いのペンダントを握りしめ、ソファでうなだれていた。
「なあ、ルナ……
初めてキミと会ったときを覚えているかい?
キミの手料理を初めて食べたときとかさあ……
このお揃いのペンダントも一緒に選んだよね。
それから……
それから……
うぅ……うぅ
ルナ……
ライトの前では気丈に振る舞えても、ひとりになるとダメだ……
あのコップを見てもあの帽子を見ても、全部全部キミを思い出す。
もう一度会いたいよ、ルナ……
うぅ……うぅ」
ソルは深夜、ひとりすすり泣き、悲しみに堪えていた……
ガタンッ
ソルはハッとして顔を上げた。
「大首領様、申し訳ございません。
灯りがついていたものですから……
温かいお飲み物をお持ちいたしました」
トゲトゲくんはそっとソルの前に温かいお茶を置いた。
「ありがとう。
なんか恥ずかしいところを見せてしまったね……」
「何をおっしゃいますやら……
あの……
差し出がましいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「私は怪人なので夫婦や恋人の恋愛話についてはわかりかねますが、泣きたいときは隠さずに感情を表にだしても良いのではないでしょうか?」
「そうかも知れないけれど、今、俺がライトの前で涙を見せたらライトは不安がらないかなあ?」
「不安にはならないと私は思います。
その涙は愛情の涙なのでしょう?
それは弱さではありません。
絆の涙だと思います」
「そうかあ……
そうなのかあ……
そうだよなあ……
ありがとうトゲトゲくん……
うぅ……うぅ……ルナ……」
トゲトゲくんはテーブルに突っ伏すソルにそっと毛布を掛けると、一礼をし部屋を出た。
俺たちは母さんが心配で結局眠ることができなかった。
「なあライト。
父さんは一度、村に戻ってみようと思うんだが?」
「そうだね。
一日経ったけど母さんは来なかったし……
俺も一緒に行くよ」
しかし父さんは首を横に振った。
「だめだライト!
外はまだ危険かもしれない。
そんなところにお前を連れて行けないよ」
「父さん!
俺も【ジャスティス】の一員として母さんだけでなく村の状況をこの目で確かめる必要があると思うんだ!」
俺の真剣な眼差しに父さんは笑顔で呟いた。
「知らない間に大人になったな」
そう言って俺の髪の毛をくしゃくしゃと、これでもかというぐらいかき回してきた。
「やめてよ父さん!」
「ハハハハハ」
その様子をトゲトゲくんは優しく見守ってくれていた。
「そうと決まれば、すぐに出発だ。
トゲトゲくん、留守を頼んだよ」
「承知いたしました。
大首領様」
俺たちはトゲトゲくんをアジトに残し、村に戻ることにした……
果たして……
その光景は見るに耐え難きものであった……
「何だよ……
これは……」
その散々たる状況を前に、俺はあとの言葉が続かなかった。
建物は破壊され、田畑は荒らされ、あちこちに村人が倒れていた。
それはただ倒れているだけではない。
焼け焦げ、切り裂かれ、中には子供を庇ったまま串刺しにされている村人もいた。
「どんな神経をしてたらこんなことができるんだ……
あいつら開発にかこつけて、殺戮を楽しんでいるだけじゃないのか?
自分たちと違う種族には何をしてもいいと考えているのか!」
血が滲むほど強く拳を握りしめる父さんを俺は初めて見た。
「ごめん、ライト。
怖い顔をしてしまったな」
「ううん、俺も同じ気持ちだよ」
「とにかく、家にすぐ戻ろう。
母さんが隠れて待っているかもしれない!」
俺たちが急いで自宅へ戻ると、屋根が吹き飛び、二階からはまだ煙が燻っていた。
垣根から庭先を覗き込むと、そこには仰向けに倒れている母さんの姿があった。
「母さん!」
俺たちが駆け寄っても反応がない。
「ルナ!」
よく見ると、母のこめかみには深くナイフが刺さっていた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
俺は山が崩れるぐらいの大きな声で泣き叫んだ。
「母さん!
なんで……
なんで……」
「ル……ルナ……
う……うぅ」
俺と父さんはその場にしゃがみ込み母さんを抱きしめた。
「なんで俺たちが……
母さんがこんな目に遭わなくちゃならないんだよ?」
俺は父さんの目を見た。
「自然界には弱肉強食というものがあるのは知っているよな。
それは生きていく上で仕方のないことなんだ。
でも……
これはそうじゃない。
単なる殺戮だ。
奴らは楽しんでいるのかも知れない。
魔族は悪として殺してもいい者だと考えているんだろうか……」
父さんは奥歯をギリギリと噛んだ。
「あいつらは自分たちの領土を広げるために、俺たち魔族を悪者に仕立て上げているんだよね?
この島は魔族のものだったのにさ」
「なあライト……
さっきも言っただろう。
正義か悪かなんて立場によって変わるって。
人間族にとっては、領土を広げるために我々を駆除するヒーロー戦隊は、文字通り英雄なのさ。
俺たちにとっては、悪そのものだけどね」
「父さん、実は俺……
悩んでたんだよ。
人間族の中にもいい奴がいるんじゃないかって……
だから、話し合いで解決できたらいいのになって……
でももう無理だよ。
こんなことする奴らを野放しにしている人間族は、全員同罪なんじゃないかってさ」
「感情のコントロールって難しいよね。
今のライトが人間族全体を憎む気持ちはよくわかる。
父さんだってそうさ。
でも、おじいちゃんの時代には、一部の人間族と魔族の間で特産物の売買など交流もあったって話を聞いたことがある。
ライト、今は何も言わないでおく。
これから時間をかけて、お前が言ったことが自分自身にとって正しいのか間違っているのか判断すればよい。
正直、父さんにも何が正解かわからないんだよ。
ただ……
思いやりの心だけは絶対に捨てないでくれ」
「なんだか今の状況は悔しいね。
人間族全員を憎もうとしている自分が悲しいよ」
そう言い俯いた俺を父さんは力強く抱きしめてくれた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
母さ~んっ!」
俺は父さんにしがみつき、思いっきり泣いた。
***
俺の気持ちが少し落ち着いた頃、父さんがすくっと立ち上がった。
「なあライト……
母さんを庭に埋葬してあげよう」
俺はコクリと頷き、納屋から大きなスコップを取り出し、庭に穴を掘った。
スコップがやけに重い。
ひとつ土を掬うたびに重さが増していく。
地面を掘り起こした数だけ涙がこぼれ落ちる。
母さん……
母さん……
悲しみの中、俺たちは母さんを埋葬する。
合わせる手が小刻みに震える……
「ライト……
母さんのそばを離れるのは辛いけれど、いつでもまた会いに来れるさ。
今はアジトに戻って今後のことを考えないとな」
「うん」
一言だけ返事をし、俺はすくっと立ち上がった。
こんなときでも俺が不安にならないように、父さんは涙を見せない……
でも、俺の前を歩く父さんの背中は震えていた。
声を張り上げて泣きたいはずなのに……
そこからアジトまでどうやって戻って来たかは覚えていない。
ただ、悲しみなのか、怒りなのか、自分でもわからない感情の炎がメラメラと込み上げてくる。
アジトに戻りトゲトゲくんには村の惨状を説明した。
「奥方様のご逝去の報、心よりお悔やみ申し上げます」
そう言ってトゲトゲくんは一緒に涙を流してくれた……
***
静寂が支配している深夜の研究室……
そこにライトの父ソルは、妻ルナとお揃いのペンダントを握りしめ、ソファでうなだれていた。
「なあ、ルナ……
初めてキミと会ったときを覚えているかい?
キミの手料理を初めて食べたときとかさあ……
このお揃いのペンダントも一緒に選んだよね。
それから……
それから……
うぅ……うぅ
ルナ……
ライトの前では気丈に振る舞えても、ひとりになるとダメだ……
あのコップを見てもあの帽子を見ても、全部全部キミを思い出す。
もう一度会いたいよ、ルナ……
うぅ……うぅ」
ソルは深夜、ひとりすすり泣き、悲しみに堪えていた……
ガタンッ
ソルはハッとして顔を上げた。
「大首領様、申し訳ございません。
灯りがついていたものですから……
温かいお飲み物をお持ちいたしました」
トゲトゲくんはそっとソルの前に温かいお茶を置いた。
「ありがとう。
なんか恥ずかしいところを見せてしまったね……」
「何をおっしゃいますやら……
あの……
差し出がましいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「私は怪人なので夫婦や恋人の恋愛話についてはわかりかねますが、泣きたいときは隠さずに感情を表にだしても良いのではないでしょうか?」
「そうかも知れないけれど、今、俺がライトの前で涙を見せたらライトは不安がらないかなあ?」
「不安にはならないと私は思います。
その涙は愛情の涙なのでしょう?
それは弱さではありません。
絆の涙だと思います」
「そうかあ……
そうなのかあ……
そうだよなあ……
ありがとうトゲトゲくん……
うぅ……うぅ……ルナ……」
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