美少女戦士はもう無理だって!

marry

文字の大きさ
5 / 5

第5話 窮地だにゃん♡

しおりを挟む
 口に含んだお茶が花壇の散水機のようにきれいに撒き散らされた。

「あんた、なにを言って…ゲホッ」

 私は咳き込みながらワルツを凝視した。

「いやぁ…
 いつ言おうかと思っていたんですけどねえ…
 かっこよかったですよ。
『悪い子は…
 おしおきだニャン♡
 ニャンダフル~シャイニ~ングッ!』
てね」

 ワルツはステッキを振るう私を真似てポーズを決める。

「や、やめなさい。
 周りが変な目でみてるじゃないの!」

 私はワルツの腕を掴み、急いでその場を離れようとする。

「痛いですよ~!
 雪乃先輩ってば~!」

「いい子だからこっちに来なさい!」

 私は痛がるワルツの手を引きバス停をあとにした。

 近くにあるコンビニの駐車場であらためてワルツから話を聞く。

「実は昨日の騒ぎのとき、ヤマトちゃんと雪乃先輩を見かけたんで、追いかけたらあら不思議…
 上下のビジネススーツは真っ白な猫ニャンスーツに変わり、右手には肉球ステッキ…
 そして黒髪の上にはカワイイ猫の耳が現れるのでした~」

「あんたねえ…
 ビフォーアフターみたいに言わないでくれる!」

「ハハハ…
 とにかく、私は見ちゃったんですよ。
 先輩が変身してタコ怪獣をやっつけるまでをね」

「あちゃ~」

 まだ自分自身の整理もついてないってのに、よりにもよって後輩に見られてたなんて…

「いい、ワルツ!
 このことは絶対、他の人にしゃべっちゃだめだからね!」

 そのとき駅前の川から地響きが起こった。

 ドドドドド

 私とワルツは揺れる体を踏ん張りながらも、震源地であろう橋辺りに視線を向けた。

 道行く人も同時にその方向を見つめている。

 バッゴーンッ!

 水面が弾き飛び、突然、川底から細長い物体が現れた。

「雪乃先輩、なにあれ!?」

 ワルツが不安気に私を見る。

「巨大ミミズ!?」

 私は眉を寄せた。

「気持ち悪いですう~
 タコの次はミミズなんて…
 なんか、ヌルヌルしたイメージのものばっかりじゃないですかあ!」

 ワルツが私に向かって大きな声で当たる。

「そんなの私に言われてもしらないわよ!」

「雪乃先輩!
 なんとかしてください!」

「ええっ!?
 私が?…」

「先輩以外に誰がいるってんですか!」

「いやあ、私…
 ヌルヌル、グネグネって苦手なのよね」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうに!」

 そのとき、背中越しに声が聞こえた。

 振り返るとそこにはヤマトがいた。

「ワルツの言う通りだよ」

「あっ!
 ヤマト!」

「ヤマトちゃん!」

「さあ、行くよ!
 雪乃!」

 ヤマトは私に猫ニャンステッキを向ける。

「だ、だめっ!
 こんなところで!
 人が見てるじゃないの!」

「雪乃先輩…
 なんかその言い方が…
 誤解を招きますよ…」

 ワルツがなんか言ってたみたいだけど、それどころじゃない。

 私は急いでコンビニの裏手に走る。

「ハァハァハァ…
 ここなら大丈夫…
 …て、私が息切れして大丈夫じゃないわよ!
 ハァハァハァ」

「もう!
 そこからここまで少し走っただけじゃんか」

 ヤマトが呆れた顔をした。

「なに言ってんのよ!
 三十路前には少しのダッシュも大変なのよ!
 それに私は昨日、戦ったあと、ほとんど寝てないんだからね!」

 私はヤマトに思いっきり文句を言う。

「なんで寝てないの?」

「あんたが無理やりオホーツク海に連れてったからでしょうが!」

「ああ、そんなこともあったかなあ…」

 ヤマトは遠い目をした。

「あんた、なに無かったことにしようとしてるのよ!
 ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

「ほらほら、あんまり怒ると血圧があがっちゃうよ。
 それに、小ジワが…」

「ムッキーッ!」

 言われなくたってわかってるわよ!

 私は目を剝いて、ヤマトをとっ捕まえ、ブンブンと揺さぶった。

「あれ~
 や、やめて~
 僕が悪かったよ~」

「誰が私を怒らせてると思ってんのよう!」

「だから、ごめんなさい~
 助けてワルツ~!」

「ゆ、雪乃先輩!
 それ以上やったらヤマトちゃんがあ~」

 慌ててワルツが私をとめに入る。

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

 私はヤマトを地面に下ろし肩で息をする。

「ほ、ほら…
 急がないと怪獣が…」

 ワルツの言葉でチラッと橋の方を見てみると…

 バッゴーンッ!

 バッゴーンッ!

 巨大ミミズはその巨体を右へ左へとうねらせ、橋を壊し始めていた。

 まるで昨日の再現みたい。

 人々は泣き叫びながら逃げ惑う。

「し、仕方ないわね…
 昨日のダメージで体がまだピキピキなんだけど…
 私がやらなきゃ誰がやる!」

 私は戦う覚悟を決め、横で白目を剥いているヤマトの頬を軽く二、三度叩いた。

「ゲホッゲホッ…
 おばあちゃんが川向こうのお花畑から手招きしてたじゃないかよ!」

「あんたが悪いんでしょうが!」

 私は悪態をつくヤマトを鋭く睨む。

「ま、まあまあ…
 ほら、雪乃先輩ってば、急がないと怪獣が…」

 焦ったワルツが再度仲裁に入る。

「ワルツに免じて許してあげるわ。
 ほら、ヤマト、急ぎなさい」

「そ、それじゃあ気をとりなおして。
 行くよ…雪乃!
 それっ!
 ニャーッ!」

 ピヒューッ!

 ヤマトが向けたステッキから七色の光が放たれ私を包む。

「ニャンニャンレインボーパワー!
 セットアップ!」

 猫ニャンスーツが私を纏う。

「これよ、これよ!」

 私の横でワルツがはしゃぐ。

「ニャンノアール!
 悪い子は…
 おしおきだニャン♡」

 バッシーン!

「キャーッ!
 雪乃先輩すてき~!」

「あんた、ちょっと大袈裟なのよ!
 とりあえず行くわよ!
 ヤマト!」

「行ってらっしゃ~い」

 ヤマトは他人事のように私を送り出す。

「こ、こいつはほんとに!」

 半ば呆れながら、私は巨大ミミズに立ち向かった…

 けれど…

「なによこのミミズ~!
 ヌルヌルして全然ヒットしないじゃないのようっ!」

 私は何度もジャンプして巨大ミミズに蹴りかかるが、ヌメリのせいで全く攻撃を受け付けない。

「これでどうよ!」

 ヌルッ

「これならば!」

 ヌルッ

 ヤマトも爪を立て一緒になって攻撃する。

「そりゃあっ!
 ヤマト様のデーモンクローをお見舞いするぜー!」

 ヌルッ

 物理攻撃は見事に滑り続ける。

「ヤマト!
 もうあれしかないわ!」

「そうだね。
 行くよ雪乃!」

 私は猫ニャンステッキを構えた。

「僕の【ニャンダフルパワー】と雪乃の【ソウルラブ】を融合だ!」

「悪い子は…
 おしおきだニャン♡
 ニャンダフル~シャイニ~ングッ!」

 ピッキーンッ!

 巨大ミミズに向かって光の矢が放たれる。

 果たして…

「ミミズ~ンッ!」

 巨大ミミズは叫んだかと思うと、頭の先端から透明の液体を前方へ吐き出し、粘液のボールを出現させた。

 ヌルルンッ

「えっ!?」

 私は思わず声がでた。

「ニャンダフルシャイニングまで滑っちゃうって…」

 ヤマトも驚きの表情を隠せない。

 そのときだった。

 一瞬の隙…

 私の油断だった…

 呆然とする私に、先程の粘液を吐きかけてくる巨大ミミズ。

 ビュッ ビュッ ビュッ

 ベチャ ベチャ ベチャ

「キャーッ!
 な、なによ、このネバネバ!
 くっさ~い!
 おえ~っ」

 私は頭からドブのような臭いがする透明の液体をかぶった。

「そ、それに動きが…
 体が重たいわ…
 なんか接着剤で固められたみたいに手足が…」

 一歩踏み出すのにも一苦労する。

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…
 ま、まずいわ。
 早くここを離れなきゃだけど…
 ゼェ…ゼェ…ゼェ…
 も、もう限界だわ…
 足も腕も上がんないわよ…」

 私は膝に手を置き、肩で息をする。

「ゼェ…ゼェ…ゼェ…」

「雪乃!
 危ないっ!」

 ワルツの声が響き渡ったかと思うと、巨大ミミズから二本の触手が伸び、倒れかけの私を捕まえた。

「キャーッ!」

「雪乃!」

「せんぱ~い!」

 グイグイ グイグイ

「く、苦しい…
 さっきまでヌルヌルしてたくせに、今度はがっちり私をホールドなんて販促よ!」

 巨大ミミズは私をどんどん締め上げる…

「ガハッ…グゲ…
 く…ぐ…ぐるじい…」

「せんぱ~いっ!」

 ワルツの声が頭の中に響く。

「ヤマトちゃん!
 早く雪乃先輩を助けないと!」

「うおりゃ~っ!」
 せいヤア~ッ!」

 ヤマトが必死に飛びかかるが、巨大ミミズは涼しい顔をしている。

 どこが顔か知らんけど…
 て、バカなことを考えている場合じゃないわ。

「あががが…」

 私は限界を迎えようとしていた。

「せんぱ~い!」

 薄れゆく意識の中でワルツの声だけが頭にこだまする。

「待ちなさい!
 ヌルヌルミミズちゃん!
 おいたはそこまでよ!」

 誰?

 私は薄れゆく意識の中で、なんだか懐かしい声を聞いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

雑魚狩りスキルはCランクまでの魔物しか経験値にできないがそれでも多くの魔物を倒す経験で最強冒険者ライフを送る

銀雪 華音
ファンタジー
主人公のアオイは持っていたスキルが雑魚狩りというスキルだった。この主人公は作業を繰り返しすることが好きだった。ほかの人に比べて弱いスキルだと気づき努力をして経験値にはならないけどCランク以上の魔物も倒せるようになった。この主人公は何をするのか分かりません。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

処理中です...