美少女戦士はもう無理だって!

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第9話 動揺だニャン♡

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「落ち着くんだ、雪乃!」

 ヤマトが目の前でジャンプして、軽く私の頬を叩いた。

「そんなこと言ったって、どうしろって言うのよ。
 現代兵器は【魔魂(まだま)】に通用しないんでしょ?」

「雪乃の言う通りさ。
 奴らを最終的に葬るには【ニャン斗六星剣】の力が必要だ」

 ヤマトは神妙な面持ちで答えた。

「だったら、自衛隊がスクランブルかけたって無駄じゃない!
 私とマッキーのふたりだけじゃ、同時に対応できるのは二ヶ所だけ!
 それだって、ひとりで敵を倒せる保証なんてないのよ?」

 私は拳をガンガン太腿に打ち付けながら叫んだ。

「だから、雪乃先輩、落ち着いてくださいってば!」

 ワルツは私の両手をギュッと掴んだ。

「落ち着けるわけないでしょう!
 ワルツはお気軽でいいわね!
 でも、戦うのは私たちなのよ!
 この気持ちがあんたに理解できるっていうの?」

 私はワルツの両手を乱暴に振りほどいた。

「雪乃ちゃん!
 それを言っちゃダメでしょ!
 ワルツちゃんだって、自分にできることを一生懸命にしてるでしょうに!」

 マッキーがキッと子供に説教するような目を向けてきた。

「私だって戦う力があったら戦いたいですよ!
 でも私にはそんな力はない。
 だったら、場を和ませることしかできないじゃないですか!
 私だって……」

 ワルツはその場にしゃがみ込み、両手を目に当て涙を堪えている。

 小刻みに震える肩は、悔しさを必死に抑えているようにも見えた。

「雪乃ちゃん、今の言葉は少し反省しないといけないんじゃないかしら?
 あなたの気持ちはわかるけど、ワルツちゃんの気持ちも考えてあげなさい」

 怒るでもなく、マッキーは諭すように私に言葉をかけてきた。

 そうだ。

 今のは私が悪い。

 つい感情のやり場がなくなって、ワルツに八つ当たりしてしまった。

 ジレンマを背負っているのは私だけじゃなかったんだ。

「……ごめんなさい、ワルツ」

「……」

 ワルツは俯いたまま、何も言わない。

 ただ、震えながら縮こまっているワルツを見ると、胸が締めつけられる思いだった。

 私も体から力が抜けて、膝を折り、その場にしゃがみ込んだ。

「雪乃ちゃん、まず深呼吸しなさい。
 焦っても、いい答えなんか出てきやしないわ。
 この世界で【魔魂(まだま)】に対抗できるのはあなたと私だけ!
 さっきまで危機感を持てって言ってたのはあなたでしょう?
 そのあなたが慌ててどうするの?
 危機感を持つことと焦ることは違うのよ」

 マッキーの真剣な眼差しと言葉で、私は我に返る。

「す~は~」

 目を閉じて、ゆっくりと深呼吸してみると少しだけ心臓の高鳴りが治まった。

「それでいいのよ。
 雪乃ちゃん。
 ワルツちゃんもいつまでも泣いてないで、このあとのことを一緒に考えなさい。
 私たちのマネージャーなんでしょ?」

 マッキーの言葉に気を取り直したワルツはコクリと頷き、顔を上げた。

「みんな、落ち着いて話を聞いてくれ」

 それまでは口を噤んでいたフウテンがタイミングを見計らって話し始めた。

「結論から先に言う。
 全部の敵に対峙する必要はない」

「どういうこと?」

「本体は、ここ猫ヶ原市にある。
 あとの残りは分体だ。
 本体さえ倒せば危機は去る!」

「でも、実際に各都市が攻撃されているのは事実でしょう?
 それはどうするのよ!」

「それは自衛隊に任せるしかない。
 倒せるまではできなくても、足止めすることはできるからね。
 僕たちは被害が拡大する前に、一刻も早く本体を倒さなければならないんだよ」

「雪乃ちゃん、それしか手がないわ。
 有効打を与えられるのは、私たちふたりだけ。
 急ぎましょう!」

 私とマッキーは、すくっと立ち上がり庭に飛び出た。

 私たちはヤマトとフウテンに目を合わせて頷く。

「さあ、雪乃!
 いくよ!」

「マッキーも準備はいいかい!」

 私たちはコクリと頷いた。

 ヤマトとフウテンがネコニャンステッキをこちらに向ける。

「「ニャー」」

 ヤマトたちの鳴き声を合図に七色の光が放たれた。

 ピヒューッ!

「ニャンニャンレインボーパワー!
 セットアップ!」

 両手を天に向けると、胸の宝石が瞬いて、激しい光が私たちを包み込む。

 やがて私たちは【猫ニャンスーツ】を身に纏った。

 黒いコートは闇を背負う私の覚悟。

 赤いコートはマッキーの熱い情熱。

 そこにはもう迷いなどなかった。

「ニャンノアール!
 悪い子は…
 おしおきだニャン♡」

 バッシーン!

「ニャンルージュ!
 悪い子は…
 背負い投げ~!
 だニャン♡」

 ぼよよ~んっ!

「さあ行くわよ、ノアールちゃん」

「了解!
 ルージュ!」

 私たちは思いっきり地面を蹴って、暗雲立ち込める天高く舞い上がった。

 ギュワーンッ

「ゲゲッ!
 なによ、あの大っきな目玉は!?」

 暗雲の中心には、月をまるごとのみこむぐらいの巨大な目が、下界を見下ろしていたのだ。

 先ほど、テレビ画面で敵の姿はチラッと確認していたが、まさかこれほど巨大なものだったなんて……

 私はゴクリと唾を飲み込んだ。

 その瞬間……

 ゴロゴロ ピッヒャーンッ!

「キャッ」

 思わず私はのけぞった。

 ビッグアイ……

 その目玉が瞬きすると、雷鳴が轟き渡り、黄色い稲光が地上を襲った。

 私の視界の前では、自衛隊の最新鋭戦闘機、F-35A Lightning IIが編隊を組み、ビッグアイに立ち向かうところである。

 最高速度は約マッハ1.6で、ミサイルを機体内部に収納できる、我が国が誇るステルス機能付きの戦闘機だ。

 F-35A Lightning IIの腹部が、金属の唸りとともに一瞬だけ開き、内部兵器庫の暗闇から、鈍い光沢を放つミサイルが姿を現した。

「フォックス・スリー!」

 パイロットの声と同時に、AIM-120 AMRAAMが機体から滑り出る。

 ガシャッ!

 大きな音と同時にロケットモーターが点火した。

 ドンッ!

 白い尾を引きながら、ミサイルは、空を切り裂き、ビッグアイへと一直線に飛んでいく。

 それはまるでケンタウロスが放つ一閃。

 狙った獲物は外さぬ、神話の矢。

 ゴーッ!

 ビャビャビャビャビャ~ンッ!

「ひえ~っ!」

 ミサイルが私をかすめた瞬間、押し潰されたような空気の塊が襲いかかり、その場から数十メートル弾き飛ばされてしまう。

「なにしてくれんの!
 危ないじゃないのよ!
 一般人なら死んじゃうところよ!」

 私は戦闘機に向かって叫んだ。

 本当に危ないどころではない。

 発射から数秒でミサイルはマッハ3以上。

 【猫ニャンスーツ】を着ていなければソニックブームに引き裂かれていたかもしれない。

 果たして……

 ビッグアイに見事ミサイルは命中した。

 着弾点で光を放ったかと思うと、数秒遅れて轟音が鳴り響き空が揺らめいた。

 しかし、白い煙が晴れたあとには、平然と瞬きをするビッグアイが居座っていた。

 F-35A Lightning IIは何度もミサイル攻撃を試みる。

「フォックス・スリー!」

 ドンッ!

 ゴゴゴゴッ!

 ピカッ!

 ドッゴーンッ!

 何度攻撃を繰り返しても結果に変わりはなかった。

 やはり【魔魂(まだま)】に現代兵器は通じない。

 全てのエネルギーは吸収されてしまうようである。

 私は大きく深呼吸し、あらためて四方を見渡した。

 遠くに見える暗雲からも、黄色い稲光が不規則に地上を襲っている。

「こんなのが日本の各地に居座ってるっていうの?」

 私の肩はガタガタと震えだす。

 怖い……

 これが今の正直な気持ちである。

「大丈夫よ。
 ノアールちゃん。
 あなたはひとりじゃない」

 ルージュは優しく後ろから抱きしめてくれた。

 その暖かさのお陰で、不思議と心が安らぎ震えはとまる。

「そうね。
 私はひとりじゃない。
 さあ、行きましょう!
 ルージュ!」

「そうこなくっちゃ!」

 私たちはビッグアイめがけて飛んでいく。

 バーンッ!

 突然、目に見えない何かに弾かれた。

「ギャッ!?
 壁?」

 私は手を伸ばしその空間に触れてみた。

 バシンッ!

「何!?
 変な波動がこの先の空を遮断しているみたいね?」

「ルージュ、どういうことなの?
 ミサイルは一応届いたじゃない」

 私は首を傾げた。

「どうやら、スピードが足りないみたいね。
 さっきのミサイルは100kg以上のものが音速の何倍かのスピードで飛んでいったわけよ。
 これはとんでもないエネルギーよ」

「ということは?」

「私たちもそれぐらいのスピードで突っ込まないと、あの目玉ちゃんに辿り着けないってことよ」

「どうすんの?」

「う~ん。
 少しお願いしてくるわ」

 ルージュはしばらく考えた末、戦闘機に向かって飛んでいった。

 ポヨイーンッ!

「ちょっとルージュ!
 お願いって、どこいくのよ~っ!」

 数秒後……

「ちょっ!?
 何してんのよ~!」

 私の視線の先には、戦闘機の進路上に両手を広げて、通せん坊するルージュの姿が映った。
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