ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太

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1、プロローグ

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「また来週~次回もよろしくにゃん♪」

 テレビの中で猫耳少女が、ニッコリと俺に微笑みかける。

「まあまだな、65点ってところか」

 俺が偉そうに点数を付けたのは、最近流行りのアニメにである。
 確かにキャラは可愛い。
 だが、俺の歴代アニメランキングベストテンに入るにはまだ捻りが足りない。
 中二病アニメから、萌え系アニメまで一通り制覇した俺の舌は肥えているのだ。

「いやいや、俺は馬鹿か! こんなことしてる場合じゃないだろ?」

 落ち着け、今はそんな事を考えている時ではない。
 俺は静かにテーブルに置かれたリモコンに手を伸ばした。
 だがTVのリモコンを掴もうとする俺の手は虚しく空を切った。
 正確に言えば俺の手がリモコンをすり抜けたのだ。

 俺が30歳の誕生日に死んだのを誰も知らない。

 まあ、あと3日もすれば誰かが気付くとは思うが、それまでは誰も気が付かないだろう。
 家族からも忌み嫌われていた引きこもりのニートの俺の部屋に、わざわざ入る奴なんていないだろう。
 俺に俺みたいな家族がいたとしたら絶対にごめんだ。

 気難しい馬鹿が引きこもっているアニメのフィギュアが所狭しと飾られたゴミ溜めの様な部屋に好き好んで入る奴がいるとしたら、それは俺以上の馬鹿だ。

 昨日、1階の冷蔵庫に食料を調達しにいったときに、久しぶりに実家に帰って来ていた妹に遭遇したが、俺を見る目はツンデレからデレを取った完全無欠な冷たさで、しかも直ぐに目を逸らされたしな。
 いやそんなことはどうでもいい。
 今重要なことはそこではない。

 俺は死んでいる。

 とあるアニメの決め台詞ではないが、確かに死んでいる。
 しかし死に方が我ながら情けない。
 お気に入りのアニメを観ながら部屋の隅にあったポテチをとりに行ったところで、床に散乱した漫画の山に足を取られてひっくり返った。
 運が悪い事にPCの角に後頭部をクリティカルヒットしてあえなく昇天したのである。

 そして今に至るわけだが、起きたことはもうどうしようもないのでとりあえず楽しみしていたアニメは最後まで観て、ついでに辛口の批評をしていたわけだ。

 しかし冷静になって考えると俺は確かに死んでいる。
 足元にだらしの無い顔をして伸びているのは確かに俺だ。

 じゃあ死んでいる俺を見ている俺は誰だ?
 いや、やっぱり俺だ。
 じゃあアイツはってやっぱり俺だよな……

 そんなくだらないこと考えているうちに、俺は凄まじい吸引力で空高く吸い込まれていくのを感じた。
 凄い勢いで空に飛ばされていく。
 
「ちょ! なんだこれ!!」

 とりあえず手足をばたつかせて逆らっては見たがまるで効果は無い。
 こうなればなるようになれだ!
 俺はそう観念して、抵抗をやめることにした。
 吸い上げられるように空に舞い上がっていく俺。

「……人間諦めが肝心だからな」

 第一、この世界に未練があるって訳でもない。
 俺の名前は御崎原速人(ミサキハラ ハヤト)
 学生時代のふとしたトラウマから引きこもるようになって、もう十数年にもなる。

 平たく言うといじめが原因だ。
 俺はガキの頃は運動も勉強もそこそこ出来て、小学生の時はクラスでも比較的中心的な存在だった。
 友達も多くてよく一緒に野球やサッカーをしてたし、テレビゲームも俺が一番上手だったのを覚えている。
 もちろんそれは中学に行ってからも暫らくの間は続いたんだ。
 一緒の小学校から来てる奴も多かったしな。

 トラブルが起きたのは中学2年の秋だ。
 同じクラスに入って来たのは、いかにもガラの悪い不良だった。
 そいつは平気でクラスメートから金を巻き上げたり、女子生徒を脅してつき合わせたり好き放題を始めた。

 今思えば下らない正義感から俺はそいつと対立した。
 クラスの連中が期待したのもある、俺ならそいつをなんとかしてくれるんじゃないかと実際被害にあった連中から助けも求められた。

 俺は家の近くの公園にそいつを呼び出した。
 正々堂々など考えるはずも無い奴に、今思えば馬鹿なことをしたものだ。
 ニヤニヤ笑いながら俺の前に現れたそいつは、仲間を連れていた。
 そいつも含めて5人はいただろう。

 俺はそいつらに徹底的にボコられた。
 腹や背中を蹴り飛ばされて唾を吐かれた。

 そして許して欲しければ金を出せといわれて、泣きながら金をそいつ等に渡しているところを携帯で写真に撮られた。
 みっともなく土下座をしてるところまで何枚も。

 そして、その写真がクラスの連中にばら撒かれたのは次の日のことである。

 最初は俺に同情してくれた奴もいた。
 だがそいつ等に目を付けられてる俺の周りからはどんどん人がいなくなっていった。
 面白いほど手のひらを返すように。
 そして最後には俺が土下座をしてる写真を待ち受けにして、嘲るような目をしてあいつらに媚を売る奴まで現れた。

 教師たちさえ連中にビビッて見て見ぬふりだ。
 世の中は、テレビの中の大人が語る理想論では回っていない。
 もっと卑劣で生々しいものである。
 
『正義なんてありはしないのだ』

 俺は下らない現実の世界で生きるのをやめた。
 好きなアニメを観てその世界観に没頭したり、ネトゲをやったり。
 その気になればこの狭い空間の中で幾らでも時間を潰すことは出来た。
 意外な交友関係も出来た。
 はまったアニメのフィギュアを作ってる連中と知り合いお互いに作品を見せたりもした。
 いゆるガレージキットっていう奴だ。
 マニアの中では幻のフィギュアマスターと呼ばれるようになったのは、俺が凝り性だったかもしれない。

 何かにはまったり、熱中している時はあの嫌な思い出を忘れることが出来た。
 親は何度も俺を外に引っ張り出そうとしたが、その度にやって来た自称人生経験豊富な連中の説教は、くだらないほどステレオタイプで、上辺だけの理想しか口にしない奴等だった。

 こういう奴らも実際に窮地に立たされた時は自分に都合の良い行動しかしない。
 例えば俺の写真を携帯の待ち受けにして媚を売った奴の様に。
 まあ理由はともかく30歳になった今でも部屋に引きこもっている俺など、家族にとってもいなくなれば清々するだろう。

 心残りは、さっき見たアニメの今後の展開ぐらいだ。
 もしかしたら俺の中で神アニメになる展開がまっているかもしれない。

 死んじまった今となっては、もうどうでもいいことを考えながら俺は前を見つめた。
 そこらのジェットコースターも真っ青な勢いで俺は筒の様な通路の様な空間を猛スピードで走っていく、俺はこの手の乗り物が嫌いなんだよ吐きそうだ。
 いや、そもそもここ何年も乗り物と呼べる物には自転車すらまともに乗ったことが無い。

 そんなことを考えていると、物凄い眩しい光が通路の先に見えてくる。
 通路の先に巨大な光の珠が輝いている。
 何とも形容しがたい色だ
 白の様でもあり、赤の様でもある、視覚ではなく俺の魂を直接刺激するようなその色に俺は目を細めた。

 目の前にその輝きが迫ってくる。
 その時、俺は耳元で囁くかのような声が聞こえた気がした。
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