ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太

文字の大きさ
32 / 73

32、スタートダッシュ

しおりを挟む
 このスタートラインから、ゴールの旗まで大体50メートル程度ってところか。
 まあ、短距離のテストには程よい距離だな。

 一緒に走る5人の中でトーマスはわざわざ俺の隣にやってくる。
 そうまでしなくともどっちが勝ったのか直ぐに分かると思うんだが、どうあってもはっきり決着をつけたいらしい。
 ツンツン頭を整えながら俺に言う。

「大体、ロイっていうその名前が気に入らないんだ。ここではっきり白黒つけてやる!」

「は、はぁ」

 名前が気に入らないと言われても困る。
 誰か他のロイっていう名前の奴に恨みでもあるのか?

 まあ、そんなことを考えてもしょうがないか。

 それにしても、妙だな。
 程よい好勝負を演じたいと思って、さっきからトーマスの魔力の高まり具合を見ているんだが一向に高まる様子がない。
 俺の目は特別製だから、相手の魔力の動きが分かるんだよな。

 これを使って赤ん坊の時からママンの治療の時の魔力の動きを観察して、体内にある魔力を高める場所や方法を学んだ。
 身体強化の仕方もアランの訓練を見て魔力を気のように体に纏わせる方法を勉強したもんだ。

 その俺が見ても、トーマスの魔力の高まりは殆ど感じない。
 まあしいて言えば、陽キャパリピ特有のオーラみたいなものがうっすらと見える気がするが、まさかあれがトーマスが高めた魔力じゃないよな?
 確かに魔力ではあるが、弱すぎる。

 いやいや、そんなはずがない。

 あれほどの自信には根拠があるはずだ。
 これでアンドニウスと戦うつもりだったのなら勇者過ぎる。
 マジでぶっ殺されかねないからな。

 あの時、俺がアンドニウスから感じた魔力がドラゴン級だとしたら今、トーマスから感じるのはヒヨコレベルだ。

 俺は思わずトーマスの横顔を眺める。
 その顔は恐ろしいほど自信満々だ。

 ……そうか。

 恐ろしい奴め。
 これは俺を油断させるための作戦か。
 スタートギリギリまでこちらを油断させておいて、一気に魔力を高めて爆発的なスタートダッシュを決める。
 陽キャの割には策士だな。
 むしろ陰キャの俺が考えそうな戦法だ。

 学校のマラソン大会で一緒に走ろうねと言っておいて、頃合いを見てみて自分だけ猛然とダッシュするあの手だな。
 そんな下らないことを考えていると、着替えを終えた女子生徒たちが校庭にやってくる。
 だが、そんなことはお構いなしに信者たちのトーマスへの応援はボルテージが上がっていく。

「トーマス、ロイになんて負けるなよ!」

「そうだ、俺たちはお前についていくぜ!!」

「「「トーマス! トーマス!!」」」

 その異様な盛り上がりに、女子生徒たちはドン引きになっている。
 まあ、当然だろう。
 勝負の当事者の俺も若干引いてるからな。

 そんな女子生徒の中に混ざってアーシェの姿も見えた。

 運動着姿も可憐なアーシェは、この状況に戸惑っている様子だ。
 そりゃそうだよな。
 少し着替えに行って帰ってきてみたらいきなり、俺とトーマスのスポーツバトルが始まってるわけだから。

 トーマス信者達の大声援の中、アーシェは思わず俯いてしまっている。
 昨日あんな目にあったんだ、こんな状況になったら気後れしてしまうのは当然だろう。

 しまったな。
 アーシェを巻き込むつもりはなかったんだ。

 俺がそう後悔していると、トーマスコールの大合唱の中、一人俺の名を叫ぶ声が聞こえてくる。

「ロイ! 頑張ってぇええ!!」

 見ると先ほどまで俯いていたアーシェが、しっかりと顔を上げると俺の方を見て声を張り上げている。
 凄い勇気だ。
 トーマスの名が連呼される中で、一人俺の名前を叫ぶなんて並大抵のことじゃない。

 勇気を振り絞るように、両手を胸の前でギュッと握りしめて俺を応援している。
 その姿に俺は感動した。

 これは全力を尽くさねば男がすたる!

 トーマスはまだ真の力を隠しているようだが、勝っても負けても応援してくれるアーシェの為に全力を尽くすべきだ。
 俺は隣にいるトーマスに宣言した。

「トーマス君、お互い力を隠すなんて真似はもうやめようじゃありませんか。そんな姑息な策を用いず全力で戦う、それが青春です!」

「は? 何言ってんだお前」

 トーマスの魔力は相変わらずまだ高まる様子がない。
 そうか、ここまで言っても通じないか。

 ならばもう言うまい。
 俺は俺の全力を尽くすまでだ。

 俺は極限まで集中して魔力を高めていく。
 爆発的な力が全身にみなぎるのを感じた。
 その瞬間、スタートの合図が鳴り響く。

「うぉおおおおお!! 爆裂ロケットスタート!!!」

 俺は思わず中二病な台詞を叫びながら、弾丸のようにゴールの旗を目掛けて突き進んだ。



 ────


 ご覧頂きましてありがとうございます!
 いつも沢山の方にお読みいただきまして感謝です。

 もしよろしければ、同時連載中の『神速の成長チート!』もご覧になって下さいね。
 下のリンクから作品ページに飛べるようになっています。
 今40話まで公開していますのであちらも楽しんで頂ければ嬉しいです!

 それでは今後ともロイたちをよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

処理中です...