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32、スタートダッシュ
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このスタートラインから、ゴールの旗まで大体50メートル程度ってところか。
まあ、短距離のテストには程よい距離だな。
一緒に走る5人の中でトーマスはわざわざ俺の隣にやってくる。
そうまでしなくともどっちが勝ったのか直ぐに分かると思うんだが、どうあってもはっきり決着をつけたいらしい。
ツンツン頭を整えながら俺に言う。
「大体、ロイっていうその名前が気に入らないんだ。ここではっきり白黒つけてやる!」
「は、はぁ」
名前が気に入らないと言われても困る。
誰か他のロイっていう名前の奴に恨みでもあるのか?
まあ、そんなことを考えてもしょうがないか。
それにしても、妙だな。
程よい好勝負を演じたいと思って、さっきからトーマスの魔力の高まり具合を見ているんだが一向に高まる様子がない。
俺の目は特別製だから、相手の魔力の動きが分かるんだよな。
これを使って赤ん坊の時からママンの治療の時の魔力の動きを観察して、体内にある魔力を高める場所や方法を学んだ。
身体強化の仕方もアランの訓練を見て魔力を気のように体に纏わせる方法を勉強したもんだ。
その俺が見ても、トーマスの魔力の高まりは殆ど感じない。
まあしいて言えば、陽キャパリピ特有のオーラみたいなものがうっすらと見える気がするが、まさかあれがトーマスが高めた魔力じゃないよな?
確かに魔力ではあるが、弱すぎる。
いやいや、そんなはずがない。
あれほどの自信には根拠があるはずだ。
これでアンドニウスと戦うつもりだったのなら勇者過ぎる。
マジでぶっ殺されかねないからな。
あの時、俺がアンドニウスから感じた魔力がドラゴン級だとしたら今、トーマスから感じるのはヒヨコレベルだ。
俺は思わずトーマスの横顔を眺める。
その顔は恐ろしいほど自信満々だ。
……そうか。
恐ろしい奴め。
これは俺を油断させるための作戦か。
スタートギリギリまでこちらを油断させておいて、一気に魔力を高めて爆発的なスタートダッシュを決める。
陽キャの割には策士だな。
むしろ陰キャの俺が考えそうな戦法だ。
学校のマラソン大会で一緒に走ろうねと言っておいて、頃合いを見てみて自分だけ猛然とダッシュするあの手だな。
そんな下らないことを考えていると、着替えを終えた女子生徒たちが校庭にやってくる。
だが、そんなことはお構いなしに信者たちのトーマスへの応援はボルテージが上がっていく。
「トーマス、ロイになんて負けるなよ!」
「そうだ、俺たちはお前についていくぜ!!」
「「「トーマス! トーマス!!」」」
その異様な盛り上がりに、女子生徒たちはドン引きになっている。
まあ、当然だろう。
勝負の当事者の俺も若干引いてるからな。
そんな女子生徒の中に混ざってアーシェの姿も見えた。
運動着姿も可憐なアーシェは、この状況に戸惑っている様子だ。
そりゃそうだよな。
少し着替えに行って帰ってきてみたらいきなり、俺とトーマスのスポーツバトルが始まってるわけだから。
トーマス信者達の大声援の中、アーシェは思わず俯いてしまっている。
昨日あんな目にあったんだ、こんな状況になったら気後れしてしまうのは当然だろう。
しまったな。
アーシェを巻き込むつもりはなかったんだ。
俺がそう後悔していると、トーマスコールの大合唱の中、一人俺の名を叫ぶ声が聞こえてくる。
「ロイ! 頑張ってぇええ!!」
見ると先ほどまで俯いていたアーシェが、しっかりと顔を上げると俺の方を見て声を張り上げている。
凄い勇気だ。
トーマスの名が連呼される中で、一人俺の名前を叫ぶなんて並大抵のことじゃない。
勇気を振り絞るように、両手を胸の前でギュッと握りしめて俺を応援している。
その姿に俺は感動した。
これは全力を尽くさねば男がすたる!
トーマスはまだ真の力を隠しているようだが、勝っても負けても応援してくれるアーシェの為に全力を尽くすべきだ。
俺は隣にいるトーマスに宣言した。
「トーマス君、お互い力を隠すなんて真似はもうやめようじゃありませんか。そんな姑息な策を用いず全力で戦う、それが青春です!」
「は? 何言ってんだお前」
トーマスの魔力は相変わらずまだ高まる様子がない。
そうか、ここまで言っても通じないか。
ならばもう言うまい。
俺は俺の全力を尽くすまでだ。
俺は極限まで集中して魔力を高めていく。
爆発的な力が全身にみなぎるのを感じた。
その瞬間、スタートの合図が鳴り響く。
「うぉおおおおお!! 爆裂ロケットスタート!!!」
俺は思わず中二病な台詞を叫びながら、弾丸のようにゴールの旗を目掛けて突き進んだ。
────
ご覧頂きましてありがとうございます!
いつも沢山の方にお読みいただきまして感謝です。
もしよろしければ、同時連載中の『神速の成長チート!』もご覧になって下さいね。
下のリンクから作品ページに飛べるようになっています。
今40話まで公開していますのであちらも楽しんで頂ければ嬉しいです!
それでは今後ともロイたちをよろしくお願いします!
まあ、短距離のテストには程よい距離だな。
一緒に走る5人の中でトーマスはわざわざ俺の隣にやってくる。
そうまでしなくともどっちが勝ったのか直ぐに分かると思うんだが、どうあってもはっきり決着をつけたいらしい。
ツンツン頭を整えながら俺に言う。
「大体、ロイっていうその名前が気に入らないんだ。ここではっきり白黒つけてやる!」
「は、はぁ」
名前が気に入らないと言われても困る。
誰か他のロイっていう名前の奴に恨みでもあるのか?
まあ、そんなことを考えてもしょうがないか。
それにしても、妙だな。
程よい好勝負を演じたいと思って、さっきからトーマスの魔力の高まり具合を見ているんだが一向に高まる様子がない。
俺の目は特別製だから、相手の魔力の動きが分かるんだよな。
これを使って赤ん坊の時からママンの治療の時の魔力の動きを観察して、体内にある魔力を高める場所や方法を学んだ。
身体強化の仕方もアランの訓練を見て魔力を気のように体に纏わせる方法を勉強したもんだ。
その俺が見ても、トーマスの魔力の高まりは殆ど感じない。
まあしいて言えば、陽キャパリピ特有のオーラみたいなものがうっすらと見える気がするが、まさかあれがトーマスが高めた魔力じゃないよな?
確かに魔力ではあるが、弱すぎる。
いやいや、そんなはずがない。
あれほどの自信には根拠があるはずだ。
これでアンドニウスと戦うつもりだったのなら勇者過ぎる。
マジでぶっ殺されかねないからな。
あの時、俺がアンドニウスから感じた魔力がドラゴン級だとしたら今、トーマスから感じるのはヒヨコレベルだ。
俺は思わずトーマスの横顔を眺める。
その顔は恐ろしいほど自信満々だ。
……そうか。
恐ろしい奴め。
これは俺を油断させるための作戦か。
スタートギリギリまでこちらを油断させておいて、一気に魔力を高めて爆発的なスタートダッシュを決める。
陽キャの割には策士だな。
むしろ陰キャの俺が考えそうな戦法だ。
学校のマラソン大会で一緒に走ろうねと言っておいて、頃合いを見てみて自分だけ猛然とダッシュするあの手だな。
そんな下らないことを考えていると、着替えを終えた女子生徒たちが校庭にやってくる。
だが、そんなことはお構いなしに信者たちのトーマスへの応援はボルテージが上がっていく。
「トーマス、ロイになんて負けるなよ!」
「そうだ、俺たちはお前についていくぜ!!」
「「「トーマス! トーマス!!」」」
その異様な盛り上がりに、女子生徒たちはドン引きになっている。
まあ、当然だろう。
勝負の当事者の俺も若干引いてるからな。
そんな女子生徒の中に混ざってアーシェの姿も見えた。
運動着姿も可憐なアーシェは、この状況に戸惑っている様子だ。
そりゃそうだよな。
少し着替えに行って帰ってきてみたらいきなり、俺とトーマスのスポーツバトルが始まってるわけだから。
トーマス信者達の大声援の中、アーシェは思わず俯いてしまっている。
昨日あんな目にあったんだ、こんな状況になったら気後れしてしまうのは当然だろう。
しまったな。
アーシェを巻き込むつもりはなかったんだ。
俺がそう後悔していると、トーマスコールの大合唱の中、一人俺の名を叫ぶ声が聞こえてくる。
「ロイ! 頑張ってぇええ!!」
見ると先ほどまで俯いていたアーシェが、しっかりと顔を上げると俺の方を見て声を張り上げている。
凄い勇気だ。
トーマスの名が連呼される中で、一人俺の名前を叫ぶなんて並大抵のことじゃない。
勇気を振り絞るように、両手を胸の前でギュッと握りしめて俺を応援している。
その姿に俺は感動した。
これは全力を尽くさねば男がすたる!
トーマスはまだ真の力を隠しているようだが、勝っても負けても応援してくれるアーシェの為に全力を尽くすべきだ。
俺は隣にいるトーマスに宣言した。
「トーマス君、お互い力を隠すなんて真似はもうやめようじゃありませんか。そんな姑息な策を用いず全力で戦う、それが青春です!」
「は? 何言ってんだお前」
トーマスの魔力は相変わらずまだ高まる様子がない。
そうか、ここまで言っても通じないか。
ならばもう言うまい。
俺は俺の全力を尽くすまでだ。
俺は極限まで集中して魔力を高めていく。
爆発的な力が全身にみなぎるのを感じた。
その瞬間、スタートの合図が鳴り響く。
「うぉおおおおお!! 爆裂ロケットスタート!!!」
俺は思わず中二病な台詞を叫びながら、弾丸のようにゴールの旗を目掛けて突き進んだ。
────
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