33 / 73
33、新記録
しおりを挟む
白い閃光と呼ばれた父親のアランよろしく、俺は全身を活性化して一気に駆け抜ける。
今は剣こそ手にしてないが、朝の修行の時に一気に間合いを詰めて岩を切り裂く時のあの要領だ。
だてに中二病な通り名を持つ父親の真似事を、赤ん坊の時からしてきたわけではない。
俺は、脇目もふらず50メートルほど先に立っている旗のところへと駆け抜けると剣をふる要領でその旗を手に取った。
まあ、正直そんなことをする必要はなかったのかもしれないが、これも青春というものの熱さが成せるわざだろう。
策士のトーマスのことだ、あれから一気に力を解放して俺たちは見事な学園ドラマを繰り広げたはずだ。
ふふ、勝ったのは俺だけどな。
アーシェにあんなに必死に応援されたら負けるわけにはいかない。
俺は振り返るとすぐ後ろにいるはずのトーマスに話しかけた。
「はは、トーマス君! 勝ったのは僕だね。でも君も凄かったよ!」
俺は爽やかな笑顔でニッコリと笑うとそう言った。
アニメならきっとここできらりと白い歯が光っているだろう。
勝ってなお敗者を称賛する。
そして、ここから俺とトーマスの友情が始まるのだ。
俺がアニメで見てきた学園モノのスポーツバトルの定番の流れである。
前世では碌に学園生活を送れなかったが、アニメで勉強をしてきてよかった。
やはり予習というのは大事だな。
ん?
俺は思わず固まった。
どういうことだ?
振り返ったらすぐそこにいるはずのトーマスはまだ遥か向こうに見える。
スタートラインに立って呆然とこちらを眺めていた。
トーマスだけではなく、一緒にスタートする他の生徒たちも同じだ。
あれほど大歓声を上げていたトーマス信者たちも静まり返っている。
俺は戸惑いながら皆に声をかけた。
「あ、あの……俺、もしかしてフライングしちゃいました?」
アーシェの応援が嬉しくて、思いっきりロケットスタートしたからな。
合図を聞いてからスタートしたつもりだったが、少しフライング気味だったのだろうか。
マッチョ教師も固まっている。
アーシェも目を大きく開けて、言葉を失ったようにこちらを見つめている。
……待てよ。
もしかしてこれ、やり過ぎたのか?
俺はようやく気が付いた。
幼い頃からアランの動きを見てきたから、あれが常識になっていた。
ママンやラフィーネも一緒に四人でパーティを組んで戦った時も、アランの動きはこれぐらいが当たり前だったからな。
やばい人たちと一緒にいたせいで自分の感覚もおかしくなってるのか?
アンドニウスの魔力は俺から見ても相当ヤバかったからな、10歳でもあれぐらいの奴が普通にいるものだと思っていたが違うらしい。
その時、静寂を破るように目玉のような水晶がついた魔道具が俺の記録を発表した。
「今の記録、2秒1。新入生運動テスト史上、最高記録です」
2秒1って……
これが倍の100メートルだとしたら、4秒ぐらいの速さってことか。
自分のタイムなんてはかったことがなかったが、元の世界ならぶっちぎりで金メダルが取れてさらにおつりがくるレベルだ。
よく通るその魔道具の音声に、辺りは完全に静まり返っていた。
そして、その後、アーシェの声が辺りに響く。
「ロイ! 凄い凄い!! 新記録だって!」
そう言って嬉しそうにこちらに駆けてくるアーシェは、相変わらずの天使だ。
そして、その声が呼び水になったように、辺りはいつの間にか俺の名を呼ぶ生徒たちの大歓声に包まれていった。
「うぉおおおおお!!」
「凄え! まるで稲妻みたいだ!!」
「ロイ! ロイ!! 俺たちはお前についていくぜ!!」
おい、お前はさっきまでトーマス信者だっただろうが。
覚えてるぞ。
早速裏切者が出始めたようである。
そんな中、トーマスがこちらにやってくると俺を指さして言った。
「おい! お前どんな手を使ったんだよ! あんなに早く走れる奴がいるわけねえ! なにかズルしたんだろう、卑怯な真似しやがって!!」
「は、はぁ。そう言われましても」
ズルどころかガチでやり過ぎた結果である。
どうやら、勝負には勝ったが友情など生まれてくる気配がない。
アニメでの予習は現実では全く役に立たなかったようだ。
すると、俺の背後から声がした。
「トーマスいい加減にしなさい! 久しぶりに都に帰って来たから、あんたの顔でも見ようってやってきたのに。情けないったらありゃしない」
俺はその声に振り返った。
そして、そこに立っている意外な人物を見て、思わず目を見開いた。
今は剣こそ手にしてないが、朝の修行の時に一気に間合いを詰めて岩を切り裂く時のあの要領だ。
だてに中二病な通り名を持つ父親の真似事を、赤ん坊の時からしてきたわけではない。
俺は、脇目もふらず50メートルほど先に立っている旗のところへと駆け抜けると剣をふる要領でその旗を手に取った。
まあ、正直そんなことをする必要はなかったのかもしれないが、これも青春というものの熱さが成せるわざだろう。
策士のトーマスのことだ、あれから一気に力を解放して俺たちは見事な学園ドラマを繰り広げたはずだ。
ふふ、勝ったのは俺だけどな。
アーシェにあんなに必死に応援されたら負けるわけにはいかない。
俺は振り返るとすぐ後ろにいるはずのトーマスに話しかけた。
「はは、トーマス君! 勝ったのは僕だね。でも君も凄かったよ!」
俺は爽やかな笑顔でニッコリと笑うとそう言った。
アニメならきっとここできらりと白い歯が光っているだろう。
勝ってなお敗者を称賛する。
そして、ここから俺とトーマスの友情が始まるのだ。
俺がアニメで見てきた学園モノのスポーツバトルの定番の流れである。
前世では碌に学園生活を送れなかったが、アニメで勉強をしてきてよかった。
やはり予習というのは大事だな。
ん?
俺は思わず固まった。
どういうことだ?
振り返ったらすぐそこにいるはずのトーマスはまだ遥か向こうに見える。
スタートラインに立って呆然とこちらを眺めていた。
トーマスだけではなく、一緒にスタートする他の生徒たちも同じだ。
あれほど大歓声を上げていたトーマス信者たちも静まり返っている。
俺は戸惑いながら皆に声をかけた。
「あ、あの……俺、もしかしてフライングしちゃいました?」
アーシェの応援が嬉しくて、思いっきりロケットスタートしたからな。
合図を聞いてからスタートしたつもりだったが、少しフライング気味だったのだろうか。
マッチョ教師も固まっている。
アーシェも目を大きく開けて、言葉を失ったようにこちらを見つめている。
……待てよ。
もしかしてこれ、やり過ぎたのか?
俺はようやく気が付いた。
幼い頃からアランの動きを見てきたから、あれが常識になっていた。
ママンやラフィーネも一緒に四人でパーティを組んで戦った時も、アランの動きはこれぐらいが当たり前だったからな。
やばい人たちと一緒にいたせいで自分の感覚もおかしくなってるのか?
アンドニウスの魔力は俺から見ても相当ヤバかったからな、10歳でもあれぐらいの奴が普通にいるものだと思っていたが違うらしい。
その時、静寂を破るように目玉のような水晶がついた魔道具が俺の記録を発表した。
「今の記録、2秒1。新入生運動テスト史上、最高記録です」
2秒1って……
これが倍の100メートルだとしたら、4秒ぐらいの速さってことか。
自分のタイムなんてはかったことがなかったが、元の世界ならぶっちぎりで金メダルが取れてさらにおつりがくるレベルだ。
よく通るその魔道具の音声に、辺りは完全に静まり返っていた。
そして、その後、アーシェの声が辺りに響く。
「ロイ! 凄い凄い!! 新記録だって!」
そう言って嬉しそうにこちらに駆けてくるアーシェは、相変わらずの天使だ。
そして、その声が呼び水になったように、辺りはいつの間にか俺の名を呼ぶ生徒たちの大歓声に包まれていった。
「うぉおおおおお!!」
「凄え! まるで稲妻みたいだ!!」
「ロイ! ロイ!! 俺たちはお前についていくぜ!!」
おい、お前はさっきまでトーマス信者だっただろうが。
覚えてるぞ。
早速裏切者が出始めたようである。
そんな中、トーマスがこちらにやってくると俺を指さして言った。
「おい! お前どんな手を使ったんだよ! あんなに早く走れる奴がいるわけねえ! なにかズルしたんだろう、卑怯な真似しやがって!!」
「は、はぁ。そう言われましても」
ズルどころかガチでやり過ぎた結果である。
どうやら、勝負には勝ったが友情など生まれてくる気配がない。
アニメでの予習は現実では全く役に立たなかったようだ。
すると、俺の背後から声がした。
「トーマスいい加減にしなさい! 久しぶりに都に帰って来たから、あんたの顔でも見ようってやってきたのに。情けないったらありゃしない」
俺はその声に振り返った。
そして、そこに立っている意外な人物を見て、思わず目を見開いた。
14
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在4巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる