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39、決意
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新入生の前にまるで表彰台のように三人並べられた俺たち。
アーシェが俺に微笑む。
「ロイ、おめでとう!」
「はは、ありがとう。アーシェも二位おめでとう」
「えへへ、なんだか凄く体が軽くて自分でもびっくりしちゃった」
うむ、この笑顔を見ればビビが力を貸したくなる気持ちは分かる。
マッチョ教師は俺たちに言う。
「よく頑張った、これからも励むように! それから上位十名の者については現時点で魔法科への配属が決定した。その者たちは前半の試験はこれで終了となる。各自、後半の試験に備えるように。後半の実技試験に必要な剣や杖などの武具を持っていない者は、申告すれば学園から手配がされる。申請書を渡すから明日までに提出するように」
教師のその言葉に、先程読み上げられた十名は悲喜こもごもな声を上げる。
「やった、魔法科だわ!」
「うえ……魔法科かよ。あっちって貴族の子供ばっかりだろ。普通科が良かったぜ」
「大丈夫だって! 俺たちにはロイやトーマスがいるからさ」
魔法科に進みたい者もいれば、そうでない者もいる。
プライドが高い貴族は多いからな。
そんな中に入っていくのは嫌だと思う者がいるのもよく分かる気はする。
アーシェだって、最初は魔法が使えることを隠すつもりだったみたいだし。
俺はアーシェに尋ねた。
「アーシェ、魔法科だけどよかったかな」
「うん! だってロイがいるもん!」
本当にマジ天使である。
この笑顔は俺が守らなきゃな。
ラフィーネ先生もいてくれるのが心強い。
どうやら、成績の上位十名はここで前半の試験が終わりになるようだ。
前半の試験はざっくりと魔法科と普通科を分ける為のものみたいだから、確定した十名以外はここからさらにその選考を進めるのだろう。
後半の試験は実技試験が中心だから、剣や杖がない者は学園から配られるらしい。
「俺にはこの相棒があるからいいか」
俺はそう呟くと、今腰に提げている剣を見つめる。
五歳の時にアランに貰ったものだ。
その時は体に比べて大きかったけど、今は丁度いいもんな。
毎朝の訓練にも使ってるし、使い慣れてる。
優れた剣士であるアランが選んだだけあって、とてもいい剣だ。
アーシェには剣も杖もないけど、学園への申請は不要だろうな。
一緒に魔法科に入ることが決まったっていえば、ママンとアランが大喜びで必要な装備を選びにいくだろう。
アーシェの場合は剣よりも杖かもしれないな。
まあ、そこはあの二人とラフィーネに任せるか。
何しろ、かつて伝説と呼ばれた冒険者パーティのメンバーだ。
実戦で鍛えたその目で選んだものには間違いがないだろう。
学園からの武具の貸与を希望する生徒たちに、申請書を配り終えた後にマッチョ教師は俺をみんなから少し離れた場所に連れていくと言った。
「ロイ・リンドグルーム。お前の成績は前半試験の歴代の最高記録だ。学園に提出された貴族の子息のものと比較しても、並ぶ者があるとしたら氷帝と呼ばれるフォーゲル伯の御子息ぐらいだろう」
アンドニウスか。
マッチョ教師は俺を眺めながら言った。
「氷帝の御子息と同じ年に入学とは、お前も運が悪い。もしも、筆頭試験への参加を見送りたいのなら。魔法科に入ってからは上手くやることだ」
筆頭試験か。
新入生最強を決める試験らしいな。
それにしても……
「上手くやる? 先生、それはどういう意味でしょうか」
「言わなくとも分かるだろう? 出る杭は打たれる。程よく手を抜け。氷帝の御子息に恥をかかせぬようにな」
……なるほどな。
圧力か。
この教師が自発的に忖度したのか、それともどこかから指示をされたのかは分からないが汚いやり方だ。
俺は深く息を吐くとマッチョ教師に答える。
「お断りします」
第一、そんなことをしても、あの手の連中がこちらへの手を緩めることはない。
寧ろ御しやすいと思えば幾らでも無茶なことをやってくる連中だ。
少なくとも俺にはそう思えた。
それを前世で嫌となるほど経験してきたんだ。
逆らうのをやめた後も、あいつらは俺を毎日殴り、蹴り続けた。
楽しそうに笑いながら。
その時のあいつらの顔を、俺は絶対に忘れることが出来ない。
そして、アーシェを蹴り飛ばしたアンドニウスたちのことも。
アンドニウスを黙らせるとしたら、逆だ。
俺が新入生の筆頭になって、あの連中を黙らせるしかない。
氷帝の息子に忖度するこの教師を眺めながら、俺はそう決意した。
あの時の俺の担任とそっくりだ。
『騒ぎを大きくするな。大人しくしていればいずれいじめもおさまる。それがお前の為だ』
俺の話を聞き終えた後、最後に教師がしたり顔で言ったその言葉を俺は忘れない。
その日から俺は学校へ行くことをやめた。
こちらの返事が気に入らなかったのか、マッチョ教師は少し声を荒げた。
「なんだと!? 今なんて言った」
「断ると言ったんです」
「俺はお前の為に言ってるんだぞ!!」
本当に嫌になるほどよく似ている。
「先生のお蔭で決心がつきました。俺は新入生の筆頭を目指すことにします!」
そう宣言した俺の背後から、誰かが近づいてくるのを感じる。
そいつは、俺の宣言を聞いて愉快そうに笑った。
「新入生筆頭だと? ふふ、ははは! なら、筆頭試験など待つ必要はない。ここで決着をつけてやるぜ、ロイ・リンドグルーム」
俺が振り返ると、そこにはこちらに歩いてくるアンドニウスとその取り巻きが見えた。
アーシェが俺に微笑む。
「ロイ、おめでとう!」
「はは、ありがとう。アーシェも二位おめでとう」
「えへへ、なんだか凄く体が軽くて自分でもびっくりしちゃった」
うむ、この笑顔を見ればビビが力を貸したくなる気持ちは分かる。
マッチョ教師は俺たちに言う。
「よく頑張った、これからも励むように! それから上位十名の者については現時点で魔法科への配属が決定した。その者たちは前半の試験はこれで終了となる。各自、後半の試験に備えるように。後半の実技試験に必要な剣や杖などの武具を持っていない者は、申告すれば学園から手配がされる。申請書を渡すから明日までに提出するように」
教師のその言葉に、先程読み上げられた十名は悲喜こもごもな声を上げる。
「やった、魔法科だわ!」
「うえ……魔法科かよ。あっちって貴族の子供ばっかりだろ。普通科が良かったぜ」
「大丈夫だって! 俺たちにはロイやトーマスがいるからさ」
魔法科に進みたい者もいれば、そうでない者もいる。
プライドが高い貴族は多いからな。
そんな中に入っていくのは嫌だと思う者がいるのもよく分かる気はする。
アーシェだって、最初は魔法が使えることを隠すつもりだったみたいだし。
俺はアーシェに尋ねた。
「アーシェ、魔法科だけどよかったかな」
「うん! だってロイがいるもん!」
本当にマジ天使である。
この笑顔は俺が守らなきゃな。
ラフィーネ先生もいてくれるのが心強い。
どうやら、成績の上位十名はここで前半の試験が終わりになるようだ。
前半の試験はざっくりと魔法科と普通科を分ける為のものみたいだから、確定した十名以外はここからさらにその選考を進めるのだろう。
後半の試験は実技試験が中心だから、剣や杖がない者は学園から配られるらしい。
「俺にはこの相棒があるからいいか」
俺はそう呟くと、今腰に提げている剣を見つめる。
五歳の時にアランに貰ったものだ。
その時は体に比べて大きかったけど、今は丁度いいもんな。
毎朝の訓練にも使ってるし、使い慣れてる。
優れた剣士であるアランが選んだだけあって、とてもいい剣だ。
アーシェには剣も杖もないけど、学園への申請は不要だろうな。
一緒に魔法科に入ることが決まったっていえば、ママンとアランが大喜びで必要な装備を選びにいくだろう。
アーシェの場合は剣よりも杖かもしれないな。
まあ、そこはあの二人とラフィーネに任せるか。
何しろ、かつて伝説と呼ばれた冒険者パーティのメンバーだ。
実戦で鍛えたその目で選んだものには間違いがないだろう。
学園からの武具の貸与を希望する生徒たちに、申請書を配り終えた後にマッチョ教師は俺をみんなから少し離れた場所に連れていくと言った。
「ロイ・リンドグルーム。お前の成績は前半試験の歴代の最高記録だ。学園に提出された貴族の子息のものと比較しても、並ぶ者があるとしたら氷帝と呼ばれるフォーゲル伯の御子息ぐらいだろう」
アンドニウスか。
マッチョ教師は俺を眺めながら言った。
「氷帝の御子息と同じ年に入学とは、お前も運が悪い。もしも、筆頭試験への参加を見送りたいのなら。魔法科に入ってからは上手くやることだ」
筆頭試験か。
新入生最強を決める試験らしいな。
それにしても……
「上手くやる? 先生、それはどういう意味でしょうか」
「言わなくとも分かるだろう? 出る杭は打たれる。程よく手を抜け。氷帝の御子息に恥をかかせぬようにな」
……なるほどな。
圧力か。
この教師が自発的に忖度したのか、それともどこかから指示をされたのかは分からないが汚いやり方だ。
俺は深く息を吐くとマッチョ教師に答える。
「お断りします」
第一、そんなことをしても、あの手の連中がこちらへの手を緩めることはない。
寧ろ御しやすいと思えば幾らでも無茶なことをやってくる連中だ。
少なくとも俺にはそう思えた。
それを前世で嫌となるほど経験してきたんだ。
逆らうのをやめた後も、あいつらは俺を毎日殴り、蹴り続けた。
楽しそうに笑いながら。
その時のあいつらの顔を、俺は絶対に忘れることが出来ない。
そして、アーシェを蹴り飛ばしたアンドニウスたちのことも。
アンドニウスを黙らせるとしたら、逆だ。
俺が新入生の筆頭になって、あの連中を黙らせるしかない。
氷帝の息子に忖度するこの教師を眺めながら、俺はそう決意した。
あの時の俺の担任とそっくりだ。
『騒ぎを大きくするな。大人しくしていればいずれいじめもおさまる。それがお前の為だ』
俺の話を聞き終えた後、最後に教師がしたり顔で言ったその言葉を俺は忘れない。
その日から俺は学校へ行くことをやめた。
こちらの返事が気に入らなかったのか、マッチョ教師は少し声を荒げた。
「なんだと!? 今なんて言った」
「断ると言ったんです」
「俺はお前の為に言ってるんだぞ!!」
本当に嫌になるほどよく似ている。
「先生のお蔭で決心がつきました。俺は新入生の筆頭を目指すことにします!」
そう宣言した俺の背後から、誰かが近づいてくるのを感じる。
そいつは、俺の宣言を聞いて愉快そうに笑った。
「新入生筆頭だと? ふふ、ははは! なら、筆頭試験など待つ必要はない。ここで決着をつけてやるぜ、ロイ・リンドグルーム」
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