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40、火花
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氷帝と呼ばれるこの国の英雄の息子、アンドニウス。
相変わらず偉そうな態度だ。
親の権威もあって怖いもの知らずで生きてきたのだろう。
傍に立っているマッチョ教師は、俺に言った。
「お、俺は忠告はしたぞ!」
そしてアンドニウスを見ると目を逸らすようにしてその場を足早に立ち去った。
なんて野郎だ。
見て見ぬ振りも程がある。
自分は何も知らなかったことにしたいのだろう。
アンドニウス、ひいてはその父親の氷帝ともめることを恐れて。
俺の為というさっき言葉が本当なら、見て見ぬふりなどするはずもない。
アンドニウスはその姿を見て笑う。
「デカい体してるくせにビビりやがって。どいつもこいつも父上の名前を聞くと鼠のように小さくなりやがる。クズが……」
そう吐き捨てると俺に言った。
「てめえはどうだ、ロイ・リンドグルーム」
俺はそれには答えずにトーマスに言った。
「トーマス! 皆を連れて、ここから離れろ。今すぐに!」
「で、でもよロイ!」
「いいから早く!」
俺の断固とした口調に、トーマスは大きく頷く。
俺の前に立っているアンドニウスの足元がビキビキと音を立てて凍り付いていくのを見たのだろう。
とんでもない魔力が奴から放出されている。
こいつは本当に危険な相手だ。
入学式のあの時よりも更に魔力が高まっている。
理由は直ぐに分かった。
こいつが手に持っている剣だ。
そこには家紋らしき紋章が描かれている。
おそらくフォーゲル伯爵家、つまり氷帝の紋章だろう。
一体どんな代物かは分からないが、あの剣が危険なアイテムだってことぐらいは俺にもわかる。
「トーマス!!」
俺はもう一度トーマスに促す。
それを聞いて、トーマスは俺に叫んだ。
「わ、わかったロイ! 皆行くぞ! 俺たちがいるとロイの邪魔になる。お、俺は生徒会に行ってくる! 待ってろよロイ!」
教師はもう信頼が出来ないのだろう。
そう言って校舎に駆けだしたトーマスの代わりに、トーマス軍団の皆が新入生たちを校庭から遠ざけてくれる。
そこにポツンと残っているのはアーシェだ。
「アーシェ!」
「私はここにいる! ……だって、ロイは逃げなかったもん。私を守ってくれたもん!」
俺はゆっくり息を吐くと、肩の上に姿を現したビビに言った。
「先生、アーシェを頼みます」
「ああ、任せときな。でもロイ、あんた一人でやるつもりかい? あれは氷帝の紋章だ、あんなガキが使いこなせるのか分からないが、危険な代物だよ」
「ええ、ですから俺も本気を出すことにします」
「ロイ……分かった。でもいざという時は私も手を貸すよ」
俺の言葉にビビは頷くと、俺の肩の上から姿を消すとアーシェの方へと向かう。
同時に俺の周囲に強烈な魔力が渦巻いていく。
アンドニウスの取り巻き達が、声を上げる。
「な、なんだ! この魔力は!!?」
「あり得ねえ……さっきまでとは別人じゃねえか」
赤ん坊の時からずっと毎日ひたすら魔力を高める修行をしてきた。
俺は一度失敗してるからな。
両親の前で岩をぶった切って、冷や汗をかいた。
それ以来、意識的に普段の自分の力を抑えるようにしている。
今の俺の本当の力を知っているのは、師匠であるラフィーネ先生だけだろう。
強烈な魔力が作り上げる上昇気流が俺の髪の毛を逆立てている。
今ならさっきの短距離走は遥かに速く走れるはずだ。
アンドニウスは剣を手に俺を睨んだ。
「てめえ……」
俺は腰の剣を抜くと奴に答えた。
「こいよ、アンドニウス。決着をつけてやる」
その瞬間──
一気にこちらに飛び込んできたアンドニウスの剣と、俺が腰から抜いた剣がぶつかり合い火花を散らした。
相変わらず偉そうな態度だ。
親の権威もあって怖いもの知らずで生きてきたのだろう。
傍に立っているマッチョ教師は、俺に言った。
「お、俺は忠告はしたぞ!」
そしてアンドニウスを見ると目を逸らすようにしてその場を足早に立ち去った。
なんて野郎だ。
見て見ぬ振りも程がある。
自分は何も知らなかったことにしたいのだろう。
アンドニウス、ひいてはその父親の氷帝ともめることを恐れて。
俺の為というさっき言葉が本当なら、見て見ぬふりなどするはずもない。
アンドニウスはその姿を見て笑う。
「デカい体してるくせにビビりやがって。どいつもこいつも父上の名前を聞くと鼠のように小さくなりやがる。クズが……」
そう吐き捨てると俺に言った。
「てめえはどうだ、ロイ・リンドグルーム」
俺はそれには答えずにトーマスに言った。
「トーマス! 皆を連れて、ここから離れろ。今すぐに!」
「で、でもよロイ!」
「いいから早く!」
俺の断固とした口調に、トーマスは大きく頷く。
俺の前に立っているアンドニウスの足元がビキビキと音を立てて凍り付いていくのを見たのだろう。
とんでもない魔力が奴から放出されている。
こいつは本当に危険な相手だ。
入学式のあの時よりも更に魔力が高まっている。
理由は直ぐに分かった。
こいつが手に持っている剣だ。
そこには家紋らしき紋章が描かれている。
おそらくフォーゲル伯爵家、つまり氷帝の紋章だろう。
一体どんな代物かは分からないが、あの剣が危険なアイテムだってことぐらいは俺にもわかる。
「トーマス!!」
俺はもう一度トーマスに促す。
それを聞いて、トーマスは俺に叫んだ。
「わ、わかったロイ! 皆行くぞ! 俺たちがいるとロイの邪魔になる。お、俺は生徒会に行ってくる! 待ってろよロイ!」
教師はもう信頼が出来ないのだろう。
そう言って校舎に駆けだしたトーマスの代わりに、トーマス軍団の皆が新入生たちを校庭から遠ざけてくれる。
そこにポツンと残っているのはアーシェだ。
「アーシェ!」
「私はここにいる! ……だって、ロイは逃げなかったもん。私を守ってくれたもん!」
俺はゆっくり息を吐くと、肩の上に姿を現したビビに言った。
「先生、アーシェを頼みます」
「ああ、任せときな。でもロイ、あんた一人でやるつもりかい? あれは氷帝の紋章だ、あんなガキが使いこなせるのか分からないが、危険な代物だよ」
「ええ、ですから俺も本気を出すことにします」
「ロイ……分かった。でもいざという時は私も手を貸すよ」
俺の言葉にビビは頷くと、俺の肩の上から姿を消すとアーシェの方へと向かう。
同時に俺の周囲に強烈な魔力が渦巻いていく。
アンドニウスの取り巻き達が、声を上げる。
「な、なんだ! この魔力は!!?」
「あり得ねえ……さっきまでとは別人じゃねえか」
赤ん坊の時からずっと毎日ひたすら魔力を高める修行をしてきた。
俺は一度失敗してるからな。
両親の前で岩をぶった切って、冷や汗をかいた。
それ以来、意識的に普段の自分の力を抑えるようにしている。
今の俺の本当の力を知っているのは、師匠であるラフィーネ先生だけだろう。
強烈な魔力が作り上げる上昇気流が俺の髪の毛を逆立てている。
今ならさっきの短距離走は遥かに速く走れるはずだ。
アンドニウスは剣を手に俺を睨んだ。
「てめえ……」
俺は腰の剣を抜くと奴に答えた。
「こいよ、アンドニウス。決着をつけてやる」
その瞬間──
一気にこちらに飛び込んできたアンドニウスの剣と、俺が腰から抜いた剣がぶつかり合い火花を散らした。
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