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70、剣聖
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アリシアの店の入り口のところで、俺は中にいるそのじいさんを睨んでいた。
一体何者だ?
その身なりからして、身分が高いのが分かる。
それに、気配が並みの人間のものとは違う。
それはその隣にいるもう一人のじいさんも同じだ。
歳は重ねているが、敵に回すと厄介な相手の気配がする。
あのド迫力校長程あからさまではないが、同じ系統の匂いがする。
間違いなく関わったらヤバい奴だ。
普段の俺なら、町で出会ったらそっと目を逸らしてやり過ごしただろう。
だが、俺も黙っていることは出来なかった。
さっき聞いた内容が内容だったからな。
ここに入ってくる時に聞こえたアリシアの言葉を思い出す。
「そういえば、昨日私アラン様のところへ行ってきたんですよ! ロイ様も今年士官学校に入ることになって。もしかして、デュラン様! アラン様やロイ様に会いに? だったら、きっと皆さん喜ばれますわ!」
そして、あのじいさんの答えも。
「アランだと? 二度とワシの前でその名を口にするな。奴は、ラドフェルスト家の恥だ。二度と顔を合わせるつもりはない!」
あれは一体どういうことだ?
それに、あのじいさんの名前はデュランと言うらしい。
しかも、ラドフェルスト家と言っていた。
つまり、このじじいはデュラン・ラドフェルストということだ。
この世界でも、ぬくぬくとした家に引きこもってきたお蔭で世間の話に疎い俺でもその名前ぐらいは知っている。
剣聖デュラン・ラドフェルスト。
同姓同名の別人でもなければ、間違いないだろう。
それに、この常人離れした気配もそれならば納得がいく。
今朝はアーシェと一緒に朝練をして気持ちよくアリシアの店にやってきた。
それがよりにもよって、こんなヤバイ奴に出会うことになるとはな。
こちらを見るそのじいさんの眼光に一瞬、俺は動きがとれなくなる。
動いた瞬間、斬れらるような錯覚を抱くほどの威圧感だ。
だが、人間気が付かないというのは偉大な才能のようで、トーマスは俺とそのじいさんの間にはしっている緊張感に気が付かない様子で俺のところへやってくる。
「来たのか、ロイ! 待ってたぜ。なあ、このじいさんたち凄いんだぜ! 雷帝と剣聖だってよ!」
「ああ……」
……そうか、もう一人は雷帝か。
それなら、この気配も頷ける。
やはり、出会ったらそっと目を背けるのが正解な相手だ。
ケルヴィンのひいじいさんって話だったが、とても老人だとは思えない程の覇気を身に纏っている。
この年齢でこれなら、全盛期は間違いなくあのド迫力校長と同じレベルの存在だろう。
よりにもよって、雷帝と剣聖がどうしてこんなところに。
しかも、どうやら剣聖とやらは俺やアランと無関係ではないらしい。
じいさんの姿を見て、俺の隣にいるラフィーネ先生が軽く舌打ちをする。
「ちっ……まさか、こんなところで出くわすなんてね。どうして、都になんているんだい」
どうやら、先生もあのじいさんの顔を見知っている様子だ。
「先生、知ってるんですか?」
「ああ、昔ちょっと色々あってね」
そうか、やっぱり朝、先生とアランが話していたのはこのじいさんのことか。
ラフィーネ先生が俺の手を取ると言う。
「帰るよ、ロイ! 今日は日が悪い。改めて出直すとしよう」
「せ、先生」
ラフィーネは強く俺とアーシェの手を引くと、この場を離れようとした。
思わず背を向けた俺にじいさんは言った。
「そうか、お前がロイか。ろくな挨拶もせず、こそこそと背を向けて逃げるあたり奴によく似ておる。やはり無駄足だったか。父親が臆病者ならば、その息子もそうであろうからな」
その瞬間──
俺の周囲に凄まじい魔力が巻き起こる。
先生がそれを見て声を上げた。
「ロイ! 駄目だよ!!」
先生に言われなくても分かってる。
こいつは、相手にしては駄目な奴だ。
この国で五本の指には入りそうなほどヤバイ相手だろう。
だが、俺にも決して譲れないことがある。
アランは俺にとって誰よりも立派な父親だ。こんなじじいに悪しざまに言われる筋合いはない。
先生が止める前に俺は振り返ると言っていた。
「臆病者だと……黙れよこのくそじいい。もう一度言ってみろ」
一体何者だ?
その身なりからして、身分が高いのが分かる。
それに、気配が並みの人間のものとは違う。
それはその隣にいるもう一人のじいさんも同じだ。
歳は重ねているが、敵に回すと厄介な相手の気配がする。
あのド迫力校長程あからさまではないが、同じ系統の匂いがする。
間違いなく関わったらヤバい奴だ。
普段の俺なら、町で出会ったらそっと目を逸らしてやり過ごしただろう。
だが、俺も黙っていることは出来なかった。
さっき聞いた内容が内容だったからな。
ここに入ってくる時に聞こえたアリシアの言葉を思い出す。
「そういえば、昨日私アラン様のところへ行ってきたんですよ! ロイ様も今年士官学校に入ることになって。もしかして、デュラン様! アラン様やロイ様に会いに? だったら、きっと皆さん喜ばれますわ!」
そして、あのじいさんの答えも。
「アランだと? 二度とワシの前でその名を口にするな。奴は、ラドフェルスト家の恥だ。二度と顔を合わせるつもりはない!」
あれは一体どういうことだ?
それに、あのじいさんの名前はデュランと言うらしい。
しかも、ラドフェルスト家と言っていた。
つまり、このじじいはデュラン・ラドフェルストということだ。
この世界でも、ぬくぬくとした家に引きこもってきたお蔭で世間の話に疎い俺でもその名前ぐらいは知っている。
剣聖デュラン・ラドフェルスト。
同姓同名の別人でもなければ、間違いないだろう。
それに、この常人離れした気配もそれならば納得がいく。
今朝はアーシェと一緒に朝練をして気持ちよくアリシアの店にやってきた。
それがよりにもよって、こんなヤバイ奴に出会うことになるとはな。
こちらを見るそのじいさんの眼光に一瞬、俺は動きがとれなくなる。
動いた瞬間、斬れらるような錯覚を抱くほどの威圧感だ。
だが、人間気が付かないというのは偉大な才能のようで、トーマスは俺とそのじいさんの間にはしっている緊張感に気が付かない様子で俺のところへやってくる。
「来たのか、ロイ! 待ってたぜ。なあ、このじいさんたち凄いんだぜ! 雷帝と剣聖だってよ!」
「ああ……」
……そうか、もう一人は雷帝か。
それなら、この気配も頷ける。
やはり、出会ったらそっと目を背けるのが正解な相手だ。
ケルヴィンのひいじいさんって話だったが、とても老人だとは思えない程の覇気を身に纏っている。
この年齢でこれなら、全盛期は間違いなくあのド迫力校長と同じレベルの存在だろう。
よりにもよって、雷帝と剣聖がどうしてこんなところに。
しかも、どうやら剣聖とやらは俺やアランと無関係ではないらしい。
じいさんの姿を見て、俺の隣にいるラフィーネ先生が軽く舌打ちをする。
「ちっ……まさか、こんなところで出くわすなんてね。どうして、都になんているんだい」
どうやら、先生もあのじいさんの顔を見知っている様子だ。
「先生、知ってるんですか?」
「ああ、昔ちょっと色々あってね」
そうか、やっぱり朝、先生とアランが話していたのはこのじいさんのことか。
ラフィーネ先生が俺の手を取ると言う。
「帰るよ、ロイ! 今日は日が悪い。改めて出直すとしよう」
「せ、先生」
ラフィーネは強く俺とアーシェの手を引くと、この場を離れようとした。
思わず背を向けた俺にじいさんは言った。
「そうか、お前がロイか。ろくな挨拶もせず、こそこそと背を向けて逃げるあたり奴によく似ておる。やはり無駄足だったか。父親が臆病者ならば、その息子もそうであろうからな」
その瞬間──
俺の周囲に凄まじい魔力が巻き起こる。
先生がそれを見て声を上げた。
「ロイ! 駄目だよ!!」
先生に言われなくても分かってる。
こいつは、相手にしては駄目な奴だ。
この国で五本の指には入りそうなほどヤバイ相手だろう。
だが、俺にも決して譲れないことがある。
アランは俺にとって誰よりも立派な父親だ。こんなじじいに悪しざまに言われる筋合いはない。
先生が止める前に俺は振り返ると言っていた。
「臆病者だと……黙れよこのくそじいい。もう一度言ってみろ」
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