ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太

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69、エミリアのカード

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「剣聖流って確か、東方の地を治めるデュラン・ラドフェルスト伯爵が編み出した剣術よね。魔力による身体強化に特化した技が多いと聞いたけど」

 娘の言葉にエミリアは頷く。

「ええ、剣聖デュラン・ラドフェルスト。ケルヴィンのひいおじい様でもある、雷帝ルーファス・ゼオリヌスの盟友と呼ばれた剣の達人よ」

 そう言いながらエミリアはうっとりしたように言う。

「貴方は知らないでしょうけど、お二人とも素敵だったのよ。デュラン様なんて、令嬢たちの間にファンクラブあったぐらい」

 どこから取り出したのかエミリアは一枚のカードを手に持っている。
 そこには、一人の剣士の絵が描かれていた。
 40代ぐらいだろうか。
 年齢を重ねてはいるが、それが渋みに繋がっているイケメン、いわゆるイケオジである。

「ふふ、私の青春の一ページね!」

「お、お母様、これってもしかして……」

「ええ、私もファンクラブの会員だったの!」

 それを横目で眺めながらティアは言った。

「もう、お母様ったら意外とミーハーなんだから。お父様には見つからないようにしてよ。神槍ゲイボルンでそのカード消し炭になるまで焼き尽くされるわよ。お父様ったら、いい歳してお母様に夢中なんだから」

「ふふ、何言ってるの、私が十三の時の話よ。そんな昔の話に嫉妬する程、あの人も子供じゃないでしょ?」

「いいえ、お父様は子供です!」

 ティアは、先程神槍ゲイボルンを手に取った父親のことを思い出して溜め息を吐く。

(ほんと、お母様って少し天然なところがあるんだから。こと自分の色恋沙汰に関しては鈍いっていうかなんていうか)

 生徒会長のケルヴィンがエミリアの親衛隊のような存在なのは周知の事実だが、とうの本人であるエミリアは全く気が付いていない。
 ケルヴィンだけではなく、学園にファンクラブがあるぐらいだ。
 もちろん生徒会長がそちらの会長も務めているのだが。

「はぁ、ケルヴィンも報われないわね」

 ティアは肩をすくめる。

「あら、ケルヴィンがどうかしたの?」

「なんでもないわよ。それより、お母様。私は昔の思い出にとやかく言うつもりはないけど、そのカードは見つからないところに隠しておいてよ」

 エミリアは、娘にそう言われて渋々そのカードを胸の谷間にしまう。
 すると、そのカードは魔法のように消え失せた。

「仕方ないわね、青春の一ページとして私の胸の内にしまっておくことにするわ」

 ティアはジト目で母の胸を見ると、それを自分ものと見比べた。

(どこに隠してるのよ。まったく!)

 そして、ツンとした顔で言う。

「そうしておいて、お母様。お父様が、槍を片手に剣聖の領地に攻め込んだりしたらそれこそ大ごとだわ」

 ティアは溜め息を吐きながらそう答えると、エミリアは言う。

「あら、剣聖様ならいま都にいるわよ。ケルヴィンがそう言っていたもの」

「都に?」

「ええ、何でもお忍びで都に剣を買いに来たとか。ケルヴィンのひいおじい様のお屋敷に泊まってらっしゃると言う話だから間違いはないわ」

 それを聞いてティアは首を傾げた。

「わざわざ剣を買いに都に? 剣聖程の方なら、自分が来なくても使いの者を寄こせば済む話じゃない。妙な話ね」

「そうね、私もそう思うわ。わざわざお忍びで都にくるなんて、普通に考えれば密かに誰かに会いに来たと思う方が自然だもの」

「誰かにって誰に?」

 ティアはそう言った後、ハッとしたようにエミリアを見つめる。
 そんな娘を眺めながらエミリアは答えた。

「剣聖様にとってとても近い人物、そしてそれを公には出来ない者に会いに来たのではないかと考えるのが妥当じゃなくて?」

 その言葉を聞いてティアは問い返す。

「それって、もしかしてロイ君に剣を教えた人物ってこと?」

「それは分からないわ。でも、その可能性もあるわね。ロイ君は剣聖流に深い関係がある人物に剣を教わっている。そして、そんな彼が士官学校に入ったちょうどその時期に、剣聖がわざわざ都を訪れるなんて。こんな偶然ってあると思う?」

「どういうこと? お母様」

 ティアにそう尋ねられてエミリアは肩をすくめる。

「これ以上は私にも分からないわ。でも、ロイ君と剣聖デュラン・ラドフェルスト。私は二人には何らかの繋がりがあるように思えるの」

 エミリアはそう言うと身支度をする。

「丁度、今から私はエバースタイン商会のアリシアと学園に納める品物について相談があるの。ケルヴィンの話では、彼のひいおじい様たちも商会に剣を求めに行くそうだわ。もし、顔を合わせたら聞いてみるつもりよ。ロイ君は四帝候補生になるかもしれないのだし、知っておくべき情報かもしれないもの」

 それを聞いて、ティアは食卓のサンドイッチをもう一つ手に取るとそれをぱくりと齧りながら言う。

「ねえ、お母様! だったら私も一緒に行くわ。剣聖流の創始者に会えるなんて、剣士として滅多にない機会だしいいでしょ?」

 エミリアは溜め息を吐きながら肩をすくめた。

「まったく、ロイ君のこと知りたいだけでしょ? いいわ、どうせ駄目って言ってもついてくるでしょうし。好きになさい、ティア」
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