ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太

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68、風に舞う

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 一方その頃、士官学校の校長を務めるファレーン伯爵の邸宅の庭では、一人の少女が静かに佇んでいた。

 凛としたその美貌。そして黒髪が、庭に巻き起こった風に靡いている。

 その風は、自然に起きたものではなく彼女が魔力で作り出したものだ。
 庭の木々が揺れ、木の葉が舞い散るとそれは風によって少女の周りに運ばれた。

 その瞬間──

 風がやみ少女の周囲には無数の木の葉が舞っている。
 だが、その少女は先ほどまでの黒髪の少女ではない。

 いつの間にかその髪は美しい真紅に染まって、瞳の色も燃え上がるような赤に変わっている。
 少女の唇から凛とした気合が放たれる。

「はぁああああああ!」

 その刹那、彼女の腰から提げた刀は抜かれていた。
 凄まじい速さの居合斬りだ。

 鞘から抜き放たれた刀が横に一閃されたかと思うと、まるで幻影のような残像が無数に浮かび上がる。

 同時に、少女の周囲を舞っている木の葉は全て真っ二つになりそのまま地に舞い落ちた。
 彼女のその姿を周囲で見守っていた屋敷のメイドたちが、一斉に黄色い歓声を上げる。

「きゃぁああ、ティアお嬢様! いつ見ても素敵!」

「見て、いつ切ったの? あの木の葉が全部真っ二つに」

「はぁああん! お嬢様、結婚して下さい! 私の王子様!!」

 三人目のメイドの言葉に、ティアは溜め息を吐きながら刀を鞘に収める。
 同時にその髪はまた黒へと戻っていく。

「あのね、貴方たち。仕事はどうしたの? まったく、何が面白くて私の朝練なんて見てるんだか。大体、私の王子様って何なのよ! 失礼しちゃうわね。私は女です!」

 メイドたちは相変わらず黄色い声援を上げながらティアに答える。

「いいんです! 私たち通いのメイドは、まだ仕事前ですから」

「そうですよ。これは私たちの朝の楽しみなんです」

「大目に見て下さい! ビクトルードの紅の騎士、その名の通り凛々しくて私たちの憧れです! そこらへんの男なんて目じゃないですわ」

 ティアは溜め息を吐きながら肩をすくめる。

「はいはい、好きにして頂戴」

 そろそろ士官学校に登校する時間だ。
 ティアはそう思い、メイドたちと一緒に屋敷へと歩いていく。

 庭に面したテラスからリビングに入ると、大きな食卓の上に置いてあるサンドイッチをぱくりと齧る。
 少し勝気な美貌が、士官学校の制服にもよく似合いそんな様子も様になる。

「ん~! 美味しい! 鍛錬の後の朝ご飯は最高だわ」

 食卓に座る母親のエミリアは、学園関係の資料に目を通しながら紅茶を飲んでいた。
 そして、立ったまま朝食をとる娘を見てため息をついた。

「ティア、お行儀が悪いわよ。座って食べなさい」

「別にいいじゃない、お母様。こっちの方が気楽だわ」

「まったく貴方ったら。生徒会の副会長がそれでは、他の生徒たちに示しがつかなくてよ」

 一方で、エミリアの隣に大柄な男はティアの姿を見て目を細めた。
 自然とその体から溢れ出る覇気は超ド級である。

「よいではないか、エミリア。うちの天使のなんと愛らしいことよ。ワシには見えるぞ、その背に生えた天使の翼が!」

「……」

「てぃ、ティア! 何なのだその目は」

 無言のティアに冷たい目で見つめ返されて、しょんぼりとするのは父親であり炎帝と呼ばれるこの国の英雄だ。
 超ド級の覇気まですっかりしぼんで見える。
 その姿を見てティアはふぅと溜め息を吐いた。

「もう、そんな顔しないでよお父様。いつまでも小さな子供扱いするからだわ! お父様には、もう一人前の女性として見て欲しいの。陛下から騎士の称号を頂いた時からそう思ってるわ。い、いずれ好きな人と結婚だってしたいし」

 ティアはそう言って頬を染めながら、昨日のことを思い出す。

(ふふ、昨日のロイ君もほんとに可愛かった。生徒会のメンバーになれば、毎日一緒に過ごせるわよね)

 そんなことを考えながら、思わず頬を緩めていると父である炎帝が席を立ちあがる。

「け、結婚だと!?」

 そう言って、炎帝が握るのは神槍と呼ばれたゲイボルンである。
 それは紅蓮の炎を纏うと凄まじい魔力がそこに宿っていく。

「ま、まさか好きな男でも出来たのか? ティア! ワシは、許さんぞ!!」

 ティアは慌てて言った。

「ちょ! お、お父様! そんなもの握って何するつもり! いい加減にして! お父様がそれじゃあ、みんな怖がって私ずっとお嫁にいけないじゃない」

 それを聞いて炎帝は満足そうに笑う。

「ふはは、良いではないか。この家に好きなだけおればよいのだからな。ワシは構わんぞ!」

「お父様が構わなくても、私が構うんです!」

 そんな父娘の姿をエミリアは溜め息を吐きながら眺めると、夫に言う。

「貴方ったら、いつまでもくだらないこと言ってないでお出かけの準備をなさってください。ご出仕の時間ですわよ。今日は陛下にもお会いするご用向きがあるのでしょう?」

「う、うむ! そ、そうだったな。エミリア、学園の方は頼んだぞ」

 そう言った後、妻の耳に囁く。

「特にティアに変な虫がつかぬようにな」

「はいはい、分かりました。あなた」

 エミリアはそう答えると、慣れた様子で夫の出支度を手伝うとティアと一緒に送り出す。
 そして、娘を見ると言う。

「これじゃあ、暫くはロイ君のことあの人に紹介できそうもないわね。ちょっとした戦争になりそうだわ。四帝候補生に加えるつもりだってこともまだ話せてないし、昨日はあの人も学園に居なかったから騒ぎのことは知らないでしょうからね」

「は!? お、お母様! べ、別に私はそんな……ロイ君は将来この国の為になる子だと思うから、お母様にお話ししただけよ!」

 そんな、娘の様子を見てエミリアは悪戯っぽい眼差しで笑う。

「あら、隠さなくていいじゃない。ふふ、ロイ君可愛いもの! なんだかこう母性本能をくすぐられるのよね。女の子みたいなあの外見から想像も出来ない程、大胆なところもあるし。そのギャップがいいのよね」

「そう! そうなの!! お母様分かってるじゃない」

 ロイの話で盛り上がる母娘。
 ティアは、母親にうまうまと乗せられたことを知りコホンと咳払いすると言う。

「でも、お母様、本当に大丈夫なの? ロイ君をあの風帝の候補生にするなんて。風帝といえば知る人ぞ知る伝説の天才魔導師。100年前風のように現れて、この国の窮地を救った後また風のように消えたとか。その素性から、彼が使う魔道まで知られてないことが多い謎の人物よ。ロイ君が風帝を目指すにしても、どうやってそれを指導するつもりなの?」

「そうかもしれないわね。でも、似てると思わない? 風帝の術は変幻自在だったと言われているわ。キースの技を瞬時にコピーするように真似て見せたのを見て、私はロイ君ならもしかしてって思ったの。あの子の技も変幻自在、その発想力は驚くほど自由だわ」

「確かに、でも……」

 それでもまだ心配そうなティアを見つめながらエミリアは言った。

「もちろん、まだ学んでもらうことは多いわ。でも、屋上からロイ君とアンドニウスとの戦いを見たケルヴィンから聞いた話だと、あの子の技は全て思い付きのオリジナルというわけでもないの。きちんとした基礎も併せ持っているわ」

「どういうこと、お母様?」

 ティアも、ロイとアンドニウスが校庭で戦っているところを実際に見たわけではない。
 見たのは生徒会室の中での攻防だけだ。
 エミリアは、娘の言葉に大きく頷くと答えた。

「ケルヴィンが言うにはあの子の剣技は、剣聖流だそうよ。それも、もしロイ君にそれを教えた者がいるとしたら、とんでもなく腕がたつ者だろうと彼は言っていたわ」


 ─────

 ご覧頂きましてありがとうございます。
 最近忙しくて、毎日更新が難しくなってすみません!
 少し前から以前書き溜めていた部分がなくなって、新しい所に入ってるんですよね。
 でも、頑張って二日に一度ぐらいは更新出来るようにとは思ってます。

 同時連載中の「神速の成長チート」も沢山の方にお読み頂きましてありがとうございます。
 あちらも先程更新したので、もしよかったらぜひご覧くださいね。

 いつも応援して下さる皆様に感謝です!
 それでは今後ともロイたち共々よろしくお願いします!
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