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67、来訪者
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ロイたちが、アリシアの店に向かった丁度その頃。
アリシアは大切な客を店に迎えていた。
「驚きましたわ。まさか、都にいらっしゃるなんて。仰って下されば、お迎えに参りましたのに」
ロイを迎える為にアリシアと待っていたトーマスが、その客を見て言う。
「なあ、姉ちゃん、誰なんだ? このじいちゃんたち」
トーマスが言うように、アリシアが店の入り口で出迎えたのは二人の老人だ。
一人は70代、もう一人は60代ぐらいだろう。
二人とも年齢を感じさせない程、覇気に満ちている。
服装からして身分の高い貴族だろうが、歴戦の猛者といった雰囲気を感じさせる武人のようにも見える。
弟の無遠慮な言葉にアリシアは慌てて、トーマスを叱る。
「もう、トーマス! 貴方ったら士官学校に入ったのに、礼儀ってものを知らないんだから。お二人ともとても立派な方よ。きちんと挨拶をなさい!」
それを聞いて、老人の一人が豪快に笑った。
「ふぁははは! 元気が良くていいではないか。子供の時から妙に、大人びておるのも面白くないでな。うちのひ孫ときたら、もう一端の騎士気取りじゃ。たまには子供らしくして欲しいものよ」
「よいではないか雷帝殿。ケルヴィンはもう立派な騎士、若くして四帝候補生と呼ばれるまでに立派に育った。それに引き換え我が家からは碌な後継ぎも出ぬ」
老人たちのその会話にトーマスは慌てたようにお辞儀をした。
そして、頭を下げながら姉に問いかける。
「ね、姉ちゃん、今このじいちゃん雷帝とか呼ばれてたけどさ……まさか」
「そうよ、貴方だって名前ぐらいは知ってるでしょ。ルーファス・ゼオリヌス伯爵、雷帝と呼ばれるこの国の英雄の一人よ」
「げ! やっぱり……」
そんな弟を見てアリシアは溜め息を吐く。
「げ、じゃないわよ。ほんとにもう、すみません弟がこんなので。生徒会長をなさっているケルヴィン様の爪の垢でも煎じて飲んで欲しいものだわ」
「酷えや姉ちゃん、こんなのってことはないだろ!」
そんな姉弟の姿を見て雷帝は笑う。
「ふぁはは! よいではないか。ケルヴィンこそこれぐらいの可愛げが欲しいものよ。それにもう伯爵の座は息子に譲ったでな。今は気らくな隠居の身じゃ」
アリシアは、そんな雷帝の言葉を聞きながら尋ねる。
「それで、ゼオリヌス伯爵、今日はどのような御用向きでのご来店でしょうか? 剣聖様まで一緒だなんて、本当に驚きましたわ。いつご領地から、都に来られたんです?」
剣聖と呼ばれた老人はアリシアの言葉に頷く。
「少し用があって都へ来たのだ。そのついでと言っては何だが、一本飛び切りの剣を用意して欲しくて参った」
「ワシはその付き合いじゃ。デュランとは昔からの仲じゃ、用が済んだ後は都のワシの屋敷でゆっくりと酒でも酌み交わそうと思ってな」
トーマスはそれを聞いてまた声を上げる。
「マジか! 剣聖ってあのデュラン・ラドフェルスト! すげえ、伝説の剣豪じゃんか!! 剣の腕なら炎帝や氷帝にだって負けないって言うぜ。東の領地を治める伯爵様だよな、姉ちゃん!」
「もう! トーマスったら!」
剣聖と呼ばれた老人は、笑いながら言う。
「気にするでない。雷帝殿が言うように子供はこれぐらいの方が良い」
「すみません、剣聖様。いいえ、ラドフェルスト伯爵。伯爵様にはうちの商会は本当にお世話になりっぱなしなのに」
それを聞いてルーファスが言う。
「そういえば、この商会はデュランの領地で商売を始めたのがきっかけで大きくなったそうじゃな。そなたの祖父の代の頃であったか」
「はい! おじい様が領主様には本当にお世話になったと。都周辺の町で商売が出来るようにも手助けをして下さって。うちの商会が大きくなったのはすべて領主様のお蔭だとおじい様から聞かされています。都の店がもてるようになったのも伯爵様のお力添えのお蔭ですもの」
それを聞いてデュランは答える。
「そなたたちが、まっとうな商売をしておるからだ。不当に儲けようとせず、庶民の生活を助ける為の商売をした。ゆえに力を貸したまで、すべてはそなたの祖父の力ゆえだ。ワシに恩義など感じることはない」
「おじい様が聞いたら喜びます!」
そう言ってアリシアはぺこりと頭を下げる。
それから、嬉しそうに報告する。
「そういえば、昨日私アラン様のところへ行ってきたんですよ! ロイ様も今年士官学校に入ることになって。もしかして、デュラン様! アラン様やロイ様に会いに? だったら、きっと皆さん喜ばれますわ!」
それを聞いて、先ほどまで笑顔だった剣聖の顔が曇る。
そして、吐き捨てるように言った。
「アランだと? 二度とワシの前でその名を口にするな。奴は、ラドフェルスト家の恥だ。二度と顔を合わせるつもりはない!」
その言葉にアリシアは呆然とその場に立ち尽くしていた。
そこへ、また別の来客が訪れる。
アリシアは、店の入り口を見て思わず声を上げた。
「ロイ様!」
そこには、ロイとラフィーネ、そしてアーシェが立っていた。
ロイは剣聖と呼ばれた男を睨んでいる。
アリシアは思わず声を上げる。
「ロイ様! もしかして今の話……」
「ええ、アリシア、少しだけ」
ロイは静かに頷くと男を見つめた。
「聞き捨てなりませんね。貴方が誰だかは知りませんが、俺の父親を侮辱するのはやめてもらえますか?」
アリシアは大切な客を店に迎えていた。
「驚きましたわ。まさか、都にいらっしゃるなんて。仰って下されば、お迎えに参りましたのに」
ロイを迎える為にアリシアと待っていたトーマスが、その客を見て言う。
「なあ、姉ちゃん、誰なんだ? このじいちゃんたち」
トーマスが言うように、アリシアが店の入り口で出迎えたのは二人の老人だ。
一人は70代、もう一人は60代ぐらいだろう。
二人とも年齢を感じさせない程、覇気に満ちている。
服装からして身分の高い貴族だろうが、歴戦の猛者といった雰囲気を感じさせる武人のようにも見える。
弟の無遠慮な言葉にアリシアは慌てて、トーマスを叱る。
「もう、トーマス! 貴方ったら士官学校に入ったのに、礼儀ってものを知らないんだから。お二人ともとても立派な方よ。きちんと挨拶をなさい!」
それを聞いて、老人の一人が豪快に笑った。
「ふぁははは! 元気が良くていいではないか。子供の時から妙に、大人びておるのも面白くないでな。うちのひ孫ときたら、もう一端の騎士気取りじゃ。たまには子供らしくして欲しいものよ」
「よいではないか雷帝殿。ケルヴィンはもう立派な騎士、若くして四帝候補生と呼ばれるまでに立派に育った。それに引き換え我が家からは碌な後継ぎも出ぬ」
老人たちのその会話にトーマスは慌てたようにお辞儀をした。
そして、頭を下げながら姉に問いかける。
「ね、姉ちゃん、今このじいちゃん雷帝とか呼ばれてたけどさ……まさか」
「そうよ、貴方だって名前ぐらいは知ってるでしょ。ルーファス・ゼオリヌス伯爵、雷帝と呼ばれるこの国の英雄の一人よ」
「げ! やっぱり……」
そんな弟を見てアリシアは溜め息を吐く。
「げ、じゃないわよ。ほんとにもう、すみません弟がこんなので。生徒会長をなさっているケルヴィン様の爪の垢でも煎じて飲んで欲しいものだわ」
「酷えや姉ちゃん、こんなのってことはないだろ!」
そんな姉弟の姿を見て雷帝は笑う。
「ふぁはは! よいではないか。ケルヴィンこそこれぐらいの可愛げが欲しいものよ。それにもう伯爵の座は息子に譲ったでな。今は気らくな隠居の身じゃ」
アリシアは、そんな雷帝の言葉を聞きながら尋ねる。
「それで、ゼオリヌス伯爵、今日はどのような御用向きでのご来店でしょうか? 剣聖様まで一緒だなんて、本当に驚きましたわ。いつご領地から、都に来られたんです?」
剣聖と呼ばれた老人はアリシアの言葉に頷く。
「少し用があって都へ来たのだ。そのついでと言っては何だが、一本飛び切りの剣を用意して欲しくて参った」
「ワシはその付き合いじゃ。デュランとは昔からの仲じゃ、用が済んだ後は都のワシの屋敷でゆっくりと酒でも酌み交わそうと思ってな」
トーマスはそれを聞いてまた声を上げる。
「マジか! 剣聖ってあのデュラン・ラドフェルスト! すげえ、伝説の剣豪じゃんか!! 剣の腕なら炎帝や氷帝にだって負けないって言うぜ。東の領地を治める伯爵様だよな、姉ちゃん!」
「もう! トーマスったら!」
剣聖と呼ばれた老人は、笑いながら言う。
「気にするでない。雷帝殿が言うように子供はこれぐらいの方が良い」
「すみません、剣聖様。いいえ、ラドフェルスト伯爵。伯爵様にはうちの商会は本当にお世話になりっぱなしなのに」
それを聞いてルーファスが言う。
「そういえば、この商会はデュランの領地で商売を始めたのがきっかけで大きくなったそうじゃな。そなたの祖父の代の頃であったか」
「はい! おじい様が領主様には本当にお世話になったと。都周辺の町で商売が出来るようにも手助けをして下さって。うちの商会が大きくなったのはすべて領主様のお蔭だとおじい様から聞かされています。都の店がもてるようになったのも伯爵様のお力添えのお蔭ですもの」
それを聞いてデュランは答える。
「そなたたちが、まっとうな商売をしておるからだ。不当に儲けようとせず、庶民の生活を助ける為の商売をした。ゆえに力を貸したまで、すべてはそなたの祖父の力ゆえだ。ワシに恩義など感じることはない」
「おじい様が聞いたら喜びます!」
そう言ってアリシアはぺこりと頭を下げる。
それから、嬉しそうに報告する。
「そういえば、昨日私アラン様のところへ行ってきたんですよ! ロイ様も今年士官学校に入ることになって。もしかして、デュラン様! アラン様やロイ様に会いに? だったら、きっと皆さん喜ばれますわ!」
それを聞いて、先ほどまで笑顔だった剣聖の顔が曇る。
そして、吐き捨てるように言った。
「アランだと? 二度とワシの前でその名を口にするな。奴は、ラドフェルスト家の恥だ。二度と顔を合わせるつもりはない!」
その言葉にアリシアは呆然とその場に立ち尽くしていた。
そこへ、また別の来客が訪れる。
アリシアは、店の入り口を見て思わず声を上げた。
「ロイ様!」
そこには、ロイとラフィーネ、そしてアーシェが立っていた。
ロイは剣聖と呼ばれた男を睨んでいる。
アリシアは思わず声を上げる。
「ロイ様! もしかして今の話……」
「ええ、アリシア、少しだけ」
ロイは静かに頷くと男を見つめた。
「聞き捨てなりませんね。貴方が誰だかは知りませんが、俺の父親を侮辱するのはやめてもらえますか?」
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