魔力が無いと言われたので独学で最強無双の大賢者になりました!

雪華慧太

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2巻

2-2

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 一方その頃、士官学校の学生ロランはアルディエント王宮の中を走っていた。
 現在の彼は、士官学校に通いながらも、その能力を高く買われ、王宮勤めの役人でもある。
 そして、ふと立ち止まると窓から西の方角を眺めた。

「今頃は、ルオ様はヴァルフェント公爵領に着いている頃だよな……陛下のことだから心配はいらないとは思うけど」

 ロランは小さな不安をかき消すように頭を振ると、また走り出す。

「いけない。僕だって自分が出来ることをしないと。それにしても、まったく忙しいったらないや!」

 愚痴ぐちにも似た言葉をこぼしながらも、その顔は希望に満ちている。
 ほんの少し前までは、士官学校の中で自分の人生を諦めかけていたロラン。
 そんな彼が変わったのはある朝、ある人物に出会ったからだ。

(ルオ様、格好良かったよなぁ……)

 自分を蹴り飛ばした十傑会じゅっけつかいのギリアムさえ一歩も動けないほど、ルオの剣技は凄かった。
 そして、この国最強のゼギウスさえも倒した、輝く剣を持った雄姿ゆうしを思い出して、またその場に立ちすくむ。

「おっと、仕事仕事!」

 慌てて王宮の廊下の角を曲がると、ブロンドの凛々りりしい青年にぶつかりかけた。
 この国の王にどこか似た風貌ふうぼうをした人物だ。
 ロランは慌てて頭を下げる。

「ジュリアス様! す、すみません。急いでいたもので」
「ロランか。いいさ、いつもご苦労だな。お前の仕事ぶりにはルオも俺も感心しているぐらいだ。今回のルオの西方の遠征えんせいも、お前たちが集めた情報のお蔭で先んじて動くことが出来たのだからな」
「そ、そんな!」

 恐縮するロランに、ジュリアスは苦笑しながら続ける。

「西方の反乱の話。本来なら、国王のルオではなく俺が遠征軍の指揮をるべきだろうが、ルオの奴、面倒なことは俺に押し付けて気楽なものだ」
「はは、ルオ様らしいですよね。自らご出陣されるなんて」
「まったくだ。だが、そういうところがレヴィンの再来と呼ばれる所以ゆえんだろう。まあ、ディアナもフレアも一緒だ、心配することはあるまい」
「そうですよね!」

 ロランは目の前の青年を眺める。
 白い軍服を身に纏ったジュリアスの姿はとても爽やかだ。

(ジュリアス様、本当に雰囲気が変わられたよな。以前とはまるで別人だよ。今やこの国の宰相さいしょう閣下だもんな、でも偉ぶったところなんて全くないし)

 ジュリアス・ファルーディア。彼はこの国の王の兄だ。
 三英雄の一人である紅蓮の魔導騎士オーウェンを圧倒したほどの天才。士官学校の十傑会の会長であり、雲の上の存在だった。今ではそんなジュリアスの傍にいることに自分でも驚きながら、ロランは頭を掻いた。

「ほんとに僕なんかが、ここに居てもいいのかなって、今も思います。こうして、ジュリアス様たちと一緒に仕事をしているなんて、まだ信じられないんです」

 それを聞いてジュリアスは笑った。
 目を細めて窓から空を見上げる。

「それを言うならば、この俺に宰相の資格などありはしない。自分の命を狙った俺にこんな仕事を任せるとは、あいつはとんだお人よしだ」
「ジュリアス様……」

 ロランは、言葉とは裏腹にジュリアスのどこか嬉しそうな表情をまぶに見ていた。
 宰相の地位を得たことが嬉しいのではなく、弟との絆が嬉しい、そんな表情を。

(この人はきっと、これからどんなことがあっても陛下を裏切らない。信頼出来る人だ)

 そんなことを思いながら、上司であるジュリアスを見つめるロランだった。
 ロランは今、ジュリアスの下で働いている。
 内政、外交を含む様々な案件を処理する部署の役人の一人だ。
 様々な情報を収集、分析し、的確な国の方針を上申じょうしんする、機密情報も扱うような部署の上級官吏かんりである。
 今までは第二等魔法格以上でなければ、試験すら受けられなかった。
 ジュリアスはロランに言う。

「お前の情報分析力は俺の部下の中でも最も優れている。これもルオが魔法格による官吏試験の条件を廃したお蔭だな」
「はい、ジュリアス様! 僕だけじゃないですよ、仲間たちの多くが張り切ってこの国の各地で働いてます! それに、今回のことの本当の功労者はジーク様です。あの方の情報網は本当に凄い。ルオ様の影と呼ばれるのが分かります」

 ジュリアスはロランの言葉に頷いた。

「ジーク・ロゼファルスか。確かにな。元トレルファス家の使用人と聞くが、頭のいい男だ。ルオが国王になった後、伯爵はくしゃくに任じられるとわずかな間に国中に自らの部下を散らせていた。中にはルオに不満を持つ上級貴族たちのところに、使用人として潜り込ませたりもしてな」
「はい、ロゼファルス伯爵が元々使用人だったからこそ分かることもあるのかもしれませんが、余程の明晰めいせきな頭脳と、部下たちからの信頼がなければこうはいきません。ルオ様が信頼なさっているのも頷けます。今回僕たちが分析した情報の多くは、ジーク様からのものでしたから」

 ジーク・ロゼファルスは、ルオの下克上げこくじょうの最初の協力者だ。ルオは彼の身分を借りて士官学校の試験に潜り込み、ゼギウスとの戦いに漕ぎ着けた。
 ルオが国王になった後に伯爵に任じられたが、使用人の分際でと揶揄やゆする者もいる。しかし、その能力の高さをロランは知っていた。

「それもこれも、やっぱりルオ様のお蔭です。魔法格が絶対の頃なら、第三等魔法格のロゼファルス伯がこのような役回りをすることも出来なかったのですから」

 ロランは笑顔でそう言った。
 官吏だけではない。全ての職業において、魔法格による条件は廃された。
 実力がある者ならば己の望む職業に就ける。
 ジュリアスは言う。

「野心を持っていた上級貴族どもも、これでほぼ抑えたことになる。後は都から遠い西方だけが懸案けんあんだったが、今回の遠征が無事に終わればもう国内に不安要素はないだろう」

 ロランは大きく頷いた。

「それにルオ様の即位と同時に国法は改正され、税制も改革されました。お蔭で、一部の上級貴族だけが富を独占することもなくなった。国民は皆、働くことに喜びを感じています。これからこの国はきっとますます栄えるでしょう」

 ロランのような若者からも新たなアイデアが次々と出され、良いものは実行される。
 それに耳を傾けることを目的に、国王であるルオも宰相ジュリアスもまだ士官学校に籍を置いている。その為に王宮内には士官学校のまなの一部や、ルオが長を務める執行部も併設されていた。
 ロランのような優秀な学生が国政に携わることが容易なのは、それが理由でもあるだろう。
 若い力が国政に反映されることに喜びを感じている学生たちは多い。
 下からの意見が、直接上まで届くなど、今まででは考えられなかったことだ。

「まったく、お蔭でこちらは大忙しだがな。ルオの奴、人使いが荒いことだ」
「ですね!」

 そう言って肩をすくめるジュリアスに、笑顔を見せるロランだった。
 二人はそのまま機密を取り扱う為の執務室へと入っていく。
 部屋に入るとジュリアスは鍵をかけた。
 西方での反乱の情報こそあったが、内政もようやく安定し始め、ここ最近はロランには特別な任務を与えている。
 もちろん、その為に動く人員も与えて。

「ロラン、それで例の一件について何か分かったことはあるのか?」

 ジュリアスの眼差まなざしが鋭いものになっている。
 その瞳を見つめながらロランは頷いた。

「ゼギウスが最後に残した言葉にあった、例の神具の話ですが、もしかすると思わぬ相手が絡んでいるかもしれません」
「思わぬ相手だと?」
「はい」

 ロランは机に一枚の地図を広げる。
 そこには一つの大陸が描かれている。
 様々な国々が並ぶその地図の上に、一際大きな大国が二つあった。
 一つは、アルディエント。そしてもう一つは山脈を越えてその西に位置する大国である。
 国土の広さで言えば、このアルディエントさえしのぐだろう。
 ロランの視線はその国へと向けられている。

黒騎士王くろきしおうジャミルが治める国、シュトハイドか。ロラン、聞かせてくれ。お前たちが調べ上げたことを」

 ジュリアスのその言葉に、ロランは深く頷くと、自らが知った事実を話し始めた。
 それを全て聞き終えると、ジュリアスはうめいた。

「まさかな……だが、俺も疑問に思っていたのだ。父上がどうやってあの槍を手に入れたのかを。ロラン、お前は護衛を連れてルオのもとに行け。このことを伝えるのだ」
「はい、ジュリアス様!」

 ロランは旅の支度をする為に部屋を後にした。
 彼が西方にいるルオのところに合流するには、早くても十日ほどかかるだろう。
 ルオたちも反乱の鎮圧ちんあつだけではなく、領主が不在となった公爵領を統制下に置く為に、暫くは西方に滞在するはずだ。
 執務室に一人立つジュリアスは、部屋の窓から西の方角を眺める。
 そして呟いた。

「ルオ、気を付けろ。もしかすると今回の西方の遠征、思わぬ長旅になるかもしれんぞ」



 2、聖王女せいおうじょ


 ヴァルフェント領の外れの森のふもとに密かに作られた騎士団の駐留地に、ルオたちが戻った頃。
 保護された村人たちは、一人の少女の周りに集まっていた。
 彼女の名はエミリア。前王の娘だ。ルオが王となった今は王女ではないが、彼女がこの国の為に果たした役割と、白薔薇のようなその可憐かれんさを称え、聖王女と呼ばれている。
 ヴァルフェントの非道な行いで焼け出された村人の中には、酷い火傷やけどを負った者もいる。
 そんな彼らの傷に、エミリアはそっと手で触れた。
 清らかな魔力が辺りに広がっていく。
 同時に、エミリアの額に聖なる波動を感じさせる聖印が開いた。

「ああ、神様……痛みがやわらいでいく」

 エミリアの魔力が住民たちの傷を次々といやしていった。
 これほどのヒーラーはまれだろう。
 村人たちは傷を癒してくれた少女に頭を下げて礼を言った。

「ありがとうございます!」
「本当にありがとうございます!」

 エミリアは彼らを見て微笑んだ。

「いいのです。元はと言えば、我が国の者が恥ずべき行いをしたのが原因なのですから」

 そんな少女の肩の上には可愛らしい生き物が座っている。
 そして主人が感謝されたのを見て、嬉しそうに鳴いた。

「リルリル~」

 それは純白の子猫リスのリルだ。
 リルを肩に乗せた姿は、エミリアのトレードマークでもある。

流石さすがエミリア様! いつ見ても聖王女に相応ふさわしい力です」
「うむ、神々こうごうしい限りですな」

 そう言ったのは、エミリアの侍女じじょマリナと護衛騎士のグレイブである。
 二人の言葉にエミリアは恥ずかしそうに答えた。

「もう、二人とも大袈裟おおげさだわ。これもルオ様のお蔭です。毎晩特訓をしていただいて、ようやく聖印を開けましたから。自分の力が皆の役に立つことが嬉しくて」

 マリナが意味ありげな表情でエミリアにささやく。

「あの秘密特訓の効果は凄いですよね。それに、額を合わせて踊るルオ様とエミリア様がとても素敵ですし!」

 その言葉にエミリアは顔を真っ赤にする。

「あ、あれは聖印を開く為のただのトレーニングだわ! でも、お蔭でこうしてルオ様に同行することをお許しいただいたのですから」

 ルオと額を合わせ、そして息を合わせて踊ることでお互いの魔力を絡み合わせて、魔力を押し上げてもらう。
 相性もあるが、それによってエミリアの魔力は以前よりも遥かに高まっている。
 元々王家の血を引くエミリアの素質を考えれば、聖印を開くことが出来たのも当然と言えるかもしれない。
 先程戻ってきたディアナも、感心したようにエミリアの治療を眺めていた。

「私も聖騎士としてヒーラーの力も持ってはいるけど、エミリア殿下でんかは聖属性、それも回復魔法にかけてはずば抜けてる。聖王女の名も頷けるね」
「そんな、ディアナまで。あ! ルオ様! フレア! お帰りなさい……あら、その子は?」
「エミリア、今帰った。ああ、この子は獣人の村の子供だ」

 そんな中、フレアと一緒に戻ってきたルオの傍には、ちょこちょこと彼の周りをついて回る小さな少女の姿がある。
 獣人の少女のエマだ。
 母親のミレーヌは申し訳なさそうに傍でそれを見つめている。

「すみません。この子がどうしても陛下の傍にいたいと聞かなくて」

 エマはルオを見上げると指をくわえる。

「王たま、エマのこと助けてくれたです。ママも助けてくれたです」

 そう言って大きな耳をピコピコと動かすと、尻尾を揺らしてルオの周りを嬉しそうに歩いている。
 エミリアとマリナはそれを見て目を輝かせた。

「まあ! なんて可愛らしい」
「ほんとに! ふふ、それに無愛想ぶあいそうなルオ様に、こんなに懐いてるなんて」

 ルオは肩をすくめるとマリナに言う。

「無愛想は余計だ」

 エマは首をかしげてルオを見つめる。

「王たま優しいです。エマ、王たま大好きです!」

 エミリアはそれを聞いて大きく頷いた。

「エマっていうのね。ふふ、分かるわ。私もルオ様のことが大好きだもの」

 今は少し無愛想なところがあるが、エミリアが幼い頃初めて会った時のルオはとても優しくて、今でもその本質は変わっていないと彼女は信じている。
 だからこそ彼に全てを託したのだ。
 だが、そう言ってからエミリアは思わず顔を真っ赤にする。

「あ、あの今の『好き』っていうのはそういう意味じゃなくて。そ、その……」

 そんな主を見てマリナはふぅとため息をついた。

「安心してください。エミリア様がルオ様を好きなことはみんな知ってますから」
「も、もう! マリナの馬鹿!!」

 それを聞いて、家を焼け出されてそこに集まっている皆も笑顔になる。
 フレアも笑いながら、無事救い出せた村人たちの姿を眺めた。
 そして、自分と同じくルオの傍に立つ銀髪の少年に声をかける。

「それにしても、やるわねジーク。あんたの情報がなかったら、こんなに早くヴァルフェント公爵の動きはつかめなかったわ。彼らを救えたのはあんたのお手柄てがらかもね」

 それを聞いて、ジークはうやうやしくフレアに頭を下げた。

「恐縮です、お嬢様。これもこの領内に潜り込んでくれた者たちのお蔭です」
「お嬢様はやめなさいよ。もうあんたはトレルファス家の使用人なんかじゃないんだから」

 フレアの言葉にジークは頭を掻きながら苦笑した。

「そうでしたね。ですが、やはりまだ慣れません」
「分かるわそれ。私も公爵家の令嬢なんて肩がこるもの」

 ルオが国王になり、約束通りトレルファス家は公爵家としてルオを支えている。
 騎士爵家から公爵家の娘になったフレアは、その艶やかな赤い髪と勝気な美貌から、国民の間で赤の薔薇姫と呼ばれていた。
 ジークと共に、まさに成功の象徴しょうちょうとも呼べる存在だ。

「それにしても、こんな子供まで容赦なく殺そうとするなんてね。あの男、どうしようもないクズだわ」

 ヴァルフェント公爵の残忍な顔を思い出しながら、フレアはそう言った。
 そんな中、エマがルオの傍からちょこちょこと彼女のもとにやってくる。
 そして、大きな耳をピコンとさせて、ルオがヴァルフェントと剣を交えている時、自分を守ってくれたフレアを見て、お礼を言った。

「赤い髪のお姉たま、ありがとです!」

 普段は勝気なフレアも、そんなエマの笑顔を見ると思わず頬が緩む。

「ふふ、間に合って良かったわ、おチビちゃん。私の名前はフレアよ。それにしても、こんなところに獣人族の村があるなんてね」

 ジークも頷いた。

「ですね。私が得た情報ではこの辺りには廃村しかないはずでしたが。ヴァルフェントも馬鹿ではありません。あれほどの軍勢を動かすことを気取られぬよう、人気ひとけが少ないルートを選んでいると報告を受けていましたから、彼も知らなかったのでは?」
「廃村ねぇ。実際この子たちが住んでたじゃない。ルオが彼女たちの気配を感じて先行しなかったら危なかったわ」

 フレアのその言葉に、村の長老らしき老人が申し訳なさそうに口を開く。

「あ、あの、誰も住んでいないようでしたので、いけないこととは思ったのですが、ちかけた家を直し、私たちが住まわせて頂いていたのです。我らはルディーリアの民、故郷を追われ今は放浪の身ですから」

 長老の言葉に、ジークは得心がいったという顔をして答える。

「ルディーリアといえば、自然豊かで多くの獣人族が住む王国ですね。確か一年前だったか、西の大国シュトハイドに滅ぼされたと聞きましたが」

 彼の言葉に村人たちは皆、悔しそうに唇を噛みしめた。
 そして口々に言う。


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