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2巻
2-1
1 影を穿つ者
「アンリーゼを怒らせるとは、あの小僧も運がない。傍にいる二人の女は傷をつけずにここへ連れてこい。このような町でも退屈しのぎにはなろう」
トラスフィナ王国の公爵家嫡男、ラフェト・マーキス・バルドルースの言葉を受けて、アンリーゼは優雅に礼をした。
美しい銀髪を持つアンリーゼ・リア・エルゼストは、トラスフィナ王国の貴族、エルゼスト子爵の娘であり、都の魔法学院を首席で卒業した才女である。
彼女は、ラフェトがフェロルクの町にある迷宮で一人の少年冒険者と戦って負傷したことを知り、腹を立てていた。
彼女の弟のギリアムがついていながら、主であるラフェトを危険な目に遭わせたことはもちろん、下賤の身にすぎない少年風情が貴族の顔に泥を塗ったことは、到底看過できない。
氷のように冷たい瞳の奥に怒りを湛えたアンリーゼは、礼を終えると、くるりと踵を返して部屋を後にする。
扉の外では、護衛の兵士の他に一人の男が壁を背にして立っていた。
栗毛の髪と、いかにも軽薄そうな顔つき。年齢は二十代半ばだろうか。
まるで遊び人のような雰囲気で、とても公爵家に仕える騎士には見えない。
だが、一見何も考えていないかと思えるその男には隙がない。
大柄とはいえないものの、鍛えられて引き締まった体が軽装の革の鎧の上からでも見て取れた。
アンリーゼは男の姿を一瞥し、何も言わずに立ち去ろうとする。
「おい、黙って行くなって! つれない女だな。……それで? 公爵様のお坊ちゃんは何て言ったんだ?」
男の言葉に、アンリーゼは足を止める。
するとその時、護衛兵士の一人が男のアンリーゼへの態度に激怒した。
「貴様! アンリーゼ様に、その口のきき方はなんだ! この冒険者風情が!!」
手にした槍を冒険者風の男に構えた瞬間、兵士の鼻先を掠めて何かが高速で飛んでくる。
背後の壁を見ると、一本のナイフが兵士の体を僅かに避けて壁に突き刺さっていた。
「なっ! 馬鹿な!!」
ナイフを投げる挙動など、一切認識できなかった。
そもそも、いつナイフを抜いたのか。恐るべき速さである。
注意深く見ると、男の肩からひらめくマントの下には、何本ものナイフがしまい込まれていた。
目の前の男からは、先程までの軽薄な雰囲気は消え去っている。
まるで野生の狼を前にしたような恐怖を覚え、兵士は額から汗を流した。
そして同時に、自分が一歩も動けないことに気がつく。
栗毛の冒険者はニヤリと笑った。
「俺のナイフは特別でな。敵の影を縫う」
それを聞いて、これまで呆然と事態を眺めていたもう一人の兵士が慌てて槍を構える。
しかし、月光と同じ色の髪をした女――アンリーゼは、右手でそれを制して言った。
「この者はラエサル・バルーディン。『影を穿つ者』と呼ばれる男です。お前たちが敵う相手ではありません」
その名を聞いて、兵士は後ずさる。
「ラエサル……影縫いのユニークスキルを持つ男! 確かSランクの冒険者!!」
「ああ、分かったら大人しくしてな。何なら、お前の影も貫いてやろうか?」
ラエサルの言葉に、兵士は慌てて首を横に振る。
「いい子だ、俺はこれでも紳士なんだぜ」
それを聞いたアンリーゼは、美しい銀色の唇を開いた。
「軽口はもういい。それで、何か分かったのですか? ラエサル」
ラフェトの怪我を癒した後、アンリーゼはラエサルに依頼して少年冒険者の素性を調べていた。
Eランクの駆け出し冒険者で、少女二人を連れた三人パーティという話だったが、中級レベルの腕を持つラフェトを降したのだから、真偽は分からない。
アンリーゼの問いにラエサルは肩をすくめた。
「さてな。話を聞く限り、そいつはユニーク使いだ。だがな、砕かれた剣と盾を調べてみたところ、俺が知っている奴等の技じゃない。それに、その三人組の冒険者のことも聞いたことがねえ。本当にEランクの冒険者だとしたら、俺が知らねえのも当然だがな」
ラエサルはそこまで言うと、アンリーゼに歩み寄り腰に手を回した。
「そもそも俺は例の『白王の薔薇』の件で公爵に雇われてるんだ。あんたの頼みを聞いてやるのは……分かるだろう?」
まるで芸術の神が作り上げたような、細く美しい腰を抱き寄せるラエサルを見て、二人の兵士は思わずゴクリと唾を呑み込んだ。
目の前の男も只者ではないが、その男が馴れ馴れしく触っている女こそ、常識の範疇を越えた存在なのだから。
白い雷が放たれ、大気がビリビリと振動する。
兵士たちには、ラエサルがその雷に貫かれたかのように見えた。
だが、男はいつの間にか距離を取って雷をかわしている。
ナイフの腕とユニークスキルもさることながら、驚くべきはその身体能力である。
男は黒く焦げたマントの一部を見ると、笑みを浮かべた。
「怖えな、本気じゃなくてそれだ。あんたとジーナ、どっちが強いのかね? 俺は強くていい女がタイプなんだが、世の中には化け物がいやがるもんだ」
フェロルクの警備隊長ジーナを引き合いに出したラエサルの言葉を無視し、アンリーゼは本題に話を戻す。
「お前にはその三人組の捜索を引き続き依頼したい。ただし警備隊には気づかれぬように。できますね? ラエサル」
「まあ、できなくはねえが、見つけてどうするつもりだ? 国王が代わるかもしれねえって時だ、下手な騒ぎを起こせば面倒なことになるかもしれねえぜ。喧嘩を売っておいて負け、さらにその報復として相手を殺した奴がいる、なんて噂が立ったら、警備隊はもちろんだが、冒険者ギルドやフェロルクの領主も黙っちゃいねえ。どうなっても知らねえぜ? 公爵や親衛隊の連中にも報告しねえで動くなんてよ」
そう言いながら兵士の影に突き立ったナイフを抜くラエサルを、銀色の髪の美女は静かに見た。
「どうするかはこちらが決めること。いらぬ口をきくと、長生きはできませんよ」
美しい女の体の周りに、チリチリと白い雷が生じ始める。
『影を穿つ者』と呼ばれる男は肩をすくめた。
「ちっ、怖え女だ。まあ心当たりはなくもない。あれほどの武具とまともにやりあえる剣だ、作るにも手入れするにも、それなりの腕がいるからな。何か分かったら知らせてやるよ」
「これを持っていきなさい。依頼金の代わりです」
そう言うと、アンリーゼは己の指に嵌めていた指輪を一つ、ラエサルに渡した。
それは黒い宝玉がついた美しい指輪である。
ラエサルは指輪を受け取り、自分の小指に嵌めた。
「なかなか洒落た依頼料じゃねえか。遠慮なく受け取っておくぜ」
ラエサルはそう言うと、踵を返して公爵家の長い廊下を歩いていった。
しばらく歩みを進めていくうちに、その瞳が再び狼のように鋭くなる。
ラエサルの視線の先には、向こうから廊下を歩いてくる男の姿があった。
黒い鎧を着た騎士だ。背が高く、肩幅が広い。そして、その左目には黒い眼帯がつけられていた。
二人は廊下ですれ違う。
(こいつ……)
ラエサルは、自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
(ちっ、こいつも化け物だぜ。デュラン・ローエンディール、公爵の親衛隊の隊長か。雇われたときに顔だけは合わせたが……。そもそも公爵の目的はなんだ? 白王の薔薇を見つけた時、他の邪魔な奴等が近づくのを防ぐために俺たちを雇ったのかと思ったんだが……デュランやアンリーゼみたいな化け物が傍にいるなら、こいつらにやらせりゃあいい)
次第に遠ざかる黒い騎士の背を眺めながら、ラエサルは静かに息を吐いた。
「まあいいか。それにしても、Eランクであの剣や盾を砕くなんて普通じゃねえな。この俺が知らねえユニーク使い……面白そうなガキじゃねえか!」
ラエサルはそう言うと、近くの窓を開けて中庭に身を翻した。
2 階下のパーティ
俺、結城川英志は、目指していた高校の合格通知を手にしたその日、思わぬ事故で死んでしまった。
だが、ふとしたきっかけで時の女神メルティを救い、そのお礼に加護を貰って異世界に転生することになったんだ。
新しい世界エディーファ。そこで俺が辿り着いたのは、迷宮の町フェロルクだった。
人よりも十倍速く成長する能力と、時魔術と呼ばれる力で何とか冒険者として生計を立てようとした俺は、冒険者ギルドで二人の少女に出会った。
勝気な赤毛の魔法使いエリス、そして清楚で可憐な治療魔道士のリアナ。
二人の美少女の依頼を受けて、俺は一緒に迷宮に入ってレベル上げをすることになったのだが……そこで、マーキスとギリアムという悪質で残忍な二人組の冒険者に絡まれてしまった。
マーキスは強く、エリスやリアナが危険な目に遭ったけど、俺がお世話になっている鍛冶屋の親父さんからもらった武具の力と習得したスキルを駆使して、何とか退けることに成功した。
エリスたちの話によれば、おそらくあの二人は都からお忍びで来ている貴族の子息だろうとのことだ。フェロルクの町に来た貴族の子供が、道楽として迷宮に入ることはよくあるらしい。
まあ、そんなトラブルもあったが、俺たちはもっとレベルを上げるため、迷宮の中で魔物と戦い続けていた。
今俺たちを取り囲んでいるのは三匹のビッグキャタピラーだ。
「エイジ!! こっちは任せて! ストーンバレット!!」
エリスがそう叫んで、一匹のビッグキャタピラーに攻撃魔法を放った。
魔力で生まれた鋭い岩は、うなりを上げて見事に敵の胴体を貫き、絶命させる。
レベルが上がったからだろう、エリスの攻撃魔法の威力は出会った頃と比べて格段に増している。
「「ギグゥウウウウ!!」」
吠えるような声を上げて迫ってくる残りの二匹に向かい、俺は剣を構えて突っ込んだ。
「うぉおおおお!!」
【踏み込み】のスキルで一気に距離を詰めると、そのまま【袈裟斬り】で一匹を斬り裂く。
そして、もう一匹がこちらに向けて吐き出した糸を盾で振り払った。
もう一度踏み込みを使い、そいつの側面に回り込んで胴を薙ぐ。
「ギグウウウウ!!」
二匹のビッグキャタピラーが、ほぼ同時に地面に倒れ断末魔の咆哮を上げた。
スキルではなく通常攻撃なので袈裟斬りほどの威力はないが、深く斬り裂くことで充分威力を発揮する。
昨日と今日の戦いの中で、一度踏み込みを使ってから再度使用できるまでのタイムラグがどのくらいかは確認済みだ。
自分のレベルが上がるにつれてそれが短くなり、動きに隙がなくなっている。
とにかく、僅かな変化は体感で覚えていくしかないな。どのタイミングでスキルを連携させられるかにも関わってくるし。
前世でプレイしたMMO仕込みのスキル連携はお手の物だが、レベルが上がるごとにステータスやスキル性能が少しずつ向上するので、それに合わせて微調整が必要だ。
せっかく自分の能力が上がっても、使いこなせなければ意味がない。
鍛冶職人のジョブで習得したスキル【武器の知識】とも相まって、最初に迷宮に入った時よりも格段に自分が強くなっているのが分かる。
【武器の知識】は鍛冶の時だけでなく、適切な武器の扱い方が身についたり、武器に秘められた力を引き出したりできる、戦闘にも使えるスキルだ。
これのおかげで、マーキスにも勝つことができたんだよな。
戦闘が終わると、治療魔道士リアナがいつものごとく俺を褒めてくれた。
「凄いわ、エイジ! まるで本当の騎士みたい!!」
リアナは本当に褒め上手だよな、その気にさせてくれるっていうか。
お世辞じゃなくて心から言ってくれてるのが分かるから、なおさらだ。
こんな可愛い子に「凄いわ!」なんて言われたら、誰だって頑張ろうって気持ちになる。
だからリアナの支援効果は、回復だけではないと言えるだろう!
そんなことを思いつつ、俺は頭を掻いてリアナに返す。
「そ、そうかな?」
照れた俺を見て、エリスはツンとした顔で腕を組む。
「リアナ、あんまり褒めるとエイジが調子に乗るわよ!」
「なんだよ、少しぐらい褒めてくれたっていいじゃないか。俺だって色々工夫してるんだぜ?」
支援効果抜群のリアナに対して、エリスはいつも冷静だ。
まあさ、確かに調子に乗ったらいけないのはその通りなんだけど……やっぱり少しは褒めて欲しい。
元の世界でのゲーム知識や、鍛冶職人としての武器の知識。使えるものは総動員でやっているつもりだ。
同じ動作でも、次にやるときはどうやったら一番無駄がないかとか、角度はどうなのかとか、結構考えている。
中級になって下の階層に進めば、もっと強い相手と戦うことになるからな。
今のうちに準備をしておいて損はないはずだ。
「工夫するのは当然でしょ? 私たちを守るナイトなんだから」
「はいはい、エリスは厳しいからな……」
肩を落として溜め息をつくと、エリスは俺をちらりと見て慌てたように言う。
「何よ……。わ、私だって頼りにしてるわ。エイジのこと」
エリスには珍しい、素直な言葉だった。
照れているのだろうか、エリスの頬がうっすらと赤くなっている。
それでも表情にはいつもの勝気さがあり、アンバランスなその様子に俺は少しドギマギした。
エリスにこんな風に見つめられると、調子が狂うよな。
マーキスとの一件があったからかもしれない。
あの時、エリスは俺のために自分の危険を顧みずマーキスに立ち向かってくれた。気丈に振る舞っていたけれど、やはり怖かったらしく、戦闘後はしばらく震えていたっけ。
いつもと違う可憐なエリスを目の当たりにしたせいか、今も妙に意識してしまう。
エリスが目を逸らしたので、俺は軽く咳払いをした。
何だか、今のエリスの支援効果は凄かった。
二人を守りたいっていう気持ちで一杯になり、どんなことでも頑張れそうだ!
その時、頭の中で声が響いた。
『敵:ビッグキャタピラーを三匹倒しました』
『パーティ:パーティメンバーのレベルが上がりました。エリスが初級魔道士LV20になりました』
エリスが嬉しそうに笑う。
「やったわ、リアナ、エイジ! 私、レベルが20になったわ!! 二人もきっともうすぐね!」
リアナと俺はエリスの言葉に頷いた。
「ええ、そうね!」
「ああ、そうだな!」
レベルが20になると、初級から中級にクラスチェンジできる。
やっぱり一つ上のクラスになるのってドキドキするし、中級の剣士に早くなりたいよな。
俺とリアナのレベルが上がったら、すぐに皆で教会に行こう!
メルティの加護のおかげで俺は自由に職を変えられるけど、普通は教会で職業の変更やクラスチェンジをしてもらうらしい。だから、二人は教会に行く必要があるだろう。
そんなことを考えていると、リアナが俺たちに言った。
「ねえ、二人とも。そろそろ出口に向かわない? きっと戻る途中で私たちもレベルが上がるもの」
確かに、当初の俺たちの差を考えると、ビッグキャタピラーを数匹倒せばエリスに追いつくはずだ。
俺たちは、地下三階層でレベル上げをしている。
傍には地下四階への階段もあるが、今は下りる必要はないだろう。
「そうだな、リアナ」
「ええ、そうしましょう」
俺とエリスがリアナの言葉に同意して、地下二階へ上がる階段に向かおうとしたその時。
リアナが何かに気づいて、俺の服の裾を引っ張った。
ふと見れば、リアナが指さす先には、地下四階から俺たちがいるフロアに上ってくる若い男の姿がある。
男はヨロヨロと覚束ない足取りで数歩歩くと、こちらに気づいてその場に崩れ落ちた。
どうやら、傷を負っているようだ。
「リアナ! 回復を!!」
俺は叫びながら男に駆け寄った。
リアナは俺に頷くと、一緒に男の傍に急ぐ。
「ぐぅ……」
男の体はすり傷だらけで、膝と肩に数本の針が突き刺さっていた。
これは! キングキャタピラーの針か!?
「エイジ! その針を抜いてあげて!」
リアナの指示に従って、俺は男の体に刺さった針を抜く。
痛みで呻く男を見ながら、リアナはすぐの治療のための魔法を詠唱し始めた。
その体が白く清浄な魔力を帯びていき、回復魔法が発動する。
「我、聖なる力にて毒に侵されたる汝を清めん! キュアポイズン!!」
男の体が白い光に包まれて、体内の毒が浄化されていく。
リアナはすぐにヒーリングもかけて男のHPを回復した。
青ざめていた男の唇に徐々に生気が戻っていくのが分かる。
「大丈夫ですか!?」
リアナの問いに男は頷いた。
「す、すまない。ありがとう、助かったよ!」
男の首には、Eランクの冒険者の証がかけられている。見る限り、俺と同じ初級の剣士だろう。
年齢は俺たちより少し上。ブロンドで人が好さそうな雰囲気だ。
男は俺たちを見ると、必死な顔で懇願した。
「頼む! 下にはまだ仲間が!!」
俺たちは顔を見合わせ、そして尋ねた。
「一体、どうしたんですか? 何があったんです?」
俺の言葉に男は目を伏せて答える。
「実は地下五階でキングキャタピラーの巣を見つけたんだ。危険だと思ったんだが……欲を出しちまって、巣から一匹ずつおびき寄せて倒していた。そのうちに、巣にいる奴等が気づいて一気に襲い掛かって来やがって……頼む! 助けてくれ! まだ仲間が残ってるんだ!!」
その時、エリスが叫んだ。
「エイジ! 気をつけて!!」
振り向くと、四階層に続く階段に黒い影が現れた。
この人を追って来たのか!
その巨体は、キングキャタピラーだった。
俺はリアナとエリスに叫ぶ。
「二人とも後ろに下がれ! リアナ、その人を頼む。エリスは援護を!!」
「分かったわ、エイジ!」
「任せなさい!!」
リアナは男を連れて後退し、エリスは下がりつつも二人を守る位置で杖を構えた。
獲物を横取りされたとでも思ったのか、キングキャタピラーは階段を上がりながら大気をつんざくような咆哮を放つ。
「ギグゥウウウウウウウウ!!」
俺も階段から距離を取った時、キングキャタピラーが階段を上りきって三階層に姿を現した。
赤く大きな角を振りかざし、口から毒針を放つ!
俺は冷静に盾を構えた。
カン! カン! カン!!
小気味好い音を立てて、針は俺が作り出した【範囲防御】の結界に撥ね返される。
俺はすでに、セカンドジョブを盾使いに切り替えていた。
「エリス!!」
詠唱を終えたエリスが、俺の言葉を待つまでもなく魔法を放つ。
「分かってるわ! アイスボール!!」
エリスの杖から放たれた氷魔法の球が、キングキャタピラーの顔に直撃した。
氷球は音を立てて割れると細かく砕け、その破片が魔物の口の周りに広がり薄く凍り付いていく。
上手い!
氷結させることで、毒針の攻撃を封じたのだ。
やっぱりエリスは賢い。以前にこの魔物と戦った時の経験をしっかりと活かしている。
「エイジ! 今よ!!」
エリスがキングキャタピラーの様子を見て叫んだ。
「うぉおおおおおお!!」
俺は、エリスの攻撃に一瞬怯んだキングキャタピラーへ向かって突っ込んでいく。
キングキャタピラーは尾を振り回して攻撃しようとするが、俺が懐に飛び込むほうが僅かに早かった。
踏み込みながら、セカンドジョブを鍛冶職人に切り替える。
握った剣が右手にしっくりと馴染んでいく。
どの角度で斬りつければ一番効果的なのかが、はっきりと分かった。
俺は脳裏に浮かんだ軌道に違わぬように剣を振るう。
――ザン!!
剣は魔物の体を斬り裂いた。
断末魔の咆哮を上げることもなく、キングキャタピラーの巨体が床に倒れる。
感想 665
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