聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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男にも危機感は必要

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「俺、ちょいちょい魔王と会ってみようと思うんだよな」
「……は?」
「魔王城までは日帰りできるんだろ? だったら休息日にでも行けるよな。そんで、ちょっとずつ交流してみようかと」
「冗談でしょう」
「割と本気。なんでか魔王は俺に甘いみたいだから、まともに交渉できるとしたら、俺くらいなんじゃないかと」
「仮にそうだとして、危険すぎます。相手はあんたを花嫁に、と望んでいるんでしょう。何をされるかわかりませんよ」
「何かする気なら、今回帰ってきてないだろ。まー怒らせたら怪我の一つや二つするかもしれないけど、そのくらいは覚悟の上だ。外交してるんだし、殺すことはない」

 多分。きっと。と心の中でだけ付け加える。
 今思い出したけど、女だったら殺そうかと思った的なことは言ってたなそう言えば。
 やっべ。早まったかも。
 
「……ハルト様は危機感が足りませんよ」

 ベッドが軋む音がしたかと思うと、ラウルが寝転がる俺に覆いかぶさるように手をついた。
 おおおおおびびった。胃がひゅってなった。なに。何事。
 あ、でもあの小さい刃物とかは持ってないな。首切られるとかはなさそう。良かった。なんか暗殺者みたいに見えるんだこの構図。

「魔王は花嫁、って言ってるんですよ」
「それ俺は了承してないから。別に要求を呑まなくても、今後一切話もしないってことはないだろ」
「言葉の意味わかってます? あんたを妻にするつもりだ、と言ってるんです。妻に要求したいことって、なんだと思います?」
「は? 妻?」

 いやそりゃそうか。さんざん花嫁、妃、って話をしたもんな。妻か。
 なんかこう、俺の中で言葉とイメージが結びつかなかった。だって妻は女性の呼称だろ。それを言ったら花嫁も妃もそうだけどさ。
 ラウルに言われて、初めて思い当たった。そういや俺を嫁にして、何をさせたいんだ?
 なんか寄ってくる女たちがうっとうしいから、嫁がいれば虫よけになるみたいな話はしたが。それだけなら、俺である必要もない。

「ハルト様のそういう能天気なところ、長所だとは思いますけどね」
「お前長所って言えばバカにしても許されると思って、っ」

 急に耳に触れられて、体が跳ねた。普段人に触れられることなんかない場所だから、過敏に反応してしまった。恥ずかしい。
 息を呑んだ俺に気づいただろうに、ラウルはそのまま耳をくすぐるように指を動かした。途端にぞわぞわした感覚が走って、俺は口より先に手が出た。
 しかしその手は呆気なく掴まれ、両手を頭上にまとめられてしまった。

「お……っま、何がしたいんだよ!」
「だから、魔王がしたいことって、こういうことなんじゃないんですか」
「はぁ!? 確かに人をおちょくるのが好きそうではあったけど!」
「そうじゃなくて……噓でしょ、この状況でまだわかりませんか」

 心底呆れたようなラウルに、カチンとくる。
 
「回りくどいことしてないではっきり言えよ!」
「魔王の性的指向は男ですよ」
「それがどうし……なに?」
「だから。魔王は、男を抱きたい人なんです」

 俺の脳がいったん止まって、緩やかに稼働しだす。
 あーはいはいそういうことね。完全に理解したわ。
 女が嫌い、女が嫌い、ってずっと言うから、女性恐怖症の類なんじゃないかと思ってたんだけど。
 あれか、男が好きなのね。うんうん、別にいいじゃないか。性的指向は自由だ。
 だが待て。その前提があると、ダリアンの行動の、全ての意味が変わってこないか。
 俺にべたべたしてたのは? 膝に乗せてたのは? 花嫁にするって言葉は?
 すなわち。

「俺抱かれるかもしんないってことぉ!?」
「おっそ」

 ようやく事態を認識した俺に、ラウルは呆れを全面に出していた。

「だだだだって、言われなきゃわかんねぇよそんなの! 男だもん貞操の心配とかしたことないわ!」
「それが甘いって言ってるんですよ。現に今、オレ相手に何もできないでしょう。オレが魔王だったらもう喰われてますよ」
「ひええええ」

 恐ろしい。事前に警告してもらえて良かった。
 事前情報がなかったら、俺はダリアンに同じことをされても、殺されるのかな、という危機しかわからなかったと思う。
 いやこの体勢になった時点で詰みだな? 逃れ方を後で教わっておこう。

「だから」

 すり、とラウルが俺の頬を撫でる。いやもう十分わかったからそういうスキンシップはいいから。

「魔王と頻繁に会うなんて、オレは反対です。そんな危険を冒してまで、あんたが交渉する必要ないでしょう」

 心配に揺れる瞳に、俺は胸が締めつけられた。
 ああ、そっか。こいつ、本気で俺のこと心配してるんだ。
 自分のせいで俺が危ない目に遭ったと、本気で後悔して。その俺が、また自分から危険に飛び込もうとしている。それが許せないんだ。
 次こそは、取り返しがつかないかもしれない、と。

「ラウル」

 俺が押さえられた手に力を込めると、意図を察したラウルが拘束した手を放す。
 自由になった両腕で、俺は手を伸ばして、ラウルを抱き寄せた。

「大丈夫だって。そんな危ないことはしねぇよ。俺は自分がかわいいからな。自己犠牲とか、そんなヒーローみたいなことは無理」
「……言葉と行動が伴ってないんですよ」
「んなことねぇと思うんだけどなー」

 自分に正直に生きているから、面倒なことは面倒だし、怖いことは怖いし。
 今回のダリアンの件だって。花嫁の話は、受ける気がない。呪いをかけられた人たちは憐れに思うけど、やっぱりそのために俺の一生を捧げろってのは無理だ。
 だけど、交渉くらいならできるかもしれないと。これは俺が自分の能力のできる範囲で決めたことだ。無茶や無謀だとは思っていない。
 そこに予想だにしない危険があったことは今知ったが、だからと言ってダリアンと会うのをやめようと思うほどではない。
 どの道、花嫁云々の返事をするために、一度は会わなければいけないのだ。
 あまり怖がっても、機嫌を損ねてしまうだろう。
 
「なるようになるさ。大丈夫、大丈夫」

 ぽんぽん、とラウルの背を叩く。
 どうにもこの世話係は、カインに輪をかけて心配性なようだから。

「これじゃどっちが世話係かわかんねぇな!」
「……まったくですね」

 声を上げて笑った俺に、ラウルも小さく笑みを零して、そのまま俺の隣に転がった。

「今日はこのままここで寝ます」
「え。いいのか? ベッド広いし、俺はいいけど」
「ここがいいです」

 まぁどうせいつもどこかにいるし、いっか。
 俺は深く考えず、疲れていたので、そのまま眠った。
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