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娘は嫁にやらん!
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□■□
「ただいまー」
「ハルトォォォ!?」
へらっとした顔で皆様の元へ帰ったところ、家出娘のごとく叱られたり泣かれたり抱きしめられたりしました。落ち着け、一晩経ってない。
とりあえず夜も遅いし、こっそり自室へ帰ろうと思っていたのだが。
俺が魔王に連れ去られたことは、城中に伝達されていたらしい。聖堂を出たところで衛兵に確保され、明日にしようという俺の言葉も無視し、いつメンことカインとアルベールとアーサーが会議室に集められ、渋る俺の背を職務に忠実な衛兵が押して部屋に入れられた。
そして冒頭に至る。
ちなみにラウルは姿が見えないけど、多分どっかにいるんだと思う。
「えぇと、とりあえず無事は確認できたんだし、詳しい事情は明日ってことで」
「ダメに決まってるでしょう」
「デスヨネー」
もうダリアンのことで俺の頭はキャパオーバーなのだが。ちょっと休ませてほしい。
けどこのまま俺が引っこんだら、カインたちはいったい何があったのかとやきもきしながら一晩過ごさねばならないわけだ。それも申し訳ない。
俺はあまり回らない頭で、なんとか事情を説明した。
連れ去られた後、一緒に食事をとった以外は何もなかったこと。
魔王は今のところ俺に危害を加える気はなさそうなこと。
女たちに呪いをかけるのをやめる気もなさそうなこと。
それから。
「俺が魔王の花嫁になるなら、全員の呪いを解くって」
空気が凍った。つらい。俺だって言いたくないこんなこと。
けど黙っていてもいずれわかることだろう。
もしかしたら笑い飛ばしてくれるんじゃないかって。そんな期待もしていた。
でもこいつら皆して黙ったってことは、実際そういうことしそうな奴なんだな。
「笑っちまうよな、花嫁とか。男に言う台詞じゃねーよ」
誰も笑ってくれないから、俺は自分で笑った。
おいやめろ深刻な空気になるな。真実味が増すだろ。
それとも何か。お前ら。まさか。迷ってるのか。
俺を、差し出せば、って。
「俺一人で、全員助かるなら」
「そんなことはさせない!」
空気がびりりと震えた。
言葉を遮られた俺は、目を丸くしたまま固まった。
動かない俺の手を、カインが固く握る。
「ハルトを犠牲にしたりなどしない。絶対に!」
「え、いや、だって」
「たとえそれで呪いが解けるのだとしても。君を犠牲にして救われた国など、そんな汚名を背負う気はない。ハルトを差し出すくらいなら、真っ向から戦おう」
「カイン……」
真正面から見据えられて、俺は動揺した。
いや、俺が言おうとしたのは。
「そうだぜ、ハルト!」
アーサーが力強い声と共に、俺の肩に手を置いた。
「言っただろ、お前のことはオレが絶対に守るって。忘れたのかよ。魔王なんかに渡したりしないさ」
「アーサー」
続くように、アルベールがそっと俺の背に手を添えた。
「あまり私たちをなめないでください。魔王の脅しに屈したりはしませんよ。ですからそんな……自己犠牲など、二度と口にしないでください」
「アルベール……ごめん」
神妙な顔で謝った俺に、皆は優しく笑ってくれた。
いや、ほんと、ごめん。
自己犠牲なんて、そんなつもり、本当になかったんだけど。
むしろ、「俺一人で全員助かるなら魔王に渡しちゃえとか、思ってないだろうなお前ら!」って怒るつもりだったんだけど。
俺が間違ってたよ。お前ら、思った以上に俺のこと大事にしてくれてたんだな。
いい感じに勘違いしてくれてるから、黙っとこ。
「っはー、疲れたー!」
ぼすりと自室のベッドに飛び込んで、枕に顔を埋める。
とりあえず対策はまた後日ということで、あの三人からも解放された。やっとゆっくり休める。
ごろりと仰向けに転がって、俺は全身の力を抜いた。
目を閉じると、ベッドがぎしりと軋んだ音がした。
「ラウルにも心配かけたな、ごめん」
「……いえ」
見なくてもわかった。ラウルがベッドに腰掛けた音だ。
「オレの方こそ、すみません。護衛失格ですね」
「いやいや、あれは不可抗力だろ。魔法で瞬間移動とか、どう防ぐんだよ。無理だわ」
「それを防ぐのが、護衛の役割なんですよ」
「魔王相手に? 無茶ぶりー。アーサーがいても無理だったんじゃねーの」
「どうですかね」
軽口にのってくれない。どうやら本気で落ち込んでいるらしい。
でもあれは無理だろう。ダリアンは自分が最強なのだと言っていた。ダリアンの魔力に対抗できたのは、過去一人しかいないとも。
であれば、武の達人であるアーサーでも、魔法の達人であるアルベールでも防げなかったんじゃないかと思われる。
護衛が本職でないラウルなら、尚更無理だろう。世話係って言ってたじゃんか。過剰任務だわ。
「ラウルには悪いけど、俺はダリアンと話せてちょっと良かったと思ってるよ」
「……ダリアン?」
「あ、魔王の名前。教えてもらった。皆魔王って呼ぶから合わせてたんだけどさ。名前って秘匿されてる感じ? 言ったらまずい?」
「名前そのものは、ある程度知られてますけど。そんな気安く呼ぶ人間、いませんよ」
「マジか。ってことは、俺結構許されてるんだな」
膝に乗せられたくらいだしな、と遠い目をする俺に、ラウルは眉をひそめた。
「魔王と何を話したんです」
「んー、大まかには、さっきカインたちに伝えた通りだけどさ。女が嫌いな理由とかも、ちゃんとあったんだなって思って。それに、昔は魔族ってひどかったらしいけど、今はダリアンが王様やることで収まってるんだろ? だったらあいつ、そこまで悪い奴じゃないのかもと思ってさ。まぁ呪いは最低だし、それは本人にも言ったけど」
呪いに関しては大変はた迷惑だが、おそらくダリアンは人間と歩み寄る気があるのだ。
そして取引条件は最悪だったが、それでも呪いを解くことをほのめかした。
つまり、絶対に何がなんでも呪いを解かない、というわけでもない。
何かしら交渉の条件が合えば。ダリアンは、呪いを解く可能性がある。けれどここまでこじれているということは、マベルデ王国の外交だけでは無理だ。
俺にできることがあるとすれば。
「ただいまー」
「ハルトォォォ!?」
へらっとした顔で皆様の元へ帰ったところ、家出娘のごとく叱られたり泣かれたり抱きしめられたりしました。落ち着け、一晩経ってない。
とりあえず夜も遅いし、こっそり自室へ帰ろうと思っていたのだが。
俺が魔王に連れ去られたことは、城中に伝達されていたらしい。聖堂を出たところで衛兵に確保され、明日にしようという俺の言葉も無視し、いつメンことカインとアルベールとアーサーが会議室に集められ、渋る俺の背を職務に忠実な衛兵が押して部屋に入れられた。
そして冒頭に至る。
ちなみにラウルは姿が見えないけど、多分どっかにいるんだと思う。
「えぇと、とりあえず無事は確認できたんだし、詳しい事情は明日ってことで」
「ダメに決まってるでしょう」
「デスヨネー」
もうダリアンのことで俺の頭はキャパオーバーなのだが。ちょっと休ませてほしい。
けどこのまま俺が引っこんだら、カインたちはいったい何があったのかとやきもきしながら一晩過ごさねばならないわけだ。それも申し訳ない。
俺はあまり回らない頭で、なんとか事情を説明した。
連れ去られた後、一緒に食事をとった以外は何もなかったこと。
魔王は今のところ俺に危害を加える気はなさそうなこと。
女たちに呪いをかけるのをやめる気もなさそうなこと。
それから。
「俺が魔王の花嫁になるなら、全員の呪いを解くって」
空気が凍った。つらい。俺だって言いたくないこんなこと。
けど黙っていてもいずれわかることだろう。
もしかしたら笑い飛ばしてくれるんじゃないかって。そんな期待もしていた。
でもこいつら皆して黙ったってことは、実際そういうことしそうな奴なんだな。
「笑っちまうよな、花嫁とか。男に言う台詞じゃねーよ」
誰も笑ってくれないから、俺は自分で笑った。
おいやめろ深刻な空気になるな。真実味が増すだろ。
それとも何か。お前ら。まさか。迷ってるのか。
俺を、差し出せば、って。
「俺一人で、全員助かるなら」
「そんなことはさせない!」
空気がびりりと震えた。
言葉を遮られた俺は、目を丸くしたまま固まった。
動かない俺の手を、カインが固く握る。
「ハルトを犠牲にしたりなどしない。絶対に!」
「え、いや、だって」
「たとえそれで呪いが解けるのだとしても。君を犠牲にして救われた国など、そんな汚名を背負う気はない。ハルトを差し出すくらいなら、真っ向から戦おう」
「カイン……」
真正面から見据えられて、俺は動揺した。
いや、俺が言おうとしたのは。
「そうだぜ、ハルト!」
アーサーが力強い声と共に、俺の肩に手を置いた。
「言っただろ、お前のことはオレが絶対に守るって。忘れたのかよ。魔王なんかに渡したりしないさ」
「アーサー」
続くように、アルベールがそっと俺の背に手を添えた。
「あまり私たちをなめないでください。魔王の脅しに屈したりはしませんよ。ですからそんな……自己犠牲など、二度と口にしないでください」
「アルベール……ごめん」
神妙な顔で謝った俺に、皆は優しく笑ってくれた。
いや、ほんと、ごめん。
自己犠牲なんて、そんなつもり、本当になかったんだけど。
むしろ、「俺一人で全員助かるなら魔王に渡しちゃえとか、思ってないだろうなお前ら!」って怒るつもりだったんだけど。
俺が間違ってたよ。お前ら、思った以上に俺のこと大事にしてくれてたんだな。
いい感じに勘違いしてくれてるから、黙っとこ。
「っはー、疲れたー!」
ぼすりと自室のベッドに飛び込んで、枕に顔を埋める。
とりあえず対策はまた後日ということで、あの三人からも解放された。やっとゆっくり休める。
ごろりと仰向けに転がって、俺は全身の力を抜いた。
目を閉じると、ベッドがぎしりと軋んだ音がした。
「ラウルにも心配かけたな、ごめん」
「……いえ」
見なくてもわかった。ラウルがベッドに腰掛けた音だ。
「オレの方こそ、すみません。護衛失格ですね」
「いやいや、あれは不可抗力だろ。魔法で瞬間移動とか、どう防ぐんだよ。無理だわ」
「それを防ぐのが、護衛の役割なんですよ」
「魔王相手に? 無茶ぶりー。アーサーがいても無理だったんじゃねーの」
「どうですかね」
軽口にのってくれない。どうやら本気で落ち込んでいるらしい。
でもあれは無理だろう。ダリアンは自分が最強なのだと言っていた。ダリアンの魔力に対抗できたのは、過去一人しかいないとも。
であれば、武の達人であるアーサーでも、魔法の達人であるアルベールでも防げなかったんじゃないかと思われる。
護衛が本職でないラウルなら、尚更無理だろう。世話係って言ってたじゃんか。過剰任務だわ。
「ラウルには悪いけど、俺はダリアンと話せてちょっと良かったと思ってるよ」
「……ダリアン?」
「あ、魔王の名前。教えてもらった。皆魔王って呼ぶから合わせてたんだけどさ。名前って秘匿されてる感じ? 言ったらまずい?」
「名前そのものは、ある程度知られてますけど。そんな気安く呼ぶ人間、いませんよ」
「マジか。ってことは、俺結構許されてるんだな」
膝に乗せられたくらいだしな、と遠い目をする俺に、ラウルは眉をひそめた。
「魔王と何を話したんです」
「んー、大まかには、さっきカインたちに伝えた通りだけどさ。女が嫌いな理由とかも、ちゃんとあったんだなって思って。それに、昔は魔族ってひどかったらしいけど、今はダリアンが王様やることで収まってるんだろ? だったらあいつ、そこまで悪い奴じゃないのかもと思ってさ。まぁ呪いは最低だし、それは本人にも言ったけど」
呪いに関しては大変はた迷惑だが、おそらくダリアンは人間と歩み寄る気があるのだ。
そして取引条件は最悪だったが、それでも呪いを解くことをほのめかした。
つまり、絶対に何がなんでも呪いを解かない、というわけでもない。
何かしら交渉の条件が合えば。ダリアンは、呪いを解く可能性がある。けれどここまでこじれているということは、マベルデ王国の外交だけでは無理だ。
俺にできることがあるとすれば。
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