聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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俺は無理なんかしてない

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 □■□

「ただいまー」
「戻ったか、ハルト」

 ほっとしたような顔で出迎えたカインに、俺は苦笑した。

「んな顔すんなよ。約束しただろ? 戻ってくるって」
「いや、わかっていても、どうにもな」

 心配性め。
 俺はカインを安心させるために、お茶をしながら、ダリアンと話したことを包み隠さずカインに話した。といっても、今日は本当に適当な雑談しかしていないのだが。
 何もなかったことに、ひとまずカインはほっとしたようだった。

「また行くつもりか?」
「まー、暫くは続けてみるつもりだ。まだ核心つくような話はできないしな」
「そうか……」

 カインは表情を曇らせると、ぐっと拳に力を込めた。

「君には、負担をかける」
「いやいや、俺から言いだしたことじゃん」
「それは、呪いを受けた我が国民を思ってのことだろう」

 カインは俺の手を取ると、恭しく額に当てた。

「ハルトが聖女で、良かった」
「お、おう」
「けれど頼むから……頼むから、無理だけは、しないでくれ」

 まーたこの王子様は。
 俺は片眉を上げた。そんなに信用ないかね。
 
「うわっ!?」

 俺は両手でわしゃわしゃとカインの髪をかき混ぜた。
 動揺するカインの声を無視して思う存分撫でくり回してから手を放す。
 ぐっしゃぐしゃの髪を押さえて、カインは疑問符を飛ばしまくっていた。
 そんなカインを満足げに眺めて、俺は息を吐いた。

「俺よりカインの方が心配のしすぎで倒れそうだっつの。そっちこそ無理すんな。全部一人で背負ってたら、倒れるぞ」

 俺の言葉に、カインは目を丸くしていた。無自覚か。真面目くんめ。

「俺は疲れたからもう休む。カインもしっかり休めよ」
「あ、ああ……」

 呆けたようなカインを残して、俺は自室に戻った。

 

 それから俺は、宣言通り、度々魔王城へ出向くようになった。
 朝は遅めに起きて、軽い朝食をとり、その後は儀式まで自由時間。城内の仕事を手伝ったり、軽いトレーニングをしたり、城下町をぶらついたりして過ごす。その間に昼食は城の食堂でとったり、城下町で食べたりとまちまち。
 儀式の時間になったら聖堂へ行き、解呪の儀式を執り行う。ぶっ倒れたら誰かに運んでもらって自室で休む。自力で歩ける時は、自分で戻る。
 ちょっと休んで回復したら、夕食は食堂でとる。身動きがとれない時は部屋に持ってきてもらう。
 それから風呂に入ったり、本を読んだり、誰かと喋ったりして、就寝。
 六日間をそうして過ごし、休息日の七日目に馬車で魔王城へ訪問する。
 そんな毎日を過ごしていた。

「いやちょっと無理しすぎじゃないですか」
「へ?」

 今日も今日とて魔王城へ行こうとしていたところ、ラウルからこう言われた。突然なんだ。

「そもそも休息日って、あんたが倒れるから、一日休むために設けられた日ですよね。それが早朝から魔王城に行ってるんじゃ、意味ないじゃないですか」
「い、今はもう毎回倒れてないだろ」
「毎回じゃないだけで倒れてるでしょ」

 そう言われると反論できない。
 けど、俺は本当に無理しているとは思ってない。むしろ普通に考えたら楽すぎるスケジュールだ。
 朝だって学校行くより遅くまで寝てるし、仕事の実働時間は一時間くらいしかないし。なんなら毎日が休みで、魔王城に行く日だけ仕事しているくらいの感覚だ。それが申し訳なさ過ぎて、たまに城内の雑用を手伝ったりしているけど、それも本当に『お手伝い』の域を出ない。
 えっそう考えると本当に俺働いてない。教科書ないからって言い訳してろくに受験勉強もしてないし。堕落しすぎでは?

「何考えてるかだいたいわかりますけどね。ハルト様の考え方は極端なんですよ。解呪がどれだけ消耗するかわかってますか。かかった時間が問題なんじゃありません。兵が一日訓練したくらいだと思ってください」
「んな大げさな」
「朝遅くまで起きられないのは、疲労が抜けきらないからでしょう。本当は今日起きるのも、きつかったんじゃないですか。顔色悪いですよ」
「……んなことねぇよ」

 そうなのだ。普段は遅くまで寝ているが、魔王城に行く時だけは早起きする必要がある。
 何故なら、カインとの約束があるので、あまり遅く戻ってくるわけにはいかないからだ。日帰りできる距離だと言っても、午後からのんびり行けるような距離ではさすがにない。
 そうは言っても週一だぞ? 週一早起きする程度ができないとか、あり得る?

「とりあえず、今日はもう行くつもりで準備してるし。馬車の人も呼んでるし。行くぞ」

 渋々、といった様子で、ラウルは俺の後ろから付き従った。

 □■□

「……顔色が悪いな」
「うっそぉ」

 ダリアンから見ても。ていうかお前からそれを言われるとは思わなかったよ。人の顔色とか気にすんだ。
 いつものように応接室のソファに並んで座っていた俺の肩を、ダリアンが急に抱いた。かと思うと、自分の膝に倒した。いわゆる膝枕。ほわい?

「えっなに」
「少し寝ていろ」
「いや、俺ダリアンと話しに来たんだし」
「そんな顔色の奴と話をする気にはならない。いいから寝ろ。寝ないなら魔法で強制的に寝かせるが」
「寝ます。おやすみ」

 俺は大人しく目を閉じた。強制的に魔法で眠らされたなど、もしマベルデ国側に知られたらシャレにならない。

「……疲れているのなら、無理に来る必要はないんだぞ」

 独り言のようだったが、俺はぼんやりとしながら返した。

「別に無理はしてないけど、やっぱ馬車はちょい疲れるよな。乗り慣れてないし」
「そうか。馬車か。何とかしよう」

 ふむ、と考えるような声を漏らしたダリアンに、俺は嫌な予感がした。
 何とかってなんだ。迎えに来るとか言い出すなよ。
 口には出さないまま、俺は意識が沈むのを感じていた。
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