19 / 32
俺は無理なんかしてない
しおりを挟む
□■□
「ただいまー」
「戻ったか、ハルト」
ほっとしたような顔で出迎えたカインに、俺は苦笑した。
「んな顔すんなよ。約束しただろ? 戻ってくるって」
「いや、わかっていても、どうにもな」
心配性め。
俺はカインを安心させるために、お茶をしながら、ダリアンと話したことを包み隠さずカインに話した。といっても、今日は本当に適当な雑談しかしていないのだが。
何もなかったことに、ひとまずカインはほっとしたようだった。
「また行くつもりか?」
「まー、暫くは続けてみるつもりだ。まだ核心つくような話はできないしな」
「そうか……」
カインは表情を曇らせると、ぐっと拳に力を込めた。
「君には、負担をかける」
「いやいや、俺から言いだしたことじゃん」
「それは、呪いを受けた我が国民を思ってのことだろう」
カインは俺の手を取ると、恭しく額に当てた。
「ハルトが聖女で、良かった」
「お、おう」
「けれど頼むから……頼むから、無理だけは、しないでくれ」
まーたこの王子様は。
俺は片眉を上げた。そんなに信用ないかね。
「うわっ!?」
俺は両手でわしゃわしゃとカインの髪をかき混ぜた。
動揺するカインの声を無視して思う存分撫でくり回してから手を放す。
ぐっしゃぐしゃの髪を押さえて、カインは疑問符を飛ばしまくっていた。
そんなカインを満足げに眺めて、俺は息を吐いた。
「俺よりカインの方が心配のしすぎで倒れそうだっつの。そっちこそ無理すんな。全部一人で背負ってたら、倒れるぞ」
俺の言葉に、カインは目を丸くしていた。無自覚か。真面目くんめ。
「俺は疲れたからもう休む。カインもしっかり休めよ」
「あ、ああ……」
呆けたようなカインを残して、俺は自室に戻った。
それから俺は、宣言通り、度々魔王城へ出向くようになった。
朝は遅めに起きて、軽い朝食をとり、その後は儀式まで自由時間。城内の仕事を手伝ったり、軽いトレーニングをしたり、城下町をぶらついたりして過ごす。その間に昼食は城の食堂でとったり、城下町で食べたりとまちまち。
儀式の時間になったら聖堂へ行き、解呪の儀式を執り行う。ぶっ倒れたら誰かに運んでもらって自室で休む。自力で歩ける時は、自分で戻る。
ちょっと休んで回復したら、夕食は食堂でとる。身動きがとれない時は部屋に持ってきてもらう。
それから風呂に入ったり、本を読んだり、誰かと喋ったりして、就寝。
六日間をそうして過ごし、休息日の七日目に馬車で魔王城へ訪問する。
そんな毎日を過ごしていた。
「いやちょっと無理しすぎじゃないですか」
「へ?」
今日も今日とて魔王城へ行こうとしていたところ、ラウルからこう言われた。突然なんだ。
「そもそも休息日って、あんたが倒れるから、一日休むために設けられた日ですよね。それが早朝から魔王城に行ってるんじゃ、意味ないじゃないですか」
「い、今はもう毎回倒れてないだろ」
「毎回じゃないだけで倒れてるでしょ」
そう言われると反論できない。
けど、俺は本当に無理しているとは思ってない。むしろ普通に考えたら楽すぎるスケジュールだ。
朝だって学校行くより遅くまで寝てるし、仕事の実働時間は一時間くらいしかないし。なんなら毎日が休みで、魔王城に行く日だけ仕事しているくらいの感覚だ。それが申し訳なさ過ぎて、たまに城内の雑用を手伝ったりしているけど、それも本当に『お手伝い』の域を出ない。
えっそう考えると本当に俺働いてない。教科書ないからって言い訳してろくに受験勉強もしてないし。堕落しすぎでは?
「何考えてるかだいたいわかりますけどね。ハルト様の考え方は極端なんですよ。解呪がどれだけ消耗するかわかってますか。かかった時間が問題なんじゃありません。兵が一日訓練したくらいだと思ってください」
「んな大げさな」
「朝遅くまで起きられないのは、疲労が抜けきらないからでしょう。本当は今日起きるのも、きつかったんじゃないですか。顔色悪いですよ」
「……んなことねぇよ」
そうなのだ。普段は遅くまで寝ているが、魔王城に行く時だけは早起きする必要がある。
何故なら、カインとの約束があるので、あまり遅く戻ってくるわけにはいかないからだ。日帰りできる距離だと言っても、午後からのんびり行けるような距離ではさすがにない。
そうは言っても週一だぞ? 週一早起きする程度ができないとか、あり得る?
「とりあえず、今日はもう行くつもりで準備してるし。馬車の人も呼んでるし。行くぞ」
渋々、といった様子で、ラウルは俺の後ろから付き従った。
□■□
「……顔色が悪いな」
「うっそぉ」
ダリアンから見ても。ていうかお前からそれを言われるとは思わなかったよ。人の顔色とか気にすんだ。
いつものように応接室のソファに並んで座っていた俺の肩を、ダリアンが急に抱いた。かと思うと、自分の膝に倒した。いわゆる膝枕。ほわい?
「えっなに」
「少し寝ていろ」
「いや、俺ダリアンと話しに来たんだし」
「そんな顔色の奴と話をする気にはならない。いいから寝ろ。寝ないなら魔法で強制的に寝かせるが」
「寝ます。おやすみ」
俺は大人しく目を閉じた。強制的に魔法で眠らされたなど、もしマベルデ国側に知られたらシャレにならない。
「……疲れているのなら、無理に来る必要はないんだぞ」
独り言のようだったが、俺はぼんやりとしながら返した。
「別に無理はしてないけど、やっぱ馬車はちょい疲れるよな。乗り慣れてないし」
「そうか。馬車か。何とかしよう」
ふむ、と考えるような声を漏らしたダリアンに、俺は嫌な予感がした。
何とかってなんだ。迎えに来るとか言い出すなよ。
口には出さないまま、俺は意識が沈むのを感じていた。
「ただいまー」
「戻ったか、ハルト」
ほっとしたような顔で出迎えたカインに、俺は苦笑した。
「んな顔すんなよ。約束しただろ? 戻ってくるって」
「いや、わかっていても、どうにもな」
心配性め。
俺はカインを安心させるために、お茶をしながら、ダリアンと話したことを包み隠さずカインに話した。といっても、今日は本当に適当な雑談しかしていないのだが。
何もなかったことに、ひとまずカインはほっとしたようだった。
「また行くつもりか?」
「まー、暫くは続けてみるつもりだ。まだ核心つくような話はできないしな」
「そうか……」
カインは表情を曇らせると、ぐっと拳に力を込めた。
「君には、負担をかける」
「いやいや、俺から言いだしたことじゃん」
「それは、呪いを受けた我が国民を思ってのことだろう」
カインは俺の手を取ると、恭しく額に当てた。
「ハルトが聖女で、良かった」
「お、おう」
「けれど頼むから……頼むから、無理だけは、しないでくれ」
まーたこの王子様は。
俺は片眉を上げた。そんなに信用ないかね。
「うわっ!?」
俺は両手でわしゃわしゃとカインの髪をかき混ぜた。
動揺するカインの声を無視して思う存分撫でくり回してから手を放す。
ぐっしゃぐしゃの髪を押さえて、カインは疑問符を飛ばしまくっていた。
そんなカインを満足げに眺めて、俺は息を吐いた。
「俺よりカインの方が心配のしすぎで倒れそうだっつの。そっちこそ無理すんな。全部一人で背負ってたら、倒れるぞ」
俺の言葉に、カインは目を丸くしていた。無自覚か。真面目くんめ。
「俺は疲れたからもう休む。カインもしっかり休めよ」
「あ、ああ……」
呆けたようなカインを残して、俺は自室に戻った。
それから俺は、宣言通り、度々魔王城へ出向くようになった。
朝は遅めに起きて、軽い朝食をとり、その後は儀式まで自由時間。城内の仕事を手伝ったり、軽いトレーニングをしたり、城下町をぶらついたりして過ごす。その間に昼食は城の食堂でとったり、城下町で食べたりとまちまち。
儀式の時間になったら聖堂へ行き、解呪の儀式を執り行う。ぶっ倒れたら誰かに運んでもらって自室で休む。自力で歩ける時は、自分で戻る。
ちょっと休んで回復したら、夕食は食堂でとる。身動きがとれない時は部屋に持ってきてもらう。
それから風呂に入ったり、本を読んだり、誰かと喋ったりして、就寝。
六日間をそうして過ごし、休息日の七日目に馬車で魔王城へ訪問する。
そんな毎日を過ごしていた。
「いやちょっと無理しすぎじゃないですか」
「へ?」
今日も今日とて魔王城へ行こうとしていたところ、ラウルからこう言われた。突然なんだ。
「そもそも休息日って、あんたが倒れるから、一日休むために設けられた日ですよね。それが早朝から魔王城に行ってるんじゃ、意味ないじゃないですか」
「い、今はもう毎回倒れてないだろ」
「毎回じゃないだけで倒れてるでしょ」
そう言われると反論できない。
けど、俺は本当に無理しているとは思ってない。むしろ普通に考えたら楽すぎるスケジュールだ。
朝だって学校行くより遅くまで寝てるし、仕事の実働時間は一時間くらいしかないし。なんなら毎日が休みで、魔王城に行く日だけ仕事しているくらいの感覚だ。それが申し訳なさ過ぎて、たまに城内の雑用を手伝ったりしているけど、それも本当に『お手伝い』の域を出ない。
えっそう考えると本当に俺働いてない。教科書ないからって言い訳してろくに受験勉強もしてないし。堕落しすぎでは?
「何考えてるかだいたいわかりますけどね。ハルト様の考え方は極端なんですよ。解呪がどれだけ消耗するかわかってますか。かかった時間が問題なんじゃありません。兵が一日訓練したくらいだと思ってください」
「んな大げさな」
「朝遅くまで起きられないのは、疲労が抜けきらないからでしょう。本当は今日起きるのも、きつかったんじゃないですか。顔色悪いですよ」
「……んなことねぇよ」
そうなのだ。普段は遅くまで寝ているが、魔王城に行く時だけは早起きする必要がある。
何故なら、カインとの約束があるので、あまり遅く戻ってくるわけにはいかないからだ。日帰りできる距離だと言っても、午後からのんびり行けるような距離ではさすがにない。
そうは言っても週一だぞ? 週一早起きする程度ができないとか、あり得る?
「とりあえず、今日はもう行くつもりで準備してるし。馬車の人も呼んでるし。行くぞ」
渋々、といった様子で、ラウルは俺の後ろから付き従った。
□■□
「……顔色が悪いな」
「うっそぉ」
ダリアンから見ても。ていうかお前からそれを言われるとは思わなかったよ。人の顔色とか気にすんだ。
いつものように応接室のソファに並んで座っていた俺の肩を、ダリアンが急に抱いた。かと思うと、自分の膝に倒した。いわゆる膝枕。ほわい?
「えっなに」
「少し寝ていろ」
「いや、俺ダリアンと話しに来たんだし」
「そんな顔色の奴と話をする気にはならない。いいから寝ろ。寝ないなら魔法で強制的に寝かせるが」
「寝ます。おやすみ」
俺は大人しく目を閉じた。強制的に魔法で眠らされたなど、もしマベルデ国側に知られたらシャレにならない。
「……疲れているのなら、無理に来る必要はないんだぞ」
独り言のようだったが、俺はぼんやりとしながら返した。
「別に無理はしてないけど、やっぱ馬車はちょい疲れるよな。乗り慣れてないし」
「そうか。馬車か。何とかしよう」
ふむ、と考えるような声を漏らしたダリアンに、俺は嫌な予感がした。
何とかってなんだ。迎えに来るとか言い出すなよ。
口には出さないまま、俺は意識が沈むのを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる