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春の君
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「――いっだ!」
ゴン、という強い衝撃が頭に走って、俺は目を覚ました。
視界に映る自室の景色は逆さまだった。どうやらベッドから落ちたらしい。
俺別に寝相悪くないのに。変な夢を見たせいだ、とぶつくさ文句を言いながら、俺は乱れた寝具を直した。
本当に変な夢だった。知らない場所で、俺は俺じゃなくて、なのにダリアンはダリアンで。
いったいなんだったのか、と首を傾げると、サイドテーブルに置かれたピアスが目についた。
「……これのせいかぁ?」
なんか変な魔法でもかかっていたのだろうか。
体に異変はないし、おそらく害はないだろうと判断して、結局俺は着替えた後、そのピアスをまた服の襟につけた。
□■□
さて、ダリアンから貰った転移用魔石の使用可否についてだが。
「ダメでしょう」
「ダメだろう」
「ダメに決まってる」
満場一致で却下された。というかドン引きのレベルだった。
一応新規アイテム入手、ということで、相談のために、またいつメン三人と会議室に集まっていた。
「便利なのに」
「むしろそれを疑いなくあなたが持っていることが信じられません」
「なんで!?」
「何が仕込まれているかわからないでしょう」
「えー。じゃアルベールに預ける? 調べてみりゃいいじゃん」
渋々、といった様子でアルベールが受け取った。
調べたくはないが、俺が持っていると言ってきかないから、それなら調べないわけにもいかないということだろう。
そういえば、と俺は気になっていたことをアルベールに尋ねた。
「なぁ、ちなみにただの転移装置だったとして、それって人数制限あんの?」
「込められた魔力に寄りますね。魔王の作ったものなら、二人くらいは余裕じゃないでしょうか。複数人で使用する場合は、魔石に触れているか、魔石に触れている人物に触れている必要があります」
「なんだ。ならラウルと二人で使えるじゃん」
「けど魔王は城内にハルト以外が入ることを許してないんだろ? 転移した瞬間ラウルだけ攻撃されたらどうすんだよ」
アーサーからの指摘に、確かに、と頷いた。そこはやはり事前にダリアンに許可をとっておかねばならないか。とれる気がしないけど。
せっかく貰ったのに使えないのか、と俺はしおれた。通勤通学時間を短縮したいというのは、全人類共通の望みだと思うのだが。
やっぱ勝手に使おうかな……。ダリアンの場所に直通なんだったら道中の護衛は考えなくていいわけだから、危険も特にないと思うんだけどな。
とりあえず魔石の問題を片付けた俺は、ミシェルに聞きたいことがあって書庫に向かった。
別にあの三人に聞いても良かったんだけど、なんとなく、カインに聞かれない方がいいと思ったからだ。
「ミシェルー」
「ハルト様。どうなさいました?」
書庫の主は、相変わらず神々しい姿で窓辺に佇んでいた。うーん絵画。
眩しさに目をしぱしぱさせながら、俺は近くの椅子を引いて座った。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。エアル、って名前に心当たりある?」
「エアル……ですか?」
意外そうに目を瞬かせたミシェルに、ちょっと唐突すぎたかな、と思っていると。
「心当たりも何も。以前お話した勇者の名前が、エアル様ですよ」
「マジでぇ!?」
俺は書庫にも関わらず、思わず大声を上げた。はっと気づいて口を閉じる。
「勇者だとご存じなかったのなら、ハルト様はどこでその名前を?」
「いや……なんか、魔王が呼んでた? っていうか。夢で見た? っていうか」
「夢……ですか」
いや冷静に考えるとおかしなこと言ってるな俺。急に恥ずかしくなってきた。
「悪い、なんでもない。忘れてくれ」
「いえ、ハルト様とエアル様は共通点が多いですから。何かしら、通ずるものがあるのかもしれませんね」
「共通点?」
「お二人とも、異世界から召喚されているでしょう。召喚が行える時期は決まっていて、この国の暦で春の時期に行うんですよ。エアル様の名前は、春に由来するものだそうです」
「へー。俺の名前も、春だわ。春生まれだから、春翔」
「多くの国で信仰されているイラソシア教では、春は死者の魂が帰ってくる季節なんです。新たな生命の息吹と共に、かつて生きていた者たちもそれを祝福するために、生者の国に姿を現すのだと。だから春は特別な季節なんですよ」
全然気にしていなかった。召喚が一年に一度しか行えない、というのにそんな由来があったとは。
そしてこの世界にも、宗教というものがあるのだ。魂という概念も。
けれど夢の中では、輪廻転生という考え方はないような話をしていた。
「なぁ。そのナントカ教では、死んだ人はどうなるって考えられてんの?」
「イラソシア教では、死後は皆、死者の国に行くと伝えられています。現世での行いによって、死者の国の中でも良いところに住めるかどうかが決まるのだと。だから皆、現世では善行を積むようにと教えられます」
「死んでも居住地格差があるのか……世知辛いな。なら、生まれ変わりとかってないんだ」
「生まれ変わり、ですか?」
「あ、その概念そのものがないのかな。えーと、同じ魂を持った人間が、別の肉体で再び生まれる……って言えばいいのかな」
「そのような思想自体はありますよ。数は少ないですが、火葬を行う一部の宗教で聞いたことがあります。この国では土葬が主流ですね」
そうか。そういや土葬の地域では、体をそのまま埋めるから、復活って考え方をするんだっけ?
けど、夢の中では、エアルは確か燃やしてくれ、って言ってたような。
「勇者の墓ってあんの?」
「お墓自体はありますが、そこに遺体はありませんね」
「えっなんで!?」
「あくまで記録の上では、ですが、魔王討伐後に勇者は行方をくらませたそうです」
「そ……れって、魔王討伐の時に、死んだとか?」
「さぁ、どうでしょうね。遺体が確認できたのなら、埋葬していると思いますが。遺体がわからないほどの損傷を受けたか、誰かが回収したか、生き延びてどこかで余生を静かに暮らしたか。真相を知っている者がいるとしたら、現魔王くらいではないでしょうか」
「そっか……」
生きていればいい、と思った。
もし、あの夢の人物が勇者なのだとしたら。
魔王を討伐した後、勇者の役割を捨て、静かに暮らしていて欲しい。
けどその真相をダリアンに尋ねる勇気はなかった。
きっと、二人の大事な思い出だから。
ゴン、という強い衝撃が頭に走って、俺は目を覚ました。
視界に映る自室の景色は逆さまだった。どうやらベッドから落ちたらしい。
俺別に寝相悪くないのに。変な夢を見たせいだ、とぶつくさ文句を言いながら、俺は乱れた寝具を直した。
本当に変な夢だった。知らない場所で、俺は俺じゃなくて、なのにダリアンはダリアンで。
いったいなんだったのか、と首を傾げると、サイドテーブルに置かれたピアスが目についた。
「……これのせいかぁ?」
なんか変な魔法でもかかっていたのだろうか。
体に異変はないし、おそらく害はないだろうと判断して、結局俺は着替えた後、そのピアスをまた服の襟につけた。
□■□
さて、ダリアンから貰った転移用魔石の使用可否についてだが。
「ダメでしょう」
「ダメだろう」
「ダメに決まってる」
満場一致で却下された。というかドン引きのレベルだった。
一応新規アイテム入手、ということで、相談のために、またいつメン三人と会議室に集まっていた。
「便利なのに」
「むしろそれを疑いなくあなたが持っていることが信じられません」
「なんで!?」
「何が仕込まれているかわからないでしょう」
「えー。じゃアルベールに預ける? 調べてみりゃいいじゃん」
渋々、といった様子でアルベールが受け取った。
調べたくはないが、俺が持っていると言ってきかないから、それなら調べないわけにもいかないということだろう。
そういえば、と俺は気になっていたことをアルベールに尋ねた。
「なぁ、ちなみにただの転移装置だったとして、それって人数制限あんの?」
「込められた魔力に寄りますね。魔王の作ったものなら、二人くらいは余裕じゃないでしょうか。複数人で使用する場合は、魔石に触れているか、魔石に触れている人物に触れている必要があります」
「なんだ。ならラウルと二人で使えるじゃん」
「けど魔王は城内にハルト以外が入ることを許してないんだろ? 転移した瞬間ラウルだけ攻撃されたらどうすんだよ」
アーサーからの指摘に、確かに、と頷いた。そこはやはり事前にダリアンに許可をとっておかねばならないか。とれる気がしないけど。
せっかく貰ったのに使えないのか、と俺はしおれた。通勤通学時間を短縮したいというのは、全人類共通の望みだと思うのだが。
やっぱ勝手に使おうかな……。ダリアンの場所に直通なんだったら道中の護衛は考えなくていいわけだから、危険も特にないと思うんだけどな。
とりあえず魔石の問題を片付けた俺は、ミシェルに聞きたいことがあって書庫に向かった。
別にあの三人に聞いても良かったんだけど、なんとなく、カインに聞かれない方がいいと思ったからだ。
「ミシェルー」
「ハルト様。どうなさいました?」
書庫の主は、相変わらず神々しい姿で窓辺に佇んでいた。うーん絵画。
眩しさに目をしぱしぱさせながら、俺は近くの椅子を引いて座った。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。エアル、って名前に心当たりある?」
「エアル……ですか?」
意外そうに目を瞬かせたミシェルに、ちょっと唐突すぎたかな、と思っていると。
「心当たりも何も。以前お話した勇者の名前が、エアル様ですよ」
「マジでぇ!?」
俺は書庫にも関わらず、思わず大声を上げた。はっと気づいて口を閉じる。
「勇者だとご存じなかったのなら、ハルト様はどこでその名前を?」
「いや……なんか、魔王が呼んでた? っていうか。夢で見た? っていうか」
「夢……ですか」
いや冷静に考えるとおかしなこと言ってるな俺。急に恥ずかしくなってきた。
「悪い、なんでもない。忘れてくれ」
「いえ、ハルト様とエアル様は共通点が多いですから。何かしら、通ずるものがあるのかもしれませんね」
「共通点?」
「お二人とも、異世界から召喚されているでしょう。召喚が行える時期は決まっていて、この国の暦で春の時期に行うんですよ。エアル様の名前は、春に由来するものだそうです」
「へー。俺の名前も、春だわ。春生まれだから、春翔」
「多くの国で信仰されているイラソシア教では、春は死者の魂が帰ってくる季節なんです。新たな生命の息吹と共に、かつて生きていた者たちもそれを祝福するために、生者の国に姿を現すのだと。だから春は特別な季節なんですよ」
全然気にしていなかった。召喚が一年に一度しか行えない、というのにそんな由来があったとは。
そしてこの世界にも、宗教というものがあるのだ。魂という概念も。
けれど夢の中では、輪廻転生という考え方はないような話をしていた。
「なぁ。そのナントカ教では、死んだ人はどうなるって考えられてんの?」
「イラソシア教では、死後は皆、死者の国に行くと伝えられています。現世での行いによって、死者の国の中でも良いところに住めるかどうかが決まるのだと。だから皆、現世では善行を積むようにと教えられます」
「死んでも居住地格差があるのか……世知辛いな。なら、生まれ変わりとかってないんだ」
「生まれ変わり、ですか?」
「あ、その概念そのものがないのかな。えーと、同じ魂を持った人間が、別の肉体で再び生まれる……って言えばいいのかな」
「そのような思想自体はありますよ。数は少ないですが、火葬を行う一部の宗教で聞いたことがあります。この国では土葬が主流ですね」
そうか。そういや土葬の地域では、体をそのまま埋めるから、復活って考え方をするんだっけ?
けど、夢の中では、エアルは確か燃やしてくれ、って言ってたような。
「勇者の墓ってあんの?」
「お墓自体はありますが、そこに遺体はありませんね」
「えっなんで!?」
「あくまで記録の上では、ですが、魔王討伐後に勇者は行方をくらませたそうです」
「そ……れって、魔王討伐の時に、死んだとか?」
「さぁ、どうでしょうね。遺体が確認できたのなら、埋葬していると思いますが。遺体がわからないほどの損傷を受けたか、誰かが回収したか、生き延びてどこかで余生を静かに暮らしたか。真相を知っている者がいるとしたら、現魔王くらいではないでしょうか」
「そっか……」
生きていればいい、と思った。
もし、あの夢の人物が勇者なのだとしたら。
魔王を討伐した後、勇者の役割を捨て、静かに暮らしていて欲しい。
けどその真相をダリアンに尋ねる勇気はなかった。
きっと、二人の大事な思い出だから。
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