聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

文字の大きさ
23 / 32

俺を見ろ!

しおりを挟む
 □■□
 
 アルベールに調べてもらった魔石には、結局転移以外の機能はないらしい。
 安全が確認できたので、ひとまず返してもらった。けどまだ使用はしていない。
 というか、俺が腕輪を使ったあの日以来、暫く魔王城に行けてない。具体的に言うとひと月くらい。
 カインからNGが出ている。ラウルの奴、どういう報告をしたのか。
 ラウルいわく「暫く反省させときゃいいんですよ」とのことだったが、そろそろ痺れを切らせたダリアンがこっちに乗り込んでくるのではないかと俺はひやひやしている。
 それにあまり時間を無駄にしたくない気持ちもあった。この世界に来てから、既に半年以上経過している。

「聞きたいこともあるしなぁ……」

 一日を終えて、ベッドに転がりながら、俺はピアスを手に持って眺めていた。
 バレたら怒られる。絶対怒られる。
 ていうかラウルどっかで見てるかな。いやでもいくらあいつでも、不眠不休で俺に張りついているのは不可能なはずだ。前にノックをせずに勝手に部屋に入るな、とも言ってあるし。たまに守られてないけど。
 試しに呼んでみるかどうか迷って、呼んだら来てしまいそうだからやめた。
 転移途中に失くしたら事なので、襟元にピアスをつける。さすがにこの時間に寝ていることはないだろう。迷惑そうだったらすぐに帰ろう。帰ろうっていうか、帰してもらわないといけないんだけど。
 深呼吸をして、石の部分に触れながら、ダリアンの顔を思い浮かべた。
 ピアスを中心に、魔法陣が展開する。そろそろ慣れたい浮遊感が襲って、

「うおっ!?」
「おっと」

 俺は誰かの腕の中に落ちた。

「わ、悪い!」
「……驚いた。夜這いか? ハルト」

 色気たっぷりに微笑んだのは、ダリアンだった。
 いや、そりゃダリアンの元に来る転移魔法なんだからいるだろうけど。なんかいつもと着地が違う、と思うと、ダリアンがいたのはベッドだった。
 なるほど、地面じゃないから。ダリアンが横になっていたせいなのか、俺はダリアンの上に落ちる形になったわけだ。
 
「なかなか来れなかったからさ、黙って来たんだ。だからあんまり長居はできないんだけど、ちょっと話したくて」
「そうか。反対を押し切ってまで来てくれたのだな。可愛い奴め」
「おい曲解やめろ。ていうかいい加減放せよ」
「何故だ? このままでも話せるだろう」
「嫌だよこんな体勢で!」

 落ちた俺を受けとめた後、腰を抱かれたままなので起き上がれないしダリアンの上から退けない。
 この体勢でまともに話ができる奴がどこにいる。無茶言うな。

「さんざん俺を焦らしたのはお前の方だろう。むしろこのくらいで済んでいることを感謝するんだな」
「ふざけんな接近禁止令が出てただけだっつのなんかのプレイみたいに言うな気色悪い」

 一息で言い切った俺に、ダリアンは楽しげにくつくつと笑った。
 調子狂うな。怒ってるんだがこっちは。
 手を放してくれないので、仕方なく俺はダリアンの上で力を抜いた。もうこういう布団だと思おう。硬いけど。

「あのさ。答えたくなかったら、無視していいんだけど」
「なんだ?」
「お前が俺に甘いっつーか……こういう対応なのってさ。もしかして、エアルって人が関係ある?」

 その名を出した途端、ダリアンが息を呑んだ。
 まずったか、と思った瞬間視界が反転して、俺はダリアンを見上げていた。

「――思い出したのか」
「は、はぁ……?」

 ベッドに押さえつけられた手が痛くて文句を言いたかったが、切羽詰まったダリアンの顔を見てしまったら、それどころではなかった。
 人がこんなに切ない表情をするのを、初めて見た。この目で見つめられると、動けない。

「エアル……」
「ちょちょちょちょ!!」

 動けないとか言ってる場合じゃなかった。
 顔を近づけてきたダリアンに全力で抵抗する。
 なんで急にサカってやがるんだこの魔王様は!!

「質問しただけだろ! なんだよ思い出したって!」
「……記憶が戻ったんじゃないのか」
「あぁ!?」

 ガチギレ五秒前、といった様子の俺に、ダリアンはしゅんとして見えた。
 急に尻尾垂らすな。落差が激しい。
 俺絶対悪くないのに、何故だか罪悪感が刺激されて胸が痛んだ。

「あのさ。今も……前にも多分、エアルって呼んだことあるだろ。俺のこと」
「……そうだったか」
「気のせいならいいけど。一応釘刺しとくけど、俺はエアルじゃないからな。ハルトだ、ハルト」
「わかっている」
「本当かよ」
「わかっているんだ」

 ダリアンが泣きそうな声で、俺の肩口に額をつけた。

「魂が同じでも、別人だ。わかっているのに……似たところを見つけては、どうしようもなく思い出す」

 はっきり言うことは避けたのに。ダリアンのこの台詞で、俺の予想が当たっていたことを確信してしまった。
 色々な感情を込めて、俺は深く溜息を吐いた。

「俺転生もの地雷なんだよ」
「地雷……?」

 聞き慣れない言葉に、ダリアンが顔を上げた。
 きょとんとした表情を見上げたまま、俺はつらつらと続ける。
 
「前世でどんな関係だったとしてもさ。今は別人じゃん。別の人間として、別の人生を生きてきて、別の人格があるわけじゃん。なのに前世の人間の方がまるでメインのように語るのおかしくない? 思い出したとか、記憶が戻ったって言い方も気に食わないんだよ。そっちが正しいみたいじゃん。違うだろ、他人の記憶だろ。他人のアルバム見た、くらいのもんだろ。今生きてんのは、今生こんじょうの人間じゃん。なのに今の人間を無視して、過去の関係を再現してハッピーエンドみたいなの、めちゃくちゃ吐き気すんの。今の人格どこ行ったんだよ」

 喋りながらイライラして、力が緩んでいた拘束を振り払って、俺はダリアンの胸倉を掴んだ。

「俺はハルトだ! ハルトとして見る気がないなら、二度とこういう扱い方すんな! その結果ダリアンと敵対することになっても、いない人間の面影を探されるよりよっぽどマシだ!!」

 息を荒げて青筋を立てた俺に、ダリアンは唖然としたように目を瞠っていた。
 そして少し沈黙した後、急に笑い出して、俺を抱きしめた。

「っおい! お前話聞いてたのかよ!」
「聞いていたとも。ハルトをハルトとして見るのなら、扱い方をしてもいいのだろう?」
「はあ!?」

 俺の頬に手を添えたダリアンは、何故だかひどく嬉しそうだった。

「まさか、前世の自分に嫉妬するとは」
「全ッ然ちげぇ!! やっぱ話聞いてなかっただろ!」
「確かに、きっかけはエアルの魂を持っていたことだ。だからこの世界に呼んだ」
「ん、え、ちょっと待て今聞き捨てならないことを」
「けれど会えばわかる。エアルはもういない。ハルトはエアルではない。共に過ごせば過ごすほど、それはよくわかった」

 俺は口を噤んだ。こういう表情はズルい。

「或いは記憶が戻れば、とも考えた。別人だったとしても、あの頃の思い出を、また語らうことができるのではないかと。だが、違うな。もう戻らないから。俺とエアルだけの思い出だから、こんなにも愛おしいんだ」
「……そうだよ。ダリアンと、エアルだけの時間だろ。大事にしろよ。それを覚えているのは、ダリアンだけなんだから」
「……ああ」

 緩く微笑んで、ダリアンは俺と額を合わせた。

「今はハルトの話が聞きたい。ハルトのことを、もっと教えてくれ」
「それはいいけど、また今度な。言ったろ、長居できないって。そろそろ戻らないと」
「泊まっていけばいい」
「話を聞け。帰るっつの。あ、帰るっつか、悪いけど送ってくれ。魔石で来たから、俺一人だと帰れない」
「そうか、家の者に黙って来たのだったか。悪い子だな」
「家出少年みたいに言うんじゃねぇ」

 そういや元の世界では俺の扱いどうなってんだろ。家出? 行方不明?
 戻った時が恐ろしいな。母ちゃんごめん。親父は多分平気。

「せっかく夜這いに来てもらったのに、何もないというのも味気ないな」
「夜這いじゃねぇって、ちょ、っ」

 鎖骨のあたりに唇を這わせたダリアンを殴ろうと拳を握った瞬間、ちりりとした痛みが走った。
 何したコイツ。まさか噛んだ!?

「おやすみ、ハルト。また会いに来てくれ」
「え、おわっ!?」

 ダリアンが触れたところから魔法陣が展開する。
 浮遊感の後、俺は自室のベッドの上にぼすりと落ちた。

「おお……さすがダリアン」

 どこに送られるかと思っていたが、元いた場所ぴったりとは。やっぱ凄いのかなあいつ。
 とりあえず無事に戻ってこれて良かった、と肩を回すと。

「おかえりなさい、ハルト様」
「おぅわっ!?」

 驚き過ぎてベッドに座ったまま三センチくらい跳び上がった。
 ぎぎぎ、と音がしそうなほど固い動きで声の方に首を動かすと、超絶笑顔のラウルが腕組みをして立っていた。

 詰 ん だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...