私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

文字の大きさ
31 / 82
本編

カラルタン島-4

しおりを挟む
 商会メンバーにラコットたちの案内を任せ、奏澄はメイズと共にアントーニオのいる店へと戻った。もしかしたらまた外で作業をしているのではないか、と思ってのことだったが、店周辺に姿は無かった。おそらく中に戻ったのだろう。
 客として訪れたわけではないので、店の営業時間中は迷惑になるだろうと考え、奏澄は店が閉まる頃に出直すことにした。

 時間が空いたため、奏澄はカラルタン島を散策することにした。島を広く歩いて回ることで、何かがあれば、セントラルの時のように感じ取れるかもしれない。
 店が立ち並ぶ開けた場所から奥へ奥へと進めば、緑が深まっていく。ジャングルと言っても差支えないだろう。見たこともない虫が横切るのを目にした奏澄は、大きく肩を揺らした。

「カスミ、そろそろ引き返した方がいい」
「確かに、足場がだいぶ不安定になってきたかも。でも、気をつけて歩けばいけないことも」
「それだけじゃない。このあたりまで来ると、毒のある虫や生き物も」
「痛ッ!」
「カスミ!」

 声を上げ、しゃがみこんだ奏澄にすぐさまメイズも膝をついた。

「どうした」
「なんかに……噛まれた……」
「言った側から」
「面目ない……」

 なんて見事なフラグ回収、と言わざるを得ない。
 ふくらはぎのあたりを押さえる奏澄を、メイズは有無を言わさず抱えあげ、近くの岩場に座らせた。

「何に噛まれたのかわからないから、念のため血を吸いだしておくぞ」
「吸いだす……って」

 それは、フィクションでよく見る、あの。
 認識した途端、ぶわっと顔に血が集まり、直後に下がっていく。いや、恥ずかしい、のもあるがそれ以上に。
 あれはただの民間療法で、口は粘膜だから、吸い出す方法は推奨されていなかったはずだ。

「あ、だ、大丈夫! 自分でやるから」
「自分じゃ無理だろ」

 裾を捲り、傷口の上あたりを布で縛りながら至って冷静にメイズが言う。

「そうじゃなくて、これで」

 自分のナイフを取り出した奏澄に、メイズはぎょっとした。

「しまえ」
「いや、これで傷口を切って、血を」
「わかるが、しまえ。傷が広がる」
「でも……ッ」

 奏澄が引かないのを見越したのか、メイズは奏澄の抗議を無視してふくらはぎの傷口に吸いついた。

「~~~~ッ」

 痛いやら恥ずかしいやら心配やらで奏澄は声にならない声を上げた。
 ロング丈だったのに。まさか裾から入ってくるなんて。今後のために裾まで入るロングブーツを買わなければならない、早急に。などと取り留めのないことを考えることで、何とか意識を逸らした。
 メイズは数回吸っては吐き捨ててを繰り返し、最後に傷口を水で洗い、自身も口を濯いだ。
 奥地に入るからと水を持ってきていて正解だった。

「戻って一度医者に見せるぞ。痛みや熱が出たらすぐに言え」
「あ、ありがとう。メイズこそ、大丈夫? 口の中痺れたりとか、してない?」
「問題無い」

 言って、メイズはカスミの前にしゃがみこんだ。

「ほら」
「え……え?」
「歩けないだろう、背負っていくから」
「あ、歩ける歩ける! 全然歩けるよ!」

 こんな足場の悪い所を背負わせるなんてとんでもない。それに、足を折ったわけでも切ったわけでもなく、噛まれただけだ。そんな大げさな傷じゃない。

「万が一毒だったら、歩くと回るだろう」
「いや、そんなすぐには」
「これ以上問答するなら抱えるが」
「……オネガイシマス」

 セントラルで一度抱えられている奏澄は、大人しく背負われることにした。

「お手数おかけします……」
「慣れてる」
「ぐうの音も出ない」

 奏澄は申し訳なさから、重いよね、と言おうとして、止めた。重いと言われてもショックだし、軽いと言われても比較対象はおそらく成人男性だろう。参考にならない。自分で自分の首を絞めるだけな気がした。

 首を、絞める。

 ふっと思い立って、奏澄はメイズの首に回した腕に、少しだけ力を込めた。
 ぴくり、とメイズは反応したが、何も言うことは無かった。
 この人の、首を絞められる位置に、自分はいる。
 当然そんなことを実行しようものなら即座に落とされるだろうが、急所を晒していることに変わりはない。
 そのことが、何故だか少し、奏澄に優越感を与えた。
 


*~*~*



「この噛み痕なら、毒の無い種ですね。傷口の消毒だけしておきましょう」

 島の診療所にて好々爺然とした医者からそう言われ、奏澄はほっと胸を撫で下ろした。外で待っているメイズにも早く伝えてあげたい。きっと心配していることだろう。

「でも奥地に入るなら、もっとちゃんとした装備で行かないと駄目ですよ。袖口や裾、襟なんかも詰めないと」
「気をつけます……」

 当然のことを諭され、恥ずかしくなる。いい大人が、情けない。

「あんな方まで、何をしに? 食材を探しにって風にも見えないですが」
「あ……えっと、探索、というか。その、この島に、何か変わった場所ってないですかね?」
「変わった場所……ですか」
「ざっくりしていてすみません」

 医者は少し考えるそぶりをしたが、首を振った。

「特に変わった場所は無いですね。変わった食材ならありますが、それだってほとんどはどこかの店が見つけていて、提供されてますから」
「そうですよね……。ありがとうございます」

 そううまくはいかないか。少々気落ちした様子の奏澄に、医者は気をつかったのか、言葉を続けた。

「観光だったら、西の海岸近くにある『トラモント』というダイニングバーがおすすめですよ。夕日が綺麗に見えるとかで、カップルに人気みたいです。時間的にもちょうどいいんじゃないですか」

 奏澄は一瞬きょとん、とした後、すぐに気づいた。おそらく、メイズと恋人同士だと思われているのだ。

「あ、ありがとう、ございます」

 わざわざ訂正するのも変な気がして、照れ笑いでごまかした。メイズがこの場にいなくて良かった。
 メイズが、いない。
 そう思うと、ふつふつと好奇心が湧き上がる。その疑問を、奏澄は思い切って口に出した。

「その……どうして、カップルだって、思ったんですか?」
「おや、違いましたか? それは失礼を」
「ああ、いえ、その……結構歳が、離れているので」
「そうでしたか? 私くらいになると、多少の年齢差は同じに見えてしまうので」

 なるほど。奏澄の年代からすれば、五つも離れていればそれなりに上に見えるが、歳を重ねてしまえば、十や二十は大差ないのかもしれない。

「それより、随分とあなたのことを心配していたようでしたから。親密な関係なのかと」
「そんなに、心配、して見えました?」

 メイズのことだから、心配はしていただろう。しかし、奏澄の目には、人から言われるほどわかりやすく心配しているようには見えなかった。うろたえたりもしていなかったし、至って普通に奏澄を預けていたと思ったが。

「長く医者をやっていればね、わかりますよ。特に男なんて口下手なものですから。大丈夫かの一言もかけられないくせに、奥さんから片時も離れられない旦那とかね」

 それを聞いて、奏澄は思わず笑った。

「それ、先生のことですか?」
「さぁ、どうでしょうね」

 治療費を支払い礼を告げて、奏澄はメイズの元へ戻った。

「お待たせ」
「大丈夫だったか」
「うん。無毒だって。傷の手当てだけ」
「そうか」

 ほっとした様子のメイズに、奏澄は微笑んだ。自分のことで一喜一憂してくれるということが、不謹慎かもしれないが嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。 それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。 ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。 「このままでは、あなたは後宮から追い出される」 実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。 迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。 けれど、彼には誰も知らない秘密があった。 冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...