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本編
緑の海域-4
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四人組と別れ、幾分落ちつきを取り戻した奏澄はラコットたちに事情を説明し、共にコバルト号に戻ることにした。
すたすたと歩き出してしまうラコットに、奏澄は小走りでついていくが、靴擦れがずきりと痛んだ。
「ラコットさん、待って」
「あん? どした」
前を行くラコットは、首を傾げるだけだ。そして奏澄は気づいた。メイズやライアーがよく気がつくだけで、普通の反応はこんなものだ。察してもらうのではなく、主張していかないと、何も気づいてもらえない。
「ちょっと、靴擦れが痛くて。少しゆっくり歩いてもらってもいいですか?」
「靴擦れぇ?」
怪訝な顔で奏澄の足元を見て、ようやくラコットは奏澄の装いが普段と違うことに気づいた様子だった。
「そういやなんかいつもと違うな。そんなの履いてるからじゃねぇか?」
悪気は無いのだろうが、奏澄はぐっと言葉に詰まった。というか、メイク程度ならまだしも、これだけ普段と違って、気にも留めないものか。それはルイに負けて当然だ、と内心ぼやいてしまう。
「しょうがねぇな」
言うと、ラコットは奏澄の返事も聞かずに、片手でひょいと奏澄を担ぎ上げた。
「ちょっと、ラコットさん!?」
「足が痛ぇんだろ? この方が早ぇ」
それはそうだろうが。奏澄は既視感を覚え、遠い目をした。
「あ、ダメっすよアニキ!」
「あん?」
あまりにデリカシーの無い行動にさすがに見兼ねたか、と奏澄が感謝の視線を向けると。
「女の子抱える時はお姫様だっこするもんだって聞いたことが! あとそれ人さらいに見えるからアウトっす!」
「あぁ? なんだお姫様だっこって」
「横抱きのことみたいっすよ」
「両手塞がるじゃねぇか」
「そこ気にしたらダメなんじゃないすかね?」
違う。全体的に気にするところが違う。と思ったが、奏澄が口を挟む間もなく、ラコットは奏澄を抱え直した。
「ほら、これで文句ねぇだろ。行くぞ」
一応ラコットなりに気はつかったのだろう。これ以上何かを言う気力は無く、しかし恥ずかしさから奏澄は顔を隠した。
「カスミ!」
コバルト号に戻ると、先に戻っていたライアーが慌てて駆け寄ってきた。
「どした、なんか怪我した?」
「え、ああ、違う、大丈夫」
ラコットに抱えられていたので、歩けない状態だと思われたのだろう。奏澄はすぐに下ろしてもらった。目線が近くなったことで、ライアーが違和感に気づく。
「あれ? カスミ、目――」
「随分遅かったな」
心配と安堵を混ぜ合わせたような声を聞いて、奏澄は一瞬メイズに目をやった。直後、すぐに下を向いた。
「カスミ?」
怪訝な声を聞きながら、それでも顔を上げず、奏澄はラコットの背に隠れた。
忘れていたが、ボロ泣きしたということは、多分メイクは崩れている。それを見られたくなくて、顔を上げられない。しかしそれを馬鹿正直に言えば、呆れられる気しかしない。何とかメイズに見られずにこの場を切り上げたいのだが、今の状態が既にだいぶ不自然だ。どうしよう、と思いながら、ラコットの服を強く握る。
「あ? なんだぁ?」
当然、伝わるはずもない。ラコットはわけがわからないまま、首を捻って奏澄を見ようとする。謎の行動にその場の皆が首を傾げた時。ライアーが、ピンときた様子を見せた。
「カスミ、こっちおいで」
ちらりと窺うと、ライアーは心得たように笑って見せた。それにほっとして、奏澄はライアーの方へ移った。
「メイズさん、ちょっと待機! 後は解散!」
「はぁ?」
釈然としない男たちを置き去りに、ライアーは奏澄を連れていった。
奏澄を船室内の椅子に座らせて、ライアーは一度部屋から出ていった後、すぐに戻ってきた。
「お待たせ。はいこれ、先に少しだけ冷やしとこう」
「ありがとう」
ライアーから濡らしたタオルを受け取って、奏澄は目にタオルを当てた。
「泣いた理由は聞いても?」
「ああー……これは、ちょっと、情けないやつなので。誰かに何かされたとかじゃないから、大丈夫」
「そっか」
奏澄の調子から、それほど深刻なことではないと判断したのだろう。ライアーはそれ以上深入りしなかった。
「足ちょっと貸してね」
「えっ大丈夫、あとで自分でやるから」
「いいからいいから」
触るよ、と声をかけてから、ライアーは奏澄の靴擦れを手当てしていく。
「ありがとう。よくわかったね」
「歩き方ちょっと変だったからね。ストラップ付いてたし、あんまズレないかと思ったんだけど……ごめんな」
「ううん、歩きやすかったよ。普段ブーツだし、慣れない靴は仕方ないかな」
さすが、よく気がつく。これに慣れてしまうと大変そうだ。ラコットの方が普通なのだ、と奏澄は自分に言い聞かせた。
「よし。じゃ、メイクも直しちゃおうか」
「え、でも」
手当てを終えたライアーがメイク道具を準備し始めたので、奏澄は疑問の声を上げた。
直したところで、もう変装の意味は無いだろう。崩れた顔を見せたくなかっただけで、奏澄はもう落としてしまうつもりでいた。
「まだメイズさんにちゃんと見せてないだろ?」
「み、見せなくていいよ」
「意地張らないの。というか、オレが見せたい」
「なんで?」
「あの人もたまには思い知るべきなんだよ」
何を? と思ったものの、奏澄は口には出さなかった。あまり深掘りしても良いことにならない気がした。
「そのメイク道具、どうしたの?」
「エマたちに借りた。カスミのためって言ったら快く貸してくれたよ」
「それは……あとでお礼言わなくちゃ」
店には自由に使えるメイク道具があったが、船内には個人所有のものしかない。奏澄は最小限しか持っていないし、出どころがわかって申し訳なくなった。
「エマたちもやりたがってたぜ。今度人形にされるかも」
「それはちょっと」
エマのはしゃぐ顔が目に浮かぶ。奏澄は思わず遠い目をしてしまった。
「ほい、できた」
「ありがとう。ごめんね、何から何まで」
「オレが好きでやってるんだから、気にしない」
道具を片付けたライアーは、恭しく奏澄の手を取った。
「んじゃ、行きましょうか。お姫様」
エスコートは、足を怪我した奏澄のためだろう。それがわかっていても、芝居がかった仕草に気恥ずかしくなって、奏澄は照れ笑いした。
律儀に待っていたメイズの元へ戻ると、思わず尻込みしかけた奏澄の背を押して、ライアーが自慢げに声をかけた。
「お待たせしましたー!」
ずい、と前に出されて、メイズの視線が奏澄を捉える。そんなのはいつものことなのに、何故だか落ちつかなくて、そわそわする。
「……何だったんだ?」
「えっ」
「メイズさん!!」
メイズからすれば至極もっともな疑問だと思われる。ふわふわした気持ちが急降下し、説明しなくてはいけないだろうか、と奏澄が青い顔をしたところで、ライアーがメイズを引っ張り小声で耳打ちした。
「アンタ! もっとなんか! あるでしょうが!」
「なんなんだいったい……」
「女の子があんだけオシャレしてんですよ。褒めるとか、称えるとか、賛美するとか」
「ああ、確かにいつもと違うな」
「いいから、持てる限りの語彙をもって、褒めろ」
いつにない剣幕のライアーに、メイズは若干引き気味になりながらも、改めて奏澄を見た。
「あー……カスミ」
「な、なに?」
「………………」
声をかけたものの、何と言ったらいいのか、ひどく迷っている様子だった。
「…………似合ってる」
ようやくそれだけ絞り出したメイズに、ライアーは顔を覆って天を仰いだ。
「……ありがとう」
それでも、奏澄は嬉しそうにはにかんで笑った。
*~*~*
ひとまずは満足したからと、奏澄は着替えに部屋に戻った。暫くそのままでいればいいとライアーが提案したが、スカートを船に引っかけて破きそうだから、とのことだった。
残されたライアーは、メイズに向き直った。
「メイズさん、もうちょっと女心学んでくださいよ。見てるこっちがハラハラする」
「そういうのは女共がやるだろ。何で俺が」
「アンタが! 言うことに! 意味があるんでしょうが!」
再びキレたライアーに、メイズは意味がわからないという視線を向けた。
これは長期戦になりそうだ、とライアーはこめかみを押さえた。機微に疎いわけではないのに、意図的にそういった方面だけ切っているのだろうか。
「はいはい、オレが悪かったです。メイズさんには関係ないですよね。カスミが誰のためにオシャレしようが、誰と一緒に出かけようが、誰に泣かされようが、全然気にならないんですもんね」
言った瞬間、びり、と肌を刺すような殺気がライアーを襲った。
「泣かせた話は初耳なんだが」
「……オレじゃないですよ。別れたあとなんかあったっぽいですけど、気になるなら本人に聞いたらどうですか」
むっつり黙り込んだ顔を見て、ライアーは息を吐いた。
なんだ。
――全然、関係無いなんて、思っちゃいないじゃないか。
泣かせた相手を殺しかねない様子だが、奏澄の話を信じるなら、誰かが原因というわけではなさそうだから大丈夫だろう、とライアーは無理やり納得した。
「それより、ギルドの方はどうだったんだ」
「ああ、それなんですけど」
ライアーは、奏澄と自分の手配書が出ていたこと、その内容を伝えた。
最も気がかりなことを。
「『生け捕りに限る』?」
「やっぱおかしいですよね。普通手配書は『生死問わず』なのに」
奏澄が手配書の金額を見ようとした時、隠したのは金額ではない。金額も初犯にしては破格だったが、そのすぐ下に書かれた注意書き『生け捕りに限る』という文言を、ライアーは隠したのだった。
「前例が無いわけじゃないが……」
「それって情報目的で拷問前提とかそういうやつでしょう。いったいカスミから何聞きだそうってんだか」
「何かを聞きたいのか、させたいのか。何にせよ、利用価値があると思っていることはこれではっきりした」
生け捕りということは、少なくとも奏澄が賞金目当てに殺されることは無くなった。しかし、万が一捕まった場合には、死よりも酷い目に遭う可能性がある。
「わかってると思うが、カスミには」
「はいはい、言いませんて。でも、本人だってその内目にすると思いますよ」
「……わかってる」
――本当に、わかってんのかね。
思ったが、口には出さなかった。
すたすたと歩き出してしまうラコットに、奏澄は小走りでついていくが、靴擦れがずきりと痛んだ。
「ラコットさん、待って」
「あん? どした」
前を行くラコットは、首を傾げるだけだ。そして奏澄は気づいた。メイズやライアーがよく気がつくだけで、普通の反応はこんなものだ。察してもらうのではなく、主張していかないと、何も気づいてもらえない。
「ちょっと、靴擦れが痛くて。少しゆっくり歩いてもらってもいいですか?」
「靴擦れぇ?」
怪訝な顔で奏澄の足元を見て、ようやくラコットは奏澄の装いが普段と違うことに気づいた様子だった。
「そういやなんかいつもと違うな。そんなの履いてるからじゃねぇか?」
悪気は無いのだろうが、奏澄はぐっと言葉に詰まった。というか、メイク程度ならまだしも、これだけ普段と違って、気にも留めないものか。それはルイに負けて当然だ、と内心ぼやいてしまう。
「しょうがねぇな」
言うと、ラコットは奏澄の返事も聞かずに、片手でひょいと奏澄を担ぎ上げた。
「ちょっと、ラコットさん!?」
「足が痛ぇんだろ? この方が早ぇ」
それはそうだろうが。奏澄は既視感を覚え、遠い目をした。
「あ、ダメっすよアニキ!」
「あん?」
あまりにデリカシーの無い行動にさすがに見兼ねたか、と奏澄が感謝の視線を向けると。
「女の子抱える時はお姫様だっこするもんだって聞いたことが! あとそれ人さらいに見えるからアウトっす!」
「あぁ? なんだお姫様だっこって」
「横抱きのことみたいっすよ」
「両手塞がるじゃねぇか」
「そこ気にしたらダメなんじゃないすかね?」
違う。全体的に気にするところが違う。と思ったが、奏澄が口を挟む間もなく、ラコットは奏澄を抱え直した。
「ほら、これで文句ねぇだろ。行くぞ」
一応ラコットなりに気はつかったのだろう。これ以上何かを言う気力は無く、しかし恥ずかしさから奏澄は顔を隠した。
「カスミ!」
コバルト号に戻ると、先に戻っていたライアーが慌てて駆け寄ってきた。
「どした、なんか怪我した?」
「え、ああ、違う、大丈夫」
ラコットに抱えられていたので、歩けない状態だと思われたのだろう。奏澄はすぐに下ろしてもらった。目線が近くなったことで、ライアーが違和感に気づく。
「あれ? カスミ、目――」
「随分遅かったな」
心配と安堵を混ぜ合わせたような声を聞いて、奏澄は一瞬メイズに目をやった。直後、すぐに下を向いた。
「カスミ?」
怪訝な声を聞きながら、それでも顔を上げず、奏澄はラコットの背に隠れた。
忘れていたが、ボロ泣きしたということは、多分メイクは崩れている。それを見られたくなくて、顔を上げられない。しかしそれを馬鹿正直に言えば、呆れられる気しかしない。何とかメイズに見られずにこの場を切り上げたいのだが、今の状態が既にだいぶ不自然だ。どうしよう、と思いながら、ラコットの服を強く握る。
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当然、伝わるはずもない。ラコットはわけがわからないまま、首を捻って奏澄を見ようとする。謎の行動にその場の皆が首を傾げた時。ライアーが、ピンときた様子を見せた。
「カスミ、こっちおいで」
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「メイズさん、ちょっと待機! 後は解散!」
「はぁ?」
釈然としない男たちを置き去りに、ライアーは奏澄を連れていった。
奏澄を船室内の椅子に座らせて、ライアーは一度部屋から出ていった後、すぐに戻ってきた。
「お待たせ。はいこれ、先に少しだけ冷やしとこう」
「ありがとう」
ライアーから濡らしたタオルを受け取って、奏澄は目にタオルを当てた。
「泣いた理由は聞いても?」
「ああー……これは、ちょっと、情けないやつなので。誰かに何かされたとかじゃないから、大丈夫」
「そっか」
奏澄の調子から、それほど深刻なことではないと判断したのだろう。ライアーはそれ以上深入りしなかった。
「足ちょっと貸してね」
「えっ大丈夫、あとで自分でやるから」
「いいからいいから」
触るよ、と声をかけてから、ライアーは奏澄の靴擦れを手当てしていく。
「ありがとう。よくわかったね」
「歩き方ちょっと変だったからね。ストラップ付いてたし、あんまズレないかと思ったんだけど……ごめんな」
「ううん、歩きやすかったよ。普段ブーツだし、慣れない靴は仕方ないかな」
さすが、よく気がつく。これに慣れてしまうと大変そうだ。ラコットの方が普通なのだ、と奏澄は自分に言い聞かせた。
「よし。じゃ、メイクも直しちゃおうか」
「え、でも」
手当てを終えたライアーがメイク道具を準備し始めたので、奏澄は疑問の声を上げた。
直したところで、もう変装の意味は無いだろう。崩れた顔を見せたくなかっただけで、奏澄はもう落としてしまうつもりでいた。
「まだメイズさんにちゃんと見せてないだろ?」
「み、見せなくていいよ」
「意地張らないの。というか、オレが見せたい」
「なんで?」
「あの人もたまには思い知るべきなんだよ」
何を? と思ったものの、奏澄は口には出さなかった。あまり深掘りしても良いことにならない気がした。
「そのメイク道具、どうしたの?」
「エマたちに借りた。カスミのためって言ったら快く貸してくれたよ」
「それは……あとでお礼言わなくちゃ」
店には自由に使えるメイク道具があったが、船内には個人所有のものしかない。奏澄は最小限しか持っていないし、出どころがわかって申し訳なくなった。
「エマたちもやりたがってたぜ。今度人形にされるかも」
「それはちょっと」
エマのはしゃぐ顔が目に浮かぶ。奏澄は思わず遠い目をしてしまった。
「ほい、できた」
「ありがとう。ごめんね、何から何まで」
「オレが好きでやってるんだから、気にしない」
道具を片付けたライアーは、恭しく奏澄の手を取った。
「んじゃ、行きましょうか。お姫様」
エスコートは、足を怪我した奏澄のためだろう。それがわかっていても、芝居がかった仕草に気恥ずかしくなって、奏澄は照れ笑いした。
律儀に待っていたメイズの元へ戻ると、思わず尻込みしかけた奏澄の背を押して、ライアーが自慢げに声をかけた。
「お待たせしましたー!」
ずい、と前に出されて、メイズの視線が奏澄を捉える。そんなのはいつものことなのに、何故だか落ちつかなくて、そわそわする。
「……何だったんだ?」
「えっ」
「メイズさん!!」
メイズからすれば至極もっともな疑問だと思われる。ふわふわした気持ちが急降下し、説明しなくてはいけないだろうか、と奏澄が青い顔をしたところで、ライアーがメイズを引っ張り小声で耳打ちした。
「アンタ! もっとなんか! あるでしょうが!」
「なんなんだいったい……」
「女の子があんだけオシャレしてんですよ。褒めるとか、称えるとか、賛美するとか」
「ああ、確かにいつもと違うな」
「いいから、持てる限りの語彙をもって、褒めろ」
いつにない剣幕のライアーに、メイズは若干引き気味になりながらも、改めて奏澄を見た。
「あー……カスミ」
「な、なに?」
「………………」
声をかけたものの、何と言ったらいいのか、ひどく迷っている様子だった。
「…………似合ってる」
ようやくそれだけ絞り出したメイズに、ライアーは顔を覆って天を仰いだ。
「……ありがとう」
それでも、奏澄は嬉しそうにはにかんで笑った。
*~*~*
ひとまずは満足したからと、奏澄は着替えに部屋に戻った。暫くそのままでいればいいとライアーが提案したが、スカートを船に引っかけて破きそうだから、とのことだった。
残されたライアーは、メイズに向き直った。
「メイズさん、もうちょっと女心学んでくださいよ。見てるこっちがハラハラする」
「そういうのは女共がやるだろ。何で俺が」
「アンタが! 言うことに! 意味があるんでしょうが!」
再びキレたライアーに、メイズは意味がわからないという視線を向けた。
これは長期戦になりそうだ、とライアーはこめかみを押さえた。機微に疎いわけではないのに、意図的にそういった方面だけ切っているのだろうか。
「はいはい、オレが悪かったです。メイズさんには関係ないですよね。カスミが誰のためにオシャレしようが、誰と一緒に出かけようが、誰に泣かされようが、全然気にならないんですもんね」
言った瞬間、びり、と肌を刺すような殺気がライアーを襲った。
「泣かせた話は初耳なんだが」
「……オレじゃないですよ。別れたあとなんかあったっぽいですけど、気になるなら本人に聞いたらどうですか」
むっつり黙り込んだ顔を見て、ライアーは息を吐いた。
なんだ。
――全然、関係無いなんて、思っちゃいないじゃないか。
泣かせた相手を殺しかねない様子だが、奏澄の話を信じるなら、誰かが原因というわけではなさそうだから大丈夫だろう、とライアーは無理やり納得した。
「それより、ギルドの方はどうだったんだ」
「ああ、それなんですけど」
ライアーは、奏澄と自分の手配書が出ていたこと、その内容を伝えた。
最も気がかりなことを。
「『生け捕りに限る』?」
「やっぱおかしいですよね。普通手配書は『生死問わず』なのに」
奏澄が手配書の金額を見ようとした時、隠したのは金額ではない。金額も初犯にしては破格だったが、そのすぐ下に書かれた注意書き『生け捕りに限る』という文言を、ライアーは隠したのだった。
「前例が無いわけじゃないが……」
「それって情報目的で拷問前提とかそういうやつでしょう。いったいカスミから何聞きだそうってんだか」
「何かを聞きたいのか、させたいのか。何にせよ、利用価値があると思っていることはこれではっきりした」
生け捕りということは、少なくとも奏澄が賞金目当てに殺されることは無くなった。しかし、万が一捕まった場合には、死よりも酷い目に遭う可能性がある。
「わかってると思うが、カスミには」
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「……わかってる」
――本当に、わかってんのかね。
思ったが、口には出さなかった。
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