80 / 82
本編
終章
しおりを挟む
「さて、天気良好、とはいかないけど、海に出るには問題なしかな」
久方ぶりに帆を張って、奏澄はコバルト号の上甲板から『窓』を眺めていた。
「でも、いいんですか? ハリソン先生。この島を出てしまうと、もうはぐれ者を治療する機会はなくなると思いますけど」
くるりと振り返った先には、ハリソンの姿があった。ハリソンは、この島には残らずに、奏澄とメイズの出航に合わせて、また船医として船に乗ってくれることになったのだ。
「構いませんよ。かなりのデータは取れましたし、助手も一年で随分と育ちました。もう私がいなくても、困らないでしょう。それなら、外の世界であなたの傍についていた方が安心です」
「正直、助かります。ありがとうございます」
奏澄が眉を下げて微笑むと、ハリソンも心得たように微笑んだ。
「最初は、どこに行くんだ」
メイズの言葉に、奏澄は決めていたとばかりに答えた。
「アルメイシャ! メイズと回った順に、回ろうかなって」
アルメイシャには、ライアーとマリーたちが待っている。最初に、奏澄の仲間になってくれた者たちだ。せっかくだから、仲間たちと会った順番に、もう一度世界を巡っていこう。
今度は、義務じゃない。会いたい人に会いに行くための、楽しい船旅だ。そして。
奏澄がメイズをじっと見ていると、視線に気づいたメイズが首を傾げた。それに何を答えることもなく、奏澄は照れくさそうに笑った。
愛しい人が隣にいる。それだけで、何も不安はない。大丈夫だ。
「出航!」
海面を波立たせ、船は進み、窓を潜って大海原を往く。
たんぽぽの旗を、風にはためかせて。
久方ぶりに帆を張って、奏澄はコバルト号の上甲板から『窓』を眺めていた。
「でも、いいんですか? ハリソン先生。この島を出てしまうと、もうはぐれ者を治療する機会はなくなると思いますけど」
くるりと振り返った先には、ハリソンの姿があった。ハリソンは、この島には残らずに、奏澄とメイズの出航に合わせて、また船医として船に乗ってくれることになったのだ。
「構いませんよ。かなりのデータは取れましたし、助手も一年で随分と育ちました。もう私がいなくても、困らないでしょう。それなら、外の世界であなたの傍についていた方が安心です」
「正直、助かります。ありがとうございます」
奏澄が眉を下げて微笑むと、ハリソンも心得たように微笑んだ。
「最初は、どこに行くんだ」
メイズの言葉に、奏澄は決めていたとばかりに答えた。
「アルメイシャ! メイズと回った順に、回ろうかなって」
アルメイシャには、ライアーとマリーたちが待っている。最初に、奏澄の仲間になってくれた者たちだ。せっかくだから、仲間たちと会った順番に、もう一度世界を巡っていこう。
今度は、義務じゃない。会いたい人に会いに行くための、楽しい船旅だ。そして。
奏澄がメイズをじっと見ていると、視線に気づいたメイズが首を傾げた。それに何を答えることもなく、奏澄は照れくさそうに笑った。
愛しい人が隣にいる。それだけで、何も不安はない。大丈夫だ。
「出航!」
海面を波立たせ、船は進み、窓を潜って大海原を往く。
たんぽぽの旗を、風にはためかせて。
0
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる