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第6話 結婚指輪は誓いの鎖
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「数学の時間に手紙を回してたら田中センセに見つかって、めちゃくちゃ怒られてさ。クラス全員が立たされるなんて、初めてだよ」
「そうなんだ? 珍しいね、田中先生が怒るなんて」
「だよね、いつも見て見ぬふりするくせに」
放課後、図書室で司書の仕事をしていると、小形くんが授業中に起きたことを話してくれた。手紙回しだから小形くんだけが悪いわけじゃないだろうけれど、それにしても彼は悪びれる様子もなく、ケラケラと笑っている。しかい、いま図書室にいるのは私たちだけなので、どんなにふざけていても咎める人は誰もいない。
「それでさ、なんであんなにも機嫌悪かったのかみんなで話し合ったんだけど、現国のセンセが彼氏からプロポーズされたっぽいんだよね」
「え? でも、田中先生は結婚したばっかりだし、関係ないんじゃ……」
小形くんと、他のクラスメイトが導き出した答えに、私は頭が追いつかなかった。
数学の田中先生は、春休みに結婚式を挙げたばかりだ。結婚するという話を聞いたときは、クラスが騒然としたのを覚えている。「あの人、カノジョいたんだ」とか「ロリコンだと思った」なんて言われる程度に縁のなさそうな人だけれど、彼女らしき人とのツーショットや、式場の話や、左手の薬指にはめられた指輪を見て「結婚したんだなあ」と思った。それなのに、現国の橋下先生がプロポーズされた話を聞いて機嫌を損ねるとはどういうことだろうか。
理解できずにいると、小形くんは「倉益さんは真面目だね」と笑った。
「結婚しても、好きな人はできるんじゃん? 田中センセ、前からよく橋下センセに声かけてたし」
「それは……橋下先生がまだ1年目だからじゃ……」
まだ1年目の後輩を先輩がフォローするのは当たり前……だと思う。しかし、そう言われると、とたんに自信がなくなってしまう。田中先生は、生徒からあまり評判がよくない。授業がサボれるという点では人気だけれど、女子生徒を見る目つきがいやらしいと、女子からはかなり批判を買っている。それに、以前、職員室に用があって入ろうとしたら、他の先生たちが田中先生の悪口を言っていた。あのときは、先生も人の悪口を言うのだとショックを受けた。
そんな、四面楚歌な状態のときに、なんでも言うことを聞いてくれそうな後輩ができたら? しかし、職場に居場所がなくても、プライベートでは彼女がいて、その彼女とも結婚したのに……。
「じゃあ、なんで結婚したの? 橋……他の人のことを好きになるかもしれないってわかっていたら、結婚しなくてもよかったのに……」
「田中センセの気持ちなんて、僕にはわかんないけどさあ。結婚する前はたぶん、今の奥さんのことが一番好きだったんだよ」
結婚して、欲しいものが手に入ったから、欲張りたくなっちゃったんじゃない? と小形くんは頬杖をついた。
「そういうの、嫌、だな……」
橋下先生のプロポーズの話を聞いて田中先生の機嫌が悪くなったと決まったわけじゃないのに、それが答えに感じて、気分が悪くなる。ちがう理由で機嫌が悪かったのかもしれないし、そもそも授業中に手紙を回すのは悪いことなのに、どうしてこんなにも気持ち悪く感じるのだろう。田中先生と橋下先生の歳が離れているから? 彼氏がいることを知っていただろうに、既婚者の田中先生が嫉妬をしたから? 居場所作りのために、橋下先生を利用したように感じるから? 思考が頭の中をぐるぐる回る。
「倉益さんは真面目だね」小形くんは再び笑った。
「……小形くんは、真面目じゃないの?」
「僕も真面目なつもりだけどさあ。なんというか、やっぱり僕と倉益さんじゃちがうんだなあと思った」
「なんの話?」
小形くんの言葉の意味がわからず聞き返すと、彼は「こっちの話」と言って、私と小形くんのちがいについて話してはくれなかった。
「そうなんだ? 珍しいね、田中先生が怒るなんて」
「だよね、いつも見て見ぬふりするくせに」
放課後、図書室で司書の仕事をしていると、小形くんが授業中に起きたことを話してくれた。手紙回しだから小形くんだけが悪いわけじゃないだろうけれど、それにしても彼は悪びれる様子もなく、ケラケラと笑っている。しかい、いま図書室にいるのは私たちだけなので、どんなにふざけていても咎める人は誰もいない。
「それでさ、なんであんなにも機嫌悪かったのかみんなで話し合ったんだけど、現国のセンセが彼氏からプロポーズされたっぽいんだよね」
「え? でも、田中先生は結婚したばっかりだし、関係ないんじゃ……」
小形くんと、他のクラスメイトが導き出した答えに、私は頭が追いつかなかった。
数学の田中先生は、春休みに結婚式を挙げたばかりだ。結婚するという話を聞いたときは、クラスが騒然としたのを覚えている。「あの人、カノジョいたんだ」とか「ロリコンだと思った」なんて言われる程度に縁のなさそうな人だけれど、彼女らしき人とのツーショットや、式場の話や、左手の薬指にはめられた指輪を見て「結婚したんだなあ」と思った。それなのに、現国の橋下先生がプロポーズされた話を聞いて機嫌を損ねるとはどういうことだろうか。
理解できずにいると、小形くんは「倉益さんは真面目だね」と笑った。
「結婚しても、好きな人はできるんじゃん? 田中センセ、前からよく橋下センセに声かけてたし」
「それは……橋下先生がまだ1年目だからじゃ……」
まだ1年目の後輩を先輩がフォローするのは当たり前……だと思う。しかし、そう言われると、とたんに自信がなくなってしまう。田中先生は、生徒からあまり評判がよくない。授業がサボれるという点では人気だけれど、女子生徒を見る目つきがいやらしいと、女子からはかなり批判を買っている。それに、以前、職員室に用があって入ろうとしたら、他の先生たちが田中先生の悪口を言っていた。あのときは、先生も人の悪口を言うのだとショックを受けた。
そんな、四面楚歌な状態のときに、なんでも言うことを聞いてくれそうな後輩ができたら? しかし、職場に居場所がなくても、プライベートでは彼女がいて、その彼女とも結婚したのに……。
「じゃあ、なんで結婚したの? 橋……他の人のことを好きになるかもしれないってわかっていたら、結婚しなくてもよかったのに……」
「田中センセの気持ちなんて、僕にはわかんないけどさあ。結婚する前はたぶん、今の奥さんのことが一番好きだったんだよ」
結婚して、欲しいものが手に入ったから、欲張りたくなっちゃったんじゃない? と小形くんは頬杖をついた。
「そういうの、嫌、だな……」
橋下先生のプロポーズの話を聞いて田中先生の機嫌が悪くなったと決まったわけじゃないのに、それが答えに感じて、気分が悪くなる。ちがう理由で機嫌が悪かったのかもしれないし、そもそも授業中に手紙を回すのは悪いことなのに、どうしてこんなにも気持ち悪く感じるのだろう。田中先生と橋下先生の歳が離れているから? 彼氏がいることを知っていただろうに、既婚者の田中先生が嫉妬をしたから? 居場所作りのために、橋下先生を利用したように感じるから? 思考が頭の中をぐるぐる回る。
「倉益さんは真面目だね」小形くんは再び笑った。
「……小形くんは、真面目じゃないの?」
「僕も真面目なつもりだけどさあ。なんというか、やっぱり僕と倉益さんじゃちがうんだなあと思った」
「なんの話?」
小形くんの言葉の意味がわからず聞き返すと、彼は「こっちの話」と言って、私と小形くんのちがいについて話してはくれなかった。
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