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第10話 同情なんかしてあげない
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今日で一学期が終わる。終業式なので授業も、委員会もない。通知表と夏休みの課題を渡されたらお開きだ。
一緒に帰ろうと三好さんを誘うか考えたけれど、彼女の家は私と正反対だと思い出す。しかも、電車に乗って何駅も通りすぎるくらい学校から離れているらしい。地元から離れたここに進学した、と彼女は言っていた。
クラスの女子が、遊びに行こうと三好さんを誘っている。この間、私と一緒に学校をサボった彼女はきっと、いつも通り誘いを断るだろう。そして、いつものようにクラスの女子はそれを引き止める。明日から始まる、夏休みの夢もそえて。
そんな彼女らを見て、私は教室をあとにした。
「やっほー。倉益さん、久しぶり」
ひらひらと手を振り、下駄箱の前で声をかけてきたのは小形圭。クラスが離れている私たちは、委員会以外で顔を合わせることはほとんどない。わざわざ待っていたのだろうか。
「……失恋おめでとう」半分無視してローファーを取り出すと、小形くんは肩をすくめた。
「すごい嫌味。なんか怒ってる?」
「怒ってるよ、三好さんにわざと告白したこと」
「好きな人に告白するくらい、別によくない? 倉益さんだって言ってたじゃん。『好きなら告白する権利がある』って」悪びれる様子もなく彼は笑う。
「小形くんが好きなのは、小形くん自身でしょ」
「なにそれ。どうしてそう思ったの?」
「ファンサービス、盛り上がったんでしょ。……タツだけじゃ足りなかった?」
「女子はすぐうわさを広めるね」やれやれ、と言いたげに首を振る。
「うわさになるような行動をしてるのは、小形くんじゃない」
なにを言いに来たの? 私の問いに、小形くんはつまらなそうな表情を見せた。それから小さくため息をつくと、「別に。やっぱり、倉益さんってなに考えてるのかわかんない」と見るからに不機嫌な様子で下駄箱をあとにした。わかってもらわなくていい。靴を履き替えると、私は振り返らずに学校を出て行った。
あんな嫌味を言えるとは自分でも思っていなかった。「失恋おめでとう」なんて、あらかじめ用意していた言葉じゃない。私は、自分が話し下手と思い込んでいただけで、実は意外と道破するタイプなのかもしれない。……明日からまた、口下手に戻っているかもしれないけれど。
小形くんはよく“ファンサービス”をしていて、女子ウケがよかった。逆に言えば、男子からの評判はあまりよくない。それを『モテない男子の僻み』と女子は片づけた。しかし、タツに近づいて漫画のカップリングを想像させるようなことをしたり、三好さんに振られて女子の同情を引いているところを見たら、一部の人をのぞいていい気はしない。
「ウチと小形は、同中なんだ」
一緒にサボってカラオケに行ったあの日、ドリンクバーで注いだジンジャエールを飲みながら三好さんは言った。ストローを噛む癖があるのか、先の方が平たくつぶれていた。
「家から離れた高校を選んだのに、あいつがいるとは思わなかった」
「三好さんは、小形くんのこと、嫌い?」
「んー……まあ、利用できるもんはなんでも利用するタイプだし。それで居場所を失ったくせに、こっちでも似たようなマネするなんて、馬鹿なやつ」
赤と青のライトが忙しく点滅する部屋の中で、私たちはおとなしくソファに座っていた。歌を予約していないテレビからはアイドルグループの楽曲紹介が流れている。それから、防音設備がしっかりしていないのか、他の部屋の歌声が私たちのところまで響いていた。
「お前、委員会のとき、小形になにもされなかったのかよ」
以前、移動教室で話したときも、委員会のことを聞かれた。どうして生物委員じゃなくて、図書委員を選んだのか、不機嫌そうな顔で。あのときは思わずなにも言えなくなってしまったけれど、小形くんのことで心配していたのだろうか。
「特に。なにも」私の答えに、三好さんは目を丸くした。
「……確かに、お前みたいなやつは苦手かもな、あいつ」
「それは、ほめてる?」
鼻で笑った彼女に軽く嫌味を言うと、ほめてる、と返ってきた。
「小形くんによく言われた。『倉益さんっておもしろいね』って」
カルピスとメロンソーダを混ぜたジュースを飲んでいると、甘いものが苦手な三好さんは少し顔を引きつらせていた。奇妙なものを見た、と言いたげな顔だった。しかしすぐに、呆れたように彼女は笑った。
「お前のそういうところ、いいと思うよ」
一緒に帰ろうと三好さんを誘うか考えたけれど、彼女の家は私と正反対だと思い出す。しかも、電車に乗って何駅も通りすぎるくらい学校から離れているらしい。地元から離れたここに進学した、と彼女は言っていた。
クラスの女子が、遊びに行こうと三好さんを誘っている。この間、私と一緒に学校をサボった彼女はきっと、いつも通り誘いを断るだろう。そして、いつものようにクラスの女子はそれを引き止める。明日から始まる、夏休みの夢もそえて。
そんな彼女らを見て、私は教室をあとにした。
「やっほー。倉益さん、久しぶり」
ひらひらと手を振り、下駄箱の前で声をかけてきたのは小形圭。クラスが離れている私たちは、委員会以外で顔を合わせることはほとんどない。わざわざ待っていたのだろうか。
「……失恋おめでとう」半分無視してローファーを取り出すと、小形くんは肩をすくめた。
「すごい嫌味。なんか怒ってる?」
「怒ってるよ、三好さんにわざと告白したこと」
「好きな人に告白するくらい、別によくない? 倉益さんだって言ってたじゃん。『好きなら告白する権利がある』って」悪びれる様子もなく彼は笑う。
「小形くんが好きなのは、小形くん自身でしょ」
「なにそれ。どうしてそう思ったの?」
「ファンサービス、盛り上がったんでしょ。……タツだけじゃ足りなかった?」
「女子はすぐうわさを広めるね」やれやれ、と言いたげに首を振る。
「うわさになるような行動をしてるのは、小形くんじゃない」
なにを言いに来たの? 私の問いに、小形くんはつまらなそうな表情を見せた。それから小さくため息をつくと、「別に。やっぱり、倉益さんってなに考えてるのかわかんない」と見るからに不機嫌な様子で下駄箱をあとにした。わかってもらわなくていい。靴を履き替えると、私は振り返らずに学校を出て行った。
あんな嫌味を言えるとは自分でも思っていなかった。「失恋おめでとう」なんて、あらかじめ用意していた言葉じゃない。私は、自分が話し下手と思い込んでいただけで、実は意外と道破するタイプなのかもしれない。……明日からまた、口下手に戻っているかもしれないけれど。
小形くんはよく“ファンサービス”をしていて、女子ウケがよかった。逆に言えば、男子からの評判はあまりよくない。それを『モテない男子の僻み』と女子は片づけた。しかし、タツに近づいて漫画のカップリングを想像させるようなことをしたり、三好さんに振られて女子の同情を引いているところを見たら、一部の人をのぞいていい気はしない。
「ウチと小形は、同中なんだ」
一緒にサボってカラオケに行ったあの日、ドリンクバーで注いだジンジャエールを飲みながら三好さんは言った。ストローを噛む癖があるのか、先の方が平たくつぶれていた。
「家から離れた高校を選んだのに、あいつがいるとは思わなかった」
「三好さんは、小形くんのこと、嫌い?」
「んー……まあ、利用できるもんはなんでも利用するタイプだし。それで居場所を失ったくせに、こっちでも似たようなマネするなんて、馬鹿なやつ」
赤と青のライトが忙しく点滅する部屋の中で、私たちはおとなしくソファに座っていた。歌を予約していないテレビからはアイドルグループの楽曲紹介が流れている。それから、防音設備がしっかりしていないのか、他の部屋の歌声が私たちのところまで響いていた。
「お前、委員会のとき、小形になにもされなかったのかよ」
以前、移動教室で話したときも、委員会のことを聞かれた。どうして生物委員じゃなくて、図書委員を選んだのか、不機嫌そうな顔で。あのときは思わずなにも言えなくなってしまったけれど、小形くんのことで心配していたのだろうか。
「特に。なにも」私の答えに、三好さんは目を丸くした。
「……確かに、お前みたいなやつは苦手かもな、あいつ」
「それは、ほめてる?」
鼻で笑った彼女に軽く嫌味を言うと、ほめてる、と返ってきた。
「小形くんによく言われた。『倉益さんっておもしろいね』って」
カルピスとメロンソーダを混ぜたジュースを飲んでいると、甘いものが苦手な三好さんは少し顔を引きつらせていた。奇妙なものを見た、と言いたげな顔だった。しかしすぐに、呆れたように彼女は笑った。
「お前のそういうところ、いいと思うよ」
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