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第9話 主張と押し付け
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「大変だね、小形くんのこと」
他人事のような、無責任な私の言葉に、三好さんは黙っている。そんな彼女に構わず、私は言葉を続けた。
「振られちゃった」あはは、とため息混じりに笑う。
「……お前、小形のこと好きだったのかよ」
「ちがう、幼馴染が小形くんのこと好きで。私、応援してたんだ」
もしかして、タツは小形くんが三好さんのことを好きだと気づいたのだろうか。それで、小形くんに重ねていた蛙を、タツは……。
今まで泣かないようにしていたのに、そう考えたら涙が出た。タツは小形くんのことが好きで、小形くんは三好さんのことが好き。そして、その三好さんは私のとなりにいる。
「三好さんは、田中先生と橋下先生の話、知ってる?」
「知らねえ。先公のことなんて興味ねえから」
「橋下先生が彼氏にプロポーズされて、そのことで、田中先生の機嫌が悪くなったんじゃないかって話」
「勝手に話進めんな。で? それがお前の幼馴染に関係あるのかよ」舌打ちをしながらも、彼女は話を聞いてくれた。
「私、結婚してるのに嫉妬した田中先生を気持ち悪く感じて……」
「はあ? あいつ結婚してたのかよ」
「春休みに結婚式を挙げてたよ」
あんなにもクラスを騒然とさせていたのに、三好さんは知らなかったようだ。そして、事実を知った今も興味ないらしく、特に驚いたりする様子もない。
「私、よく『好きなら告白する権利がある』とか、『好きな人に好きな人がいても、気持ちを伝えるのは悪いことじゃないと思う』とか言ってたんだ。それなのに、どうして田中先生と橋下先生の話を聞いて気持ち悪く感じたのか、幼馴染に聞かれて、うまく返せなかった」
「三好さんはどう思う?」私の言葉に、彼女は呆れた様子だった。
「倉益もその幼馴染も、難しく考えすぎじゃねえの。好きになるのは勝手だけど、自分の気持ちを相手に押し付けんなってだけの話だろ」
「告白するのは、相手に気持ちを押し付けてると思う? ……三好さん、よく他のクラスの男子から告白される話を聞くから」
「別に。お前はしたことないの? 告白」
「……あるよ。13歳のとき、幼馴染に」
ちょうど今くらいの季節。今日と同じく、雲ひとつない青い空の下で、私はタツに告白をした。
「そいつはお前のこと、迷惑そうにしたのかよ」
「ううん。今も幼馴染として、仲良くしてる……」
「じゃあ、それが答えだろ」
私が何日もかけて出せなかった答えを、彼女はあっさり解決してみせた。それから、「ウチも……」と三好さんが口を開く。
「13歳のとき、告白したよ。お前と同じで、ウチも振られたんだ。ただ……お前らとちがって、関係は壊れたけど」
「どうして?」
「相手が女だったから」
三好さんは、自虐的に笑っている。「気持ち悪いか?」と聞かれ、首を横に数回振ると、「まあ、お前はそうだろうな。知ってる」と言って彼女は話を続けた。
「あんときは、相手の気持ちなんて考えられなかった。自分が好きだからって理由で、相手に気持ちを押し付けた」
「でも、好きになる権利くらい、誰でも……」
「権利くらいあるだろうけど。男と女の恋愛すらめんどくせえことになるのに、同性相手じゃなおさらダルいことになる。少し考えりゃあわかるだろ」
当時のことを思い出しているのか、手すりに頬杖をついて遠くを見つめている。そんな彼女の髪を、風が揺らした。
「……昔は、お前みたいな長い烏髪でさ。さすがに、そんな三つ編みはしてねえけど、それなりにまともなカッコで。高校入る前にバッサリ切って、髪も染めたから、中学んときのやつらがウチを見ても気づかねえだろうな」
「見た目のわりに、不良っぽくないなって思ってた」
「お前もそのカッコやめたら? いつまで長袖着てんだよ」
「そうだね……」
2年生の証である、赤いリボンを外す。
「ねえ、今日はこのままサボろうよ」我ながら珍しい提案だった。
「次、移動教室だから……その間に荷物を取りに行って、そのまま抜け出そう」
「別にいいけど……甘いもん食いに行くのはナシな。ウチ、食えないから」
「じゃあ、カラオケ行こう。振られた人はみんな、カラオケに行くから」
「なんだよ、その偏見。そもそも、お前歌えんのかよ」
「行ったことないからわかんない。でも、歌えそうな気がする」
胸元まである三つ編みを解くと、ウェーブのかかった髪が風で遊んでいた。
他人事のような、無責任な私の言葉に、三好さんは黙っている。そんな彼女に構わず、私は言葉を続けた。
「振られちゃった」あはは、とため息混じりに笑う。
「……お前、小形のこと好きだったのかよ」
「ちがう、幼馴染が小形くんのこと好きで。私、応援してたんだ」
もしかして、タツは小形くんが三好さんのことを好きだと気づいたのだろうか。それで、小形くんに重ねていた蛙を、タツは……。
今まで泣かないようにしていたのに、そう考えたら涙が出た。タツは小形くんのことが好きで、小形くんは三好さんのことが好き。そして、その三好さんは私のとなりにいる。
「三好さんは、田中先生と橋下先生の話、知ってる?」
「知らねえ。先公のことなんて興味ねえから」
「橋下先生が彼氏にプロポーズされて、そのことで、田中先生の機嫌が悪くなったんじゃないかって話」
「勝手に話進めんな。で? それがお前の幼馴染に関係あるのかよ」舌打ちをしながらも、彼女は話を聞いてくれた。
「私、結婚してるのに嫉妬した田中先生を気持ち悪く感じて……」
「はあ? あいつ結婚してたのかよ」
「春休みに結婚式を挙げてたよ」
あんなにもクラスを騒然とさせていたのに、三好さんは知らなかったようだ。そして、事実を知った今も興味ないらしく、特に驚いたりする様子もない。
「私、よく『好きなら告白する権利がある』とか、『好きな人に好きな人がいても、気持ちを伝えるのは悪いことじゃないと思う』とか言ってたんだ。それなのに、どうして田中先生と橋下先生の話を聞いて気持ち悪く感じたのか、幼馴染に聞かれて、うまく返せなかった」
「三好さんはどう思う?」私の言葉に、彼女は呆れた様子だった。
「倉益もその幼馴染も、難しく考えすぎじゃねえの。好きになるのは勝手だけど、自分の気持ちを相手に押し付けんなってだけの話だろ」
「告白するのは、相手に気持ちを押し付けてると思う? ……三好さん、よく他のクラスの男子から告白される話を聞くから」
「別に。お前はしたことないの? 告白」
「……あるよ。13歳のとき、幼馴染に」
ちょうど今くらいの季節。今日と同じく、雲ひとつない青い空の下で、私はタツに告白をした。
「そいつはお前のこと、迷惑そうにしたのかよ」
「ううん。今も幼馴染として、仲良くしてる……」
「じゃあ、それが答えだろ」
私が何日もかけて出せなかった答えを、彼女はあっさり解決してみせた。それから、「ウチも……」と三好さんが口を開く。
「13歳のとき、告白したよ。お前と同じで、ウチも振られたんだ。ただ……お前らとちがって、関係は壊れたけど」
「どうして?」
「相手が女だったから」
三好さんは、自虐的に笑っている。「気持ち悪いか?」と聞かれ、首を横に数回振ると、「まあ、お前はそうだろうな。知ってる」と言って彼女は話を続けた。
「あんときは、相手の気持ちなんて考えられなかった。自分が好きだからって理由で、相手に気持ちを押し付けた」
「でも、好きになる権利くらい、誰でも……」
「権利くらいあるだろうけど。男と女の恋愛すらめんどくせえことになるのに、同性相手じゃなおさらダルいことになる。少し考えりゃあわかるだろ」
当時のことを思い出しているのか、手すりに頬杖をついて遠くを見つめている。そんな彼女の髪を、風が揺らした。
「……昔は、お前みたいな長い烏髪でさ。さすがに、そんな三つ編みはしてねえけど、それなりにまともなカッコで。高校入る前にバッサリ切って、髪も染めたから、中学んときのやつらがウチを見ても気づかねえだろうな」
「見た目のわりに、不良っぽくないなって思ってた」
「お前もそのカッコやめたら? いつまで長袖着てんだよ」
「そうだね……」
2年生の証である、赤いリボンを外す。
「ねえ、今日はこのままサボろうよ」我ながら珍しい提案だった。
「次、移動教室だから……その間に荷物を取りに行って、そのまま抜け出そう」
「別にいいけど……甘いもん食いに行くのはナシな。ウチ、食えないから」
「じゃあ、カラオケ行こう。振られた人はみんな、カラオケに行くから」
「なんだよ、その偏見。そもそも、お前歌えんのかよ」
「行ったことないからわかんない。でも、歌えそうな気がする」
胸元まである三つ編みを解くと、ウェーブのかかった髪が風で遊んでいた。
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